2017年12月28日更新

森田芳光監督おすすめ作品15選【コメディから文芸作品まで】

このページにはプロモーションが含まれています
森田芳光

AD

多彩な才能の持主、森田芳光監督おすすめ映画

2011年12月20日に61歳で逝去した森田芳光監督は、コメディから文芸作品、アイドル映画からホラー映画まで撮ることのできる、多彩な才能の持主として評価が高いです。 とはいえ、その神髄は商業映画デビュー作である、『の・ようなもの』(1981)に集約されているのかもしれません。つまり、オフビートな笑いに満ちた軽妙な会話のやり取りが森田監督の得意とするところなのです。 落語研究会に所属し、鉄道マニアであり、競馬ファンであるというバックグラウンドから生まれるアイディアもあったことでしょう。その森田芳光の豊かなフィルモグラフィを追っていきます。

1.商業映画デビュー作は落語家の青春群像

森田芳光の劇場用映画デビュー作。配給は日本ヘラルド映画とはいえ、森田監督の実家を抵当に入れ、製作費に充てたそうですから、自主制作に近いです。 素人同然の伊藤克信を主役に配して、若手落語家たちの青春群像を描きました。当時活躍していた実際の落語家たちも多数出演しており、秋吉久美子がソープ嬢を演じています。兄弟弟子の1人として、でんでんが出演していますが、これがデビュー作のようです。 失意の志ん魚(伊藤克信)が、ビール工場、仁丹塔、国際劇場など今はない建物を通り過ぎながら浅草までとぼとぼと歩く「道中づけ」は見どころ。

AD

2.出世作となった異色ホームドラマ

本間洋平の小説の実写化で、森田芳光の出世作です。受験勉強に悩む中学生の少年とその家族、友人たち、家庭教師などの人間模様を描いています。 主人公、茂之を演じるのは若き宮川一朗太で、大学を7年も留年している家庭教師は松田優作です。一風変わった父に伊丹十三、優しい母に由紀さおりが配役されています。 クライマックスは横長のテーブルに家族と家庭教師が並んで食事をする、異様なシーンです。対面して座るはずの食卓が、まるでキリストの最後の晩餐のような構図になっていることが話題を呼びました。 森田監督はこの作品でブルーリボン賞を獲得しています。

3.大ヒットしたアイドル映画はロードムービー

薬師丸ひろ子と野村宏伸が主演の、王道の角川アイドル映画。無論、主題歌は薬師丸が歌っていて、作曲は南佳孝、作詞は松本隆という『スローなブギにしてくれ』の黄金コンビです。 片岡義男原作というクレジットになっていますが、実際に本作の物語と合致する小説はありません。とはいえ、千葉から浜松、大阪、沖縄へとロードムービーになっています。 この映画のためにオーディションで選ばれた野村宏伸と薬師丸ひろ子の二人旅ですが、道中様々な人に出会うのです。特筆すべきは、桃井かおり演じるジャズ歌手で、桃井がスタンダード・ナンバーを披露しています。

AD

4.沢田研二を寡黙なテロリストに配した異色作

原作は丸山健二の同名小説。当時歌手として大人気だった沢田研二が、寡黙なテロリストに扮します。 「歌舞伎町の医者」と自称する大倉(杉浦直樹)は、謎の組織からの依頼で、北海道で工藤(沢田研二)の身の回りの世話を依頼されるのです。ほとんど会話もせずに、毎日トレーニングに明け暮れる工藤。 組織は梢(樋口可南子)を派遣してきて、工藤にあてがいますが、工藤は全く興味を示しません。そして、男二人と女一人の奇妙な共同生活が始まります。ところが、組織が工藤のターゲットとして指定してきたのは、新興宗教の会長だったのです。 「こういう死に方だけはしたくない」というほどの、壮絶な沢田研二の死に様に注目。

5.文豪の傑作を耽美的に実写化

原作は文豪、夏目漱石。主演は松田優作で、好きな女(藤谷美和子)を親友(小林薫)と結婚させてしまった男の苦悩を演じます。 鈴木清順監督の「浪漫三部作」——『ツィゴイネルワイゼン』(1980)、『陽炎座』(1981)、『夢二』(1991)のような、スタイリッシュな映像美が特徴的です。 実際、松田優作は『家族ゲーム』の前に『陽炎座』に出演しており、脱アクション俳優を試行錯誤していた時期だと思われます。森田芳光にとっても転機の作品だったのかもしれません。 音楽はイギリスのバンド、ジャパンのメンバーが担当するはずだったそうです。森田芳光はこの映画で、日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞しています。

AD

6.とんねるずを主演に据えたハイテンション・コメディ

当時10代に絶大な人気があったお笑いコンビ、とんねるずを、主演に据えたコメディーです。森田芳光は演出の都合上、とんねるずの2人にアドリブを禁じたと言われています。 とはいえ、当時20歳代のとんねるずはいつものノリ。共演の小林薫も2人の影響を受けてか、ハイテンションの怪演を見せているのです。 春日野と時津風(とんねるず)とのり子(安田成美)は、広告代理店「ト社」の営業マン。ところがライバル会社「ラ社」、桜宮(小林薫)の嫌がらせで3人は窮地に立たされて……。 木梨憲武と安田成美は、この映画が縁で結婚します。

7.無名の川原亜矢子を主演に据えた文芸作品

原作は吉本ばななのベストセラーとなった短編小説です。ほとんど無名だった川原亜矢子が、この映画で女優デビューし、日本アカデミー賞およびブルーリボン賞の新人賞を総なめにしました。 肉親を亡くし天涯孤独となったみかげ(川原亜矢子)は、冷蔵庫の横で寝るほど台所が大好きです。そんな孤独なみかげの前に、田辺雄一(松田ケイジ)という青年が現れ、雄一の「母」(橋爪功)に引き合わされます。 そして、3人の奇妙な同居生活が始まるのです。本作の後、川原亜矢子は、女優の道には進まずに、パリへ行きトップモデルとなります。

8.パソコンを介した恋愛を描いた先見的な映画

インターネットが普及する前に、「パソコン通信」と呼ばれるデータ通信をテーマにした作品。森田芳光がパソコンを購入し、着想を得て書いたオリジナル脚本です。 速見昇(内野聖陽)は、好きなアメフトもできず、仕事も上手くいかない鬱屈から(ハル)というハンドルネームでパソコン通信を始めます。フォーラムで(ほし)というハンドルネームの男性と意気投合し、メールのやり取りを始めるのです。 速見は東北に出張することになったので、(ほし)に実際に会おうと提案します。ところが、(ほし)は実は盛岡在住の藤間美津江(深津絵里)という女性だったのです。 パソコン通信という、主に文字によるデーターのやり取りを使った異色の恋愛映画。

AD

9.大ベストセラー作を官能的に実写化

渡辺淳一の大ベストセラー小説を実写化した作品。主演は役所広司と黒木瞳です。黒木瞳は渡辺淳一作品と縁があるようで、映画主演デビュー作も渡辺淳一原作の『化粧』(1986)でした。 仕事も家庭も上手くいかない中年男、久木(役所広司)は、書道講師の倫子(黒木瞳)と不倫の関係になります。禁断の恋と知りつつも2人の想いは燃え上がり、やがて壮絶な結末を迎えるのです。 ストーリーの性質上、セックス・シーンが多いことで物議を醸した本作ですが、興行収入的には成功しました。それまで、マニアックな企画が多かった森田芳光ですが、本作で万人受けする官能的な作品も撮れることが証明されたわけです。

10.実際に起きた事件との間に揺れ動くホラー映画

貴志祐介の小説をもとにしており、原作小説は保険金殺人が主要なテーマなのですが、森田芳光の映画ではホラー色が濃厚になっています。特に終盤、主人公(内野聖陽)が犯人の家に赴くシーンは、ほとんどスプラッター映画さながらです。 また、原作のプロットが「和歌山毒物カレー事件」という実在の事件に酷似していることも取り沙汰されましたが、森田映画ではそれをさらに増幅しています。菰田重徳役の西村雅彦を、「和歌山毒物カレー事件」の主犯格の夫とそっくりのメイクを施し、話し方まで似せているのです。 菰田幸子を演じる大竹しのぶのトリハダが立つほどの恐ろしい演技に注目してください。

AD

11.完全犯罪を目論む青年にトップアイドルを起用

原作は宮部みゆきの長編小説。原作は殺人事件の被害者と加害者家族が向き合わざるを得ない地獄を、リアルに描いています。 東京の下町に住む、有馬義男(山崎努)には、二十歳になる孫娘、古川鞠子(伊東美咲)がいました。その鞠子が失踪してしまいますが、何の手懸かりもなく時だけがすぎていきます。 公園のゴミ箱から、女性の右腕とバッグが発見され、テレビ局に「バッグの持主は古川鞠子だ」という電話が犯人から入るのです。果たして、犯人は誰なのか? 中居正広が、完全犯罪を目論む青年、通称ピースを演じています。ピースはマスコミの寵児となりますが、その壮絶な最期に注目です。

12.向田邦子の傑作を当時のトップ女優でリメイク

向田邦子による脚本のテレビドラマをもとにした、映画版リメイクです。日常生活の中で時々顔を見せる「阿修羅」を敢えて描いたホームドラマ。 中心人物は四姉妹です。長女(大竹しのぶ)は生花の師匠、次女(黒木瞳)は平凡な主婦、三女(深津絵里)は図書館の司書、四女(深田恭子)はボ無名のボクサーと同棲しています。 そんな中、父(仲代達矢)に愛人がいるという事実が発覚し……。父のみならず、四姉妹にも秘密や隠し事があることが、徐々に判明していきます。 四姉妹の母役の八千草薫はドラマ版で次女を、ナレーターの加藤治子は長女を担当していました。

AD

13.もてない兄弟をオフビートな笑いで軽妙に描写

原作は江國香織の小説。30歳を過ぎても同居している仲の良い兄弟の、恋愛模様が描かれます。 ビール会社に勤める兄に佐々木蔵之介、小学校の先生である弟にお笑いコンビ、ドランクドラゴンの塚地武雅という異色キャストです。 全く女っ気がなく、オタクともいえる2人ですが、沢尻エリカと常盤貴子という女性の登場により、彼女を作ろうと奮闘します。森田芳光作品らしい、オフビートな笑いを誘う、会話劇が特徴です。 また、塚地武雅に加え、兄弟の母役に歌手の中島みゆきという、非俳優の起用も森田芳光らしいと言えます。

14.刀ではなく算盤で戦った幕末の武士が主人公

歴史学者の著書『武士の家計簿 『加賀藩御算用者』の幕末維新』を原作としています。加賀藩の下級藩士、猪山直之(堺雅人)は御算用者(会計処理の専門家)として、藩の財政を、引いては猪山家の家計を立て直すというあらすじです。 父母(中村雅俊、松坂慶子)の反発、妻(仲間由紀恵)の内助の功などの、人間ドラマも盛り込まれています。また、「家計簿」を通して、武士の生活の実情があぶり出されるのです。 時代は幕末の激動期。日本はやがて明治維新に向けて大きく変わろうとしています。その波を懸命に乗り切ろうとする直之と、その息子、成之(伊藤祐輝)の奮闘に注目。

AD

15.森田芳光監督の趣味が反映された遺作

森田芳光の遺作は自身のオリジナル脚本。「鉄道オタク」の趣味を反映した、鉄道愛好者を主人公としたコメディーです。 小町圭(松山ケンイチ)と小玉健太(瑛太)は、鉄道オタクで友人同士。趣味は充実していても恋愛は全く駄目でした。 小町が九州に転勤となり、地元の企業の社長(ピエール瀧)と、鉄道の趣味で仲良くなります。ところが、その社長こそ、小町の務める会社が取引をしたがっていた相手でした。 九州の鉄道と、森田芳光のコメディ・タッチが存分に楽しめる、森田ファンにとっては堪らない作品です。