【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち③『人魚伝説』

2018年5月11日更新

『人魚伝説』という映画をご存知でしょうか。夫を殺された女が復讐の鬼となる映画ですが、そんじょそこらの映画とはレベルが段違い。多くの人にとって「人生で最もヤバい映画」になるかもしれない『人魚伝説』についてその魅力を紹介します。

最狂のカルト映画『人魚伝説』

夫を殺された若く美人な海女さんが、復讐に狂った末に大量殺人鬼となる映画、観たくないですか?観たいでしょうそうでしょう。実はそんな映画がこの日本にあるのです。その名は『人魚伝説』。近年廉価版も発売され、手に取りやすくなった伝説のカルト映画の魅力を余すところなくご紹介します。

『人魚伝説』のオープニング

主人公は海女さん。夫が操縦する船から飛び降り海の幸を採り生計を立てています。しょっちゅう喧嘩はするけれど、夫婦は仲睦まじく暮らしていました。ある日、夫が海で仲間の不審死を目撃。2人は海へ向かい、女は浮かび上がらない死体を探し海に潜ります。 しかししばらくしても命綱が引かれず、海上の様子がおかしい。すると上から落ちてくるのは銛で刺された夫の死体。混乱する女はなんとか海から這い上がり、生還します。すぐさま警察に助けを求めますが、自身が濡れ衣を着せられていることが判明。地元の有力者の息子の力を借り、島へと難を逃れます。 誰が夫を殺したのか。女は徐々に復讐の炎を目に宿していく…。 この展開だけでも超面白いのですが、ここから「常に前の展開よりもすごい」モードに入っていきます。

美しき海女さんが男をなぶり殺し

主人公の女は殺した犯人を探るべく、娼婦として近づいた男をドスでめった刺しにします。初めは女だから、と舐めた様子の男ですが一瞬の隙を突かれ包丁はお腹へ。女は男の返り血を浴びながら呆然自失の表情で刺し続けるのです。とにかく血の量が凄まじいのですが、吹き出す勢いがもっとすごい。水鉄砲でも入ってんじゃないかなと思わせるほどの勢いです。 映画のテンションとしてはこのシーンがクライマックスでもなんら問題はありません。しかしこの映画にとっては助走みたいなもん。

水中戦じゃ敵なし

難を逃れた女は、黒幕の男にたどり着きます。舞台は黒幕の男が所有するプール。男をプールに引きずり込んだ女は、男の抵抗もなんのその。そこは海女さん、水中戦においてその辺のおっさんに負けるわけはありません。凄まじい気迫で男を溺死させてしまうのです。 殺人のために鍛え上げた水泳の技術ではないのに。プールに浮かぶ男の死体を背にその場を離れる女はどんな気持ちなのでしょうか。 女の復讐はまだ終わっていません。夫の死には原発誘致が関わっていることを知った女は、原発がどういうものなのかも知らぬまま復讐の矛先を向けるのです。映画は邦画史に残る伝説級のクライマックスへと続いていきます。

衝撃の10分間。怒涛の大量無差別殺人

このクライマックスだけでもこの映画を観る価値があります。鬼と化した女が銛(モリ)一本を抱え、逃げ惑い抵抗する人々を次々と刺し殺していきます。このシーンは時間にして10分間。それほど映画を観ない人にとっては一生分の殺害シーンに匹敵するかもしれません。その間のカットはとても少なく、延々と続く地獄のようなシーンを隅から隅まで映し続けます。 最後に嵐を呼んで終わりです。比喩ではありません。ガチで嵐呼んで終わりなのです。まさにむちゃくちゃ。細かいことはどうだっていいのです。そこにあるのは果てなき復讐心と、夫への無垢な愛だけ。

ストーリーを全て知った上で鑑賞してもなんら問題なし

ここまで全ての展開を書いていきましたが、『人魚伝説』を楽しむ上でなんら障害にはなりません。映画から伝わる尋常ではない熱量は、この文章からはほとんど伝えきれません。観るしかないのです。 『人魚伝説』は復讐に駆られた女の悲劇です。しかし鑑賞後に陰惨な気分となることは一切ありません。倫理観はどこへやら、映画体験としての爽快感なのです。復讐映画も突き詰めるとこんな風になるんだ。 ここからはそれ以外の注目ポイントも解説していきます。

「橋本愛」似の清純派美人女優による憑依型演技

復讐に取り憑かれた主人公の女を演じるのは白都真理。キリっとした目や口元など、どことなく橋本愛に似ている。ここまで紹介した殺人鬼は全て彼女によって演じられているのです。そんな彼女はこの映画で脱ぐことを厭わず、激しい濡れ場もこなします。 画面を覆い続けるモザイクは時に目障りですが、それだけ見えてしまっているということなのでしょう。『人魚伝説』の半分は白都真理の吹っ切れっぷりにより支えられていると言っても過言ではありません。

色彩のコントラストが激しい

『人魚伝説』の象徴的な色として、青と赤とがあります。 青は海の色です。海の潜る海女さんを、水中のカメラから撮っているため多くのシーンで海の青色が使われています。この青色の鮮やさはこの上ありません。うっとりするほどの美しさなのです。この美しさの秘密は、水中撮影の第一人者がスタッフに加わっているから。決して人工的でないのですが、どこまでも澄んだブルーをカメラがしっかり撮っています。 赤は血の色です。何度も書いていますが、とにかくこの映画は血がすごい。返り血を顔面に浴びた白都真理は、まさに赤鬼と言えます。 この映画に配置された二つの色はイメージとして頭から離れられません。この映画のことを考えるたびに、この二色のことを思い出すはずです。

廉価版により、身近となった『人魚伝説』

はじめにも書きましたが、現在では『人魚伝説』の廉価版DVDも発売され、ずいぶん手に取りやすくなりました。あなたのうちにも一本だけカルト映画のDVDを置いてみませんか?あなたの毎日が刺激的になるかもしれません。

それでは、次回連載は来週日曜、5月20日に公開予定です。お楽しみに!