『アルスラーン戦記』の舞台パルス
物語の主な舞台となる王国で、人口は約2000万人。王都は、高度な都市計画によって整然とした街並みが広がるエクバターナ。公称人口100万のこの地を中心として、東西を結ぶ800ファルサング(約4000km)の「大陸公路」が通っています。
王都は「大陸公路」の要衝であるため、様々な物資と人が流れ込んでいる模様。通過する隊商から得る通過税などによって、多大な豊かさがもたらされます。さらに、ギランを始めとする港町では、他国との盛んな交易が行われています。
このことから、「大陸公路」の公用語としてパルス語が用いられています。他国の相手であっても、殆どの場合において意思の疎通が可能なようです。
パルスのモデルは?
原作小説の裏表紙などでは、「中世ペルシア(現在のイラン)に似た異世界」と紹介。原作者もこの件について言及しており、特にパルティア王国やサーサーン朝をモデルにした。と明かしています。
また、国名の”パルス”は、ペルシア王朝勃興の地”パールサ”を訛らせたのだとか。登場人物名や地名も、イスラムによる征服を受ける以前の歴史、伝説からとられました。
現実世界の中東に相当する地域を支配しており、騎馬民族的な戦闘方法、王位継承の複雑さなど。様々な観点から、モデルの歴史的背景が読み取られているようです。
パルスの国家体制は?
パルスを治めるのは、英雄王と称されるカイ・ホスロー以来300年余の歴史を誇る王家です。物語開始時点では、第18代国王アンドラゴラス三世の統治下。その下には、大将軍(エーラーン)率いる騎兵部隊が控え、権益を狙う周辺国家を武力によって退けています。
しかし、内政面では臣下の諫言が聞き入れられず、国政が武に偏りすぎていたようです。重要な交易にも興味を示さず、役人による不正を許すなど。パルスの国家体制は、徐々に腐敗してしまっていました。
また、王族(ワースプフラーン)・貴族(ワズルガーン)・騎士(アーザーターン)・自由民(アーザート)・奴隷(ゴラーム)といった身分制度が存在。後に、新政権のもとで奴隷階級のみが廃止されました。
パルスの宗教は?
パルスでは、ルシタニアなどで布教されるイアルダボート教は浸透していない様子。広く読まれる書物も宗教とは無関係なものが大半で、宗教に対して妄信的な国ではないようです。
また、現実世界におけるイスラム教やキリスト教、その前身であるゾロアスター教のような一神教は普及していません。ただし、部分的にはゾロアスター教を踏襲しており、それ以前の中東で信仰された多神教的な宗教観が一般的になっています。
パルスの芸能、芸術は?
パルスの土木・工芸の技術、識字率などの文化水準は他国を圧倒しています。
王立図書館には、1200万冊に及ぶ貴重な歴史書物が所蔵されており、医学書の他に叙事詩なども含まれていました。宮廷楽士といった役職、ナルサスが宮廷画家の地位に拘っていたことなどから見ても、様々な芸能や芸術が栄えているようです。
しかし、ルシタニア軍による征服を受けた際、パルスの価値ある芸術や書物が片っ端から焼き尽くされてしまいました。新しく作り出すことができるとしても、歴史あるものが失われてしまったのは惜しいですね。
王家の秘密とは?
アンドラゴラス三世が、「血塗られたパルス王家の系譜」と口にした通り、王家には大きな秘密が隠されていました。最大の秘密は2つあり、その1つは王太子アルスラーンが王家の血を引いていないということです。
パルスでは王子にしか王位継承権が無いのですが、王妃のタハミーネが産んだのは王女。さらに、タハミーネは子を産めない身体になり、王子が望めなくなってしまいました。
新しい王妃を拒んだアンドラゴラス三世は、中流騎士の家に生まれたアルスラーンを養子に迎えることに。後にアルスラーンにも知らされ、即位した際に国民へ公表。ちなみに、タハミーネが産んだ王女が現在どこにいるのか。という疑問は残ったままです。
もう1つの秘密は、先代のオスロエス五世の嫡子であるヒルメスの存在です。王宮の失火に見せかけて暗殺され、公式に死亡扱いされていました。
しかし、ヒルメスは火傷を負いつつも生き延びていたのです。身分を偽ってルシタニアに潜伏し、ルシタニア軍を手引きしてパルスに攻め入りました。自らを正当な王位継承者と主張しており、王位を奪い、暗殺未遂を謀ったアンドラゴラス三世への復讐に執心しています。
王家の血を引いていないアルスラーンにとって、ヒルメスの存在は衝撃的だった様子。王位継承への迷い、葛藤が生まれる一因になりました。さらに、ヒルメスの出生に関しても重大な秘密が存在しているようです。
パルスの自然は?
王都エクバターナの周囲には、ナルサスが隠棲したバシュル山を始めとする山々が存在します。
パルスの山道は、戦いの舞台になったり、アルスラーン軍の遠征中など。作中でも随所で登場しており、美しい風景を垣間見ることができました。
さらに南部には、大海に面した港湾地帯、パルスに併合されたパダフシャーン公国も。大半を乾燥地帯が占めていますが、オアシスが点在する美しい場所です。このように、パルスは四方を自然で囲まれた豊かな大地が広がっています。