パク・チャヌクの代表作、映画『オールド・ボーイ』を深く知ろう
クエンティン・タランティーノ監督のお墨付き!
『オールド・ボーイ』は2003年に公開され、スペインはシッチェスで毎年10月に開催されるシッチェス・カタロニア国際映画祭において第37回グランプリを受賞した映画です。 そして第57回カンヌ国際映画祭 (2004)では、審査委員長のクエンティン・タランティーノ監督から「できれば、パルムドールを授与したかった。」と激賞を受け、グランプリ(パルムドールに次ぐ賞)を獲得しました。結果的に本作は、多作なパク・チャヌク監督作品群の中でもひと際輝きを放つ代表作となります。 今回は世界から認められた作品『オールド・ボーイ』について、あらすじ・キャスト・関連作品や原作・リメイクとの違いについてネタバレ徹底解説します。
韓国映画『オールド・ボーイ』のあらすじ
ストーリーは主人公オ・デス(チェ・ミンシク)が酔っ払って補導され、交番で揉めているシーンから始まります。その日は愛娘ヨニの誕生日でした。 親友のジュファン(チ・デハン)の迎えで交番を後にしたデスは、妻と娘に公衆電話から電話をします。そこで娘にお祝いを告げるとデスは「もうすぐ帰るからね」と言って、ジュファンに電話を代わります。しかしその会話の数秒後、デスはジュファンの目の前から突然消えてしまいました。 ある者に誘拐されたデスは、自分が拐われた理由が全くわからないまま監禁され続けることに。そして長い年月がたち、15年後、なぜか突然に彼は解放されるのでした。 デスは、心当たりの無い地獄の仕打ちに対して強い復讐心を持って、監禁部屋に追い込んだイ・ウジン(ユ・ジテ)の用意した5日間のゲームに挑みます。 「なぜ監禁されたのか……?」
本作(韓国版)で大きな存在感を放つキャストを二人紹介!
オ・デス(本作の主人公)役【チェ・ミンシク】
本作で主人公オ・デスを演じたチェ・ミンシクは、1962年5月30日生まれ。1990年にKBS(韓国放送公社)のドラマ『野望の歳月』に出演し、名が知られるようになります。 映画では『シュリ』(1999)と『オールド・ボーイ』、『バトル・オーシャン 海上決戦』(2014)の3作品で韓国のアカデミー賞と称される大鐘(テジョン)賞において、主演男優賞を受賞。 『オールド・ボーイ』では大鐘賞と並ぶ大映画祭の青龍(セイリュウ)映画賞主演男優賞を、「バトル・オーシャン 〜」では韓国歴代最多の観客動員数を記録しました。 パク・チャヌク監督がインタビューで「最後のペントハウスのシーンで撮影がうまく進まず、テイクを繰り返すと半ば倒れるように寝てしまう」とコメントしたように、熱のこもった全力の演技と滲み出る貫禄が魅力です。韓国で人気を不動のものにしています。
パク・チョルン(7.5階のボス)役【オ・ダルス】
小心者のガンマン“アンドリュー”。韓国人だが中国語が堪能で中国で活動中。演じるのは「オールド・ボーイ」の監禁部屋オーナー役で異彩を放っていた個性派俳優のオ・ダルス。泥棒たちの中で1番ヒヤッとさせてくれるキャラです! #10doro pic.twitter.com/o6szbOWV4s
— 映画『10人の泥棒たち 』発売中! (@10dorobo) May 9, 2013
本来ならばユ・ジテやカン・へジョンを紹介するべきですが、歯を抜かれたり、手を切られたりと散々な目に合うパク・チョルン役を演じ、存在感を出していたオ・ダルスをあえて紹介しましょう。彼は1968年6月15日生まれのベテラン俳優です。 2002年『海賊、ディスコ王になる』で映画デビューし、2007年に映画『夏物語』での演技が高く評価されます。その年に春史(チュンサ)大賞映画祭で助演男優賞を受賞。 そして2015年には『国際市場で逢いましょう』で、青龍映画賞と大鐘賞の助演男優賞をW受賞しました。 パク・チャヌク監督作品にも多数出演し、その他にも『10人の泥棒たち』(2012)、『7番房の奇跡』(2013)、『ベテラン』(2015)、『暗殺』(2015) と話題作に出演している名脇役です。 もはやオ・ダルスの出る映画にハズレなし!といっても過言ではないくらい韓国で人気の俳優です。彼の今後のさらなる活躍にも期待大。 ここからは本作(韓国版)に絡めて、原作・リメイクとの比較やネタバレも含めて解説していきます。
原作は日本の漫画『ルーズ戦記 オールドボーイ』
原作漫画『ルーズ戦記 オールドボーイ』は原作の土屋ガロンと、作画の嶺岸信明によって1996年から1998年に「漫画アクション」で連載されました。 原作のストーリーはすでに主人公が監禁されているところから始まります。話の流れに沿って次第に過去も露わになっていくという構成。 原作が本作と違うのは監禁年数が「10年」というところと、繰り広げられるゲームに期限がないことです。全8巻を通してじっくり、しっかりと真髄に迫っていく様は読者を釘付けにしてくれます。 今回はあくまで韓国映画『オールド・ボーイ』についてなので割愛させていただき、少ししか内容には触れないようにします。原作に興味があるなら、一読をオススメします! ハードボイルドでクセになります。
日本料理屋「地中海」での催眠術【原作との共通点】
『オールド・ボーイ』という作品にとって催眠術は一番大事な要素と言えます。原作によると、その催眠術は後催眠暗示というものです。 後催眠暗示とは、催眠をかけられている人に対し、その催眠から覚醒したあとに一定の行動をとるようにかけられる暗示のこと。 映画後半に明らかになりますが、デスは後催眠暗示によって監禁部屋から出たら日本料理屋「地中海」にいくように仕向けられていました。お店に入って座ってからも、着信音に反応して特定のフレーズを発するように、手を握られたら気絶するというようにです。 しかしこのシーンで少し面白いセリフがあります。 デスが席に着いた時にミド(カン・ヘジョン)がデスの顔を見るなり「お久しぶり、違ったかな?」「見覚えがあるんだけど、どこかで?」と質問します。ここでデスは「テレビで君を観たよ」と答えますが、ではなぜミドは見覚えがあるんでしょう? これは父の顔を覚えていたということなのか、しかしここまでが後催眠暗示と受け取ることもできます。 映画の冒頭でデスが公衆電話から娘に電話をかけるとき、娘に「ヨニ」と呼びかけています。ミドは後催眠暗示にかけられて、ヨニとしての過去を忘れてしまっているのです。
ジョシュ・ブローリン版USリメイクの『オールド・ボーイ』
巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が、主演にウィル・スミスを迎えてリメイクするとの噂が囁かれたUS版『オールド・ボーイ』は、プロジェクトの中止や出版社による訴訟により実現しませんでした。 構成を練り直して一から製作され、実際に2013年に公開されたリメイク版は、『ドゥ・ザ・ライト・シング』で知られるスパイク・リーが監督を務め、近年では『インヒアレント・ヴァイス』や『ボーダーライン』で存在感を残しているジョシュ・ブローリンが主役を務めています。 そして韓国版ではミドに当たる娘役に「アベンジャーズ」シリーズのスカーレット・ウィッチ役や、人気ドラマ『フルハウス』で有名なオルセン姉妹(アシュレーとメアリー)を姉に持つ、エリザベス・オルセンがキャスティングされています。 リメイク版は監禁年数が「20年」とさらに5年伸びています。韓国版ではセリフから推測するに、ミドの年齢は19歳です。リメイクする際に、この年齢は若いと判断したのでしょう。
韓国バイオレンス映画の巨匠パク・チャヌク
数々のヴァイオレンス映画を生み出してきたパク・チャヌクは、1963年8月23日の生まれの映画監督です。 監督作には、本作を含む『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』『親切なクムジャさん』の“復讐3部作”や、ハリウッドデビュー作『イノセント・ガーデン』他2作で構成される“人間ではない存在の3部作”があります。トリロジーとして展開するのが好きな人なのかもしれません。 近年では2016年には意欲作『お嬢さん』がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出されました。韓国映画界では知らない人はいない人気の映画監督です。 パク・チャヌク監督は『オールド・ボーイ』を映画化したきっかけについて、「ポン・ジュノ監督に面白いのでと勧められて興味を持っていたが原作が手に入らず、そこへこの映画のプロデューサーが話を持ちかけてくれたから」と2004年の来日インタビューで答えています。 これからもこの監督の生み出す作品から目が離せません。
大きく違う!原作とリメイク版ラストとの比較
本作(韓国版)と原作、さらにリメイクにおいても、ユ・ジテが演じるイ・ウジン、また原作やリメイクでその役にあたる登場人物の最期はどれも共通しています。特に原作は、主人公のその後の生活を想像させる演出と不気味なエンディングが目を引きます。エピローグでの予想だにしなかった展開は、読者を落ち着かない気持ちにさせることでしょう。 そしてリメイク版(ハリウッド版)は、その後にさらに驚くべき結末を迎えます。主人公のジョーは娘とはもう会わない覚悟を決め、そして自ら再び監禁部屋に入るという痛々しい結末を選ぶのでした。 原作とUSリメイクにはストーリーやエンディングに大きな違いがあります。しかしそのどちらの結末も、視聴者の心に何かしらメッセージを問いかけてきます。
『オールド・ボーイ』ラストシーンの意味することとは?
韓国版『オールド・ボーイ』のラストシーン、雪原の真ん中で、催眠術をかけられたオ・デスは一人倒れています。催眠術師と座っていた椅子のところからは、デスが倒れている方向に向かって足跡が一人分続いています。 ミドがやってきて「誰と一緒にいたの?」と聞きます。 ここでその時かけられた催眠術の内容を思い出しながら観ていくと、このシーンが深みを増していきます。そこまで歩いてきたのは「秘密を知っているモンスター」でしょうか?それとも「秘密を知らないオ・デス」でしょうか? パク・チャヌク監督はこのシーンを「あえてわかりにくくした」と発言しています。 最後にミドはデスを抱きしめてこう言います。「愛してる、おじさん」と。その目はなぜかデスの存在を父と認めているように見えます。