2020年8月6日更新

トラウマ映画『冷たい熱帯魚』のあらすじや元ネタの事件を解説!醤油をかける意味って?

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映画『冷たい熱帯魚』は、2010年に園子温監督が世に放ったR18+の超問題作です。この記事では本作のネタバレを含めたあらすじや元ネタとなった事件を解説。劇中のシーンや監督の発言を参考にしながら、作品に込められた意図を紐解きます。

目次

園子温監督のR18+映画『冷たい熱帯魚』を解説!浮かび上がる家族の構造【ネタバレ注意】

2009年に『愛のむきだし』で、国内外から高い評価を得た園子温監督。彼がその次に大きく注目された作品は、実際に起こった事件をもとにした2010年の映画『冷たい熱帯魚』でした。 エログロシーンが衝撃的な本作はR18+に指定され、サイコキラーをテーマにした邦画の中でも異彩を放っています。 本作では、出演者たちの怪演も話題となりました。特に主人公の社本を演じた吹越満とサイコキラーの村田を演じたでんでんの演技は、思わずゾッとするほど!実話をベースにしていることも、言い知れぬ恐ろしさを感じさせます。 この記事では映画『冷たい熱帯魚』のあらすじをネタバレありで振り返り、もとになった事件を紹介。さらに劇中のシーンなどから、本作に込められた監督の意図を紐解いていきます。 ※この記事には映画『冷たい熱帯魚』のネタバレが含まれるので、まだ本作を鑑賞していない人はご注意ください。

まずは『冷たい熱帯魚』のあらすじをチェック!【ネタバレ注意】

前妻の娘・美津子(梶原ひかり)と後妻の妙子(神楽坂恵)の3人で暮らす社本信行(吹越満)は、「社本熱帯魚店」を経営する気弱な店主。娘と妻の折り合いが悪い家庭の中で、波風を立てないよう見ないフリをして過ごしていました。 そんなある日、美津子がスーパーで万引きを働き、社本は店主に呼び出しを受けます。そこに居合わせたのが、大型熱帯魚店を経営する村田(でんでん)でした。彼が場を取り持ってくれたことでその場は穏便に済み、さらに美津子を村田の店でバイトとして雇ってくれることに。 このことをきっかけに村田とその妻・愛子(黒沢あすか)と、家族ぐるみで親しくなっていく社本一家。親切で人の良い村田にすっかり魅了された社本でしたが、しばらくすると高級魚の売買取引の場に強制的に立ち会わされるようになります。 そしてそれが村田の極悪非道なビジネスだと知った時には、すでに抜け出せなくなっていました。 村田のビジネスに加担することになった社本は、もっと恐ろしい事実を目撃します。それは、村田と愛子がトラブルを起こした人間を殺害して切り刻み、跡形もなく焼却している姿でした。村田は「遺体なき殺人」を繰り返していた連続殺人鬼だったのです。

共犯にさせられた社本はついに狂い、村田を刺して、愛子にその死体の処理を強要。その間に村田の店から美津子を連れ出し、暴力で家族を抑え込もうとします。刑事に死体解体場を告げて現場に戻った社本は、今度は愛子を仕留め、刑事と現場に来た妙子をも刺してしまうのです。 美津子にも刃を向け、「人生ってのは痛いんだよ」と言い遺して自分の首を切った社本。そんな父親を見て、美津子は「やっと死にやがったな、クソジジイ!」と叫ぶのでした。

元になった事件「埼玉愛犬家連続殺人事件」

『冷たい熱帯魚』のベースとなったのは、1993年に実際に起きた「埼玉愛犬家連続殺人事件」。 埼玉県でペットショップ「アフリカケンネル」を経営する元夫婦が、詐欺商売で顧客とトラブルを起こし、彼らをストリキニーネで毒殺して遺体を跡形もなく処分していた凶悪事件です。 劇中では、この事件の加害者が行なっていた殺害方法がそのまま再現されています。村田が言い放つ「ボディを透明にする」という台詞も、加害者の言葉をそのまま使用。ただし実際の事件ではペットショップだった舞台が、映画では熱帯魚店に変更されました。 この事件の大きな特色は「遺体なき殺人」と呼ばれた残忍な遺体処理方法。加害者は3件の連続殺人で起訴されましたが、物的証拠があまりにも乏しく、公判も難航したといいます。 また社本のモデルとなった共犯者が全面自供したことで元夫婦が裁かれることになった点も、映画の結末とは大きく異なる部分です。

でんでん演じる村田が恐ろしすぎる!身近な殺人鬼像

でんでん
©ciatr

本作でサイコパスな連続殺人犯・村田を演じ、圧倒的な存在感を放ったでんでん。実は彼は元ピン芸人で、田所完一という名で芸能界デビューしていました。俳優に転身したのは、1981年の映画『の・ようなもの』からです。 そんなバックグラウンドのおかげもあってか、でんでんは誰にでも親しみやすい人物でありながら、裏の顔は殺人鬼という二面性を持つ役柄を、見事に演じ切っています。遺体をバラバラに解体する場面で見せる満面の笑顔は、まさに鳥肌もの。 このギャップが村田の異常性を際立たせ、観る者を恐怖に陥れています。

なぜ醤油をかけて「ボディを透明にする」のか?

村田が言う「ボディを透明にする」というのは、遺体を完璧に「処理」すること。 実際の事件では、遺体は共犯者の自宅の風呂場で解体されましたが、劇中では村田が幼いころに狂った父親に閉じ込められたという、山奥にある家の風呂場が解体場となりました。 村田と愛子はまるで料理をしているかのように遺体を骨と肉と内臓に切り分けますが、その異様な光景を初めて目にした社本は吐き気をもよおします。さらに外にあるドラム缶の中に骨を入れ、醤油をかけて燃やし始める村田。 なぜ醤油をかけて焼くのでしょうか?そもそも骨を完全な灰になるまで焼く理由は、ただ埋めるだけでは地中に残ってしまうからでした。 しかしただ燃やすと異臭がするので、バーベキューのような匂いにカモフラージュするため醤油をかけていたよう。醤油は消臭効果もあるといいます。 これは実際の事件でも行われた、完全犯罪のための冷酷無比な所業だったのです。

食事のシーンから分かる家族関係のいびつさ

ダイニングルーム 暗め

社本の後妻と、前妻の娘との関係が悪化していたことは前述の通りですが、そもそも社本家は父性の弱い家庭でした。社本は若い後妻には強く意見が言えず、娘の非行にも及び腰。冒頭に登場する社本家の食卓には、その崩壊した家族関係が顕著に現れています。 妻が面倒くさそうに作る食事は、なんとすべてが冷凍食品。妻や娘に気を遣いながらありがたそうに「美味しい」と言って食べる社本の卑屈な様子も、父性の崩壊を示しています。 社本家の食卓はもう終盤でもう1度登場しますが、その時は様子が一変。社本が父性を「暴力」として獲得し、妻と娘を力でねじ伏せるのです。

浮かび上がってくるのは「家族」のありよう

社本は村田の底抜けに明るい性格と成功者としてのパワーに惹かれ、村田に対して圧倒的な「父性」を感じていました。彼らの関係性はまるで父と息子のようです。しかし村田の所業を知っていくうちに、その関係に変化が訪れます。 父と子のような関係といっても、社本は完全に言いなりの息子でした。ところが押さえつけられていた感情が、村田に「愛子を抱け」と強要された時に暴発します。村田が父なら、愛子は母。その母を抱けと言われた社本は「息子」の役割を唐突に放棄するのです。 社本は「息子」の役割を放棄し、「父(=村田)」に成り代わって「父性」を獲得しようとします。父を殺して母と交わるというと、ギリシャ悲劇「オイディプス王」の物語を彷彿とさせますが、これも家族の崩壊を描いた悲劇です。 気弱な社本が築いてきた家庭ははじめから崩壊していましたが、村田の出現で社本の立場は根底から覆ります。本作は村田に代わって強い父性を獲得した社本が、暴力によって完全に家庭を崩壊させていく救いのない悲劇なのです。

園子温監督が描きたかったものは「残酷な事実」だけ

園子温
©ciatr

園子温監督はなぜここまで徹底して救いのない悲劇を描き出したのでしょうか。この問いに対する答えは、監督自身が「MOVIE WALKER PRESS」のインタビューで語っています。 彼は『愛のむきだし』から踏ん切りをつけるための再デビューのつもりで、「嘘偽りのない映画」を撮り続ける決心をしました。埼玉愛犬家連続殺人事件を題材に選んだのは、「観客に癒しも慰めも与えなくて、残酷な事実だけを提供」するためだったといいます。 飾りを取っ払って、その「残酷な事実」を映し出すにはこれ以上ない題材だったのかもしれません。もともと監督自身は救いのない映画が好みのようで、いかにもな癒し系映画は逆に暗い気持ちになるそうです。 自分が撮りたいものを徹底的に追求していく園子温監督ならではの、初心に返った作品が『冷たい熱帯魚』でした。

R18+映画『冷たい熱帯魚』の感想や評価をチェック!

ここでは『冷たい熱帯魚』を観た人の感想を紹介。ただグロいだけでなく、人間の恐ろしさをしっかり描いているという声が多く寄せられました。 園子温監督の“残酷な事実だけを提供”するという狙いは成功したと言えそうです。

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#eiga #movie 園子温監督の作品4本目の鑑賞。 埼玉愛犬家連続殺人事件をもとにした作品。限界に達した人間が壊れる様子が、包み隠さず映し出されている。二面性って怖い。そしてマインドコントロールでは無いけれど、人の精神面を上手く弄び、利用する方法がうますぎる。 あり得ないだろ、と思っていたあれの方法や、あのセリフなどは事実らしいことを知って身震い。やー、ものすごく疲れた。

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プラネタリウムが大好きな小さな熱帯魚屋さんに訪れるショッキングな出来事とは。 この映画で”でんでん”は日本の映画賞を総なめにしたそうですね。よくわかります。劇中での彼の台詞には妙な説得力がありました。言うなれば日本版”ジョーカー”。前半部で主人公に共感し「ああ、俺もこんなんかも・・」なんて思った視聴者の気持ちを彼は鼻歌交じりで踏みつぶします。映画を見た後の一皮むけた感はかなりのもの。トラウマレベルです。 園子温作品は実はまだ今回が初視聴。日々のストレスを吹っ飛ばしてくれる、大人の娯楽映画です。是非見て欲しい。是非見て欲しいのですが、存分にグロいです。グロ邦画ってこんなに手の届きやすいところにあったっけ、なんて思わせてくれます。グロいのが苦手な方は視聴はお勧めしませんが、緩いスプラッタ映画で目を肥やしてでも観た方が良いと思います。

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観るか迷って数年、深夜から早朝にかけてやっと観た。今まで観た映画の中で一番の恐怖。これ、実話を元に作られたと思うと吐き気がおさまらないし人間って何を考えているのかも分からないし人間の恐さって計り知れないし、これはとんでもない映画だと思いました。

家族の崩壊を描いた園子温監督のトラウマ映画『冷たい熱帯魚』

実際に起きた恐ろしい事件を題材にして、家族の崩壊を描き切った映画『冷たい熱帯魚』。本作は衝撃的なエログロシーンがたびたび話題にあがり、トラウマ映画と呼ばれています。 実際の事件とは結末が大きく異なりますが、そこにこそ監督が本当に撮りたかったものがありそうです。本作では、村田と社本の関係から「父性の喪失」が浮かび上がってきます。 父性を失った家庭=支える者がいなくなった社会が向かう先は?と考えると、また深く考えさせられる作品なのではないでしょうか。