2018年3月26日更新

クセしかない映画『マジカル・ガール』を怖いもの見たさで鑑賞してほしい【ネタバレ注意】

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マジカル・ガール

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映画『マジカル・ガール』、怖いもの見たさで鑑賞してみる?

スペインでは2014年に公開されるやいなや各映画賞を総なめにし、日本でも2016年に全国公開され話題となった映画『マジカル・ガール』。 タイトルからするに魔法少女がテーマの作品に見えますが、癖が強いキャラクター達がとんでもない運命に巻き込まれていく物語です。監督は大の日本好きであり、日本愛を各所に盛り込んでいます。 なるべく前情報なしで鑑賞することをおすすめしたいため、記事前半ではネタバレなしのあらすじとキャスト、監督を紹介。後半ではネタバレを含む本作の魅力と、トリビアを紹介していきます。

『マジカル・ガール』のあらすじ【ネタバレなし】

事の発端は1人の少女のありふれた願い……。

12歳の少女アリシアは白血病にかかっており、余命いくばくもない状態でした。そんな彼女は日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。父ルイスは、彼女の“ユキコのコスチュームを着て踊ってみたい”とう夢を叶えたいと奮起します。 映画の背景には経済が破綻したスペインの現状がありますが、ルイスも失業中。高価なコスチュームを買うお金などありません。そしてお金稼ぎのためにルイスが決意した方法とは、宝石店を強盗することでした。

映画に登場するキャストを紹介

ルイス/ルイス・ベルメホ

娘の夢を叶えたいが為に奮闘し、物語の歯車を回してしまったのは、役名と同じ名前の俳優ルイス・ベルメホ。 ベルメホは演劇を中心に俳優活動を行なっています。参加した舞台作品はスペイン劇文学国家賞を受賞したり、スペイン演劇界のアカデミー賞と名高いプレミオ・マックス賞で最優秀作品賞を受賞したりと評価が高いものばかりです。 1998年以降映像作品にも多く参加しています。『マジカル・ガール』では3つの賞に輝き、活躍の幅を広げている俳優です。

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バルバラ/バルバラ・レニー

ルイスによって動かされた歯車に巻き込まれる女性・バルバラを演じたのはこれまた役名と同じ名前の女優バルバラ・レニーです。 スペインのマドリードで生まれ、マドリードの王立演劇学校で演技を学んだバルバラは15歳の時映画デビューします。その後スペイン国内の作品に出演を続け、国外でも話題となった2011年公開のミステリー作品『私が、生きる肌』にも出演しています。 『マジカル・ガール』のバルバラ役は高く評価され、4つの賞で主演女優賞を総なめにしました。

ダミアン/ホセ・サクリスタン

さらに物語に巻き込まれたダミアンを演じたのはホセ・サクリスタン。兵役を積んだあと、劇団で役者を始めたという変わった経歴の持ち主です。 70年代はスペイン映画界に欠かせない俳優であるアルフレッド・ランダとともに多くのコメディ映画に出演し、ランディスモと呼ばれるお色気コメディのジャンルを確立しました。 『マジカル・ガール』では4つの賞の助演男優賞にノミネートされ、そのうちの1つを受賞しています。

『マジカル・ガール』監督は漫画家出身のカルロス・ベルムト

『マジカル・ガール』の監督及び脚本を担当したカルロス・ベルムトは、イラストレーターから映像の監督に転身したという異色の経歴の持ち主です。コミック作家として、いくつか本を出版しており、その中には映像化された作品もあります。 映像制作の分野に進出したのは2008年です。2009年に発表した初の短編映画『マケタ(原題)』がスペインのインターネット映画祭ノトド映画祭でグランプリを受賞し、その才能を開花。次々とインディペンデント作品を発表しました。 初の長編作品『ダイアモンド・フラッシュ(原題)』は、映画雑誌「Caiman」が選ぶ2012年のスペイン映画第一位となり、スペイン映画界の注目を一気に集める映画監督となりました。

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【ネタバレ注意】思わぬ方向へ進んでいくストーリー【結末】

少女アリシアの話かと思ったら、次第にバルバラが主人公に

ルイスがまさに店の窓を破って侵入しようとした瞬間、彼の顔に緑色の吐瀉物が降りかかります。吐瀉物の主は階上に住む既婚女性バルバラ。彼女こそ、本作の登場人物達の運命を狂わせたキーパーソンといえるでしょう。 バルバラは精神を病んでおり、精神科医の夫に支配されて暮らしていました。その晩は彼女が寝ている間に夫が姿を消したことに気づき、孤独に打ちひしがれた彼女は大量の睡眠薬と酒を飲んでしまいます。それが原因で吐いてしまったところにルイスがいたのです。 彼女はルイスに詫び、彼を招き入れると寂しさのあまり体の関係を結んでしまいます。

怪しすぎる「トカゲの部屋」、その全貌は不明のまま

ルイスは一夜の関係ををネタにバルバラを脅迫し、金を要求します。バルバラは仕方なく友人アダの紹介で金持ちの家に行って“ある仕事”をし、稼いだ7千ユーロ(日本円で90万円)をルイスに渡しました。 そのお金でルイスは念願のコスチュームを購入しますが、肝心の魔法のステッキがないことに気付いた娘・アリシアは、せっかくのプレゼントにも関わらず心から喜ぶことができませんでした。 困ったルイスは再度バルバラを脅迫します。さらなるお金を手に入れるため、アダの制止も聞かずにバルバラは再び金持ちの家をたずね、謎めいた「トカゲの部屋」を訪れます。そこでバルバラはなんと半殺しの目にあってしまうのです。 「トカゲの部屋」で何があったのかは劇中では描かれていません。ただ病院に運ばれたバルバラは全身包帯巻き。目はつぶれ、周囲の肌がただれていることから大やけどを負ったようにも見えます。

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刑務所上がりの守護天使登場で物語はクライマックスへ

傷ついたバルバラが助けを求めたのは、彼女が“守護天使”と呼んでいる男性ダミアンです。ダミアンとバルバラは元は教師と生徒の関係(実は映画の冒頭に登場しています)でしたが、バルバラが原因でダミアンは服役し、出所したばかりでした。 劇中では描かれませんでしたが、教師・ダミアンは生徒のバルバラに恋心を抱いており、彼女を守るために10年以上の服役が科せられる事件を起こしてしまったようです。ダミアンもまたバルバラに運命を狂わされた一人ということですね。 バルバラはルイスによって半殺しにされたとダミアンに嘘をつき、ダミアンはルイスを殺すことを決意。寂れたバーに1人で入るルイスを追いかけ、「バルバラを犯した事実をばらされたくないなら、ここで俺を殺して服役しろ」と言います。 ルイスはバルバラと初めて会った日に身体の関係を持ったことを指しているのだと思い「彼女の同意で行為に及んだ」と説明。その事実を知ったダミアンは激昂し、勢い余ってルイスを殺してしまうのです。 一人の病気の少女の純粋な願いから始まった物語は、思いも寄らない方向へと動き出し、全員の人生を狂わせて行きました。

監督の日本愛が随所にちりばめられている

ベルムト監督は日本を「第二の故郷」と公言するほどの日本好きです。日本にハマったきっかけは『ドラゴンボール』で、尊敬する日本の映画監督は園子温だそう。 そんな彼の日本愛が『マジカル・ガール』のいたるところに散りばめられています。

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「魔法少女ユキコ」の主題歌は?

アリシアが憧れるアニメ「魔法少女ユキコ」には主題歌があるのですが、そのメロディはちょっと懐かしい雰囲気です。それもそのはず、主題歌として使用されているのは「春はSA-RA SA-RA」という1984年の日本の楽曲です。 歌っているのは長山洋子。演歌歌手として有名ですが、実はデビューはアイドル歌手でした。そんな彼女のデビュー曲が、スペインの映画で使用される日が来るなんて、本人も思ってもみなかったでしょう。

トカゲモチーフ頻出の理由

脅迫されたバルバラが、お金を求めて訪れる「トカゲの部屋」。彼女はここでひどい目にあってダミアンに助けを求めるのですが、この“トカゲ”というのは江戸川乱歩の小説『黒蜥蜴』へのオマージュです。『黒蜥蜴』は女盗賊黒蜥蜴と名探偵明智小五郎が対決する探偵小説で、美輪明宏が黒蜥蜴を演じる舞台版が有名です。 『マジカル・ガール』のポスターには、顔に傷をつけたバルバラのイラストが使用されていますが、その傷も黒蜥蜴の形をしています。さらに、エンディング曲には映画『黒蜥蜴』の主題歌『黒蜥蜴の唄』のカバー版が使用されるなど監督のこだわりが伺えます。

勇気を出していざ『マジカル・ガール』の世界へ

ベルムト監督が描く、決してキラキラ輝いた世界ではない魔法少女の物語。ハッピーエンドではありませんが、ダークでクセになる世界観です。 勇気を出してのぞいて見てはいかがですか?