『ヘルタースケルター』に沢尻エリカが出演するのは必然だった【ネタバレありで映画深堀り】
全身整形モデルの破滅を描いた映画『ヘルタースケルター』
岡崎京子の同名漫画を実写化し2012年に公開された映画『ヘルタースケルター』。ほぼ全身を整形したスーパーモデルりりこを演じるため、沢尻エリカが数年ぶりに映画復帰を果たした本作は様々な意味で話題になりました。 この記事では『ヘルタースケルター』の見どころ紹介や解説をすると同時に、沢尻エリカと彼女が演じた主人公りりこの関係性について探ってみようと思います。
主演の沢尻エリカをはじめとした豪華キャスト陣
『ヘルタースケルター』の主人公であるりりこを演じるのは女優の沢尻エリカ。沢尻エリカは2007年の『クローズド・ノート』の舞台挨拶での「別に」事件以来映画に出演しておらず、『ヘルタースケルター』にて5年ぶりに映画への復帰となりました。 また沢尻以外にも、りりこのライバルとなる若手モデルこずえ役に水原希子、りりこの彼氏の南部貴男役に窪塚洋介、他にも綾野剛に大森南朋……と脇を固めるキャスト陣もベテラン揃いで実に豪華です。 モデルであるりりことこずえを演じる沢尻と水原は、両人共に実際にモデル活動も行っている女優のため役柄にピッタリのキャスティングです。
『ヘルタースケルター』の気になる監督と原作は?
監督は蜷川実花
『ヘルタースケルター』の監督を務めたのは写真家でもある蜷川実花。蜷川の作品はカラフルで花や女性がモチーフとされることが多く、『ヘルタースケルター』も蜷川実花の作風が強く出た映画と言えるでしょう。
原作者は岡崎京子
『ヘルタースケルター』の原作は岡崎京子が執筆した同名の漫画作品で、原作漫画は第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞しています。 しかし岡崎京子は本作を描き終えた後交通事故に遭い重傷を負い、事故後は後遺症が残ったため執筆活動は2017年現在まで休止しています。
細部までこだわられた美術
映画『ヘルタースケルター』の見どころのひとつとなってるのが、細部までこだわって作られた小道具、大道具などの美術セットです。 赤を基調にした部屋に大量の化粧品やファッション雑誌、酒、アクセサリが散らかっているりりこの部屋は、まるでりりこの心象風景をそのまま具現化させたよう。 また劇中にはりりこやこずえが表紙のファッション雑誌が出てきますが、これも映画のために本物の雑誌のロゴを借り、写真は監督自ら撮り下ろしたというこだわりぶり。 さらには映画内で撮影している広告の中には、タイアップ企画で現実に広告として使われたものもあります。
【以下ネタバレ注意】蝶が意味するもの
りりこが見るようになる蝶の幻覚や、りりこの足に掘られた蝶のタトゥーなど、本作には繰り返し蝶が現れます。では、この作品において蝶はどのような意味を持っているのでしょうか? 第14回台北国際映画祭の舞台あいさつでのインタビュー時に蜷川監督は、さなぎが変身して美しい蝶になることや美しい命がすぐに尽きてしまう儚さの象徴として蝶を選んだと答えています。 ぶよぶよと太った芋虫がさなぎになり美しい蝶に変身を遂げるたことと、りりこが整形で誰もが羨む美貌を手に入れたことが重ねられているのですね。
沢尻エリカキャスティングの理由
同じく第14回国際映画祭でのインタビューで蜷川監督は、主演に沢尻エリカを選んだ理由も答えています。 沢尻エリカがキャスティングされた理由のひとつは、何度も整形してまで美しくなった女性だからこそ圧倒的に綺麗で人気のある顔でなければならないから。 そしてもう一つの理由が、濡れ場などで露出が多くなおかつ演技力が必要とされる役を演じられる気合いの入った女優が沢尻しかいなかったため。 「別に」事件から5年間も女優活動を休止していた沢尻エリカが『ヘルタースケルター』で女優として復帰を果たしたのは、りりこ役が彼女にしか演じられないハマり役だったからなのでしょう。
沢尻エリカPR活動欠席のワケ
蜷川実花監督に「りりこを演じられるのは彼女しかいない」と言わしめ、出来がった映画でも監督の期待通りの名演技を見せた沢尻エリカでしたが、彼女は映画完成後のPR活動には「体調不良」を理由に参加しませんでした。 この「体調不良」の理由は詳しくは明らかにされないまま映画は公開を迎えました。沢尻エリカは破滅に向かって突き進んでいくりりこの役に入り込みすぎて、現実でも気を病んでしまったと言われています。
【あらすじネタバレ】ラストシーンの衝撃、美しさとは?
海外に撮影に来たこずえらが、現地の見世物小屋で変わり果てた姿のりりこに遭遇するシーンでこの映画は幕を下ろします。映画開始直後から破滅への道をひた走ってきたりりこが最終的には、見世物小屋という場所ではあるものの落ち着きを取り戻す展開は視聴者の予想を裏切る、まさしく衝撃的なラストだたっと言うほかありません。 あのラストを読み解くのに重要なのは、ラストシーン手前のスクランブル交差点の場面で麻田が言った「若さは美しさだが、美しさは若さではない」という台詞でしょう。 整形後時間が経つと身体が崩れてくるりりこは、時間が経てば朽ちてしまう美しさ「若さ」の象徴のような存在でした。そしてりりこはやがて整形による美しさを維持できなくなり、「若さ」を失います。 しかし、りりこは「若さ」を失った代わりに若さによるものではない別種の美しさを手に入れたのではないでしょうか。片目を失い痣だらけになっても、ラストシーンのりりこは自分の美しさを誇っているようなモデルの表情です。 整形によって絶世の美女へと変身したりりこは、自らの目を刺したことをきっかけにこれまでとは別種のより複雑な美しさを持つ存在へと再び変身した。あのラストはこのように考えれば筋が通るのではないでしょうか。
重なり合う『ヘルタースケルター』のりりこと沢尻エリカ
沢尻エリカは2017年現在31才。彼女もまた「若い女優」から「ベテラン女優」へと美しさの転換の最中だと言っていいのかもしれません。 そう考えればますますイメージが重なり合ってくるりりこと沢尻エリカ。まだ観ていない方はもちろん、既に鑑賞済みの方も役柄と役者の関係を頭に入れた状態で『ヘルタースケルター』を見てみてください。きっと新しい発見があるはずです。