原作翻訳者・風間賢二が語る『ダークタワー』の背景。映画版は原作の「最終ラウンド」!?

2018年1月27日更新

2018年1月26日に劇場公開される映画『ダークタワー』。原作者スティーヴン・キングを長年に渡って研究し続け、本作の翻訳も行った幻想文学研究家・風間賢二が、本作に横たわる巨大な背景や映画化における意義、そして注目ポイントまで掘り下げていきます。

キング・ワールドの中枢にそびえ立つ【暗黒の塔】

ダークタワー (プレス:©︎不要)

1月27日(土)、ようやく『ダークタワー』がロードショー公開となる。 本国アメリカより半年近く遅れてのお目見え。それに関しては、配給会社の商業的思惑やら業界内の“大人の事情”があったりするので、一個人としては文句を言う筋合いではない。が、“ようやく”というか“ついに!”実写映画化されたかと思うと感慨深い。 周知のように映画『ダークタワー』は、モダンホラーの帝王スティーヴン・キングの同名シリーズを原作にしている。構想・執筆に33年を費やした大作だ(全7巻+4巻と5巻をリンクする別巻1冊)。角川文庫版では全14冊!

キングが大学生時代の1970年にアイデアを得て、世界に名だたるベストセラー作家のひとりになった2003年に物語を完成させていることを思うと、『ダークタワー』シリーズには稀代の語り部のエッセンスが濃縮されていると言っていい。 実際、『ダークタワー』シリーズはキング・ワールドの集大成であり、彼の他の物語はここから派生している。そのあたりの事情は、今回の映画化作品でもしっかり押さえられていて、キングの他の作品が随所にそれとなくほのめかされているのがうれしい。

キング印イースター・エッグを探せ!

ダークタワー (プレス:©︎不要)

映画版『ダークタワー』に登場するイースター・エッグ(ほのめかされる引用・メッセージ)を列挙すると、狂犬病にかかった犬が飼い主の母子を襲う『クージョ』、幽霊ホテルが舞台の『シャイニング』、殺人自動車の恐怖『クリスティーン』、刑務所を舞台にしたヒューマンドラマ『ショーシャンクの空に』、怪異現象の起こるホテルの一室を語った『1408』、狂気のNO1ファンの脅威『ミザリー』、異常殺人鬼もの『ミスター・メルセデス』、殺人ピエロが登場する『IT』、キング初の絵本『シュッシュッポッポきかんしゃチャリー』、現代の吸血鬼もの『呪われた町』など、膨大な作品が挙げられる。 これらの作品がどのような形でどんな場面で映し出されるのか、それを発見するのも今回の映画化版を観る楽しみのひとつ。 映画化版ではほのめかされていないが、原作では、『ザ・スタンド』、『不眠症』、『デスペレーション』、『ドラゴンの眼』、『ブラック・ハウス』、『11/22/63』、『ドクター・スリープ』などの長編ほかにも、様々な中短編(たとえば、『霧(ミスト)』や『なにもかもが究極的』など)のキャラクターや場所、出来事などに言及がなされている。

様々なテキストから構成された巨大な塔

ダークタワー (プレス:©︎不要)

自作ばかりではない。 19世紀英国の詩人ロバート・ブラウニングの叙事詩『童子ローランド、暗黒の塔に至る』とJ・R・Rトールキンのエピック・ファンタジー『指輪物語』、そしてマカロニ・ウエスタンの傑作『夕陽のガンマン』が『ダークタワー』創作のインスピレーション源だ。『夕陽のガンマン』主演のクリント・イーストウッドは、原作『ダークタワー』の主人公ローランド・デスチェインの元型イメージである。 他にもT・S・エリオットの叙事詩『荒地』、ダンテ『神曲』、フランク・R・ボーム『オズの魔法使い』、映画『荒野の七人』、『ハリー・ポッター』シリーズ、『スター・ウォーズ』シリーズ、マーベル・コミックなど、文学からポップカルチャーまでいろいろと下敷きにされている。 しかもジャンルはファンタジー、SF、ホラー、ラヴ・ストーリー、ウエスタン、ミステリーと多岐にわたるハイブリッド形式。結果として、長大で気宇壮大にして形而上学的、神話的、文学的なので、映画化は不可能と言われていた作品だ。 実のところ作者のキング自身、「この作品は映画化させない」と今世紀初頭まで宣言していたほど。だが実際には、こうして映画化されたわけで、だから冒頭で“感慨深い”と述べたのだが、さすがに完成するまでに十年の歳月が費やされている。

映画化への長くて曲がりくねった道

ダークタワー (プレス:©︎不要)

まず、2007年に当時TVドラマ『LOST』で大ブレイクしていたJ・J・エイブラムスが映画化権を取得。その購入金額はなんと19ドル(19は原作を読んでいる人にはお馴染みのマジック・ナンバー。今回の映画にも登場する)。 ところがその後、エイブラムスは『スタートレック』(2009)から『スーパー8』(2011)を経て、なんと『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(2015)の監督に抜擢されてしまう。その結果、『ダークタワー』の映画化権を放棄。 J・Jについで名乗りを上げたのがアカデミー賞受賞監督ロン・ハワード。権利はユニバーサルに移っていた。そこでハワードは未曽有の計画を立てる。なんとそれは『ダークタワー』を三部作として映画を撮り、その三部作の間隙を縫うようにしてTVドラマ・シリーズも放映するというもの(原作の第四巻を中心に主人公ローランドの過去を描く)。 そのぐらいの規模でなくては、キング版ポストモダン『指輪物語』とでも称すべき壮大かつ複雑な『ダークタワー』の世界は表現できないというわけだ。

TVドラマ・シリーズは今年放送予定?

ダークタワー (プレス:©︎不要)

ところが、このアイデアはスケールが大きすぎ、製作費の面でユニバーサルが怖気づいて撤退。大スクリーンと小スクリーンで数年にわたってひとつの作品を展開する前代未聞の映像プロジェクトにワーナー・ブラザースが参入するも、やはり予算の面で折り合わず降板。 その後もいくつか大手制作・配給会社が候補にあがるがなかなか話がまとまらなかったが、最終的にはソニー・ピクチャーズに決定。しかし、野心的な映像プロジェクトは大幅に変更されてしまった。とりあえず一作だけ制作し、好評なら続編とTVドラマ・シリーズ化といったぐあいに。 ちなみに、今のところTVドラマ化は映画とは異なり、リブートするといった案が原作者のキングから出されているが、2018年に制作・放映予定という以外は詳細不明。

映画化版は原作の「最終ラウンド」

ダークタワー (プレス:©︎不要)

ソニー・ピクチャーズに変更になった時点でロン・ハワードは制作側にまわり、『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(2012)で世界的に注目を浴びたデンマークの新星ニコライ・アーセルに監督をバトンタッチ。 それまで主人公ローランド・デスチェイン役にはヴィゴ・モーテンセンやハビエル・バルデム、ラッセル・クロウなどの名前が上がっていたが、最近躍進目覚ましい黒人のイドリス・エルバに決定した。 アーサー王の末裔にして最後のガンスリンガーが黒人?! 当初、ファンの間に疑義を生じさせたが、この一件からして、今回の映画化作品が原作を忠実に再現したものではないことがわかるだろう。なにしろ、本編の上映時間はおよそ一時間半。長大な物語をその尺でまとめられるわけがない。 撮影が本格的に始まった2016年、キングはこう語っている。「映画化作品は原作の続編であり、最終ラウンドだ」と。

本国での評判

「最終ラウンド」? どういうこと? と思われるだろうが、それを説明すると、原作のラストをネタバレすることになるので、ここでは控えたい。しかし、その驚愕のラストを鑑みると、ローランドが黒人であることも、それなりにうなずけないこともない。 だがはっきり言って、本編は本国アメリカにおける熱烈な原作ファンたちにはあまり評判がよくない(まあ、原作原理主義者にはありがちなことだが)。シリーズのダークな雰囲気や深遠な物語を忠実に伝えていないからだ。少年ジェイクを主人公に見立て、いささかお子様向けに作られているのも気に入らないようだ。原作のPVにすぎないと評されたりもする。

本編の見どころ

とはいえ本編は、原作をまったく知らない人にはアクション・ファンタジーとして楽しめるよくできた単独作品として鑑賞できる。制作側も原作信者を相手にするよりも幅広く一般の観客層(当然、なかにはキングの作品を一冊も読んだことのない人もいる)にアピールすることに力を注ぐのは当然だ。 したがって本編の仕上がりは、たとえば、世界中で大ヒットした『ネバー・エンディング・ストーリー』(1985)やアーノルド・シュワルツェネッガー主演『ラスト・アクション・ヒーロー』(1993)系列の作品となっている。ことに後者のノリに近い。 そして一番の見どころは、なんと言ってもガンアクション。ことにガンスリンガーの使用するリボルバーのリローディングがすごい。さながら、ゲームなら『メタル・ギア・ソリッド』のオセロットや『デビル・メイ・クライ』のダンテ、アニメなら『グレネーダ』のおっぱいリロード! そして映画なら『シューテム・アップ』(2007)や『リベリオン』(2002)などのトンデモ銃撃戦が好きな人にお薦めの映画だ。 女性には、主演のイドリス・エルバと悪役を演じるマシュー・マコノヒーの大人の男の色気にウットリしていただきたい。

執筆者:風間賢二

幻想文学研究家・翻訳家。「ホラー小説大全」(双葉文庫)で第51回日本推理小説協会評論賞を受賞。その他の著作に「スティーヴン・キング 恐怖の愉しみ」(筑摩書房)、「ジャンク・フィクション・ワールド」(新書館)、「怪奇幻想ミステリーはお好き?」(NHK出版)など。 翻訳には、S・キング「ダークタワー」シリーズ(角川文庫)やアメコミ「ウォーキング・デッド」シリーズ(飛鳥新社)などがある。

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