あの監督、○○しがち!
日本を代表する人気有名監督たちの作品を観ていて、何か気づいたことはありませんか?これまでに発表してきた作品には、どれもその監督だけが持つカラーがあるもの。そのカラーには、監督のこだわりや癖がしっかりと投影されています。 作品の特徴やよく登場するものから、それぞれの監督の癖を分析してみました。
宮崎駿監督のキャスティングへのこだわり
声優避けがち、俳優起用しがち
宮崎駿監督は、メインキャラクターに声優を起用しないことで有名。1997年公開の『もののけ姫』ではヒロインのサン役を女優の石田ゆり子が務め、以降のジブリ作品でも、ドラマや映画で活躍している人気女優や俳優たちが起用されています。 2013年公開の『風立ちぬ』では主人公の堀越二郎役を、何と映画監督の庵野秀明が務め大きな話題となりました。 宮崎監督は、自身の作品をアニメではなく映画を作っているつもりであると語っています。『となりのトトロ』の制作がされていた時に、お父さんの草壁タツオ役がなかなか決まらず、オーディションが難航しました。宮崎監督本人が推薦したのは、コラムニストの糸井重里。宮崎監督が求める「お父さん」像にぴったりだったようです。 プロの声優では、皆同じ印象を与える声の持ち主が多いことを宮崎監督は指摘。声優としての活動経験がない俳優やタレントなどの、瑞々しい演技がアニメ映画にリアリティと新鮮味を与えると考えたのでしょう。
黒沢清監督作品には、必ずアレが出てくる?
廃虚とダンボール使いがち
サスペンス・スリラー作品を数多く生み出している黒沢清監督。2017年には、映画『散歩する侵略者』が公開されたことが記憶に新しいですね。 黒沢監督の作品には必ずと言っていいほど登場するものがあります。それは、廃墟。どこか非現実的で、不気味なイメージが漂う廃墟を好んで使用する黒沢監督。映画『CURE』では、廃墟となった病院が登場し、精神を病んだ者の孤独や虚無感を見事に表現しています。 また黒沢作品には、ダンボールも頻繁に登場します。サスペンスやスリラー作品では、暴力描写は付き物。人を殴るシーンも珍しくありません。そんな時でもダンボールを使えば、実際に殴ったとしても大丈夫。リアリティのある演出がさらに恐怖を煽るのです。 黒沢作品に登場する廃墟やダンボールは、単にセットや小道具というわけではなく、こだわりや美学を表現するために必要不可欠なもののようです。
大島渚監督はいつも怒ってる?
怒りがち
大島渚監督と言えば、出演したテレビ番組などで、怒りをあらわにしている姿を思い出す人が多いのではないでしょうか。 大島監督は、これまで自身の作品の中でも怒りの感情を大切に表現してきました。安保闘争や死刑制度など、これまであまり取り上げられることのなかったテーマにも果敢に取り組み、タブーにも挑戦し続けてきました。 『愛のコリーダ』では、露骨な性描写によって激しい愛憎の世界を描きます。しかし日本では受け入れられず、わいせつ罪で訴えられるという事態に。作品を守るため、裁判を戦い抜きましたが、日本で公開されることはありませんでした。 国際的な作品『戦場のメリークリスマス』では、メインキャストに本業が役者ではないものを起用し、大きな話題を集めました。タブーに挑戦し続け、新しいスタイルを探し続けた大島監督。「怒り」は、大島監督の創作への原動力だったのかもしれません。
目の付けどころが違う?庵野秀明監督
細部にこだわりがち
「新世紀エヴァゲリオン」シリーズの監督であり、2016年には『シン・ゴジラ』でメガホンを取った庵野秀明監督。 代表作の「エヴァンゲリオン」シリーズでは、東京に襲来した敵・使徒と主人公の少年・シンジとの戦いが描かれます。シンジは人型兵器のエヴァンゲリオンのパイロットであり、作中には建造物の爆破シーンが何度となく登場します。 幼いころから、ロボットや建造物の絵を描くことが得意だった庵野監督。監督デビューするまでは作画家として活動しており、そのためか建造物や爆破シーンなどの細部の描写には目を見張るものがあります。 この庵野監督の細部にこだわりがちな癖は、2016年に公開された映画『シン・ゴジラ』にも見事に投影されています。特に今作でのゴジラのビジュアルには徹底的にこだわり、これまでのゴジラ像とはまったく違った「シン・ゴジラ」を生み出しました。
新海誠監督作品は背景が美しすぎる
美しく背景描写しがち、繊細な心の揺れ動きを描きがち
2016年に公開された『君の名は。』が大ヒットした新海誠監督ですが、彼の作品は繊細なストーリー展開もさることながら、巧みな背景描写や写実的な作画も大きな特徴となっています。美しい背景は、ストーリーにリアリティを持たせるだけでなく、独特の幻想的な世界観を醸しだしています。 また、思春期の少年少女の淡く儚い恋心を繊細に丁寧に描いたストーリーも、新海監督お得意の手法。幻想的な雰囲気まで漂わせる美しい背景と繊細なストーリーに、観る者の心は奪われてしまうのです。
タイトルですぐ山崎貴監督作品だとわかる?
映画のタイトル前半に英単語入れがち
「ALWAYS 三丁目」シリーズでメガホンを取った山崎貴監督ですが、他の作品にも明らかな共通点が。『ALWAYS 三丁目の夕日』、『BALLAD 名もなき恋のうた』、『friends もののけ島のナキ』、『STAND BY ME ドラえもん』、『DESTINY 鎌倉ものがたり』など見事に映画タイトルの頭に英語が付きます。 どの作品にもノスタルジックな雰囲気が漂い、笑って泣けるヒューマンドラマが山崎貴監督作品の特徴です。タイトル頭の英語と原作名との対比で、また原作とは違った、現在でも昔でもない山崎貴ワールドが展開されているのだろうと、思わず期待させられます。
美学が貫かれた映像は圧巻!岩井俊二監督
長回し多いがち、フィルムノイズ入れがち
岩井俊二監督作品は、圧倒的な映像美と独特の世界観が特徴。登場人物の心の動きに合わせて緩やかに変化してくような長回しのカメラワークが、繊細な映像の魅力をさらに強調しています。また岩井俊二監督の作品は、まるでフィルムで撮ったかのようなレトロな質感があるのも魅力です。 1993年にテレビドラマとして制作された『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』ではフィルム効果を巧みに使った演出で、ノスタルジックなストーリーを見事に盛り上げています。 映画『リリィ・シュシュのすべて』では思春期を生きる少年の心情を投影したかのような、繊細で美しいシーンを長回しのカメラワークによって表現。岩井俊二独特の危うく儚げな世界を、映像効果と撮影技法によって作り出しているのです。
行定勲監督は、逆光にこだわる!
コントラスト淡いがち、逆光使いがち
『世界の中心で愛を叫ぶ』や『クローズド・ノート』などの、青春の淡く切ない日々を描いたストーリーが印象的な行定勲監督作品。そのどれもが淡いコントラストの繊細な映像や、逆光を多用した撮影方法で表現されています。 映画には光が何よりも大切だと語っている行定監督。映像へのこだわりとして、写真撮影などではあまり使うことのない逆光を好んで取り入れるそうです。逆光を取り入れた映像は回想シーンなどでよく使われ、観る者の登場人物やストーリーへの共感を煽ります。
パロディと言えばこの人!福田雄一監督
度を越えたパロディしがち
人気バラエティ番組を多数手掛けてきた放送作家でもある福田雄一監督。「勇者ヨシヒコ」シリーズをはじめ、福田作品は大胆なパロディが大きな魅力です。 2017年に公開された映画『銀魂』では、原作の持つ世界をきちんと描きながらも、随所にパロディを盛り込んでいます。公開時期が重なった人気漫画の実写映画『ジョジョの奇妙な冒険』について言及したり、チープな格好の『ガンダム』シャア・アズナブル風キャラが登場したり、『風の谷のナウシカ』を彷彿とさせるキャラクターまで……。 「そこまでやっていいの?」と思わせる大胆なパロディは、原作『銀魂』の世界観を見事に実写映画化させた作品となりました。
ヒット作を多数手掛ける、日本を代表する名監督たち。その作品には、はっきりとその個性やスタイルが刻まれています。人気監督たちのスタイルやこだわり、癖を知れば、彼らの作品をより深く理解することができそうですね。