2018年5月15日更新

ヤクザ映画『孤狼の血』が男汁過ぎて強い【キャスト相関図、ネタバレ解説まで】

©2018「孤狼の血」製作委員会

映画『孤狼の血』が2018年5月12日より全国公開されました。この記事では、分かりづらい人間関係やストーリーを追いながら、東映ヤクザ映画としてとことんこだわり抜かれた本作の魅力を解説していきます。これは新しいバイオレンス映画の傑作だ。

映画『孤狼の血』(ころうのち)の勢いが素でエグい。

伝説の映画『仁義なき戦い』を製作した東映が新たに放つ、凶暴で凶悪な極上バイオレンスエンタメ映画『孤狼の血』が5月12日より公開。 昭和63年の広島県にある架空の都市・呉原を舞台に、血で血を洗うヤクザ同士の抗争に身を投じていく刑事二人を描いた本作は、圧倒的極上バイオレンスエンターテインメントな傑作として早くも評価され始めています。 その徹底的に追求された暴力・ゴア表現で、日本映画業界全体に単独で喧嘩を挑む姿勢は、それだけで過去の東映ヤクザ映画を思わせてくれます。 今回は、そんな日本一元気な映画、『孤狼の血』を徹底的に解説していきます。

なぜ、今さらこんな男臭いヤクザ映画をやるのか

仁義なき戦い
(c)東映

広島県呉市という街とヤクザというキーワードが示す方程式の解は、これまで長きに渡って深作欣二の歴史的名作『仁義なき戦い』(1973)でした。 高倉健の「昭和残侠伝」シリーズや藤純子の「緋牡丹博徒」シリーズのような任侠世界を過剰なまでに美化した東映ヤクザ映画が主流であった60年代を経て、それに対抗するべく彗星の如く現れた『仁義なき戦い』。実際に起こった抗争事件をベースとし、これまでの様式美を一切無視した泥臭いリアルな描写で、「東映実録モノ」というジャンルを切り開きました。 しかし公開から35年の時が流れ、当時新しかったこの路線ももはや「古き良き時代」と揶揄されるようになってしまいました。 今やVシネマメインで停滞中の「ヤクザ映画」に一石を投じるべく、東映が『仁義なき戦い』と同じく広島を舞台として作り上げた、強烈で凶悪な全く新しいヤクザ映画、それが『孤狼の血』なのです。

『孤狼の血』のあらすじ

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

物語は呉原東署二課暴力団係(通称・マル暴)に赴任してきた新米刑事・日岡(松坂桃李)が、数え切れないほどの表彰と処罰を受けてきた敏腕かつ横暴な巡査部長・大上(役所広司)の下につくことから始まります。 大上の暴力的な捜査や暴力団からの金銭の授受を目撃した日岡は、彼のやり方に疑問を抱き異議を唱えます。しかし、14年前の大規模な抗争をきっかけに真っ向から対立することとなった五十子会と尾谷組の長らく続く冷戦状態をなんとか維持し、大きな衝突を防ぐべく奮闘する大上の姿を見るうちに、日岡は自身の考えを改め始めます。 失踪した五十子会のフロント企業に勤める男・上早稲の捜索や尾谷組構成員・柳田が殺された事件の捜査を通して、次第に絆を深めていく二人でしたが、ある日大上に関する重要な疑惑が浮上します。 なんとそれは、14年前の抗争を終結させるきっかけとなったある男の殺人事件に、大上が関わっているというものでした。

キャスト相関図から複雑な抗争の全貌を把握しよう

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

警察・暴力団・右翼団体・養豚所など、様々な組織が絡む、複雑な様相を持つこの抗争。すでに鑑賞済みの人も「どれがどの組織の何なのか」わからなくなってしまったのでは? 予習・復習の為にも、人間関係をおさらいしていきましょう。

最強の第三勢力・呉原東署刑事二課(マル暴)

孤狼の血 キャスト相関図改2
©︎ciatr

暴力団を取り締まる監視組織のような役割である、刑事第二課暴力団係(通称マル暴)。 この広島県警・呉原東署のマル暴メンバーは曲者だらけです。役所広司演じる傍若無人の主任・大上を筆頭に、加古村組に肩入れする田口トモロヲ演じる大上のライバル主任・土井。中立の立場で全体を見守る矢島健一演じる友竹係長、比較的温厚で情に熱いさいねい龍二演じる菊池など、一枚岩ではまとまらない個性的な面々となっています。

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

そんな東署マル暴へとやってきた松坂桃李演じる新人刑事・日岡は、正義感が強くあらゆる不正を見逃せない性格で、なかなか馴染む事ができません。 また、要所々々で不気味に蠢く県警の監察官の嵯峨(滝藤賢一)の存在が、物語をあらぬ方向へ推し進めることに。

地元「呉原」の尾谷組と、「広島」の五十子会の抗争

孤狼の血 キャスト相関図改2
©️ciatr

組長である尾谷(伊吹吾郎)が鳥取刑務所に服役中である事から、尾谷組の事実上の実権を握るのは江口洋介演じる若頭・一ノ瀬という男。石橋蓮司が演じている狸親父・五十子を会長とする五十子会傘下の新興組織・加古村組の若頭、竹野内豊演じる野崎とは犬猿の仲で、組織ごと対立しています。

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

この対立が五十子会のフロント企業で働く上早稲(駿河太郎)の失踪をきっかけに、五十子会傘下でありながらマル暴の大上の親友であるピエール瀧演じる瀧井、尾谷組が経営するクラブ梨子のママ・里佳子(真木よう子)を巻き込みながら、激しい抗争へと発展していきます。

激ヤバシーンの数々

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

「コンプライアンス」という言葉が世間に浸透して数年。現在ではテレビも映画も視聴者からのクレームを恐れて、その表現をグッと抑えざるを得ない状況にあります。 そんな日本の映像業界に警鐘を鳴らすべく、「日本で一番元気な映画」を目指し製作されたこの『孤狼の血』は、衝撃的なバイオレンスシーンで満ち溢れています。 ここでは監督の白石和彌が『凶悪』(2013)や『日本で一番悪い奴ら』(2016)で魅せた圧倒的な暴力描写を軽々と超える、最強で最凶なヤバいシーンの数々をご紹介します。

この映画は豚のケツから始まる!

東映のロゴから明けてすぐ、画面いっぱいに豚のケツが映し出される本作。カットが変わると豚小屋に拘束されたすでに血だらけの上早稲(駿河太郎)が現れます。 数人のヤクザに囲まれてなにやら拷問を受けている様子を、小屋の外から加古村組若頭の野崎(竹野内豊)が覗いています。次のカットで豚のケツからリアルなクソが放出され、それを口いっぱいに押し込まれる上早稲。 豚のクソを食わされるという強烈なシーンで幕を開けることによって、まるで観客を「こういう映画だぞ?ついてこれるか?」と試しているようでした。

キンタマに埋められた真珠を取り出す!

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

尾谷組構成員の柳田(田中偉登)が殺され、その恋人であったクラブ梨子のママ・里佳子(真木よう子)の依頼でその犯人である加古村組構成員・吉田(音尾琢真)を拷問する大上。 里佳子の美人局によって全裸でラブホテルのベッドに縛り付けられた吉田は、成す術もなく虚勢を張ることしかできません。大上が調べてみると「俺の真珠を触ってみるか?」と里佳子に握らせたキンタマには、なんと本物の真珠が埋まっていました。 柳田を殺した犯人を、そして上早稲を拷問した人物を探るため、大上はその真珠入りのキンタマにメスを入れていきます。 最後には「ぎゃあっ!」と大声をあげる吉田の口に、取り出した真珠をブチ込むのでした。

見事なまでの完成度に涙する水死体【注意:ネタバレあり】

養豚業兼五十子会の手下・善田(岩永ジョーイ)を取り調べる際に、部屋の机をひっくり返し、その足に口を突っ込ませるなど、数々の恐ろしい脅しをかけてきた大上。 そんな彼が警察署内の思惑に翻弄されて、重大なミスを犯してしまいます。結果的に五十子の恨みを買った大上は、彼らの策略によって殺害されてしまうのでした。 次に彼が見つかったのは、川から上げられた水死体となった姿で、その手足や顔はパンパンに膨れ上がり、全身に青筋が走っていました。 昨今の刑事ドラマで見つかる水死体は、あまりにも綺麗な状態で"寝ているだけ"に見えるものも少なくないのですが、これと比べると今作の作り込みは異常です。 あまりにもエグい死体を直視したくないと思わせる事で、観客の感情を発見した日岡と同じステージまで引き上げ、深い悲しみと静かな怒りを抱かせる事に成功しています。

阿鼻叫喚の展開!物語の怒涛の結末【ラストネタバレ】

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

長年ストッパーの役割を果たしていた刑事・大上の死亡によって、頭不在の尾谷組とそれを良い事に大胆にシマを荒らし続ける五十子会の衝突は、もはや止められないものとなりました。 無残にも大上を殺され復讐の炎を燃やす日岡はその抗争の裏で暗躍し、五十子会会長・五十子(石橋蓮司)と尾谷組若頭・一ノ瀬(江口洋介)をわざとぶつけます。トイレという無防備な状況で襲われた五十子は、あえなく一ノ瀬の手にかかり、斬首されたその首を小便器に放置されるという非業の死を遂げるのでした。 警察官である日岡と協力関係だと信じていた一ノ瀬は、自分の身代わりに舎弟を犯人として差し出します。しかし、日岡はそれを無視。一ノ瀬を現行犯として見事逮捕する事に成功し、大上の死に関わった人間を全て排除する事に成功するのでした。 この物語において「孤狼」とは、覚醒を遂げた日岡の事だったのかも知れません。

監督・白石和彌が演出する昭和の男たちが強烈

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

カルピスの原液を2リットル飲まされたような圧倒的な"濃度"で、胸焼けしそうなほどの衝撃を与えてくれた『孤狼の血』。 昭和63年というバブル全盛期のギラギラした世界を、韓国ノワール調のライティングで味付けする事で輝く男たちの脂汗と、トッピング全部のせでカロリーたっぷりのゴア表現の数々で見事に描ききっており、「本気」で日本映画界に喧嘩を売る姿勢がハッキリと垣間見えました。

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

しかし怒号飛び交う男たちの狂乱の中にも、消え入りそうなマッチの火のように儚げで繊細な一面を覗かせる白石和彌監督ならでは演出が光る本作。2018年最高のバイオレンスエンターテインメントとなったのではないでしょうか。

広島の呉市でオールロケ!過去の東映実録映画との比較

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

飛び散る汗と唾がギトギトに光る男たちの顔面クローズアップや街のロングショットに乗せてナレーションが入る印象的なカットは、『仁義なき戦い』に始まる実録路線のオマージュとして本編中幾度にも渡り登場し、東映の実録ヤクザ映画の歴史に対するリスペクトが随所に見られる作品となっていました。 特殊メイクなどの技術向上により、当時はできなかったゴア表現を実現。「進化した実録モノ」として抜群の破壊力を獲得しました。 また広島の呉市でのオールロケで撮影された点も『仁義なき戦い』との共通点ではありますが、主人公に新人刑事を据える事で観客の感情移入をスムーズに行える構成となっており、客を選ぶ「ヤクザ映画」から一歩踏み出した"誰が見ても楽しめる"エンタメ・ムービーへと昇華しています。

映画『孤狼の血』はバイオレンスの歴史を塗り替える傑作!

孤狼の血
©2018「孤狼の血」製作委員会

ぬるま湯に浸かりきった日本映画業界に一石を投じるべく東映が再び火をつけた、新しいヤクザ映画へのアプローチを白石和彌の手腕によって実現させた『孤狼の血』。 かつての名作に対する愛情と畏敬の念を忘れず、見やすいエモーショナルな演出と過激なバイオレンス表現がバランスよく調合されており、「現代のヤクザ映画」としての確かな活路を見出していました。 制約と誓約によって締め付けられた今だからこそ見たい、「映画」ならではの楽しみを提供してくれるこの作品を見て、肩で風を切りながら映画館を後にしてみるのはいかがでしょうか。