【門脇康平監督に聞く】『我々は宇宙人』制作秘話―「全カット例外」のロトスコープ、走りながら録ったアフレコとキャスティング秘話
タップできる目次
- 映画『我々は宇宙人』作品概要
- 【企画の出発点】「自分が作らないと、この世に生まれないかもしれない」
- 【子役の声優キャスティング】リアルな動きと声を一致させるために
- 【坂東龍汰・岡山天音のキャスティング】求めたのは「街にいそうな自然さ」
- 【山﨑天のキャスティング】小夏には“新時代のヒロイン”を求めていた
- 【松井ケムリのキャスティング】最後まで決まらなかったバタ原役が"一発でハマった"
- 【キャラクター造形】"クラスにいた"翼と、"少し特別"な暁太郎
- 【小学生"あるある"】自分の記憶だからこそ生まれる"信じられるシーン"
- 【子供の主観】観客がもう一度“子供の目線”に戻れるように
- 【天気の演出】記憶の“空気の匂い”から場面を作る
映画『我々は宇宙人』作品概要
| 公開 | 2026年9月25日(金) 全国劇場公開 |
|---|---|
| 企画・監督・脚本 | 門脇康平 |
| 声の出演 | 坂東龍汰 , 岡山天音 , 山﨑天(櫻坂46) , 松井ケムリ , 槙木悠人 , 中込佑玖 , 鈴木咲 , 末永陽 |
| 音楽 | Yaffle |
| 主題歌 | adieu「ささくれ」(作詞・作曲:Yaffle) |
| 企画・製作・制作 | NOTHING NEW |
| 配給 | TOHO NEXT・NOTHING NEW |
| 出品 | 第79回カンヌ国際映画祭 監督週間/アヌシー国際アニメーション映画祭2026 長編コンペティション部門 |
| 公式サイト | 公式サイトはこちら |
企画・脚本・監督を務めるのは、YOASOBI「優しい彗星」などを手がけてきた門脇康平監督。写実的な映像表現と緻密な世界観で、内気な青年・翼と人気者の暁太郎をめぐる物語を描きます。音楽はYaffle、主題歌はadieu「ささくれ」。声の出演には坂東龍汰、岡山天音、山﨑天(櫻坂46)、松井ケムリ(令和ロマン)らが名を連ねます。
あらすじ
「ピーピロリロリロ。地球での極秘任務完了。宇宙へ帰還します!」 平成のある田舎町内気で“普通”であることに悩む少年・翼は、小学3年生の春、クラスの人気者で“特別”な存在の暁太郎と出会い、親友になる。ふたりだけの遊び、意味のない会話、夕暮れの帰り道-世界は確かに、彼らのものだった。 しかしある日を境に、暁太郎はクラスの中で浮いた存在となり、噂や視線が彼を囲んでいくやがて起こる、取り返しのつかない事件。 「もしもさ、俺が宇宙人だったらどうする?」 これはふたりの青春物語なのか それとも消したい記憶なのか。30年にわたる友情を描いた、かぎりなく青い旅立ちの物語――
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【企画の出発点】「自分が作らないと、この世に生まれないかもしれない」

Q. 本作の企画が立ち上がった経緯についてお聞かせください。 門脇 こういうものを作りたいという思いは、20歳くらいの頃からぼんやりとありました。自分の幼少期を閉じ込めたような作品をずっと待っていたんですけど、「自分が作らなかったら、もしかしたらこの世に生まれないかもしれない」と思うようになって。それなら、自分で頑張って作って残したいという気持ちが強くなっていきました。 まだ具体的な企画になる前から、絵コンテは少しずつ描いていたんですよね。 5年前にプロデューサーの林と出会って、そのときに初めて企画書を書きました。そこで、この作品を単なる思い出のスライドショーのようなものではなく、きちんと一本の映画にするためには何が必要なのかを考えて。感情の流れや、物語としての大きなうねりのようなものは、その段階ですでに企画書に盛り込んでいました。 そこから演出を細かく組み立てながら絵コンテを描いていって、そうした作業を1年半ほど続けた頃から、並行して原画の制作も始まって。 そうやって少しずつ積み重ねながら、5年かけて完成した作品です。
【企画段階の苦労】アイデア不足ではなく"断捨離"との戦い

Q. 絵コンテや企画の段階で、一番苦労された部分についてお聞かせください。 門脇 やっぱり、どうやって面白くするかということですね。少し面白いとか、一部だけ面白いということでは、2時間観ているうちにどうしても退屈してしまったり、眠くなってしまったりすると思うので。どうすれば最後まで観る側の集中力や体力を持続させられるかを考えるのが、一番難しかったと思います。 細かいエピソードやシーンについては、自分の幼少期がもとになっているだけあって、引き出しはたくさんありました。なので、「アイデアが思い浮かばなくてどうしよう」というよりは、むしろたくさんあるものの中から、どんどん削ぎ落としていって、どう面白くしていくかという作業のほうに、長く時間をかけていた印象がありますね。
【アニメーション演出】“面白さ”を持続させるための試行錯誤

Q. 場面によって作画が大きく変化する点も印象的でした。アニメーション演出において意識されたことをお聞かせください。 門脇 まず、そのベースになっている表現っていうのは、安定感があって安心して観れるようなベース作りっていうのはすごく徹底して。 物の比率とか表面の質感とかが少し違うと、やっぱり懐かしくなくなってしまうので。そういうところは安心して観れるように、「これは使っていた学校の机だ」みたいなところとかは徹底した。 そのベースを徹底してるからこそ、対比して際立つのが、デッサンとか整合性とか、そういうもののタガを外した表現っていうのがものすごく際立つなと思ったので。そのベースとぶつけるように、あえて劇画チックで、直線がぐちゃぐちゃで曲線になっていてとか、絵の具を使ってとか。 不安定な表現と、安定しているベースの表現というものをまたぐ快感というか、意外さというか、楽しみみたいなものを意図的に作っていきました。
【ロトスコープ】「全カット例外」弱点を避けながら、欲しい動きだけを拾う

Q. アニメーションでロトスコープを用いた背景についてお聞かせください。 門脇 この作品を観てもらううえで、まず入り口として大事なのは、懐かしいという感覚を持ってもらうことだと思っていました。 映画の中の子供たちを見て、「これは自分だ」とか「こんな友達がいたな」と感じてもらうためには、子供特有の無駄な動きが必要なんですよね。ただ普通に歩いているだけでは、そういう「誰かに似ている」という懐かしさにはつながりにくいと思っていて。 そうした細かな動きを描くうえで、ロトスコープの長所が生きると思って取り入れました。ただ、すべてをロトスコープで描いてしまうと、アニメーションとしての気持ちよさが失われる部分もありますし、自分がデザインしたキャラクターの等身も、単純にトレースするだけでは表現できないんです。 なので、体の軸や一部のパーツにはロトスコープを使いながら、髪の毛や洋服など、気持ちよくなびいてほしいところは、従来のラフ原画から描いていく作画を使うというように、両方を組み合わせています。 ただ、それも「服は必ずトレースしない」とか「ここは必ずトレースする」といった形でマニュアル化はしていません。ロトスコープの粗や弱点がどこに出るかは、描くものによって毎回違うので、その都度対応していく必要があって。極端に言えば、全カットが例外みたいな感覚でした。 1カットずつ、ロトスコープで起こりそうな弱点を演出的、あるいは技術的に避けながら、欲しい部分だけを取り入れていく。そのことは、かなり意識していましたね。
ロトスコープとは
ロトスコープとは、実写で撮影した人や物の動きをお手本にして、1コマずつなぞるように描くアニメーション技法です。1915年にアニメーターのマックス・フライシャーが、この技法に関する特許を出願しました。実際の映像を参考にするため、歩き方や体重移動など、人間の自然な動きを表現しやすいのが特徴です。単に実写を写すだけでなく、線や色、動きにアレンジを加えることで、作品独自の表現も可能。現在ではアニメーション作品やミュージックビデオ、映像の視覚効果など幅広い分野で活用されています。
【子役の声優キャスティング】リアルな動きと声を一致させるために

Q. 幼少期の翼と暁太郎の、声優キャスティングの背景についてお聞かせください。 門脇 子役を選ぶうえでは、声質を一番重視しました。アニメでは、大人が子供の声を演じることも多いと思うんですけど、いわゆる“本物の子供らしい声”って、やっぱりみんな感覚的に知っていると思うんですよね。そういう声は、本当の子供にしか出せないものだと思っていて。 この作品は、キャラクターの顔つきも具体的ですし、動きにも子供らしい無駄な動きがあって、かなりリアルな子供として描いています。だからこそ、声だけが作られたものになると、少しちぐはぐに感じられてしまう恐れがあると思いました。 大変になることは承知のうえで、それでも声質を最優先にして、翼と暁太郎に一番合う子供の声を探す、という形でオーディションを行いました。
【アフレコ演出】音だけでも"走っている"と伝わるまで

Q. アフレコ時の演出でこだわった点についてお聞かせください。 門脇 アクションがちゃんと声に乗っているかどうかは、かなり意識しました。実際に走りながら録ったからOKということではなくて、映像を見ずに音だけを聞いたときに、本当に走りながら喋っているように聞こえるかどうかを大事にしていて。 本人は一生懸命走ったつもりでも、声だけを聞くと、あまり走っているように感じられないこともあるんですよね。そういう場合は、それではダメだと。 暁太郎なんかは、踊ったり走ったりしながら喋るシーンもありますし、そういった動きの実感がきちんと声に表れるところまで持っていくことにはこだわりました。実際にアクションをしながらレコーディングしていましたね。
【坂東龍汰・岡山天音のキャスティング】求めたのは「街にいそうな自然さ」

Q. 大人になった翼(声:坂東龍汰)と暁太郎(声:岡山天音)のキャスティング背景についてお聞かせください。 門脇 大人のシーンも、キャラクターの顔つきがかなり具体的なので、声にも同じようなリアリティが必要だと思っていました。 そのうえで大事だったのは、いい意味で“普通の人”に聞こえることです。やたら声が良かったり、やたら饒舌だったりするのではなくて。翼も、あくまで「ひとりのサラリーマン、普通の男」としてそこにいなくちゃいけない。

だから、どこかで聞いたことがあるような、街ですれ違いそうな人の自然さが必要だと思っていました。 ただ、その自然さって、誰にでも演じられるものではないんですよね。そこにはきちんと演技が必要で、複雑な文脈を踏まえたうえで、最終的に自然な声として出してもらわなければならない。 そう考えたときに、自然な芝居ができる方としてパッと顔が浮かんだのが、坂東さんと岡山さんでした。
【山﨑天のキャスティング】小夏には“新時代のヒロイン”を求めていた
Q. 小夏(声:山﨑天)のキャスティング背景をお聞かせください。 門脇 2026年の最新のアニメ映画として、小夏にはできるだけ“新時代のヒロイン”であってほしいと思っていました。 これまでにあまり見たことのないような、それでいてすごくリアルで、「こういう子、私の友達にもいる」と感じてもらえるようなヒロインにしたかった。 そう考えていたときに、櫻坂46のライブやパフォーマンスで、天さんがステージに立っている姿や話している様子を見て。直感的に「新時代のヒロインという感じがするな」と思ったんですよね。
【松井ケムリのキャスティング】最後まで決まらなかったバタ原役が"一発でハマった"

Q. バタ原(声:松井ケムリ)の声優キャスティング背景についてお聞かせください。 門脇 実は、バタ原の声だけは最後までなかなか納得できなくて。いろいろな方の声を頭の中で当てはめてみるんですけど、「バタ原って本当にこういう声なのかな」と、ずっと悩んでいました。 そんなとき、ある日スタッフから「ケムリさんの声で一回再生してみたら?」と言われて。まだ一度も試していなかったので、YouTubeでケムリさんが話している声を、目をつぶって“バタ原の声”だと思って聞いてみたんですよね。 そうしたら、めちゃくちゃハマっていて。「もう、これしかないな」と思いました。そんな経緯で、ケムリさんにお願いしました。
【キャラクター造形】"クラスにいた"翼と、"少し特別"な暁太郎

Q. キャラクター造形でのこだわりをお聞かせください。 門脇 翼と暁太郎には、自分の中にあるいろいろな面を、それぞれ託している部分があります。 そのうえで翼については、内面的にも見た目的にも、「こういう子、クラスにいたよね」と思ってもらえるような存在にすることを一番大事にしました。 名前も、自分たちの世代では比較的王道で、彼の顔つきにも合いそうなものを選んでいます。顔も、「こういう友達、いたよな」と感じてもらえるようなデザインにしました。 一方で暁太郎は、翼と対比するように作っています。名前を聞いたときに「初めて聞く名前だな」と感じるようなものにしたり、見た目にも少し個性が際立つようにしたりして。翼のような親しみやすさとは少し違う方向でデザインしました。 小夏はまた別で、自分がこの作画でデザインできる中で、一番“初恋をしそう”な女の子を目指しました。 そこにはあまりロジックはなくて、「小学生の頃だったら、こういう感じの女の子を一番好きになっていたかもしれない」という感覚を、できるだけ最大まで突き詰めて作ったキャラクターですね。
【小学生"あるある"】自分の記憶だからこそ生まれる"信じられるシーン"

Q. 小学生時代の“あるある”エピソードのシーンは、監督の経験が反映されているのでしょうか。 門脇 そうですね。もちろん、ゼロから作っているシーンもたくさんあるんですけど、やっぱり自分が実際に体験したことは、信じられる度合いが高い。 フィクションとして描いていても、「こういうことは実際にありそうだな」と自分自身が信じられる。だからこそ、自分の記憶に残っている出来事や感覚をかなり取り入れながら、演出している部分はありますね。
【子供の主観】観客がもう一度“子供の目線”に戻れるように

Q. 本作では視点や立場の変化描写が印象的でしたが、その演出で意識したことをお聞かせください。 門脇 できる限り、子供の主観から見えている世界を大切にしました。 大人になった今の僕らからすると、「そんなに怖がることでもないよね」と思ったり、場合によっては少し笑えてしまったりするようなことでも、子供の頃は本気で怖かったものってあったと思うんです。母親の存在だったり、隠していたゲームが見つかりそうになったときの親だったり、友達の理解できない言動だったり。 そういう子供の目線に、大人になった観客が映画を観ている間だけもう一度入り込めるようにしたくて。「ああ、わかる。忘れていたけど、子供の頃ってこういうことを怖いと思っていたよね」と、嘘っぽくなく感じてもらえる演出をすごく意識しました。 みんなで子供に戻れるような映画にしたいと思って作っています。
【天気の演出】記憶の“空気の匂い”から場面を作る

Q. 天気や気候が劇中の場面とリンクした演出が印象的でした。その点で意識したことがあればお聞かせください。 門脇 天気については、そのときのキャラクターの感情を直接表現しようと思っていたわけではなくて。むしろ、自分の記憶の中にあるいろいろな天気を思い返しながら、「こういう日の空気の匂いって、この場面に合っていたな」という感覚で選んでいました。

例えば、ネタバレを避けて言うと、体育館の裏でキャラクターがお菓子を食べながら話しているシーンがあります。あそこは空が少しピンク色っぽくなっているんですけど、夏に薄い雲が空全体を覆っていて、そこに夕日がまんべんなく届くと、ああいう色になるんですよね。 少しジメッとした空気があって、虫の声が聞こえてくる。7月くらいの夕方の空気感というか。そういう記憶を呼び起こすような風情が、あの2人のシーンには合うと思って選んでいます。 それと、この作品はすごく小さな出来事や悩みにフォーカスした物語だと思うんです。でも、その“小ささ”は、逆に大きなものを見せることで際立つとも思っていて。 世界全体から見れば、一人ひとりの悩みなんて本当に小さい。でも、本人にとってはものすごく苦しい。その感覚を、自然の大きさと対比させたかったんです。 例えば、雪が街全体に一気に降ってくると、その大きな自然現象の中で「自分ってこんなに小さいんだ」と感じる瞬間がある。大きな自然を見せることで、いま観ているのはとても小さな人間の物語なんだということを、対比的に見せる。 そういう意味でも、天気はこの作品の演出において大きな役割を担っていましたね。
▼取材・文:増田慎吾

