(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

【ネタバレ】映画『娼年』を「セックスが下手」と言われ続けた23男が観に行ってみた【感想】

2018年4月21日更新

「この映画は事件となる。」というキャッチコピーが印象的な松坂桃李主演映画『娼年』。この問題作を「セックスが下手」といってフラれた過去を持つ筆者が鑑賞。想像を絶する濡れ場の数々から見えてくる、セックスの正体とは?

大問題作となった映画『娼年(しょうねん)』を観てみた【感想ネタバレ】

松坂桃李が娼夫に!?

「この映画は事件となる。」 キャッチーな惹句が印象に残るこの予告編。とはいえ、予告編でこういった単語が飛び交う「問題作」は、必ずしも珍しいものではありません。 でも、ちょっと待ってください。ご覧の通り、この映画の主演は「あの」松坂桃李です。しかし、この予告編の1分23秒地点には「R18+」の文字が。つまり、この映画は高校生になってもすぐには見ることができないのです。 これほどの年齢制限を加えるということは、それだけ過激な表現があるということ。しかも、18歳になっていない観客は見れないので、見に行ける観客も限られてしまいます。これは、映画の作り手にとっては一種の「賭け」ともいえるでしょう。 映画『娼年』はいったいどのような内容なのか。今回は公開前から話題騒然のこの映画を、ネタバレをたっぷり含んで徹底的に紹介。 さらに、「セックスが下手」と言われ続けてきた23歳の映画ファンである筆者の目線から、この映画が描いたセックスの本質についても考えていこうと思います。

まずは映画『娼年』冒頭のあらすじを【ネタバレなし】

バーでアルバイトしている大学生・森中領(松坂桃李)はほとんど大学にも行かず、同じ大学に通う友人・白崎恵(桜井ユキ)からノートを写してもらってばかり。映画は、領がギャル風の女(階戸瑠璃李)と行きずりの関係を過ごすところから始まります。 行為のあと、領はある夢をみます。それは、幼い自分を残し、玄関を出て行く母の夢でした。 ある日、友人であるホストの田島進也(小柳友)が、一人の女性を領が働くバーに連れてきます。彼女の名前は御堂静香(真飛聖)。会員制ボーイズクラブ「Le Club Passion」の経営者でした。 「女なんてつまんないよ」と素っ気なく言う領を、静香は家に招き入れます。早速静香を抱こうとする領。しかし、静香はそんな彼をあっさり拒否。そんな彼の前に現れたのは......

『娼年』はどれくらい「事件」なのか?「セックスが下手」と言われて来た筆者が鑑賞してみた

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

さて、この映画を鑑賞した筆者ですが、実は過去に付き合っていた女性に「セックスが下手」と言われたことが何度もあります。しかも、別の時期に付き合っていた女性や友人からも「セックスが下手そう」「お前はモテるわけがない」と言われたことが何度もあるのです。 「じゃあどうしたらいいの?」と問い返すと、返事は決まって「うーん......」「説明が難しい」。どうやら本当に筆者は「セックスが下手」あるいは「下手そう」なようです。これはいったい、どうしたことなのでしょうか。 そんな筆者が、娼夫と呼ばれる「セックスが上手い」職業について扱ったこの問題作を、期せずして見に行くことになったのです。 一体、この映画はどれくらい「事件」なのか?この映画の松坂桃李はどれくらいセックスがうまいのだろう?様々な疑問を胸に、筆者は映画館の暗がりの中へと入って行きました。 お待たせしました。以下、この映画のストーリーを、濡れ場についての解説をたっぷり交えながら説明して行きます。

【ネタバレあり】エロ目的で観ると痛い目に遭う!?生々しすぎる濡れ場の数々をご紹介

ここから作品の内容に具体的に触れていきます。

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

結論から言うと、この映画を「エロ目的」で見に行くと、おそらくとても痛い目に遭うでしょう。特に、男性の皆さん。この映画をそういう目的で見るのは、ちょっとお勧めできないかもしれません。 なぜなら、出てくる濡れ場がいずれも本当に生々しく、そして必ずしも「美しい」とは限らないものなのです。実際、監督の三浦大輔はインタビューで「エロスそのものには興味がなく、セックスを通したコミュニケーションを描きたかった」と語っています。 では、いったいどのような濡れ場が繰り広げられるのか。どんな人たちが出てくるのか。ストーリーを追いながら、いくつかご紹介して行きます。

リョウが最初に臨んだ「情熱の試験」とは?

先に書いたように、静香から家に招き入れられたにも関わらず、領は静香に拒まれます。 そこへ現れたのは、生地の薄いネグリジェに身を包んだ女性(冨手麻妙)でした。女性の名は咲良といい、生まれ付き耳が聴こえませんが、読唇術を心得ています。静香は領に、咲良とセックスをすることを要求します。突然のことに戸惑いつつも領は咲良を抱き、二人は絶頂のうちに事を終えました。 実はこれは、静香が経営するボーイズクラブ「Le Club Passion」の入店試験。静香は領のセックスを試したのです。しかし静香は、領のセックスは自分本位だと非難。さらに、合格するためには一回の行為に一万円以上の価値がなければダメだといった上で、机の上に5000円札を一枚置き、不合格だと告げます。 しかし、そこへ咲良が追加で5000円札を置きます。かくして領は一転、合格。迷った挙句、娼夫・リョウとして働くことを決意したのでした。

最初の客・ヒロミと、幼い時の体験に囚われる女性・イツキ

最初の客は、クラブの常連客であるヒロミ(大谷麻衣)でした。しかし、最初はあくまでデートに行っただけでしたが、リョウを気に入ったヒロミは後日、再び彼を指名。ついにホテルに向かいます。 デートでの様子とは打って変わり、ホテルに着くとすぐに激しく絡み合う二人。服を脱ぎ捨てながら互いに口や指を使って体をまさぐり、素早く行為に及びます。廊下では清掃員の男が二人、愚痴を言いながら通り過ぎて行きますが、壁ひとつ向こうでは二人が激しく動いています。ヒロミは達し、リョウと別れた後、静香との電話で彼を絶賛するのでした。

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

二人目の客は、知的な雰囲気の女性・イツキ(馬渕英里何)。二人はレストランで食事をしながらプラトンなどの古代ギリシャ哲学についての意見を交わした後、イツキの家へ。 そこでイツキは水を飲みながら、ある幼少時代の体験について語ります。それは、幼馴染の少年の前で尿意を我慢し切れず、漏らしてしまったという体験。しかしその時、生まれて初めてエクスタシーを感じた彼女は、以来、その体験が忘れられず、普通のセックスでは満足できないのだと言います。 そしてイツキは、実は先ほど飲んだ水に利尿薬を混ぜており、今すぐここで自分が放尿するところを見て欲しい、とリョウに頼み込みます。戸惑いながらもそれを受け入れるリョウ。 とうとう耐え切れなくなったイツキは、恍惚とした表情を浮かべながら盛大に漏らし、達してしまいます。そんなイツキの頭を、リョウは静かに撫でるのでした。

熱海に住む夫婦と、誕生日を迎えた老婆

一人の主婦(荻野友里)と池袋で落ち合ったリョウ。彼女はリョウに抱かれながら、夫と結婚してから全く求められないと、苦しみを打ち明けます。クラブでリョウを求める者の中には、こういった既婚者も少なくありません。 ある時、遠く熱海から指名が入ります。向かった先は立派で古風なつくりの屋敷。そこに住む初老の男性・泉川(西岡德馬)は糖尿病に苦しみ、車椅子での生活を余儀なくされています。彼はリョウに、うら若き妻・紀子(佐々木心音)を目の前で犯すように要求。それをビデオカメラで撮影したいと言うのです。 床の上でわざと乱暴に紀子を犯し、泉川を挑発する領。それを撮影しながらも次第に表情が歪んでゆく泉川でしたが、徐々に喘ぎ声をあげてゆく妻を前に、突然自慰を始めます。三者三様徐々に高まっていく快感。そして...... リョウと泉川が同時に「達する」瞬間は、必見です。

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

とある老婆(江波杏子)の誕生日を祝うリョウ。彼女はずっと前に夫を亡くした未亡人でした。 上品な立ち居振る舞いでリョウと接する老婆は、リョウの手を握りながら優しく語りかけます。安心し他のか、自分の胸の内を語り始めるリョウ。すると老婆は、恍惚とした表情を浮かべます。 「年を重ねると、こういう芸当もできるのよ」と笑ってみせる老婆。彼女は、握ったリョウの手の感触だけで快感を感じ、達してしまったのでした。

一切妥協なし!壮絶さを極めた映画作り

リアルな性描写を実現するための努力の数々

松坂桃李『娼年』
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

原作者の石田衣良と監督の三浦大輔は、濡れ場には一切妥協しない姿勢でそれぞれ本作の小説と映画を作り上げました。 本作の製作にあたって小西プロデューサーは映倫に脚本を持ち込んで相談。映倫の担当者と話をするうちに、本作を妥協なく映画化するにはR18にするほかないと理解したといいます。 主演の松坂桃李は舞台版でもリョウを熱演。「二度とできないと思えるほど、無の状態になった」ほど消耗したという舞台での演技を下地にしつつ臨んだ本作に際しては、撮影期間中に渋谷のビジネスホテルで寝泊まりし、役から抜けられない状況を確保。「7、8年分の濡れ場をやったようだ」とコメントしています。 撮影に際してスタッフは、全ての濡れ場のために画コンテとそれをもとに代役が演じたビデオコンテを作成。ダンスの振り付けのように動きのひとつひとつにまで「振り」をつけ、撮影前のリハーサルは5日間にも及びました。 実際、映画をよく見ると松坂桃李のお尻のアップがたびたび登場しますが、達した時にお尻が小刻みに震えるところまで表現されており、監督と役者の並々ならないリアリティへのこだわりが感じられます。

リアルな濡れ場に貢献したスタッフの仕事ぶり

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

映画のリアリズムに貢献しているのは、役者だけではありません。 濡れ場における人物の動きに対して計算されたカメラ位置、東京各所の空気感が見事に定着した画面、そして煌びやかな光と陰。本作で撮影を手掛けたのは、主に広告の世界で活躍するJam Eh I。今回が劇場用長編映画デビューとなります。 本作の濡れ場を見ていくと、その生々しさは役者の演技に加えて「音」によるところが大きいとわかります。実際、他の映画の濡れ場を見ていると、腰を打ち付ける音などは聴こえますが、ここまでリアルで生々しい、湿度を感じる「音」が聴こえてくることはほとんどないでしょう。 本作で録音を担当した加藤大和は、『舟を編む』や『テルマエ・ロマエ』などの話題作の音を手掛けたベテラン。三浦大輔監督とは『何者』でも仕事をしています。

『娼年』が見せる「セックス」の本質とは?

娼年
(C)石田衣良/集英社 2017 映画『娼年』製作委員会

さて、冒頭で述べたように筆者は「セックスが下手」と呼ばれ続けてきました。それに対して、本作の主人公・リョウはセックスによってクラブのナンバーワンに上り詰めたため、「セックスが上手い」のだと思われます。 一体どのようにすれば「セックスが上手い」と言われるのでしょうか?

そもそも、リョウはセックスが上手かったのか?

映画の冒頭で最初にリョウが関係を持つギャル風の女は、名門大学に通う領とセックスしたことを友人に自慢できる、と喜びます。しかし、これはあくまで「セックスが上手かった」と言っているわけではなく、「名門大学に通っている」というリョウのステータスについて評価しているだけに過ぎません。 さらにリョウは、最初の「試験」で静香に「不合格」を下されます。このことからも、物語の冒頭の時点ではリョウが必ずしもセックスが上手いわけではないということがわかります。

リョウはなぜ人気を誇ったのか?

かろうじて咲良に認められたリョウは、その後、数多くの女性と関係を持ちます。しかし、その多くは、彼よりずっと年上の女性ばかり。しかも、いつまでもステディな相手がいなかったり、変わった性癖を持っていたり、夫に拒絶されたりと、性的に何かしらの葛藤や苦しみを抱えている人ばかりでした。 また、いきなり身体を重ねるのではなく、シンプルなデートを挟んでからことを行っている女性も見られます。彼女たちは、単純な肉欲ではなく、精神的な理解を求めているのです。 そんな女性たちを、リョウは「受容」するのです。幼い頃に母を失っている彼は、年上の女性に対してその面影を求め続けています。 そして、自分の目の前にいるにもかかわらず、セックスの相手の女性に対して「どこかへ行ってしまうかもしれない」という不安を抱いているのでしょう。そのためにリョウは、苦しむ人々を心の底から受け入れ、相手を思いやるのです。

【感想】映画『娼年(しょうねん)』から見えてくるセックスのこと

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セックスを通してナンバーワンに上り詰めたリョウ。そこにあるのはいわゆる「男女愛」ではありませんが、彼は女性たちの求めに応え、受け入れ、思いやりの心を持つことで、彼女たちに幸福を与えていきます。セックスという行為がいかに相手を思いやることで成り立つのか、ということがこれでわかるでしょう。 思えば筆者は、誰かに認められたいという感情が暴走し、まだそこまで知らない相手を衝動的に好きになったりしました。一体どれくらい相手のことが好きなのか、という思いをただひたすらに表現するそれは、今思えばただの一方通行の求愛であり、相手を思いやる行為ではなかったのです。この映画を見た筆者は、いかに自分が相手への思いやりに欠いていたのかを思い知るのでした。 それが純粋な愛であれ、一時の情事であれ、セックスの本質は相手への「思いやり」にあるのだ。『娼年』のリョウは、そういった当たり前だけど忘れられがちなことを、私たちに説くのです。