『最強のふたり』フランス(オリジナル)版とリメイク版は何が違う?
2011年にフランスにて公開、2012年9月1日には日本でも公開されフランス映画では『アメリ』を超える異例の大ヒットを遂げた『最強のふたり』。不運な事故で四肢麻痺になってしまった気難しい富豪と、その介護士となったスラム育ちの青年が築いた深い絆を描いた本作は、第36回日本アカデミー賞最優秀外国作品賞など数々の賞を受賞。 そんな傑作が2019年に舞台やキャストを変えたハリウッドリメイク『THE UPSIDE 最強のふたり』として復活!日本では2019年12月20日に公開されます。 そこで今回はフランス版(今後オリジナル版と明記します。)とリメイク版の違いや評価について徹底比較していきます。
Q1.あらすじの違いは?
A.大まかなストーリー展開は同じ
まず、オリジナル版もリメイク版も四肢麻痺の億万長者の白人男性と、彼の介護者となる下層階級の黒人男性、という思想も立場も異なる二人の友情を描いた作品というのは変わりません。また、障がい者であるフィリップを周囲が腫れもののように扱うのに対し、ドリス(リメイクではデル)は彼に “普通”に接することで気難しいフィリップの心を溶かしていくという展開も同じ。 つまり、物語の大まかなプロットはほぼ同じと言ってもよく、『最強のふたり』にアメリカらしいジョークや少しのエピソードを盛り込んだのが『THE UPSIDE 最強のふたり』と言って良いでしょう。
Q2.フィリップとドリスを演じるキャストは?どんなキャラ設定?
A.オリジナル版ドリスを演じたオマール・シーは本作から活躍
オリジナル版フィリップを演じたのはフランソワ・クリュゼ。セザール賞へのノミネートも多く、『唇を閉ざせ』(2006)で主演男優賞を受賞。『フレンチ・キス』(1995)などのアメリカ映画にも出演しています。 フィリップはパラグライダーの事故が原因で全身麻痺となり、自身の障がいを知られる事を恐れて文通相手の女性との約束をドタキャンした事も。また、気難しい性格でしたがドリスと出会ってからはよく笑顔を見せるようになります。 また、ドリスを演じたオマール・シーはコメディアンでもあり、俳優としても活躍。本作が初主演でしたが、これをきっかけに『ジュラシック・ワールド』(2015) など海外作品に出演するようになります。 ドリスはスラム地区に住む青年で、叔母家族の養子となり多くの子供達と住んでいます。フィリップの元へは失業手当をもらうためのサインを貰いにきただけでしたが、彼に気に入られ介護をする事に。
A.リメイク版ではドリスの名前や設定が少々異なる
フィリップを演じたのはブライアン・クランストン。ドラマ『ブレイキング・バッド』などに出演したベテラン俳優です。一方のドリスはリメイク版ではデル・スコットという名前に変わり、演じたのはコメディアンのケヴィン・ハート。彼は『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』にも出演していました。 フィリップの設定は変わりませんが、デルは結婚と離婚を経験し、息子もいるお父さんと言う設定に。これによって、オリジナル版では弟という家族の一部の問題を解決しただけでしたが、リメイク版では家族全体の問題を解決することに成功しました。
A.一番の変化は秘書のキャラクター設定
リメイク版フィリップの秘書・イヴォンヌ役として人気女優のニコール・キッドマンが出演しているのですが、彼女のキャラ設定が大きく変わっています。というのも、オリジナル版フィリップの秘書・マガリーはドリスに気に入られ、言い寄られていましたが物語の最後の方でレズビアンだと明かされます。 するとドリスの態度は一変し、あっさり彼女のことを諦めます。ここから、マガリーはドリスが言いよるためだけに存在していたのか?と不満を感じる人もいたようです。 リメイク版ではこれを問題視したのか、秘書・イヴォンヌのキャラクターを聡明で賢い女性に変更。デルが彼女に言いよるシーンも無くしました。(ただし、デルは他の女性に言いよっていますが……。)
Q3.どちらが実話に近いのか?
A.オリジナル版もリメイク版もほぼ同じ再現度
オマール・シー演じるドリスはアフリカ系移民でしたが、実際はアブデルというアルジェリア人の青年でした。これは監督・脚本のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュが、どうしてもこの役をオマール・シーにしたかったためだとか。オマール・シーは、ドリス同様、パリのスラムに住んでいた経験もありました。 そして、リメイク版のデルもアフリカ系アメリカ人という設定なので実話とは異なります。舞台がニューヨークに変わっているため、フィリップの国籍もフランスからアメリカに変わっています。 また、フィリップの妻・ベアトリスは劇中ではすでに他界したことになっていますが、実際にはアブデルがやってきた4年後に亡くなっています。さらに、劇中で雇用関係は解消されたのは出会ってから約1年後のように描かれているのですが、実際には10年間雇用関係は続いていました。そして、二人が移住したモロッコでアブデルが現地の女性と恋に落ちたため、雇用関係が解消されたそう。
Q4.評価はどちらの方が高い?
では、実際の観客の評価はどちらの方が高いのでしょうか?日本では公開されていないため、アメリカの大手映画評価サイト「ロッテントマト」の評価を紹介します。
A.オリジナル版は批評家:75%、一般ユーザー:93%
批評家からの肯定評価の割合は75%、一般ユーザーからは93%もの肯定評価を獲得しています。オリジナル版が評価された理由は「革新的ではないが、ユーモラスに富んでいるから」「一見重くなりがちなテーマだが、障がいや身分を取っ払って登場人物そのものの人柄や友情を描いているから」というものだと思います。 実際、ドリスがフィリップに投げかける言葉にヒヤヒヤさせられることもあります。しかし、それに対してフィリップは怒ることもなく普通に返答。ドリスはフィリップを障がい者だということを認識しながらも特別扱いすることをしなかった唯一の人だったのでしょう。ここに、オリジナル版が多くの人の心を動かした理由があると思われます。
A.リメイク版は批評家:40%、一般ユーザー:86%
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批評家からは40%、一般ユーザーからは86%の肯定評価を獲得。批評家からは「ブライアン・クランストンとケビン・ハートの化学反応を上手く起こせていない」などとかなり辛口な評価が与えられました。また、これはオリジナル版にも共通して挙がっていたのですが「展開が見えてしまう」と言う意見も。 しかし、その一方で一般ユーザーからはオリジナル版と同じような肯定評価を得ており、さらにアメリカらしいジョークをオリジナルよりも多く盛り込んだ点も評価されています。
Q5.それぞれの魅力とは?
A.オリジナル版の魅力はキャスト以外にも
心打つストーリー展開、フランソワ・クリュゼとオマール・シーによる素晴らしい演技はもちろんですが、それ以外にもオリジナル版は楽しむポイントがたくさんあります。 まずはフィリッブの家を始めとする装飾品の数々。劇中には2枚のサルバドール・ダリの作品"記憶の固執"と"階段、3本の柱の脊椎、空、建築物に変容する自分自身の肉体を見ている裸の私の妻"という名画が登場します。 また、ドリスがフィリップのために運転する車はマセラティ・クアトロポルテ。1500万円は下らない、自動車ファン垂涎の高級車です。 そして音楽は『ブラック・スワン』(2010)の予告編や『J・エドガー』(2012)を始め数々の映画・テレビ番組に楽曲提供を行うイタリアの有名ピアニスト、ルドヴィコ・エイナウディが担当。フィリップとドリスの日常に溶け込むBGMにも注目です。
A.リメイク版の魅力は何よりもキャスト
リメイク版の魅力は何と言ってもキャストたちにあります。まず、フィリップ役のブライアン・クランストンはカルト的人気を博したドラマ『ブレイキング・バッド』で温厚な父親と冷酷な犯罪者と言う二つの顔を演じたカメレオン俳優。本作でも障がい者という難しい役柄を見事に演じ切りました。 また、デル役のケヴィン・ハートはさすが人気コメディアンと言ったところ。彼がいれば作品におけるユーモアの部分は完全に担保されたと言って良いでしょう。実際、全米で公開された際には多くの観客の笑いを誘っていたそう。 また、フィリップの服装が素敵という意見も。日本で公開された際には注目してみてください。
リメイク版『THE UPSIDE 最強のふたり』を楽しむために頭に置いておくべきこと
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数字だけの評価はオリジナル版の方が高くなっていますが、リメイク版にも良さがあることも事実。そのため、主題や大まかなストーリー展開は同じであると言うことを念頭に置いていればリメイク版『THE UPSIDE 最強のふたり』も楽しめるのではないでしょうか。 オリジナル版の日本人気は冒頭でも述べた通り凄まじいため、リメイク版の日本評価も気になりますね。リメイク版『THE UPSIDE 最強のふたり』は2019年12月20日より劇場公開されます。