2021年1月18日更新

【連載】今、観たい!カルトを産む映画たち#4『エスケイプ・フロム・トゥモロー』夢の国の都市伝説をご存じ?【毎日20時更新】

『エスケイプ・フロム・トゥモロー』
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

名作映画だけでは物足りない!そんなあなたへ送る、ニッチだけれど骨太な隠れたカルト映画をご紹介する新連載。第4回目の今回は、夢の国での悪夢を描いた『エスケイプ・フロム・トゥモロー』の魅力をお伝えします。

目次

連載第4回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

フリー画像、人魚

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第3回の『人魚伝説』(1984年)に続き、第4回は『エスケイプ・フロム・トゥモロー』(2014年)を取り上げます!

夢の国での悪夢を描いた『エスケイプ・フロム・トゥモロー』【ネタバレ注意】

ディズニーランド
©︎Disney Enterprises, Inc./Photofest/zetaimage

“ディズニー”。それは物心のつく前から、そして恐らく死ぬ間際まで生活のあちらこちらにある存在。特にテーマパークであるディズニーランドは人々に夢と希望を与え、絶大な愛と信用を寄せるファンを生み出してきました。 あなたも、そのファンの1人ですか?ミ○キーとミ○ー好きですか?ランドの年パス持ってますか?そうですかそうですか。 本日は、そんなあなたにとって「Wake up call(警鐘)」となりそうな、私の大好きなカルト作品『エスケイプ・フロム・トゥモロー』を紹介したいと思います。 一見しょうもない中年男の奇妙なジャーニーを描いた作品にみえて、現代社会の闇(というかディズニーの闇)を描いたパンクな作品。ダークコメディではありますが、真意がわかるとある意味ホラーな映画です。 ※本記事では映画の展開について、ネタバレありで触れています。まっさらな状態で映画を楽しみたい人は、視聴後に記事を読むことをおすすめします。

フレンチギャルの尻を追いかける変態親父の闘い

エスケープ・フロム・トゥモロー
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

『エスケイプ・フロム・トゥモロー』のあらすじはこうです。 子供2人と妻と家族でディズニーランドに遊びにきた中年男が、いざ入園するって朝に突然、電話でリストラを通達されます。今から夢の国に行くっていうのに、なんて事をしてくれるんだ! 妻には口が裂けても言えない……そんな葛藤を心に抱きながら、平静を装ってディズニーランド行きのモノレールに家族と乗り込む彼。しかし、そこにフランス人のピッチピチな若い女子2人が乗り込み、自分の息子を「超かわいい〜」なんて言いながらチラチラ見てきます。身体をくねくねさせながら、歌ったり踊ったりしている陽気な彼女たちを見て、もう彼はニヤニヤが止まりません。

『くまのプーさん』(2011)
© DISNEY/zetaimage

早速ディズニーランドに着いて、しばらくは家族で色々な乗り物に乗って普通に楽しみます。 しかしですね、先ほど若い女子のフレッシュな身体を見て興奮してしまった男は、もう性欲が爆発寸前!プーさんのハニーハントに乗りながら妻とイチャイチャしようとするも、「子供の前なんだから止めて!」と拒否されてしまいました。 ここから、徐々に妻との間に亀裂が入っていきます。行き場を失った性欲をどうしてくれよう、そんな風にフラストレーションを抱えていた彼の耳に聞こえたのは、遠方ではしゃいでいるあのフレンチギャルたちの声でした。 かくして、この変態親父によるフレンチギャルの尻を追いかける闘いがはじまったのです。

事件はイッツ・ア・スモールワールドで起きた

エスケープ・フロム・トゥモロー
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

頭の片隅にフレンチギャルを置きながら、家族とアトラクションを楽しむ父。しかし、イッツ・ア・スモールワールドに乗ったときから、彼の世界はなんだか奇妙な方向に変化していきます。 愛らしい顔で歌を歌ったり、観客に笑いかけたりする人形たちの顔が、一瞬邪悪なものに見える。俺、疲れているのかな……。なんて思いながら、その後息子がバズ・ライトイヤーに乗りたいと言い出すので、妻と娘、自分と息子と二手に分かれて園内を楽しむことにします。 その時、例のフレンチギャルを発見!近くに並べるようにと、アトラクションに走っていったり、彼女達が「超かわいい〜」と言っていた自分の息子を出汁にしたりします。本当に甲斐性のない親父です。 そんな父に振り回された息子は、最終的に乗りたくもなかったスペースマウンテンに乗る羽目になり、刺激が強すぎてゲロまみれに。妻と合流すると、悲惨な息子の姿を哀れんで自分たちはホテルで休むと言って帰ります。 まだ遊びたいと言う娘を連れて、再びフレンチギャルを探しにいく父。しかし、その時奇妙な美魔女に会うんですね。この人が、まるで本当に“魔女”みたいで、自分の豊満な胸元に付けたネックレスの宝石をこれ見よがしに見せてきます。 すると魔法にかけれられたかのように、何故か次の瞬間その女をホテルの一室でめちゃくちゃに抱いている自分がいる!それから、一見悪夢のような、悪い妄想のような「現実」が、この男に容赦なく襲いかかってくるのです。

ディズニー・ランド内を無許可で撮影!奇跡の問題作である訳

エスケープ・フロム・トゥモロー
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

本作はまさに奇跡のような映画。何故なら、終始ディズニーランドを映しているにもかかわらず、撮影自体は無許可で行われていたからです。 その前知識をもってして観ると、よりこの映画のカメラワーク、絵作りの凄さがわかります。B級作品なので、合成しているなとわかりやすいシーンも多々見受けられますが、それはそれで映画に対する愛が伝わる演出になっている。 なにより、自分が行って楽しんでいたあのディズニーランドと何ら変わりのないはずなのに、モノクロで映し出されているだけで、相当不気味で怖いという点も、本作の見所ですね。

「それ、七面鳥じゃないわよ」ディズニーの“徹底的な清潔感”への恐怖

エスケープ・フロム・トゥモロー
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

終始不思議で、幻想的な世界観をもつ本作ですが、その中にはかなりダークで思わず背筋の凍るようなメッセージが込められています。 ディズニーランドには、ポップコーンや七面鳥などが売っている屋台がありますよね?主人公も、この七面鳥を皆と同じように買ってベンチで食べていました。しかし、隣に座っていた謎の美魔女が突然「それ、七面鳥じゃないわよ」なんて言ってくるのです。 「それは本当はエミュー(ヒクイドリ科の鳥)なの。そう知っていたら、買っていた?」と問う彼女に、「うーん、買わないね」と答える主人公。この会話劇が本作の全てを物語っていると言っても過言ではありません。一見美味しそうに見えたり、美しそうに見えたり、綺麗に見えるものも本当はその実体をわかっていないのだから。

エスケープ・フロム・トゥモロー
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

人々が守られていると信じてやってくる夢の国、彼らは“夢を見させられている”としても、降り掛かってくる災いがある事に変わりはありません。 ネックレスの宝石で主人公に魔法をかけて誘惑し、彼の身体に股がって「私の隠れミッキーを突いて!」なんて、映画史に残るような迷台詞を吐いたあの美魔女。映画後半で、彼女が自分の正体を明かすシークエンスがあります。 彼女はもともと、ディズニープリンセスとして子供とハグをしていたのですが、裏では可愛い子供を誘拐していました。プリンセスから魔女に転落した彼女の、「ランド内で死亡事故は全然起きている。この前はビッグサンダーマウンテンで首切りがあった」という、何とも物騒な台詞にも注目です。 つまり、ディズニーランドの中では例え誰かが攫われようと死のうと、それはまるで“なかったこと”にされる。園内にカラスや虫が出ない、ゴミも落ちていないという、ディズニーランドの“徹底的な清潔感”が話題になることもありますよね。 本作のラスト5分間の映像は、そんなメッセージを観客に突きつけた、まさに狂気の沙汰としか思えない圧巻のものでした。

全ては現実からの逃避行、しかし悪い事は起こる。たとえ夢の国でも

エスケープ・フロム・トゥモロー
© 2013 ©MMXIII BY MANKURT MEDIA LLC

映画の内容は、冒頭から最後までこの1人の男による現実からの逃避行を描いたものです。 リストラからの逃避、妻との結婚生活や父親という役目からの逃避。それと比例するかのように、非日常的なディズニーランドという場所、非日常なフレンチギャルや自分を性的に誘う美魔女というキャラクターが登場します。 一方で妻は夫と違って、非日常的な空間においても子供の面倒を見るという、母としての役割を全うしていました。だからこそ、彼らはどんどん精神的に乖離していき、こうしたいくつものズレがゾッとする恐怖を演出しているのでしょう。 本作は2021年現在、Amazonプライムビデオなどの動画配信サービスで視聴することができます。夢の国の別の一面を見てみたい人は、ぜひチェックしてみてください。

次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

『サンタ・サングレ/聖なる血』アレハンドロ・ホドロフスキー
©Republic Pictures/Photofest/zetaimage

連載第4回は、幻想や妄想、悪夢と現実の入り交じる夢の国で逃避し続けた男の末路を描く、『エスケイプ・フロム・トゥモロー』を紹介しました。 その末路は恐らく揶揄的に描かれていて、実際は多分そういう事なんじゃ……なんて思うはず。はてさて、一体どうなってしまうのでしょうね。あなたももし、逃避したくて夢の国に行きたくなったら、ぜひこの作品を手に取ってご覧あれ! 「今、観たい!カルトを産む映画たち」第5回は、アレハンドロ・ホドロフスキー監督によるサイコスリラー『サンタ・サングレ/聖なる血』(1990年)を紹介します。次回もお楽しみに!