2026年7月1日更新

【坂西未郁監督に聞く】映画『メモリィズ』制作秘話―なぜ義父との関係を描いたのか?

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静かに、深く、記憶に刻まれる珠玉の一作、映画『メモリィズ』が2026年6月12日より公開に。公開を記念して坂西未郁監督に単独インタビューを実施しました。 企画の成り立ち、主演・柄本佑 さんとの撮影エピソード、そして心に深く刻まれる写真館でのクライマックスシーンの制作秘話まで――本作の裏側に迫ります。 ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!

映画『メモリィズ』作品概要

公開2026年
監督・脚本坂西未郁
出演柄本佑 , 穂志もえか , イッセー尾形 , 香椎由宇 ほか
上映時間97分
製作・配給リトルモア
公式サイト公式サイトはこちら

本作が長編映画デビューとなる坂西未郁監督が、自ら脚本も手がけたヒューマンドラマ。スマートフォンで誰もが映像を撮る時代の「記憶と記録」をテーマに、九州の写真館を舞台とした義父と義理の息子の日々を静かに見つめます。 80〜90年代の音楽シーンにミュージックビデオという分野を定着させた映像ディレクター・坂西伊作を父に持つ監督が、些細な日常の積み重ねを、家族の長い時間として鮮やかに立ち上げる一作です。

映画『メモリィズ』あらすじ

映画 メモリィズ
©2026LittleMore

足を骨折した義父・誠が回復するまで、雄太は九州の田舎町にやって来る。義父が営む昔ながらの写真館の仕事を手伝いながら、東京にいる妻・ゆきと娘との間で、スマホで撮った映像を交わす日々。 大きな事件は何も起こらないが、日々の些細な出来事と、その記録と記憶の連なりに、家族の人生という長い時間の存在が、静かに、鮮やかに浮かび上がってくる――。

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【制作経緯】スマホ映像への違和感と、父・坂西伊作から受け継いだもの

映画『メモリィズ』
©︎2026LittleMore

Q. 映画『メモリィズ』企画の成り立ちをお聞かせください。 坂西監督 この映画の成り立ちとしては、最初に大分県の市が出資者となり、「短い短編映画を撮れないか」というところから始まりました。大学の先輩がその市に住んでいて、「何か企画を考えてみないか」と声をかけてくださったんです。 そのとき「スマートフォンの映像だけで映画が撮れないか」と思い、九州に残る家族と単身赴任で東京に来る旦那さんのビデオレターのような形の映画を企画していました。 その短編の企画自体は一度なくなってしまったのですが、孫家邦プロデューサーにお話ししたところ「それを長編にしてみないか」と言ってくださって。そこから僕が長編作品として脚本を書いていくことになりました。 当時のメモを見返すと、「スマホだけでやりたい」と書いてあります。僕が高校生の頃からスマートフォンが広がってきて、写真も動画もすごく身近になり、無限に撮れるものになった。その一方で、決定的な瞬間ではない、なんとなく撮った日常の映像を友達から送られてきて見返したときに、「いつの、何なのか分からない」瞬間がかなり多くなってきた感覚がありました。

映画 メモリィズ
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「何でこんなに撮っているんだろう」という気持ちと、言語化できない映像への想い、「映像は今後どうなっていくんだろう」という感覚がありました。 もう一つ、僕の父・坂西伊作がミュージックビデオの監督で、僕は小さい頃から映像が身近にある環境で育ちました。父のMVに出たこともありますし、編集の場に連れて行ってもらったこともあります。その父が、僕が高校生のときに亡くなって。映像の仕事が本当に好きだった父でしたが、当時は父の死を認めきれず、曖昧にして生きようとしていました。 でも、僕が映画を目指すことになったとき、どうしても父の存在と対面しなければいけない瞬間が訪れて。友人や先輩、学校の先生から「これ、お父さんが撮ったやつだよね」と言われたりする。そんなときに、ふと自分が出たMVを見直してみたんです。すると、作品を見ているという感覚以上に、父との日々や関係性など、言語化できない感情が溢れてきて。この感覚は、幼い頃から父が作品を残していたからこそ起きた行為かなと思ったのですが、今は誰もがスマホでなんとなく映像を撮り、その人の視点として残り続けていく。これは今となっては普遍的なテーマになるのではないか――そう考えて長編にし、脚本を書きました。

【設定の狙い】なぜ「義父」を手伝いに行く物語にしたのか

映画『メモリィズ』
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Q. 義父との交流を物語の骨格にされた背景をお聞かせください。 坂西監督 義理の息子が義父を手伝いに行く設定にした理由は、まず『メモリィズ』が大きな起承転結の物語ではなく、些細な日々の積み重ね、日常を忘れてしまうような瞬間、記憶と記録をテーマにした映画だからです。 観客の方に能動的になってもらいたいという狙いがありました。これが「自分の父親の手伝いに行く」という設定になると、観客が自分の家族を投影する余地がすごく絞られてくる感覚があって。義父という設定にすることで、このふたりのぎこちなさや関係性を、観客が想像できるものにしたかった。 もうひとつ、主人公の雄太は九州で散歩をしたり、いろいろな体験をします。その体験を観客と同じ目線にしたかった。「地元に帰る」という感覚だと、何度も行ったことのある場所を体感することになってしまう。だから、新たな場所に行く主人公にしたかった。このふたつを考えると、「義父との関係性でなら作れるのではないか」というのが、この設定のスタートのアイデアでした。

【関係性の設計】最低限のセリフと、柄本佑とイッセー尾形が足していったユーモア

映画 メモリィズ
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Q. 義父と義理の息子の絶妙な関係性の構築過程をお聞かせください。 坂西監督 ふたりの関係性について、内容に触れると、湯呑みが違うくだりや「冷蔵庫を開けます」という文化については、もともと脚本に入っていました。 ただ、それ以外の大きなチューニングとしては、基本的に僕の脚本には最低限のセリフしか書いていない状態で。そこで、イッセー尾形さんと柄本佑さんにすごく助けられました。 最低限のセリフを映像化するとき、イッセーさんが義父としてのユーモアをかなりアドリブで足してくださって、それを佑さんが雄太として受け止めながらシーンを成立させていく。このふたりの関係性が、そもそも義父と義理の息子の関係の作り方とすごく似ているなと現場で感じていました。 おふたりがユーモアを見せてくださる中で、脚本にはないアドリブによっていろいろと変容しながら撮影していった、という流れがあります。

【柄本佑との印象的なエピソード】周囲に反応し続ける芝居と、“雄太のOK”という基準

映画『メモリィズ』
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Q. 柄本佑さんの印象と、雄太のキャラ造形のこだわりをお聞かせください。 坂西監督 佑さんとは現場に入る前、雄太のキャラクター像をふたりで話し込むことはあまりしませんでした。一緒にご飯に行ったり、お酒を飲んでたわいのない話をしながら時間を過ごしはしたのですが、雄太のキャラ造形についての話はあまりしなかったんですね。 今回の雄太には「散歩」という大きな要素があって、歩く・見るという行為があります。助監督の方から「雄太はどんな歩き方だと思いますか」「佑さんと話した方がいいのでは」と提案もあったのですが、それを決めてしまうと自分の脳が固まってきてしまう。監督としての僕が、現場で起きることに反応できなくなってしまうんじゃないかという気持ちがあったんです。 佑さんもそれについて聞いてくることはなかったので、基本的な設定だけご説明して現場に向かいました。 現場では、佑さんは段取りの時から常に周りに反応していて。散歩のシーンなら犬や街の音など、そういうものに反応して毎回小さく演技を変えてくださる。それを見たとき、「雄太のOK」というのは、違和感が生まれなければ全部OKなんだと気づきました。そういう造形で作っていた感覚があります。すごく贅沢な時間を過ごさせてもらいました。

【イッセー尾形との印象的なエピソード】現場で体現された贅沢なアドバイス

映画『メモリィズ』
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Q. イッセー尾形さんとの印象的なエピソードをお聞かせください。 坂西監督 一番印象に残っているのは、お葬式の後にイッセーさんが雄太に対してひとりで語りかける、自分の記憶を吐露するシーンです。そのシーンを作っていく中で、僕はなるべく起伏を作らないことで、記憶と対峙する感覚を出したいと思っていました。 その話をイッセーさんにしたところ、イッセーさんは「見ている人も含めて、何か起伏を作ることで心が揺さぶられるんだ」という話をしてくださって。そして実際にそれを、体感として演技で見せてくださったんです。 それを本当に贅沢にしてもらえて、「そっちでいきましょう」となれた。自分の脳を超えたもの――一番はユーモアの部分ですが、それ以外にもキャラクターと映画の世界をイッセーさんが広げてくださったという感覚があります。

【記憶と記録】写真とスマホ映像、ふたつの「残し方」の描き分け

映画『メモリィズ』
©︎2026LittleMore

Q. 登場人物たちが映像や写真を撮りあうシーンを積極的に取り入れた背景やこだわりをお聞かせください。 坂西監督 まず、写真館で撮る写真は、僕の中ではスマートフォンで何気なく撮ってしまう日常とは一つ切り離しています。卒業写真や結婚式の写真を撮る日は、「撮る」という行為に全員が意識的に向かっているので、記憶としてもすごく覚えている日だと思うんです。 だから写真を見た瞬間に、その時代のいろいろなことを思い出せる。そういう明瞭な写真というものを置いています。 一方でスマートフォンは、決定的じゃない瞬間もなんとなく撮ってしまう。ただ、デジタルが発展している分、例えば奥さんが旅行に行った際にいろいろな動画を送ってくれて、そのお返しに自分も地元の映像を撮って返す。そうすると脳の世界が広がる感覚があるんです。 自分が見えない世界を見せてくれている感覚がある。こういう切り分けをなんとなくしながら作っていました。 あとは、父がミュージックビデオや音楽、映画も撮っていた人で。それが僕が監督になった明瞭な理由になっているとは思わないのですが、意志としては絶対的に受けています。 誠は写真を撮る人、そしてゆきは人をアテンドする仕事――お互いに思い出を作るような仕事をしていて、違う機材でもシャッターを切っている。その行為を大きな流れとして描けるのではないかと思っていました。

【クライマックスのスライドショーの撮影秘話】ファーストカットがお守りのような存在に

映画『メモリィズ』
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Q. クライマックス、写真館でのスライドショーの撮影秘話をお聞かせください。 坂西監督 スライドショーのシーンは、脚本の時点から明瞭に書いていました。そして、僕が初監督として初めて撮るカットが、香椎由宇さんがこちらを振り向くというカットだったんです。その写真をスチールの江森康之さんに撮ってもらい、その後、16ミリのカメラで撮影の鎌苅洋一さんに撮ってもらう。これが撮影初日で、自分の映画体験としてもスタートでした。

映画『メモリィズ』
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それが映画と同じように、自分の中で「あの画が撮れたぞ」とお守り的に思いながら撮れたので、「すごくよい画が撮れたな」という感覚があって。「あそこに向かっていけばいいのかもしれない」というお守りのような存在になってくれました。この映画を作っていく中で、いろいろな感情の起伏がある中、あれがスタートで良かったなと思っています。

▼取材・文:増田慎吾