朝ドラ『純と愛』はなぜ酷評されたのか?脚本家・遊川和彦が描きたかった朝ドラとは
朝ドラ『純と愛』は、2012年に放送された朝の連続テレビ小説です。前の年に最高視聴率40.0%を記録した、大ヒットドラマ『家政婦のミタ』の脚本家・遊川和彦によるオリジナルストーリー。 21世紀最大のヒットドラマを生んだ脚本家が描く朝ドラということで、注目を集めました。
これまでの朝ドラとは一風変わった挑戦的な内容に対して、放送開始直後から批判の声が殺到。「ドタバタと忙しい。」「内容が朝向きではない。」など、60代の男女から特に厳しい意見が多かったと、NHKが発表しました。
酷評とともに視聴率も低迷した『純と愛』
『純と愛』の前作『梅ちゃん先生』は、2003年度上半期の朝ドラ『こころ』以来となる、平均視聴率20%超えを記録したヒット作となりました。一方『純と愛』は最終回で視聴率20%を超えましたが、平均視聴率は17.1%という結果に終わります。 『純と愛』の次作となった『あまちゃん』も平均視聴率20%を超え、その後も2年半後の『まれ』まで20%を割り込むことはありませんでした。
朝ドラ『純と愛』のキャスト
ヒロイン・狩野純を演じた夏菜
ヒロイン・狩野純には映画『GANTZ』での体当たり演技で話題になった、夏菜が起用されました。 純はかつて祖父が経営していた「サザンアイランド」のようなホテルを作ることが夢。純いわく「魔法の国のようなホテル」です。 正義感が強く活発ですが、世話焼きで実直な性格。激高すると無意識のうちに、他人を非難し責め立てる悪癖を持っています。そのため、トラブルを招いてしまうことも……。
純の夫・待田愛(いとし)を演じた風間俊介
ヒロインの夫・待田愛を風間俊介が演じました。風間はジャニーズでは珍しい、役者に専念する演技派俳優です。 愛は基本的には温厚な性格で一人称は「僕」。ところが、極度の怒りを覚えたときや精神的に荒れた際には口調が乱暴になり、自分を「俺」と呼びます。風間は変化後の愛について、「ダーク愛」と命名していました。 双子の弟・純の死後、「他者の本当の心が見える」という能力が身についてしまい、そのことに苦悩しています。
朝ドラ『純と愛』のあらすじ
本作は3部に分かれたストーリー構成でした。
第1部「オオサキプラザホテル」編
父・善行が経営するホテル「サザンアイランド」を「魔法の国」へ再生することを夢見る純。しかし、善行に猛反対され、夢の実現のために純は家を飛び出しました。 家を出た後、純は大阪の一流ホテル「オオサキプラザホテル」に就職します。ホテルでトラブルに巻き込まれるなか、弟も家出をして、純の部屋に住むことに。実家に住む兄も、女性と揉め事を起こしては、純に助けを求めてきます。 愛は、仕事と家族のトラブルに奮闘する純を見守りつづけ、交際を開始。お互いの親から勘当されたことをきっかけに結婚をしました。 仕事では、オオサキの買収騒動、サザンアイランドの売却危機と、純に災難が降りかかります。サザンアイランドは取り壊されてしまい、純は心を閉ざしてしまうのです。
第2部「里や」編
心を閉ざした純は、善行との軋轢が深刻化し、愛とも気持ちがすれ違ってしまいまうように……。 無気力な生活を送っていた純でしたが、大阪の下町の小さなホテル「里や」の女将と出会い、立ち直ります。その後、純は里やに再就職して、やる気のなかった従業員たちの気持ちを変えていきます。 しかし一方で、大阪にやって来た純の母親が認知症を発症、父・善行は急死してしまいました。新たな家族問題に、純は身も心も消費する生活を送ります。 仕事と家族問題に立ち向かう純にさらなる困難が。客の寝たばこが原因でホテルが焼失し、再起不能となってしまいました。
第3部「宮古島」編
里やの焼失後、里やの宿泊客から縁あって宮古島の別荘を譲り受けた純。その別荘を改装して、ホテルを開業することを決意しました。 改装準備、愛とのすれ違いとさらなる問題が起きてしまいます。その問題が片付いたと思った矢先に、愛が脳腫瘍を発症して、倒れてしまったのです。 脳腫瘍の手術が終わった後、愛は昏睡状態に陥ることに。愛が目覚めるまでに必ずホテルを「魔法の国」にすると誓った純でしたが、愛は目覚めぬまま、物語は幕を閉じてしまいました。
【ネタバレ】最終回にも賛否の声が?
白雪姫のようなラストを期待したのに……。
主人公にいくつもの不幸が降りかかり、シリアスな展開を見せた『純と愛』。最終回もハッピーエンドとはなりませんでした。 脳腫瘍の手術後に昏睡状態になった愛に、そっとキスをする純。ところが、愛が目をさますことはなく、両手が少し動いただけでした。 『純と愛』の2年後を描いた番外編、『冨士子のかれいな一日』でも、愛が元気になったという描写はありません。
夏菜の迫真の演技が裏目に?
最終回では、夏菜がポエムを4分にわたって読み上げるシーンも盛り込まれました。 取りつかれたように叫び続ける夏菜。その鬼気迫る演技が、朝、観るには重かったと言う意見も上がったようです。
酷評の理由①主人公への仕打ちがひどい?
勤めていたホテルが買収され、失業。別のホテルに再就職するも、客の寝たばこでホテルが焼失。仕事で苦労するのと同時に母親が認知症を発症し、父親は水死してしまいます。 あげくの果てには、夫が病に倒れ、目を覚まさないというラスト。主人公に悲劇が起こり過ぎるストーリーは視聴者からの共感が得られにくく、従来の朝ドラのようなサクセスストーリーを期待していた層から酷評される結果となりました。
酷評の理由②朝ドラに超能力はいらない?
愛の「他者の本当の心が見えてしまう」という能力が、現実離れしているという批判の意見があったようです。 朝ドラの多くはモデルとなった人物や、モチーフにしている歴史があります。たいして、本作は遊川和彦のオリジナルストーリーだったため、モデルとなる人物を据えずに新しい朝ドラの形を確立しようとしていました。 しかし視聴者にはこれが認められませんでした。ほのぼのとした現実的なストーリーであってほしいという期待に沿えなかったことが、酷評の原因に繋がってしまったようです。
酷評の理由③夏菜に叫ばせ過ぎた?
夏菜が演じた純の「激高すると無意識のうちに他人を非難し責め立ててしまう悪癖」という役柄も、朝ドラでは受け入れられなかったようです。 純に襲いかかる不幸の連続。その不幸に対し、声を張り上げる純。 「朝から、キーキーとうるさい……」と引いてしまったという意見もあったのかもしれません。夏菜の演技力は評価されましたが、朝ドラで見たい演技はなかったということですね。
脚本家・遊川和彦が描きたかった『純と愛』とは?
「これまでにはなかったドラマを作る」これが、今回の朝ドラ制作にあたって、脚本家・遊川をはじめとしたチームのスローガンだったそうです。 遊川がずっと描きたいと思っていた「夫婦愛」についてのストーリー。一般的なワンクールのドラマでは受け入れられないと、なかなか通らなかった企画が、朝ドラで採用されたと制作秘話で話していました。 遊川和彦は「これまでの連続テレビ小説っぽくないもの」「演出家や役者にも口を出す」といった条件であれば、朝ドラの脚本を引き受けるとプロデューサーに打診。当時一番と言われていた脚本家である遊川だからこそ、実現したのが『純と愛』だったようです。
『純と愛』は挑戦的な朝ドラだった
『純と愛』が酷評されている理由は、これまでの朝ドラという既成概念を打ち破ろうとした制作陣の強い思いがあったからなのでしょう。最終回の視聴率は20%を超えるなど、この試みは全く受け入れられなかったわけではないようです。 朝ドラの視聴率が悪いと、そのたびに話題になる『純と愛』。多くの人の記憶に残った作品であることは間違いないでしょう。