モーツァルトの死を巡るサリエリを描いた映画『アマデウス』
1984年のアカデミー賞授賞式で作品賞や監督賞始め8部門を総なめにした大作『アマデウス』。そのあらすじとキャスト、見所をたっぷりご紹介します!
『アマデウス』のあらすじを紹介
物語は精神病院にとある老人が自殺未遂で運ばれるところから始まります。彼の名前はアントニオ・サリエリ、かつての宮廷音楽家です。一命を取り留めたサリエリは神父に驚くべき告白をします。それは天才と謳われた音楽家、モーツァルトとのストーリーでした。
音楽を愛し、神に才能を与えてくれと願い続けた音楽家サリエリ。彼の眼の前に現れたのは、不躾で下品、礼儀知らずな天才音楽家モーツァルトでした。神は自分ではなくモーツァルトに音楽家としての才能を与えた…その事実を知ったサリエリは、モーツァルトへの嫉妬と羨望に悩まされるようになります。
次第にその感情は憎悪へと変わっていき、サリエリは自分ではなくモーツァルトに才能を与えた神へ復讐することを誓いますが…。
サリエリの回想からモーツァルトの死までを描いたこの映画、2時間40分という長編になっています。しかしモーツァルトの音楽とサリエリの苦悩に引き込まれ、あっという間に時間が過ぎていくこと請け合いです。
演技派揃いのキャストをご紹介!
迫真の演技が絶賛された俳優陣をご紹介します。
サリエリ役にF・マーレー・エイブラハム
モーツァルトへの嫉妬と憧れから復讐劇を企てるサリエリを演じたのはF・マーレー・エイブラハム。1939年生まれのアメリカ人俳優で、『スカーフェイス』『グランド・ブタペスト・ホテル』にも出演しています。この演技でアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
モーツァルト役にトム・ハルス
音楽をさせたら天才、しかしそれ以外はからっきしのモーツァルトを演じたのはトム・ハルス。狂ったような笑い方を始め、モーツァルトの特徴を捉えていると大絶賛されました。ハルスは1953年生まれのアメリカ人俳優で、映画『ノートルダムの鐘』では主人公カジモドの声を演じています。
コンスタンツェ役にエリザベス・ベリッジ
モーツァルトの妻で、病弱なコンスタンツェを演じたのはエリザベス・ベリッジ。1962年生まれの女優で、この『アマデウス』が彼女の代表作となっています。
ヨーゼフ2世役にジェフリー・ジョーンズ
サリエリやモーツァルトの雇い主でもある皇帝ヨーゼフ2世を演じたのはジェフリー・ジョーンズ。1946年生まれの俳優で、『アマデウス』以外の代表作に『フェリスはある朝突然に』があります。
レオポルド役にロイ・ドートリス
モーツァルトの父、レオポルドを演じたのはロイ・ドートリス。モーツァルトが罪の意識を感じ、やがて彼を死に追いやっていく中で重要な役でもあります。ドートリスは1923年生まれの俳優です。TVドラマや舞台などで活躍しました。
ローラ役にシンシア・ニクソン
メイドかつサリエリのスパイという、脇役ながら重要な立ち位置のローラを演じたのはシンシア・ニクソン。『セックス・アンド・ザ・シティ』のミランダ役で有名ですよね。1966年生まれの女優で、現在ではTVドラマへのゲスト出演や映画出演など幅広く活躍しています。
監督はミロス・フォアマンが務めた
この映画の監督を務めたのはチェコ出身のミロス・フォアマン。チェコで映画を学び、中欧を代表する映画監督として知られるようになりました。その後アメリカに渡り、『カッコーの巣の上で』と本作でアカデミー賞監督賞を受賞しています。
その他の代表作に『宮廷画家ゴヤは見た』があります。
実際のモーツァルトはどんな人物だったのか?
この作品はサリエリの復讐劇が軸になっていますが、あくまでもフィクションです。しかしモーツァルトと同様、サリエリも実在の人物でした。
神童と謳われる天才音楽家、モーツァルト
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756年1月27日〜1791年12月5日)はオーストリア出身の音楽家。幼少の頃からその才能を発揮し、『神童』と呼ばれるようになります。5歳の時に初めて作曲をして以降、生涯にわたり交響曲や協奏曲からオペラまで幅広い作品を残しています。
一方で、モーツァルト本人の性格は『アマデウス』上での描写と同じで、下品で卑猥なことを好む性格だったのだとか。また妻コンスタンツェと同様浪費癖が激しく、一家は常に金銭の工面に困っていたという話もあります。そのためモーツァルトが曲を作るのはほぼ収入を得るためだったそうです。
当時は功績が認められていた、サリエリ
アントニオ・サリエリ(1750年8月18日〜1825年5月7日)はイタリア出身の音楽家です。オーストリア皇帝の宮廷楽長を務めた人物として功績を残しましたが、作品などはあまり有名ではなく死後長らく表舞台に立つことはありませんでした。
『アマデウス』の公開によりその存在に注目が集まって、最近では再評価の動きも出てきています。
映画はフィクション!
実際のモーツァルトとサリエリの関係は映画で描かれているものとは異なるようです。サリエリはモーツァルトの音楽的才能を評価していた一方で、彼が宮廷音楽家のメンバーになることを疎ましく思っていたのは事実のよう。
しかしモーツァルトに復讐劇を企てた事実は一切ありませんし、モーツァルト毒殺の嫌疑をかけられたときもきっぱりと否定しています。
作品中で流れたモーツァルトの作品は?
映画を語る上で外せないのがモーツァルトが作り出した名作の数々。その一部をご紹介します。
オープニングでインパクト大、交響曲第25番『シュトルム・ウント・ドランク』
オープニングで流れた一曲。耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。不安に駆り立てるような曲調がオープニングにマッチしています。
サリエリとモーツァルトの出会いの場で、セレナード第10番『グラン・パルティータ』
サリエリとモーツァルトが初めて出会うシーンで流れた音楽です。天才と呼ばれる音楽家モーツァルトを一目見ようと演奏会に訪れたサリエリ。眼の前で下品に振舞っていた若者にに目をひそめていたところ、その青年が美しいメロディーを奏で始めたのです。サリエリの衝撃と対照的な美しい曲調が印象に残ります。
父への罪の意識の象徴、オペラ『ドン・ジョヴァンニ』
劇中では、父レオポルドの死に対して感じる罪の意識を表す作品として描かれました。女たらしのドン・ジョヴァンニが口説いた女の父親の亡霊によって地獄へと突き落とされるというストーリーで、サリエリはこの時のモーツァルトの心理を巧みに読み取り、彼の復讐へ利用しようとします。
モーツァルト自身の死を表した『レクイエム』
モーツァルトを追い詰めるきっかけとなった『レクイエム』。映画ではサリエリが変装をしてモーツァルトに作曲を依頼しています。この作品が自分自身のレクイエム(死者を送るための曲)になると感じたモーツァルトですが、実際に作曲中に亡くなるのです。
史実では『レクイエム』を依頼したのはサリエリではありません。しかしこの作曲にモーツァルトが何らかの不安を抱いていたことは間違いないようで、実際に未完成のままモーツァルトは亡くなっています。
舞台や衣装にも注目!
『アマデウス』で注目したいのは音楽やストーリーだけではありません。舞台セットも実に見事。
当時の宮殿や劇場、衣装に至るまでが忠実に再現されています。
実際にアカデミー賞では衣装デザイン賞や美術賞を受賞しています。
ストーリーやキャストはもちろん、舞台や音楽などどれをとっても『アマデウス』は一級の映画作品と言えるでしょう。
映画『アマデウス』の知るともっと面白くなる事実13選
1. 『アマデウス』の始まりは舞台から
モーツァルトに関する一般人の認識を大きく変えた『アマデウス』ですが、実は同名の舞台が元になっています。早くは1830年、『モーツァルトとサリエリ』という名で短編劇が上映されていました。
『アマデウス』舞台版が上映されたのは1979年ロンドンでのことで、翌1980年にはブロードウェイでも上映されました。キャストに関してもサリエリにイアン・マッケラン、モーツァルトにティム・カリーという豪華さ。最終的にトニー賞で5部門受賞という快挙を成し遂げました。
2. ルーク・スカイウォーカーがモーツァルトになる可能性もあった!?
『スター・ウォーズ』のルーク役で一躍人気となったマーク・ハミルが舞台版『アマデウス』でモーツァルトを熱演したことはあまり知られていません。
彼は映画版でもモーツァルトを演じたかったのですが、監督ミロス・フォアマンはジェダイの騎士が音楽家になる姿をどうしても想像できませんでした。ハミルはその時のことをつぎのように話しています。
「観客はルーク・スカイウォーカーがモーツァルトなんて想像できないだろう、だから君にはモーツァルト役は任せられない」と監督に言われたんだ。ストレートな言い方だったけど、曖昧に期待を持たせる表現じゃなかったことにむしろ僕は感謝しているよ。
3. 自信満々だったケネス・ブラナーが断られた理由
モーツァルト役のオーディションを受けた俳優にはブロードウェイでも演じたティム・カリー、人気が出ていたメル・ギブソンがいました。さらに英国俳優ケネス・ブラナーは自分が役を得たと思っていたのに、フォアマン監督にアメリカ人俳優を採用すると断られたそうです。
さらにミック・ジャガーもモーツァルト役に立候補して断られたのだとか。モーツァルトは彼の時代のロックスターとも言える存在なので、現代のロックスターであるミック・ジャガーが演じたらどうなっていたか少し気になりますね。
4. 絶賛されたのにモーツァルト役は獲得できず?
舞台版『アマデウス』の初公演でモーツァルトを演じたのはサイモン・カロウ。彼の演技についてフォアマン監督は「聡明でユーモアがあり、狂気、下劣さ、赤ん坊として、神としてのモーツァルトを表現した素晴らしいものだった」と絶賛しています。
しかしフォアマンは映画版でカローをモーツァルトにすることはなく、『魔笛』の台本を手がけたエマニュエル・シュネカーダーの役をオファーしました。
5.一歩間違えば大惨事、命がけの撮影
モーツァルトの時代には電球は存在しませんでした。そのため『アマデウス』でも全ての明かりに火が使われました。この撮影中スタッフは、火の使用に終始ドキドキしていたよう。
中でも実際にオペラ『ドン・ジョバンニ』が初めて公開されたプラハの劇場での撮影は緊張ものだったようです。この劇場は1783年の竣工から一切手が加えられていません。何か起こればあっという間に伝統ある劇場が炎に包まれるという緊迫した状況での撮影でした。
6. モーツァルトを完璧に演じるための主演俳優の猛特訓
数多くの俳優が名乗りを上げたモーツァルト役を見事射止めたのはトム・ハルス。『神童』モーツァルトを演じるために、ハルスは1ヶ月かけてピアノの猛特訓をしたのだそう。
1日4〜5時間の練習で、最終的に劇中のシーンで演奏するまでに。仮面舞踏会でモーツァルトが演奏しているシーンで彼の背後が映し出されますが、あれは実際にハルスだったのだそうです。
7. あの笑い方で精神を病んでしまった!?
劇中モーツァルトは何かあると狂気的に笑っていましたが、実際のモーツァルトもこのような笑い方をしていたそうです。トム・ハルスはフォアマン監督からモーツァルトの狂気性を表現するように言われ、この笑いを習得しました。
しかしその狂った笑い方にハルス自身も疲れてしまったようで、撮影から9ヶ月経っても自然に笑うことができなかったと話しています。
8. サリエリとモーツァルトの関係性が乗り移ってしまった
サリエリとモーツァルトの物語は18世紀が舞台ですが、サリエリの感情は現代にも通じるところがあるでしょう。誰かへの憧れ、嫉妬、苦悩…。実は撮影中、同じことがサリエリを演じたF・マーリー・エイブラハムに起こっていたと言います。
ハルスと(モーツァルトの妻を演じた)エリザベス・ベリッジはとても仲が良く、いつも冗談を言い合っていたんだ。僕は仲間はずれにされたような感覚がして、まるでサリエリのような嫉妬の気持ちを持ち始めたんだよ。
ハルスもエイブラハムにはライバル心を抱いていたと話しています。
たまに2人でプラハの街へシャンパンを引っ掛けに出かけたこともだったよ。でも確かにライバル心を持っていたし、彼に猜疑心も持っていたね。
映画の役とプライベートがリンクしてしまうほど、2人は役になりきっていたということでしょうか。
9.秘密警察に狙われたフォアマン監督
撮影がおこなわれたチェコスロバキアは1983年当時社会主義を採用していました。撮影チームは度々秘密警察に尾行されていたのだそう。
中でも厳しい監視にさらされたのが監督のミロス・フォアマン。もともとチェコ出身なのにアメリカ国籍を取得した後戻っていないこと、過去にチェコで彼の作品が上映禁止となったことなどが重なり、彼はある契約にサインしなければいけませんでした。
1年間の撮影期間中、ミロスは撮影後必ずホテルに戻るように言われた。そして運転手に彼の友人を使うように、と。ミロスに政治的な思惑で何かが起これば、運転手に危害が加わるということでね。
決して安全とは言えない状況下で撮影をおこなったフォアマン監督の熱意に脱帽ですね。
10.撮影に潜んでいた秘密警察
また、オペラ『ドン・ジョバンニ』のシーンびもエピソードが残っています。
撮影日のうちある1日は7月4日、アメリカの独立記念日でした。フォアマンが「アクション!」と叫ぶと、巨大なアメリカ国旗が掲げられ、500人のエキストラが立ち上がってアメリカ国歌を歌い出したのだとか。立ち上がらなかったエキストラは30人は撮影現場を後にし、その後秘密警察のメンバーであったことが明らかになりました。
11. 端役ながら重要な役どころを演じた若手女優
ロールというメイドを演じたシンシア・ニクソンは当時17歳。端役に思えますが、サリエリの密偵を兼ねていたという重要な役どころです。その当時ニクソンはまだ子役という印象を持たれていましたが、この映画でそのイメージの脱皮を図るために、海外での撮影を了承したのだと言います。
私は「あなたの映画にとても出演したいんです、でも1つだけリクエストがあるの。もし2日連続で撮影に間が空いたらアメリカに帰るわ。」って言ったの。フォアマンは了承してくれたわ。
ちょうどこのとき高校生活を終えようとしていたこともあり、ニクソンと彼女の両親はとても慎重になっていたのだそうです。
12. モーツァルトとマイケル・ジャクソンがコラボ?
プロモーションにも独特の発想が取り入れられた『アマデウス』。なんと現代のロックスターとモーツァルトがコラボするという発想が取り入れられたのです。
KISSやマイケル・ジャクソン、デヴィッド・ボウイにマドンナらの画像が『交響曲第25番』に合わせて映し出される映像は話題を呼びました。
13. 授賞式でのちょっと笑えるハプニング
『アマデウス』が大ヒットとなり、アカデミー賞作品賞を含めて8部門を受賞したのは周知の事実。しかし、この授賞式でちょっとしたハプニングがあったのをご存知でしょうか?
作品賞のプレゼンターはサーの称号を持つ第俳優ローレンス・オリヴィエ。当時78歳で長年病を患っていた彼、確かに封筒を開いて「作品賞は『アマデウス』」と言ったのですが、その前にノミネート作品を言うのを忘れてしまったのです。慌ててスタッフが壇上にあがり、すべてが正しいことを確認してからプロデューサーにオスカーが授与されたのだとか。
プロデューサーはその後のスピーチで、他のノミネート作品の紹介をすっ飛ばして賞を受賞できたことは光栄だとジョーク交じりに話しました。