【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち②『ポリエステル』

2018年5月8日更新

30年以上も前から匂いのする映画があった!画期的ながら忘れ去られてしまった、ジョン・ウォーターズ監督の伝説のブラック・コメディ、『ポリエステル』の魅力を紹介します!

史上初4DX映画!?忘れられたカルト映画

今となっては4DXとして匂いが出る映画は珍しくないですが、実は30年以上も前に匂いがする映画がありました。タイトルはその名も『ポリエステル』。 「オドラマ」と呼ばれる上映方式で上映した本作は各国で話題騒然になりましたが、日本でも一度VHSになったきりで映画の存在自体忘れられてしまいます。一体どんな仕組みで、どんな内容で、どんな匂いがしたのか?知られざるカルト映画について解説していきます。

『ポリエステル』とは

ジョン・ウォーターズ
©Van Tine Dennis/Sipa USA/Newscom/Zeta Image

『ポリエステル』は、悪趣味映画『ピンク・フラミンゴ』で一世を風靡したジョン・ウォーターズ監督が1981年に史上初の「ニオイの出る映画」として公開したブラック・コメディ。壮絶な悲喜劇と見世物的面白さが合体した稀有な傑作です。 本作が初の商業映画となるジョン・ウォーターズ監督らしい悪趣味とドタバタの中に優しさが溢れており、「ニオイが出る」というギミックを抜きにしても見られるべき作品ではないでしょうか。

『ポリエステル』あらすじ

典型的な郊外ボルチモアに住む主婦のフランシーヌは、不倫する夫やシンナー中毒の息子、成績不振で男遊びを繰り返す娘の問題に頭を悩ませますが、なんとか一家団欒を保とうと努力。しかしそんな努力は功を奏さず、家族はバラバラになってしまいます。 家に一人取り残されたフランシーヌはストレスで酒浸りになり自殺を図りますが、何とか友人のカドルスが発見。一命は取り留めたものの、フランシーヌにはさらなる不幸が襲います。果たして彼女は幸せを取り戻すことはできるのでしょうか?

匂いのする映画、「オドラマ」方式って!?

『ポリエステル』は「史上初のオドラマ上映」として宣伝されました。「オドラマ」とは、匂いを意味する「odor」と物語を意味する「drama」を合体させたジョン・ウォーターズ監督オリジナルの造語です。 匂いがすると言っても、劇場から香りが吹き出してくるようなことではありません。まず上映前に観客には数字が10個割り振られたカードが配られ、画面上に現れる数字に合わせてその数字を爪やコインで削ります。すると映画の場面に合わせてカードから匂いがするという、大変アナログかつチープな代物でした。

一体どんな匂いがするの?

匂いカードに書かれた種類は全部で10種類。「どんな匂いがするのかなあ」と詮索する観客たちをフェイントをかけながら楽しませてくれます。 オープニングに登場する1番がバラの香りである為油断してしまいますが、残り9つはジョン・ウォーターズ監督らしい不愉快なものばかり。おなら、シンナー、スカンク、ガソリンと見世物根性丸出しで怖いもの見たさをくすぐるチョイスがたまりません。他の匂いは是非映画を観てご確認してみて下さい。

音楽担当はあのニューウェイブ・バンド!

本作『ポリエステル』の音楽を担当しているのはニュー・ウェイブバンドの代表格として70年代後半から活躍する、デボラ・ハリー率いるブロンディ。人気絶頂時での抜擢のため、カルト的インディーズ監督として知られるジョン・ウォーターズ監督作での起用は当時でも意外だったそうです。 また、ラストを飾る曲「The Best Thing」を歌うのは『ゴースト・バスターズ』や『恋はデ・ジャブ』でお馴染みのビル・マーレイ。本作に出演してるわけでもないのに、無駄に豪華な配陣です。ちなみに、監督のジョン・ウォーターズはビル・マーレイのことが大嫌いなのだそう。なぜ起用したのか、全くの謎です。

匂いだけじゃない!意外と泣けるストーリー展開

匂いだけに注目が集まりそうですが、ストーリー展開も侮れません。主人公のフランシーヌに降りかかる不幸をオーバーな演出と演技で描いているのですが、アメリカの中流階級やキリスト文化を批判しながらもどこか優しい目線が意外と感動させます。 そこでキーパーソンとなるのが主人公フランシーヌの友人カドルスです。演じるのはジョン・ウォーターズ監督作常連で歌手でもあるエディス・マッセイ。主人公が猛スピードで不幸になっていくのを、「まあ人生どうにかなるわよ」と励ます姿に思わず目頭が熱くなります。 また、オドラマ・カードを生かしたラストは素晴らしいの一言。映画のラストを匂いで語るのはこの映画しかないのでは?

主演の女優(男優?)に注目!

主人公である中流階級の主婦フランシーヌを演じるのは、巨体と厚化粧で一度見たら忘れられないドラァグクイーンのディヴァインです。ジョン・ウォーターズ監督の常連で、『ピンク・フラミンゴ』のポスター等でも一度は見たことがある人は多いのではないでしょうか。 強烈な見た目からいつもあまりいい役どころがないのですが、本作では幸せな家族の主婦という設定。かなり無理がありそうですが、次第に良き妻に見えてくるから不思議です。なぜか彼女を応援したくなるような魅力に溢れています。

「オドラマ」が訴訟問題に発展!

『ポリエステル』は「匂い」の物珍しさでヒットしたものの、誰も真似することなくしばらくの間「匂いのする映画」は製作されませんでした。しかし2003年に突如として公開、それが人気アニメの劇場版第三弾『ラグラッツのGOGOアドベンチャー』です。 この映画も『ポリエステル』同様匂いの出るカードを配布して「オドラマ」方式として公開しましたが、実はジョン・ウォーターズ監督は「オドラマ」で商標登録をしていたため訴訟問題に発展してしまいます。結果、『ラグラッツのGOGOアドベンチャー』の製作者がウォーターズ監督のファンで真似したと告白し、「アロマ・スコープ」と名前を変えることで解決しました。 ちなみに『スパイ・キッズ4D:ワールドタイム・ミッション』公開時も「アロマ・スコープ」という名の匂いカードが配布されていました。

『ポリエステル』が気に入ったあなたにこの作品!

もし『ポリエステル』が気に入ってくれたあなたには、同じジョン・ウォーターズ監督初長編作『モンド・トラッショ』をおすすめします。 鶏の頭が切り落とされるオープニングから全編オールディーズが絶え間なくコラージュのように流れていき、あまりにも強烈な映像体験ができます。モノクロでほぼ台詞がなく、ストーリーも意味不明なのですが、『オズの魔法使い』にオマージュを捧げたラストの救いがこの映画を唯一無二のものにしているのではないでしょうか。

『ポリエステル』は最高で最悪な傑作!

劇場公開当時とVHS発売以外では「オドラマ・カード」が付いていないので、本当に匂いを嗅ぐことはできません。しかし、「映画を観る」という行いが観客にとって最高に楽しいものであるために、『ポリエステル』は見ている僕たちに全力で襲い掛かります。その志の高さは「オドラマ・カード」がなくとも、本編の面白さだけで十分理解できるでしょう。 下品で喧騒的な映画なのに、どこか優しいこの映画の世界にいつでも帰りたくなります。不思議な魅力に溢れた『ポリエステル』の一刻も早いソフトの再発を願いましょう。