2018年6月15日更新

【ネタバレ】映画『空飛ぶタイヤ』のモデルとなった事故や原作と比較解説。ドラマではなく映画となった理由とは

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空飛ぶタイヤ

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映画『空飛ぶタイヤ』を最速レビュー!【ネタバレ注意】

空飛ぶタイヤ
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

『半沢直樹』『陸王』など、数々の社会派小説が次々とドラマ化され、軒並み大ヒットしている小説家・池井戸潤、初の映画化作品『空飛ぶタイヤ』。 主演に、映画は2年ぶりとなるTOKIOの長瀬智也を迎え、ディーン・フジオカ、高橋一生など、それぞれタイプの違う日本映画界の熱き俳優たちが顔を揃えました。今回は、そんな映画『空飛ぶタイヤ』を鑑賞した筆者が、本作の魅力をネタバレ込みでご紹介します。

映画『空飛ぶタイヤ』の豪華キャスト・あらすじはこちらの記事から!

池井戸潤による経済小説がついに映画化

これまで数々の社会派エンターテインメント小説を発表し、多くの作品がドラマ化されてきた小説家・池井戸潤。そんな池井戸が、「人間を描く」と強い想いを込めて描いた小説『空飛ぶタイヤ』が、ついに初めて映画化となります。 本作は、原作が累計発行部数170万部突破のベストセラー、吉川英治文学新人賞と直木賞の候補作となったこともあり、公開前から多くの期待の声が寄せられました。 本作のメガホンを取ったのは、映画「超高速参勤交代」シリーズなどの本木克英。警察やマスコミをも巻き込み、複雑に絡み合う人間関係と巨大企業による隠ぺいの謎を、スピード感溢れる描写とダイナミックなストーリー展開で最後まで一気に魅せています。

映画『空飛ぶタイヤ』あらすじ【ネタバレなし】

長瀬智也×ディーン・フジオカ×高橋一生など豪華キャスト競演で贈る社会派エンターテインメント映画『空飛ぶタイヤ』。 ある日、突然起きた大型トラックの脱輪事故によって1人の女性が命を落としてしまいます。トラックの前輪が外れ、タイヤが宙を舞ったのです。 トラックを運転していた運送会社社長の赤松(長瀬智也)は、事故の原因は整備不良ではなく車両の欠陥にあると考え、製造元である業界大手のホープ自動車会社(以下、ホープ自動車)に事故原因の再調査を依頼します。そんな中、ホープ自動車によるリコール隠しが、疑惑として浮かび上がります。 ホープ自動車のカスタマー戦略課課長の沢田(ディーン・フジオカ)や、ホープ銀行本店営業本部の井崎(高橋一生)もそれぞれ独自に調査を開始し、徐々に明らかになる巨大企業の大きな闇……。 果たして、これは事故なのか?仕組まれた事件なのか?決して諦めない男たちの大逆転劇がいま、始まります!

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三菱自動車による大規模なリコール隠しがモデルと言われている

「三菱自動車リコール隠し事件」とは?

映画『空飛ぶタイヤ』は、2000年に発覚し日本中を騒がせた「三菱自動車リコール隠し事件」がモチーフと言われています。自動車業界における「リコール」とは、自社製品に不良が見つかった場合、国土交通省に届け出て不良自動車を回収し、無料修理することを指します。 三菱自動車は2000年に最初のリコール隠しが発覚するまで、なんと23年間もの間、届け出をせず、不良が発覚した自動車だけを秘密裏に修理するヤミ改修を行ってきました。2004年には、2000年の事件を74万台をも上回る自動車のリコール隠しが発覚。 本作の始まりとなる大型トラックの脱輪による若い母親の死亡事故は、1度目と2度目のリコール隠しの間に起きた2002年の横浜母子3人死傷事故から着想を得たそうです。

映画と実話の相違点【ネタバレあり】

映画『空飛ぶタイヤ』では赤松たちがホープ自動車の不正を暴き、その結果ホープ自動車はグループ企業からの救済も受けられず別会社に吸収されます。赤松運送の汚名も晴れ、大団円となります。 しかし実際の事件のその後は真逆で、疑いをかけられた社長は自宅にまで嫌がらせを受け続け、運送会社は廃業。三菱自動車はグループ企業からの救済を受け、経営を回復します。 池井戸作品は、ドラマ『水戸黄門』のように最後には悪人が罰せられ、正義が勝つ“勧善懲悪”な展開が多く、ファンもそれを期待しています。 しかし本作はそれだけでなく、大手の非常に悪質な隠ぺい、不正の温床となっている企業体質に警鐘を鳴らす作品となっています。

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現代社会におけるコンプライアンスとは?企業、そして社員はどうあるべきなのか?

『空飛ぶタイヤ』ティザービジュアル
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

1990年代後半から企業の法律違反が増えてきており、企業のコンプライアンスや消費者に対する透明性のある企業体制が強く求められる風潮にあります。 コンプライアンスは本来、「企業が法律や企業倫理を遵守すること」という意味で使われることが多いですが、本作におけるコンプライアンスは「正義を尊び、正しく生きるということ」という意味を指します。 本作の冒頭で描かれている“脱輪事故で若い母親が一人亡くなった”という事実は、被害者家族と加害者だけでなく、赤松運送とその社員や家族、ホープ自動車とその社員、過去に起きた同様の事故に関わった人々など多くの人間の運命を変えていきます。 世界でトップシェアを誇る日本の自動車産業と業界大手の自動車会社。これらを本当の意味で支えているのは、日本の名もなき中小企業たちです。 さらに、それを支えているのは、人間一人一人です。本作では、ホープ自動車上層部の狩野(岸部一徳)らが悪代官も真っ青な人物として描かれており、それとは対照的な、赤松、沢田、井崎の生真面目で一生懸命、不器用な生き様に、観客は最後まで引き込まれます。 沢田のように大企業に属するゆえの、間違っているとわかってはいても、そうしなければならない葛藤もあることでしょう。 しかしそれでも、どんな仕事においても人の命や人生を大きく変える可能性があることを、一人一人が自覚を持って取り組むべきなのだと、本作を通して強く感じざるを得ませんでした。

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【結末ネタバレ】赤松たちは不正を暴き、自社を救うことができるのか!?

『空飛ぶタイヤ』
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

赤松たちは独自に自動車の欠陥と過去の事故について調べようと動き出します。しかし、事故の証拠品はホープ自動車に回収されたまま、被害者からは訴訟、銀行からは融資額の全額返金と融資のストップを言い渡され、絶望的な状況に。 それでもなお諦めない赤松の強い信念と熱さが、部下たちや、かつてホープ自動車の圧力に屈していた人々の心を動かしていきます。一方、ホープ自動車の沢田も早々にリコール隠しの事実を掴んでおり、証拠集めに奔走。 赤松は、富士ロジスティックの相沢(佐々木蔵之介)からホープ自動車の車両欠陥の証拠文書を託され、それをホープ自動車に突きつけます。しかし、それさえも大企業を前にしては多少動揺させる程度のものにしかならず、万事休すかと思いきや……。 赤松の熱い思いと相沢の証拠文書に心を動かされた刑事・高畑(寺脇康文)の説得、沢田と杉本(中村蒼)の内部告発により、ついにホープ自動車に警察による家宅捜索が入ります。 その一報をひたすら待ち続け、ホープ自動車への融資を断り続けてきた井崎(高橋一生)もテレビのニュースを見て一安心します。その後、事故現場となった場所で被害者に花を手向けている赤松の元へ沢田がやって来て、「二度と互いの顔は見たくない。」と暗に互いを讃え合い、別れるのでした。

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原作を読んでから観るか?観てから読むか?

原作小説となる『空飛ぶタイヤ 新版』(実業之日本社)は739ページもある長編で登場人物が多く、しかもそのほとんどが男性です。なので正直、原作を読まずに、前情報もまったくない状態で映画を鑑賞するのは、池井戸作品に慣れていない場合はいささかリスキーです。 原作を読まずに鑑賞する場合は、公式HPなどで人物相関図を押さえてから劇場に行くことをオススメします。しかしながら本作では、削るべき箇所を潔く削っており、40名近い登場人物の心情も丁寧に描きながら、2時間にスッキリまとめているのは、見事としか言いようがありません。 若くして親から会社を継ぎ、まだ社長として自信が持てない赤松が、事故を通して成長していく物語としてもよく出来ており、原作にはない赤松と沢田が対峙するシーンは胸躍ること間違いなしです! 原作で結構な尺を割いている赤松の息子の学校での問題も、妻・史絵(深田恭子)との会話のみで構成されており、原作より史絵が頼りがいのある妻として描かれているのも良かったのではないでしょうか。 原作ではその辺りも、より細かな描写で描かれているので、映画を観て気になった方は原作も読んでみてください。

『空飛ぶタイヤ』がドラマではなく映画となった裏事情

実は、『空飛ぶタイヤ』は本作以前にWOWOWでドラマ化されています。ドラマ版は日本民間放送連盟賞最優秀賞ほか3つのドラマ賞を受賞するなど、出来の良さが評価されています。そんなヒットが確実な池井戸作品がなぜ、地上波ではなくWOWOWだったのか? そこには、テレビ業界とスポンサーの関係性が問題として横たわっているのかもしれません。多くの民放放送は大手自動車会社やその関連企業がスポンサーについており、本作の“大手自動車会社の不正”というテーマを気軽に扱うことは難しいと想像できます。 その点、WOWOWは有料放送でスポンサーは視聴者ですので、どこのスポンサー会社の影響を受けることもなく、良質なドラマを作ることができるのです。映画も同様に、民放ほどスポンサーの影響を受けないので、WOWOWの大成功を受け満を持しての映画化となったのでしょう。

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池井戸潤原作初の映画『空飛ぶタイヤ』!気になる評価は?

さっそく鑑賞した人からは、概ね好評の声があがっています。 豪華俳優陣の使い方がとにかく贅沢で、すべてのキャストが役に上手くハマっているため、それぞれの立場や思惑を十分理解するためにもう一度観たくなるという感想も。 その中でも、赤松を演じた長瀬智也は年齢を重ねて、哀愁や男気を併せ持つ名演を魅せており、長瀬の今後の俳優人生が楽しみになる仕上がりになっています。沢田を演じたディーン・フジオカも、NHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』以来のハマり役と絶賛されています。 そんな彼らがそれぞれの信念に乗っ取り、別々に動いた結果、ひとつの大きなムーブメントとなっていくのが、とても見ごたえのある骨太な作品です。 人が亡くなっている事件を扱っているので、全体的に重苦しい雰囲気がずっと続くという感想もあります。しかしラストの赤松と沢田の笑みに、それらを全部抱えて前へ進んでいく決意を感じ、心地よい爽快感に励まされる人生賛歌となっているのではないでしょうか。