2018年6月18日更新

『四畳半神話大系』から脱出不可能!?かつてない異次元アニメの魅力の秘密

京都を舞台にしたファンタジー『四畳半神話大系』は、主人公をはじめ普通じゃないキャラクターたちの普通じゃない青春物語。イリュージョンのような不思議な魅力は、一度ハマったら脱出不能かも!?

『四畳半神話大系』ノイタミナ随一の変なアニメは、一度ハマれば脱出不可能

2010年にノイタミナ枠で放送された『四畳半神話大系』は、主人公「私」がパラレルワールドに迷い込む物語です。人生の選択を深く後悔した京都大学生が、薔薇色のキャンパスライフを夢見て平行世界を放浪します。 主人公を取り巻くキャラクターたちも、揃って変人揃い。シュールなセリフまわしや作画など、独特の個性を放つ作品ぞろいのノイタミナ枠の中でもひときわ異質。なのに、一度ハマれば脱出不可能と噂される『四畳半神話大系』の魅力の秘密を探ってみました。

この異次元なあらすじと早口について来られるか?

物語は大雑把に分けて3つのパートで構成されています。第1話から第4話まで「私」がさまよう並行世界の分岐点に当たるのが、大学入学時に選ぶサークル活動です。その目的はシンプルに、黒髪の乙女と過ごす薔薇色のキャンパスライフ。しかし自意識過剰で中二病感染疑惑のある主人公は、どのサークルでも浮いた存在となり孤立してしまいます。 第6話から第8話はさらに濃密な周期に変化。3人の「女性」の誰を選ぶか、人生の恋愛すごろくを巡ってパラレルワールドを渡り歩きます。この時の分岐点となる場所はトイレ。折々には絶叫したり脱力したりする「ジョニー」(詳細は本編参照)が。実に哀れです。 そして第9話から第10話。ついに「四畳半神話大系」の本当の姿が発覚します。見ていて息苦しくなるような鬱エピソードですが、ここにこの物語のすべてのテーマが凝縮されています。そのやるせない焦燥感を抱えたまま第11話へなだれこんでこそはじめて、圧倒的な爽快感を味わうことができるのです。

主人公役の声優オーディションでは「早口」をテスト

主人公「私」の正式名称は最後まで不明なまま、彼のモノローグを中心にストーリーが展開していきます。その独白は饒舌ですが中身はほぼ「つぶやき」。不平不満不安という三重苦をプライドというオブラートで包み込んだ彼のツイートは、まさにモラトリアムの権化のようです。 「私」を演じているのは、声優だけでなく脚本、演出、コピーライティングまでこなすマルチタレント・淺沼晋太郎。配役オーディションの時にはとにかく早口を求められて、不思議に思ったそうです。「早口必須」の理由は、ぜひ本編で確かめてください。

観光客にも人気のスポットがことごとく異次元に変わる時

『四畳半神話大系』の主人公が通っているのは、名門・京都大学。入学には最低でも偏差値60台でなければ入れない、と言われる難関校です。ほかにも、作品中には様々な京都の名所や旧跡が登場、主人公や小津が活躍する舞台として異次元化しているところも、また見所のひとつと言えるでしょう。 たとえば下宿の怪人「樋口先輩」が神として住んでいるのが下鴨神社。明石さんが店番をしていた古本市の会場です。その参道の先にある森は、第11話で大量の蛾が幻想的に舞い狂ったところ。至近には、第1話で私と小津が恋人たちに花火を打ち込んだ鴨川デルタがあります。 そしてその鴨川デルタの対岸にあるのが、あの「無類」という表現で激しく食欲と好奇心をそそる屋台「猫ラーメン」!のモデルになったと言われている「ハラちゃんラーメン」なのでした。Googleマップで検索すると出てきます。それだけでなんだかもう一度アニメが観たくなるから不思議です。

人知を超えた憎むべき親友、小津の素顔は妖怪か?それとも普通の人か

『四畳半神話大系』に登場する最強キャラといえば、ほとんどの平行世界で私と常にドス黒く密な関係を築くことになる「小津」でしょう。本作の重要なキーマンとして進化も変化もほとんどしない主人公のリプレイを、とことん不毛に導いています。 また、「私」との掛け合い漫才では食わせもの的雰囲気を漂わせている小津。声を担当する吉野裕行は本作を「一癖も二癖もあるメンバーで作っている」と評していますが、まさにその象徴的存在を演じているのが彼自身です。「全力であなたを不幸にします」という名台詞には、ギャグも偽りもありません。 ただし外見も含めて妖怪じみた小津は主人公の「私」の偏見にまみれた姿です。本当の小津はちょっとキツめの顔立ちながら普通に好青年。性格もそれほど悪魔じみてはおらず、愛する人には極めて朴訥で純粋な一面を見せます。でもどっちが魅力的かと問われば、やはり「妖怪」なんですけれど。

私が逃した「恋」のネタバレ。羽貫さんと香織さんへのラブコール

主人公とその相棒「ジョニー」の恋愛ロールプレイングドラマへと昇華する第6話〜第9話は切迫感あふれる展開。多少なりとも恋愛経験がある男子なら、その切実な迷走ぶりに共感できるでしょう。なにしろ三者三様の魅力を持つ美女の中からたったひとりを選ばなければならないのです。 姉御肌ながら色っぽいモチ肌が魅力でしかもエロ酔いする羽貫涼子さんに迫られつつ、ふとしたきっかけで同棲することになった高級ラブドールの香織さんとも別れがたく、妄想の中では理想的な存在として成長しつつある2年越しの文通仲間、樋口景子さんとのご対面にも色気あり。 時間を巻き戻しながらころころと選択肢を変える主人公は無様。とはいえ、結局は羽貫さんも香織さんも、そして主人公自身も落ち着くべきところに落ち着くのですから、この右往左往の物語もまた物語が大団円を迎えるために不可欠な儀式だと言えるかもしれません。

凛々しいのにしっかり乙女、明石さん役は坂本真綾しかいない!?

並み居る女性キャラの中で、「私」の最初の大学生活から大きな存在感を見せているのが明石さんです。たたずまいは小柄で幼い雰囲気、ですが語り口調は理知的で常に冷静沈着。妙にナンパな質問をすると「なぜそんなことあなたに言わなきゃいけないの」と突き放されます。 そんな彼女を初登場の瞬間から魅力的に見せてくれるのが、第1話の焼肉屋での食べっぷり。最高に素敵です。主人公に対する的確かつ思いやり溢れる対応もまた、さっぱりすっきり凛々しいものでした。さらに、猫ラーメンをねだる姿がまた愛らしく。 どちらかといえばあまり女の子女の子していない雰囲気の明石さんが、ふとした瞬間に女性らしさを感じさせるのが、なくしてしまったもちぐまんのマスコットに想いを巡らせる時です。少し寂しそうな柔らかな微笑みには、妙なエロスすら感じさせます。「私」が一目惚れするのも当然かもしれません。 声を演じているのはベテラン声優の坂本真綾。「物語」シリーズの忍野忍や『攻殻機動隊ARISE』の草薙素子など、かなり毛色の違う役柄を、見事に演じてきました。共通点といえば、みんな強い女性というところでしょうか?

実は『四畳半神話大系』の製作陣がもっとも異次元だった、というオチ

もともとノイタミナは、作品のテイストや演出・表現方法など、挑戦的で型にハマらない作品を数多く送り出し、「ブランド」としてクオリティ、人気ともに定評のある放送枠に成長しました。「Animation」を逆さ読みしていること自体「アニメの常識を覆す」というメッセージにほかなりません。 『四畳半神話大系』の場合は、その作品性もさることながら作り手の存在感自体がすでに異次元だったと言えるかもしれません。クセのある文体で知られる森見登美彦の原作を、独特の世界観にこだわる湯浅政明監督が手がけるところからすでに期待感が違います。 しかも脚本を手がけるのはコメディ中心で舞台活動を続ける、京都の劇団「ヨーロッパ企画」の主宰者であり脚本家の上田誠。どこかノスタルジックでカラフルな画風が人気の中村佑介がキャラクター設定を担当するなど、新たなポップカルチャーとしてもエポックメイキングと言えるかも。まさに一見の価値あり!なアニメなのです。