2017年7月6日更新

『それでも夜は明ける』傑作と評価される気骨のある映画をネタバレ紹介!

『それでも夜は明ける』

ブラット・ピット制作、スティーヴ・マックウィーン監督による実話を基にした『それでも夜は明ける』。突然自由を奪われ奴隷とされながらも人間としての尊厳を失わず希望を持ち続けた主人公の壮絶な生き様は多くの感動を呼びました。その傑作に迫ります!

目次

アカデミー作品賞受賞の名作『それでも夜は明ける』を徹底解説!

2014年公開された『それでも夜は明ける』は、誘拐され奴隷として売られた実在の自由黒人ソロモン・ノーサップによる手記「Twelve Years a Slave(12年間。奴隷として)」が原作である実話を基にした映画。

あのブラッド・ピットが制作し、『ハンガー』のスティーブン・マックウィーンが監督としてメガホンをとった本作は、或る日突然自由を失い奴隷となったノーサップが人間としての尊厳を失うことなくそれを生き抜いた不屈の精神を描き、多くの感動を呼びました。

アカデミー賞においては作品賞、監督賞ほか計9部門にノミネート。マックウィーンが黒人監督としては初めて作品賞を受賞したのを始め、その他助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞しました。

今回はそんな傑作に迫ります!

『それでも夜は明ける』あらすじ

1841年、ニューヨークで家族と一緒に幸せに暮らしていた音楽家の自由黒人ソロモン・ノーサップ。

ある日騙されて拉致され、奴隷として南部の綿花農園に売られてしまいます。自由黒人であると訴えても聞き入れてもらえず、過酷な肉体労働を強いられた上残忍な仕打ちと非道な扱いを受けることに。絶望的な奴隷生活を強いられながらも、彼は人間としての尊厳を守りひたすら耐え続けるのでした。

しかし奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会うことでやっと転機が訪れます。彼の助けで自分が自由黒人であることが認められ、やっと愛する家族の元にもどれることに。その時にはすでに12年の月日が流れていたのでした。

『それでも夜は明ける』キャスト

ソロモン・ノーサップ(プラット)/キウェテル・イジョフォー

生まれながらの自由黒人。バイオリン奏者であり、当時の黒人としては珍しく字の読み書きができ、教養もあったノーサップ。ある日突然拉致され奴隷となってしまった彼は12年の時を経て身分を回復し、家族の元へ帰ることになります。

その実在の人物を演じるのは、イギリス出身の俳優キウェテル・イジョフォー。

彼はロンドンでナイジェリア出身の医師の父と薬剤師の母の元に生まれ、演劇「オセロ」で注目を浴びました。その後はスティーヴン・スピルバーグの『アミスタッド』コヴィ役で映画デビューを果たします。

映画へ進出した現在も、シェイクスピアの演劇を中心に出演し続けている彼はロンドンの演劇界でも重要な役者となり、その功績から2008年には大英帝国勲章も授与されました。

エドウィン・エップス/マイケル・ファスベンダー

農場の残酷な支配人エドウィン・エップスを演じるのはドイツ出身のマイケル・ファスベンダー。

ロンドンの演劇学校で学んだのち、スティーヴン・スピルバーグ、トム・ハンクスの共同制作による大作TVシリーズ『バンド・オブ・ブラザーズ』の演技で注目を集めることとなりました。

その後、マックウィーン監督作品『ハンガー』ボビー・サンズ役、『SHAME –シェイム-』ブランドン役で主演。それぞれの作品でその演技が評価され、数々の賞で主演男優賞受賞、もしくはノミネートを受けています。

本作ではアカデミー賞、英国アカデミー賞、ゴールデングローブ賞でそれぞれ助演男優賞にノミネートされ、実力派俳優として今後の活躍が期待されています。

ウィリアム・フォード/ベネディクト・カンバーバッチ

聖職者であり農場主でもある最初のノーサップのオーナー、ウィリアム・フォード。温和な性格でノーサップが本当の奴隷ではないのではと感じていましたが何もできず、農園の監督官ディビッツに目をつけられた彼を守る為に広大な綿畑を所有するエップスに売ってしまいます。

宇宙学者スティーヴン・ホーキング博士を演じたBBC制作のTVドラマ「ホーキング/Hawking」で注目され、英国アカデミー賞主演男優賞にノミネート。その後『「SHERLOCK(シャーロック)」シリーズの主演で世界的な脚光を浴び、数々の主演男優賞にノミネートされたベネディクト・カンバーバッチがそんなフォードを好演しました。

その後もヒット作への出演が続く今最も注目される俳優の一人です。

ジョン・ディビッツ/ポール・ダノ

ウィリアムの農園の監督官ディビッツは陰湿な性格でノーサップに対して難癖をつけ暴力をふるう非道な人物でした。

本作でそんな人物を演じた、ポール・ダノは11歳でブロードウェイの舞台に初出演を果たします。その後、舞台、映画でキャリアを積み、『リトル・ミス・サンシャイン』のドウェイン・フーヴァー役の演技で注目されることに。

また、ダニエル・デイ=ルイス主演作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ポール・サンデー役では、英国アカデミー賞助演男優賞にノミネート。様々な話題作に出演し活躍の場を広げています。

セオリファラス・フリーマン/ポール・ジアマッティ

奴隷貿易の元締めセオリファラス・フリーマンはノーサップをプラットと呼び、以後この名前が定着することになります。

奴隷貿易の元締めであるにもかかわらず皮肉のような名前のフリーマンを演じるのは、数々の話題作に出演し、その高い演技力で評価を得ているポール・ジアマッティ。

『アメリカン・スプレンダー』、『サイドウェイ』でその評価を不動のものとし、『シンデレラマン』ジョー・グルード役ではアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞でそれぞれ助演男優賞にノミネートされました。

パッツィー/ルピタ・ニャンゴ

エップスの農場の奴隷パッツィーは綿花栽培の働きで農場に多大な貢献をしていますが、エップスに気に入られたことで様々な苦難にあうことに。

そんな彼女を演じたメキシコ生まれケニア育ちのルピタ・ニョンゴはイェール大学で演劇を学び、舞台で経験を積む一方で、数々の映画賞も獲得した長編ドキュメンタリー『In My Genes(原題)』(09)では企画、監督、編集、製作も手掛ています。

本作ではその演技を絶賛され、アカデミー助演女優賞、全米映画俳優組合賞助演女優賞を受賞。注目の新鋭女優です!

黒人として初のアカデミー賞を受賞したスティーヴン・マックウィーン監督!

新進気鋭のフィルム・メーカー

本作でメガホンをとったのはイギリス出身のスティーヴン・マックウィーン監督。

彼は20世紀北アイルランドの刑務所で起きたハンガー・ストライキ抗議運動を題材にした長編映画『ハンガー』で注目を浴びることになります。

今作で彼は英国人初となるカンヌ映画祭カメラ・ドール賞など数多くの映画賞を獲得することになりました。

その後新進気鋭のフィルム・メーカーとして一躍世界で注目される監督の1人となり、2012年公開セックス依存症を描いた映画『SHAME –シェイム -』も高い評価を得ています。

「Twenty Years a Slave」を見つけたのはマックウィーン監督の妻

マックウィーン監督は奴隷制について、特に自由人として生まれながらも奴隷にされた黒人についての脚本を書こうとしていながら、なかなかペンか進まずにいたと言います。そんなある時、彼の妻がソロモン・ノーサップの自伝を見つけることに。

彼は今までノーサップの名前すら聞いたことがないことにショックを受け、その本を映画化することに決めたのでした。

ハリウッドスターのブラッド・ピットが制作!

当初はパラマウント・ピクチャーズでの製作でしたが、黒人の奴隷映画では興行収入が見込めないと断られたそう。それでもブラッド・ピットは制作にこぎつけていたのです。 

自身がノーサップを助けるカナダ人大工バス役で出演しているのは、彼がその役を要求したわけではなく、彼が映画に出演していた方が資金集めにいいと思ったからでした。

奴隷制度とは

1619年から始まった奴隷制度はアメリカの黒歴史と言われています。

南部においては主要作物となった綿花栽培の拡大に伴い、必要となった労働力を支えたのが奴隷制度で、「労働力」のために人間が奴隷として売られていたのです。劇中で主人公ソロモンが働いていたのも綿花畑でした。

奴隷制度の終焉は歴史的にはリンカーン大統領の「奴隷解放宣言」が有名ですが、実は連合国の諸州はリンカーンの権威を認めず、最初に解放された者は北部の少数の奴隷だけだったそうです。

残る南部の州の奴隷達が実際に解放されたのは 1865年春のアメリカ連合国軍の降伏の後であったと言われています。

自由黒人とは

奴隷制度のある中で白人同様の人権を与えられていた自由黒人。所有者から自由になることを許された人、所有者が亡くなるなどして法律により自由を求められた人、というように、元々は奴隷であったものの所有者から解放された黒人達を言います。こうした自由黒人には「自由黒人証明証」が発行されていました。

1808年に海外からの黒人輸入が禁止されたため、奴隷市場の価格が高騰し、ノーサップのように自由黒人を誘拐して奴隷として売るという犯罪が増加したのだそうです。

ソロモン・ノーサップは生まれながらの自由黒人

ノーサップは生まれながらの自由黒人で、冒頭のシーンでは白人同様に高級なスーツに身をまとい、立派な家に住んでいました。彼の父は元黒人奴隷でしたが所有者によって自由黒人となり、その後もともと自由黒人であったノーサップの母と結婚しました。そのためノーサップも生まれながらの自由黒人だったのです。

彼がカナダ人大工のバスによって自由黒人として認められ自由になった際手を尽くし、その後彼の手記の出版にも協力した弁護士のヘンリー・ノーサップは、ソロモン・ノーサップの父の元所有者の親族だったと言われています。

ちなみに当時奴隷が自由黒人となった際、所有者の苗字をつけることが習慣だったため、ノーサップの父も所有者の名前を引き継きました。そのため彼の所有者の親族、ヘンリー・ノーサップと同じ苗字なのです。

『それでも夜は明ける』と今までの他の奴隷制を扱った作品との違いとは?

奴隷の物語は今までも数多く出版、映画化されてきましたが、自由黒人から奴隷の身となったという経験を記したのはソロモン一人。それを映画化した『それでも夜は明ける』は奴隷制を描くだけではありません。

自由を持って幸せに生きていた人間が、ある時突然自由を奪われ奴隷として扱われる、という同じ自由な身を持つ人間の体験として人々に大きな反響を呼びました。

『それでも夜は明ける』の底にあるのは

己の弱さを残虐さに転じて奴隷たちを虐待する農場主エセップ。人間としての良心、道徳心を持ちながらも矛盾した心を抱え葛藤する農場主フォード。全てを失い底なしの絶望に陥いりながらも、家族の元にもどるという希望を捨てずに人間としての尊厳を保ち続けたノーサップ。

『それでも夜は明ける』は登場人物を通して現代社会にも通ずる人間としての本質、心の底にある様々な面を描き出しているのです。

『それでも夜は明ける』

自由になったノーサップは自分を誘拐した白人達を控訴しますが失敗。手記を出版し、”地下鉄道”などの奴隷解放に尽くしたと言います。しかし、その後は殺されたとか、再度誘拐されたとか、娘のところに身を寄せた等言われていますが、晩年については謎ばかりです。

人間が人間を売り買いし、人間を家畜同様もしくはそれ以下の扱いをする、そんな人として信じられないような行為が当然のように行われ認められていた時代。その時代に突然襲った悲劇を生き抜いたのがノーサップでした。

どんな絶望的な苦難があっても、人間としての尊厳を忘れず希望を持ち生き抜くこと。そうすればいつかは暗闇から抜け出せるということを考えさせてくれる『それでも夜は明ける』は深く気骨ある傑作です!