2021年1月17日更新

【連載#3】今、観たい!カルトを産む映画たち『人魚伝説』美しい妻の衝撃復讐劇【毎日20時更新】

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海

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連載第3回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

『ポリエステル』
©New Line Cinema/Photofest/zetaimage

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第2回の『ポリエステル』(1986年)に続き、第3回は『人魚伝説』(1984年)を取り上げます!

最狂のカルト映画『人魚伝説』【ネタバレ注意】

フリー画像、人魚

夫を殺された若く美人な海女さんが、復讐に狂った末に大量殺人鬼となる映画、観たくないですか?観たいでしょう?そうでしょうとも。実はそんな映画がこの日本にあるのです。その名も『人魚伝説』。 40年近く前の古い作品ですが、廉価版DVDの発売や動画配信サービスによって手に取りやすくなりました。 今回は、「人生で最もヤバい映画」になるかもしれない、伝説のカルト映画『人魚伝説』の魅力を余すところなく紹介します。 ※本記事では映画の展開について、ネタバレありで触れています。まっさらな状態で映画を楽しみたい人は、視聴後に記事を読むことをおすすめします。

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『人魚伝説』のオープニング

魚港、フリー画像

主人公は海女さん。夫が操縦する船から飛び降り、海の幸を採って生計を立てています。しょっちゅう喧嘩はするけれど、夫婦は仲睦まじく暮らしていました。ある日、夫が海で仲間の不審死を目撃。2人は海へ向かい、女は浮かび上がらない死体を探して海に潜ります。 しかし、しばらくしても命綱が引かれず、海上の様子がおかしい。そう思っていると、上から落ちてきたのは銛(モリ)で刺された夫の死体。混乱する女はなんとか海から這い上がり、生還します。 すぐさま警察に助けを求めますが、夫殺しの濡れ衣を着せられていることが判明。地元の有力者の息子に力を借り、島へと難を逃れました。 誰が夫を殺したのかと、女は徐々に復讐の炎を目に宿していく……。 この展開だけでも超面白いのですが、ここから“常に前の展開よりもすごい”モードに入っていきます。

美しき海女さんが男をなぶり殺し

血 フリー素材

主人公の海女さんは夫を殺した犯人を探るべく、娼婦になり近づいた男をドスでめった刺しにします。初めは女だから、と舐めた様子の男ですが一瞬の隙を突かれ包丁はお腹へ。女は男の返り血を浴びながら呆然自失の表情で刺し続けるのです。 とにかく血の量が凄まじいのですが、吹き出す勢いがもっとすごい。水鉄砲でも入ってんじゃないかなと思わせるほどの勢いです。 映画のテンションとしては、このシーンがクライマックスでもなんら問題はありません。しかしこの『人魚伝説』にとっては助走みたいなもん。

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水中戦じゃ敵なし

プール、水、フリー画像

難を逃れた女は、やがて黒幕の男にたどり着きます。舞台は黒幕の男が所有するプール。男をプールに引きずり込んだ女は、男の抵抗もなんのその。そこは海女さん、水中戦においてその辺のおっさんに負けるわけはありません。凄まじい気迫で男を溺死させてしまうのです。 殺人のためではなく、海女さんとして鍛え上げた水泳の技術なのに……。プールに浮かぶ男の死体を背に、その場を離れる女はどんな気持ちなのでしょうか。 それでもまだ、女の復讐は終わっていません。夫の死には原発誘致が関わっていることを知った女は、原発がどういうものなのかも知らぬまま復讐の矛先を向けるのです。映画は邦画史に残る伝説級のクライマックスへと続いていきます。

衝撃の10分間。怒涛の大量無差別殺人

怒涛のクライマックスだけでもこの映画を観る価値があります。鬼と化した女が銛1本を抱え、逃げ惑い抵抗する人々を次々と刺し殺していくのです。 このシーンは時間にして10分間。その間のカットはとても少なく、延々と続く地獄のようなシーンを隅から隅まで映し続けます。それほど映画を観ない人にとっては、一生分の殺害シーンに匹敵するかもしれません。トラウマになってしまう人もいるでしょう。 最後に嵐を呼んで終わりです。比喩ではありません。ガチで嵐呼んで終わりなのです。まさにむちゃくちゃ。細かいことはどうだっていいのです。そこにあるのは果てなき復讐心と、夫への無垢な愛だけなのですから。

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ストーリーを全て知った上で鑑賞してもなんら問題なし

ここまで全ての展開を書いてきましたが、『人魚伝説』を楽しむ上でなんら障害にはならないでしょう。映画から伝わる尋常ではない熱量は、この文章からはほとんど伝えきれません。実際に観るしかないのです。 『人魚伝説』は復讐に駆られた女の悲劇ですが、鑑賞後に陰惨な気分となることは一切ありません。倫理観はどこへやら、映画体験としての爽快感なのです。復讐映画も突き詰めるとこんな風になるんだ、と感動すら覚えます。 ここからは、それ以外の注目ポイントも解説していきましょう。

「橋本愛」似の清純派美人女優による憑依型演技

復讐に取り憑かれた主人公の女を演じるのは白都真理。キリっとした目や口元など、どことなく女優の橋本愛に似ています。 ここまで紹介した殺人鬼は、全て白都真理によって演じられているのです。そんな彼女はこの映画で脱ぐことを厭わず、激しい濡れ場もこなしました。画面を覆い続けるモザイクは時に目障りですが、それだけ見えてしまっているということなのでしょう。 『人魚伝説』の半分は、白都真理の吹っ切れっぷりによって支えられていると言っても過言ではありません。

色彩のコントラストが激しい

海 フリー素材

『人魚伝説』の象徴的な色として、青と赤とがあります。 青は海の色です。海に潜る海女さんを水中のカメラから撮っているため、多くのシーンで海の青色が使われています。この青色の鮮やさはこの上ありません。うっとりするほどの美しさなのです。その美しさの秘密は、水中撮影の第一人者がスタッフに加わっているから。 決して人工的でないのですが、どこまでも澄んだブルーをしっかりカメラに収めています。 赤は血の色です。何度も書いていますが、とにかくこの映画は血がすごい。返り血を顔面に浴びた白都真理は、まさに赤鬼と言えます。 本作に配置された2つの色は、観終わった後もイメージとして頭から離れません。『人魚伝説』のことを考えるたびに、この2色のことを思い出すはずです。

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動画配信サービスや廉価版DVDにより、身近となった『人魚伝説』

血しぶきが飛び散り、赤鬼と化した海女さんがトラウマ級の怖さの『人魚伝説』。神秘的なタイトルだけに惹かれて観ると、確実に痛い目を見るでしょう。主人公は本編約100分の間に38人殺しており、何と約3分に1人殺した計算になります。 ともすれば、単なるキワモノ映画で思わってしまったかもしれません。しかし、白都真理の演技や巧みな映像表現などが本作を傑作に押し上げました。 はじめにも書きましたが、動画配信サービスや廉価版DVDやBlu-rayでの発売により、以前よりもずいぶんと手に取りやすくなっています。あなたのうちにも、1本だけカルト映画のDVDを置いてみませんか?あなたの毎日が刺激的になるかもしれません。

次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

『エスケイプ・フロム・トゥモロー』
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

連載第3回は、夫を殺された怒りに燃える女の姿を恐ろしくも美しく描いた、復讐映画におけるひとつの完成形『人魚伝説』を紹介しました。監督の池田敏春は2010年12月末、ロケ地である波切漁港の堤防で謎の死を遂げています。このことは当時センセーショナルに取り上げられ、作品自体も再注目されました。 話題の尽きない本作の次に取り上げるのは、あの夢の国を舞台とした『エスケイプ・フロム・トゥモロー』! 明日の「今、観たい!カルトを産む映画たち」第4回でも、みなさんにお会いできることを祈っています。