パペット制作リーダーに聞く『犬ヶ島』の舞台裏「1000体以上作った。」【インタビュー】
映画『犬ヶ島』が5月25日ロードショー。
「TOHO シネマズ 六本木ヒルズ」ではパペットと劇中セットが展示
『グランド・ブダペスト・ホテル』『ファンタスティック Mr.FOX』『ムーンライズ・キングダム』などを手掛けたウェス・アンダーソン監督の最新作『犬ヶ島』が、2018年5月25日に公開されます。 それに合わせて、5月19日から27日まで「TOHO シネマズ 六本木ヒルズ」の ロビースペースで、『犬ヶ島』のパペットと劇中セットが展示されています。 作られた人形は1097体、撮影のためのセットが240、撮影期間が445日、スタッフの数も670人と、ストップモーションアニメ業界では規格外のスケールで作られたこの作品。 今回、このとんでもない数のパペット制作のリーダーを担当したアンディ・ジェントが来日したので、パペット作りの苦労した点などを聞いてみました。
作品の舞台は「日本」
今回の作品の舞台は今から20年後の「日本」。犬の病が流行する街で、人間に感染させないために、犬を「犬ヶ島」に追放する法案が可決され、ゴミの島と化している犬ヶ島に次々と犬が送られていきます。 そこに12歳の少年アタリが、自分の犬スポッツを探すために、単身小型飛行機で犬ヶ島に乗り込んで、そこいる犬たちとともに、愛犬を探していくうちに、徐々に大人たちの陰謀が明らかになってくるーーという物語になっています。 まずは、ウェス・アンダーソン監督からこの映画について話をもらったときの印象について聞いてみました。
今回の映画の話を監督から聞いたとき、どう思いましたか
アンディ・ジェント(以下、アンディ) 最初、アンダーソン監督から電話が掛かってきて、「犬のパペットを作りたいんだけど、できる?」って聞かれて。 前回の映画(『グランド・ブダペスト・ホテル』)を一緒に作ったときも楽しかったから、気持ち的にはすぐにOKを出したかったんだけど、監督から、とりあえずYouTubeのリンクと脚本を送るから見てくれ、と言われたんで、それを見ることにしたんだ。 そのYouTubeは「日本の太鼓を叩いてる動画」だったんだけど、僕の心はもう決まっていたから、すぐにOKを出したよ。
監督と話したとき、監督のこだわりはどこにありました?
アンディ) とにかくオーセンティック、つまり日本的であることに彼はこだわっていたね。 そして、物語の背景では、日本の文化が反映されている。だから、制作に入る前に40本ほど日本の映画を見せられたよ。 それで何を勉強したかというと、日本の美的センスであったりスタイルであったり。また、衣装とともに日本の俳優さんのいろいろな動きや顔の表情も見ていた。 そしてアンダーソン監督のこだわりはもうひとつ。犬の動き方や人間の動き方。これが違和感なく動いていないといけなくて、さらに、同じ犬の動きであっても、一匹一匹個性を出さなくてはいけない。そういったところも、この映画のこだわりだろうね。
日本人を作るということで、今までと違った苦労の点は?
アンディ) 衣装も作るので、それも大変だったけど、メイジャー・ドウモ(小林市長の補佐)のように、デフォルメされたキャラクターが、日本の中にいても違和感ないようにするところが苦労したよ。 あと、男の子のアタリも、みんなが「頑張って」と思うように、共感を得られるキャラクターにしなくてはいけないかった。 そういうふうに、それぞれのキャラを立てながら、あの世界に違和感なく共存できるようにするのが、いちばん大変だったかな。
「手作り感」に対するこだわり
この「ストップモーションアニメ」は、よくあるCGアニメーションとは違い、ひとつひとつ手作りで、さらに1カットごとに手動で動かしていかなくてはなりません。 なぜこれほどまでに「ストップモーションアニメ」にこだわったのでしょうか?
最近CGやアニメの映画も多いですが、あえてパペットでやる意義はどこにありますか
アンディ) それはやっぱりリアルであること。 もちろん、CGがダメだだとか、そういったことはないんだけど、でも実際そこで人間が作って、それを人間の手で動かすことで生み出されるリアルな感覚は、フィルムを通して確実に観客に伝わるものだと思う。そこがすごく重要で、他のものとは違う魅力だと思っている。
アンダーソン監督もこの手作り感がとても好きなんだ。 特にこの現代、なんでもコンピュータで作れちゃう現代にあえて手で作る、というのはとても貴重だと思うし、貴重だからかもしれないけど、どの時代よりも、今がストップモーションのアニメが多い。 そして、この『犬ヶ島』のような映画を観て、それに感化されてまた新しいストップモーションアニメが生まれると嬉しいよね。
今までの映画の技術は役に立っていますか?
アンディ) すべての映画が、僕にとっては“ニューチャレンジ”だよ。 もちろん、今までの映画で培ってきた技術は、新しい映画にも活かされている。だけど、それだけでは補いきれない新しいチャレンジが今回の映画にはあった。 たとえば、ほとんど透けて見える皮膚だったり、いろいろな表情の顔だったりとか、犬が何頭も一緒に走っているシーンでどうやってパペットを作っていくとかは、今回初めてのチャレンジだったよ。 でもアンダーソン監督とは、『グランド・ブダペスト・ホテル』でも一緒に仕事をしていたので、彼がどういう監督で何を求めているのかはわかっている。そういう意味では過去の経験は役にたっているね。 たとえば、パペットを直して持っていっても、「うーんやっぱり前のに戻しほうがいいかな」とか言われるんだよ(笑)。でも、そこも話し合いながら、試行錯誤しながら作っていくわけで。
1000体以上のパペット
最新作『犬ヶ島』の驚く点は、やはり1000体以上も制作されたというパペットの数でしょう。普通の映画でもこれほどの規模とスケールのストップモーションアニメは聞いたことがありません。 アンディ・ジェントはこの規模についてはどう思ったのでしょうか?
今回、1000以上のパペットを作っていますが、今までこんなにパペットを作ったことはありますか?
アンディ) もちろんないよ!そういった意味ではストップモーションのアニメの中でも、最も野心的でスケールの大きい作品だと言っても過言ではないと思う。 そしてパペットの数だけではなく、この映画にはいろいろなテクニックが使われている。 たとえば1つのシーンで、2Dの手書きの背景、メカニカルドローイング(顔の動きなどを手で動かすこと)、リプレイスメント(違う表情の顔を差替えたりすること)といったことをやっている。 だから、本体は1100体だけど、1つのパペットで5つの大きさの違う人形を用意しているし、顔も表情に合わせて1体につき数十個用意しているので、実際につくったものとなると、何十倍にもなるよ。
どのキャラクターにいちばん思い入れがありますか?
アンディ) それは聞いちゃいけないよ(笑)。パペットに同じ質問ができるかい? ……でも、あえて言うなら、いちばん初めに作ったパペットに気持ちが入っちゃうよね。ここでいうならチーフとアタリかな?この2人がこの映画の雰囲気を作っているからね。 だけど、小さい役だけど、カーラーを巻いたおばさんのキャラクターもけっこう好きだよ。
パペットもさることながら物語も素晴らしい
最後に、この映画の見どころについて聞きました。 アンディ) この映画は、小さい男の子が必死に自分の犬を探す、すごく素晴らしい物語なんだ。そこを見てほしいよね。
どうしてもパペットの数や撮影方法に注目が集ってしまいますが、アンディも言っていたとおり、この映画の魅力は、CGアニメにはない“リアル感”でしょう。たしかに、犬や人間の表情など、それがパペットであることを忘れてしまいそうになるほどリアルです。 そのパペットと一緒に喜怒哀楽を感じながら、映画を楽しんでみてはいかがでしょうか?