2017年7月6日更新

偽りの美少年作家J.T.リロイって何者!?

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『作家、本当のJ・T・リロイ』
© 2016 A&E Television Networks and RatPac Documentary Films, LLC. All Rights Reserved.

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J.T.リロイという作家を知っていますか?

2000年に処女作『サラ、神に背いた少年』を発表したJ.T.リロイ(ジェレミー・“ターミネーター”・リロイ)は、当時18歳の少年でした。「ターミネーター」というペンネームで雑誌に投稿していたといいます。 その生い立ちは過酷なもので、1980年にウェスト・ヴァージニア州で生まれ、5歳の時に誘拐され、虐待を受けて育ち、11歳には女装の男娼として売春を始めました。14歳でドラッグを使用し、16歳には精神を病んで入院しています。 『サラ、神に背いた少年』は、謎の少年作家の自伝的小説として人気を集め、アメリカの文壇や世間にその過激な内容で衝撃を与えました。 シャイだった彼は公式な場所に出る時はいつも金髪のカツラとサングラスを付けていたため、さらにそのミステリアスな雰囲気に魅力を感じるファンも増えていったようです。 彼の存在に多くの著名人が注目し、交流を持つようにもなりました。 マドンナ、ガス・ヴァン・サント、アーシア・アルジェント、ウィノナ・ライダー、コートニー・ラヴ、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガン、U2のボノ、マリリン・マンソンなどのセレブリティたちが作品を絶賛し、リロイの精神的なサポートを申し出ました。

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作家デニス・クーパーに見出された処女作『サラ、神に背いた少年』

処女作は、同姓愛をテーマに作品を書いている人気作家デニス・クーパーの目に留まり評価され、出版が決まりました。リロイは当時ドラッグ中毒のホームレスでHIV感染者だと発表されていたこともあり、この悲劇の少年の実体験に基づく自伝的小説は大ヒットしました。 小説の内容は、ウェスト・ヴァージニアで娼婦として暮らしているサラとその息子の過酷な生活を描いたもので、母親に虐待され育児放棄されながらもサラを母親として慕う少年が、母が住む売春の世界に女装の男娼として足を踏み入れる様子を語っています。

2作目『サラ、いつわりの祈り』が映画化!時代の寵児に

2作目は10編からなる短編集で、1作目の続編として2001年に発表されました。内容はジェレマイアの幼少期を語ったもので、実の母親によって里親の両親から4歳の時に連れ戻され、ジェレマイアにしがみつきながらも育児は放棄する母親に虐待され、生活のために売春を強要させられるという悲劇が綴られています。

映画『サラ、いつわりの祈り』

『サラ、いつわりの祈り』は2004年にアーシア・アルジェント監督・脚本・主演によって映画化されました。麻薬中毒の娼婦である母親サラに利用され、母の恋人たちにも虐待を受けていた少年ジェレマイアの路上生活を描いています。 この映画化は話題となり、J.T.リロイは一躍時代の寵児となりました。映画の宣伝のため、来日も果たしています。

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小説『かたつむりハロルド』

3作目の『かたつむりハロルド』は2005年に発表された中編小説です。 この作品はヘロイン中毒の若者と彼を友達として援助する老人ラリーの物語で、ラリーから受け取った変わったペット・かたつむりのハロルドと少年の関わり合いを描いています。 その後、この3作目は全く違った意味で注目されることになります。 この作品が出版された翌年、J.T.リロイという作家は実在しないという事実が突きつけられたからです。『かたつむりハロルド』は実質、J.T.リロイ名義最後の作品となりました。

J.T.リロイのエージェント、アイラ・シルバーバーグが語った暴露記事

2006年1月、ニューヨーク・タイムズにJ.T.リロイという人物は実在しないという暴露記事が発表されました。その前年、彼に疑惑を抱いていたニューヨーク・マガジンの記者が執筆した「誰が本当のJ.T.リロイなのか?」という記事によって、すでにその存在を疑問視されていましたが、ニューヨーク・タイムズの記事によって確証付けられたのです。 この記事で明らかにされたのは、公式の場に現れていたリロイは実は女性で、彼のサポートを行ってきた人物の恋人の妹が変装していたというものでした。その人物とはスピーディーという女性、恋人はアスター、そしてその妹のサヴァンナ・クヌープという女性がこの謎の美少年作家を演じていたのです。 エージェントであるアイラ・シルバーバーグは、サヴァンナ・クヌープの写真を見て「これがJ.T.リロイだ」と確認し、ニューヨーク・タイムズの記事でこう語っています。 「エイズという病で多くのすばらしい作家やアーテイストたちが失われてきたこの世界で、エイズで死にゆく人物として公の場で振る舞ったこと、人々の同情と共感を利用したこと、それがこの事件の最も不幸な部分だと思っている。 多くの人々がただ創造的で冒険心あふれる作品を称賛するだけでなく、J.T.リロイという人物そのものを援助していると信じ切っていたからだ。」

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J.T.リロイの正体とは?カギを握るジェフリー・クヌープという人物

では、本当のJ.T.リロイ、つまり小説を執筆していたのは一体誰だったのでしょうか?その答えは前述したスピーディーとアスターが知っていました。 スピーディーとは作家ローラ・アルバートの別名で、アスターとはローラの恋人ジェフリー・クヌープに与えられた「スピーディーの恋人」という役柄でした。 つまり、サヴァンナ同様、ローラとジェフリーも別の架空の人物を演じていたのです。ローラが同性愛をテーマにした小説を出版社に売り込もうとしていた時に、「J.T.リロイ」という架空の少年作家を創り出すことを思いついたのはジェフリーでした。 予想以上にこの計画は順調に進み、処女作を出版することができたのですが、その打ち合わせの場に本人の出席が必要となったころから、彼らの思惑以上の事態が起こってきてしまいます。 ジェフリーはニューヨーク・タイムズの続報の電話インタビューで、ローラに言われて編集者や作家、セレブリティたちとの電話でウェスト・ヴァージニア訛りを使って会話していたと話し、ローラがリロイの名で書いていたことを明かしました。こうして世間を欺いてきたツケを払うことになったローラ・アルバート。彼女は一体どういう人物なのでしょうか。

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作家、本当のローラ・アルバート

ローラ・アルバートは1965年ニューヨーク・ブルックリン生まれの作家で、男性同士の同性愛をテーマとした小説を書いていました。作家としてのローラ・アルバートがJ.T.リロイの名のもとに行ってきたことを、ここにまとめてみたいと思います。 ジェフリーと共謀して作り上げた「J.T.リロイ」として、執筆した『サラ、神に背いた少年』を作家デニス・クーパーに売り込み、出版にこぎ着けました。出版の打ち合わせには代役の少年を雇って出席させ、ローラ自身も彼の保護者として同行しました。作品のヒットに伴い取材の要望が増え、ついにローラはサヴァンナを影武者として仕立て上げ、ローラも常に同行して取材にも応じました。 そして『サラ、いつわりの祈り』を次に執筆し、映画化されたことで莫大な収入を得ます。J.T.リロイ名義の収入は、ローラの母親が社長を務める会社に支払われていたようです。 2003年にはガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』の脚本制作に参加し、ビリー・コーガンやリズ・フェアー、ブライアン・アダムス、コートニー・ラヴなどのミュージシャンのライナーノーツやバイオグラフィーも書いています。 また数多くの雑誌のインタビューに応えてもいました。 そして暴露後のローラ・アルバートがどうなったかというと、2007年にJ.T.リロイの名で『サラ、神に背いた少年』の映画化契約を交わした映画会社から訴えられました。陪審員裁判の結果、映画会社へ116,500ドルの賠償金の支払いを命じられています。

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ドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』でローラ・アルバートが語ったこと

『作家、本当のJ・T・リロイ』
©︎ Amazon Studios/Magnolia Pictures/Photofest/zetaimage

それでもローラは、2017年4月8日に日本公開もするドキュメンタリー映画『作家、本当のJ.T.リロイ』で、自分の中に何人もの人格が存在し、作家としての自分の別人格のエゴである分身=J.T.リロイが作品を生んだと主張し「ゲイの美少年に憧れていた」ことを明かしています。 この映画では、いかにしてローラ・アルバートがこの世に「実在」するように画策してきたかを彼女自身の言葉で語り、彼に関わった人々の証言やセレブリティたちとの実際の通話音声などによって真相を暴き解剖しています。 実はこの映画も、ローラのパートナーだったジェフリー・クヌープがこの事件を扱った映画化企画を進めたものでした。 さらに、なんとサヴァンナ・クヌープが告白した暴露本『Girl Boy Girl: How I Became JT Leroy(原題)』を基にした新たな映画企画もあるようで、クリスティン・スチュワートがJ.T.リロイ=サヴァンナ・クヌープを、ヘレナ・ボナム・カーターがローラ・アルバートを、ジェームズ・フランコがジェフリー・クヌープを演じると報じられています。 たとえリロイ像が偽りだったとしても、多くの人々を騙しつつも魅了した作品を執筆したローラ・アルバートの作家としての力量は本物だったようですね。現在でもローラは実名で執筆活動を続けているようです。

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ローラ・アルバート自身が語ったJ・T・リロイの真相!

映画『作家、本当のJ.T.リロイ』のプロモーションで来日したローラ・アルバートが映画館のトークイベントに登場。架空の美少年作家リロイの真相に迫るコメントを残しています。 彼女によると、幼い頃に虐待を受けていた経験から、一時は自分を恥じ、他人からは自分が見えていないのではないかと感じることもあったとか。しかし、段々と承認欲求が膨れ上がり、自由に表現する場所を求めるようになったと言います。そして、生みだされたのがアルバートのもう一つの人格とも言えるリロイだったのです。