映画『フォックスキャッチャー』
映画『
』は1996年に起きた実際にあった事件を元に2014年アメリカで製作された映画です。
最近、事実に基いた映画は実に多く製作されていますが、本作も同様の映画です。
本作は、サスペンスやミステリーと言う訳ではありません。
謎やミステリアスな要素が皆無の事件ですので、どちらかと言えば伝記的色合いが強いドラマであると言えます。
何不自由なく生活して、慈善事業にも勤しんだ大富豪が起こした事件の映画化作品『フォックスキャッチャー』について解説します。
事件の概要
大富豪であったジョン・エルテール・デュポンは、事業の傍らアマチュアスポーツの支援を行っていました。
中でもアメリカレスリングチームの支援者、後援者として名を馳せていたのです。
自身が所有するフォックスキャッチャーの農場に本格的なレスリングトレーニングジムを作り、本格的にアメリカレスリグチームの強化に当たります。
その際に招聘したのが、レスリングフリースタイルでの金メダリスト、デイヴ・シュルツでした。
ジョンとデイヴの関係は良好で、ジョンはデイヴのあらゆる面でサポートを約束し、実際に行っていました。
ジョンがデイヴを射殺するまでは、彼等の関係性に大きな問題は無かったのです。
しかし、1996年1月26日ジョンはデイヴが所有する私有地内で3発の銃弾を撃ちこんで射殺すると言う凶行に走ったのです。
ジョンは1997年2月27日に第三級謀殺で有罪となり収監され、2010年に獄中で亡くなりました。
ジョンは精神疾患であったか?
映画でも丹念に描かれる部分ですが、ジョンは精神疾患であり、統合失調症であると言われています。
公判で弁護士が精神疾患を主張するのは良くある話ですが、ジョンの場合は逮捕直後から公判に耐えられる精神状態では無いと判断されました。
3ケ月の観察期間において、ジョンは強迫観念症であり、統合失調症だと判断され、公判でも観察にあたった専門家が証言をしています。
また、事件を起こす数ヶ月前からジョンの言動が徐々におかしくなっていった事に周囲の人間は気付いていました。
事件直前には、ジョンはデイヴの事を自分を暗殺しようとしている国際的な秘密組織の一員だと思っていたのです。
しかし、判決はほぼ精神疾患を認めず、収監後もろくに治療を施さなかったこと、上訴や控訴は一切棄却されたことから考えても裁判所側は責任能力がないことを認定しなかったと言えます。
ですが、獄中で死亡する少し前にも面会に来た親族などに奇妙な言動をしていることからも、量刑を軽くする為に演技をしているとは考えにくい事実もあるのです。
果たしてジョンが精神疾患であったか否かは、映画を描く上でも肝である部分であったのです。
複雑な事件を描くスタッフ&キャスト
スティーブ・カレルの怪演に注目
引用: cinematch.jp
2005年に大ヒットを飛ばした『40歳の童貞男』で名実ともにコメディ俳優のトップに立ったスティーブ・カレル。翌2006年には『リトル・ミス・サンシャイン』においても自殺未遂をしたゲイの役を果敢に演じています。
しかし今作においては、そのコメディ要素を一切封印し、主人公大富豪のジョン・デュポン役を怪演。その異様な雰囲気、鬼気迫る演技で新しい一面を見せ、高い評価を得ました。アカデミー賞W主演男優賞ノミネート最有力との呼び声も多く聞かれています。
売れっ子俳優のマーク・ラファロ
2月7日より公開の『はじまりのうた』で
の相手役として共演しているマーク・ラファロ。今作においても作品を左右する重要な役どころを演じ、さすが売れっ子スターの貫禄を見せています。
マーク・ラファロと言えば、記憶に新しい出演作は『グランド・イリュージョン』でのFBI捜査官の役でしたが、実は『
3』にもカメオ出演しています。エンドロールの最後での出演に気づいた方は多いと思います。これは、『アベンジャーズ』からの友情出演ではないかと言われています。
マーク・シュルツには『ホワイトハウス・ダウン』などアクション系の映画出演が多い
が扮します。
メガホンを取ったのは『マネー・ボール』や『カポーティ』などもベネット・ミラーです。
元々、ドキュンメタリー畑の監督であり、『カポーティ』も伝記映画、本作も伝記映画と言う事もあり、いわゆるノンフィクションものはお手の物と言うところでしょうか。
その他の面子を見ても、製作者、脚本家など比較的地味なキャリアの人が多いのですが、シッカリとした硬派な作品の作り手とも言える面子なのです。
デュポン財閥とは?
大富豪のジョン・デュポンは殺害を犯すという悲劇を描いた今作。では、そのデュポン財閥はどんなものなのでしょうか?
アメリカ合衆国では、ロックフェラー、メロンと並ぶアメリカ三大財閥と呼ばれ、200年以上の歴史を持つ老舗とされています。主に化学製品の製造と販売を行い、規模は世界第3位・アメリカで第2位の勢力を持っている大企業です。正式な企業名は「イー・アイ・デュポン・ド・ヌムール・アンド・カンパニー」。
公開までが難航しただけに期待度も高まる!
引用: www.nikkei.com
当初、は公開日は2013年12月20日の予定と言われていました。しかし、急遽北米での公開を2014年中に先送りとし、その理由としてソニー・ピクチャーズ・クラッシクスからベネット・ミラー監督が、仕上がりにもっと時間を要したためと発表されました。
また、製作過程で予告編公開と同時に公開日延期発表があったため、何か不穏な空気を感じさせましたが、波乱があっただけに話題作です。
評価と受賞
本作の評価は実に高いものです。
多くの批評家がこぞってスティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ3人の演技を高く評価しています。
派手さを抑えた硬派な作品ゆえに、演出と演技は映画の出来を左右する大きなファクターとなる訳です。
それを見事に実現したのが本作なのです。概ね観客の評価も批評家に同様と言えます。
カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞、パルム・ドールにノミネートされました。
ハリウッド映画賞ではアンサンブル演技賞を受賞。
この他に4つの賞で受賞をしています。
遺族との軋轢
映画化にあたっては当然遺族からの許可を取っていることでしょう。
ある程度のギャランティも支払われていると考えられます。
もちろん、上映に際しても前もって確認している筈です。
にも関わらず、被害者の弟マーク・シュルツは自身のTwitter上で「監督のベネット・ミラーは一線を超えた」と批判しているのです。
「ミラーは二度と賞を獲れない」とも発言しています。
この批判の裏に何があるのかは判明していませんが、一線を超えたと言う発言は映画化許可に際して秘密にしていた事があると考えられます。
もしくは評価や興行収入などが好調なところを見てギャランティに不満を持っているのかも知れません。
まとめ
慈善事業に力を入れていた表向き善意の塊の様な人物が、突如として殺人鬼と化す本作。
加害者と被害者の間に何があったのか、真実を知る事は2人がいない今窺う事は出来ません。
善意と悪意の両極端にあった人物ジョン・デュポンとは果たしてどんな人物であったのか。
本作はそれを知る手掛かりになるかも知れません。