2018年6月16日更新

『機動警察パトレイバー』新プロジェクトのその後は?傑作アニメの魅力を全解剖

大型ロボットで犯罪を取り締まる警察官たちの姿を描いたアニメ『機動警察パトレイバー』。大ヒット刑事ドラマにも影響を与えたというその魅力のポイントを、ご紹介しましょう。

まもなく30周年。今なお多くのファンに愛される秘訣をチェック!

「ヒロインが大型の二足歩行ロボットに乗り込んで、平和を乱す犯罪者を取り締まる……」と来れば、「熱血刑事ドラマ」とまとめるのが普通。でも、『機動警察パトレイバー』はちょっと違います。 主人公たちの熱血度は今ひとつぬるめ。正義感のベクトルはやや変化球気味。ヒロインが操るロボットも、決して無敵ではありません。時に、工事現場の「働く」ロボットにまで圧倒される始末。 それでも『機動警察パトレイバー』シリーズは、今なお多くのファンに愛され続けています。なぜなら、その「ユルさ」こそがリアリティにつながる、人気の秘訣だから。細かい設定やストーリーに盛り込まれた「いかにもありそう」感を生み出すさじ加減が、抜群にうまいのです。 そこで今回は、1997年に大ヒットしたドラマ『踊る大捜査線』にまで影響を与えたというその魅力を、あらためて検証。2017年6月に明らかになった新作「EZY」のプロジェクトのその後、についてもご紹介しましょう。

OVAを皮切りに、劇場版とテレビシリーズを矢継ぎ早に展開

漫画や小説を原作として映像化する『メディアミックス』は、今やごくごく当たり前。その先駆けとも言われる『機動警察パトレイバー』ですが、こちらはまず映像作品=OVAからコンテンツ制作が始まりました。 1988年4月から「アーリーデイズ」と呼ばれる初期のOVAシリーズが全7話でスタート。ほどなく漫画の連載が週刊少年サンデーで始まっています。こちらのコミックスは、約6年間で全22巻が発行されました。 89年7月には劇場版『機動警察パトレイバー the Movie』が放映され、続いて10月から全47話に渡ってテレビシリーズ化。まもなく新OVAシリーズとして、全16巻(16話)がリリースされました。93年には劇場版第二弾『機動警察パトレイバー2 the Movie』が放映されています。 その間、小説版なども発行されましたが、映像化はしばらく休み。2002年に劇場版第3作『WXⅢ 機動警察パトレイバー』が公開、さらに14年後の2016年に、短編アニメ『機動警察パトレイバーREBOOT』が限定で公開されています。

コミカルからホラー、ミステリーまで、なんでもありの物語

物語の舞台は、1990年代末の東京です。大規模再開発計画の追い風を受けて、大型重機から進化したロボットタイプの作業用機械「レイバー」が、一気に普及。一方でそれを使った犯罪の急増が社会問題化しています。 それに対処するために作られたのが、警視庁の「特車二課」でした。通称「パトレイバー」と呼ばれる警察用レイバーを使って、犯罪を取り締まるスペシャリスト集団、のハズでしたが……実態はそうとう傍迷惑な存在に。 レイバーとの戦いも、どこか間の抜けたシーンが続出。スポットが当てられているのはもっぱら、主人公たちの日常生活です。コミカルなエピソードを中心に、時にはホラーあるいはサスペンスタッチのドラマ仕立てで、多彩な物語が展開されます。 パトレイバーがまったく登場しない回も多く、もはや「SFロボットアニメ」の範疇にすら入らない可能性も。実はシリーズに深く関わってきた押井守自身、「(テレビシリーズでは)ロボットのことはあまり描いていない」と、後に告白しています。

ヒロインは、期待大!の特車二課第2小隊のエース。なハズが……

物語の始まりは、最新鋭のパトレイバー、「AV28式イングラム」が配備された特車二課の新鋭、第2小隊設立から始まります。中でも小隊長の後藤が自らスカウトした期待の新人が、泉野明巡査(CV:冨永みーな)。OVAとテレビシリーズでは、ヒロインとして活躍しました。 生来の乗り物好きでイングラム1号機に惚れ込み、昔飼っていた愛犬の名前をつけて「私のアルフォンス」と溺愛しまくる彼女は、天才的なレイバー乗りとしての才能を発揮、より強力なレイバーを相手に健闘します。そんな彼女の戦いをサポートするのが、司令塔役の篠原遊馬巡査(CV:古川登志夫)でした。 なにしろ大手機械製造会社、篠原重工の後継ぎ少しお坊っちゃまなところがある篠原と、チャキチャキの道産子気質な泉とは始めこそ互いにそりが合わない様子もありました。それても常に行動をともにする中で強い信頼と絆で結ばれていくふたりは、後に公私ともに大切なパートナーとなるようです。

裏で糸ひくすべての黒幕こそ、陰のヒーロー?後藤隊長

第2小隊2号機を操縦する太田功巡査(CV:池永通洋)は、正義感とともに暴走するトラブルメーカー。射撃の腕前は一級品ですが、生かされるシーンはわずかです。指揮担当の進士幹泰巡査(CV:二又一成)は、小隊唯一の妻帯者で日夜ラブラブ、太田の嫉妬と羨望を買っています。巨漢なのに心優しい山崎ひろみ巡査(CV:郷里大輔) が、後方支援を務めます。 ほかにもニューヨー市警から研修名目で飛ばされてきた香貫花・クランシー(CV:井上瑤) や、途中から第三小隊の小隊長候補として仲間入りする熊耳武緒巡査部長(CV:横沢啓子) も含めて、第二小隊のメンバーはひたすら個性的。 そんな彼らを手玉にとって意のままに操るのが、後藤喜一隊長(CV:大林隆介)です。昼行灯のようでいて実は「カミソリ」の異名を持ち、権力におもねらずひょうひょうとした表情で大事を解決する魅力的なキャラクターです。そのモデルが俳優の仲代達矢、というのはファンの間では有名なお話。びっくりするほど似ています。

第2小隊の未熟者たちをサポートする職人たちがかっこいい!

使用するパトレイバーこそ旧式ですが、巧みな指揮で上層部からの信頼も厚いのが、第2小隊隊長を努める南雲しのぶ(CV:榊原良子)です。冷静沈着、強い正義感と倫理観を持つクールビューティ。なのに、正反対のキャラを持つ後藤とは不思議にウマが会う様子。とある事情で、ふたりでラブホに入ったことも。 この物語の要的な役割を担っているもうひとつの集団が、特車二課のメカ全般の修理や整備を受け持つ、整備班の面々でしょう。まるで体育会の夏合宿のように寝食を忘れストイックに作業に打ち込む彼らの姿は、まさに職人。そんな縁の下の力持ちたちを束ねるのが、班長の「おやっさん」こと榊清太郎(CV:阪侑)と副班長のシバシゲオ(CV:千葉繁)です。 おやっさんは職人でありながら、「お台場のダーティ・ハリー」と呼びたくなるような、人格者。男と職人のダンディズムをべらんめえ調で語り尽くす姿には任侠モノの趣までただよいます。シバシゲオもその薫陶を受け、部下に対しては厳しく接しながらも人の良さが滲み出る、兄貴分的存在です。

はじまりはOVAで全7話。「アーリーデイズ」は世界観の魅力を凝縮

漫画家のゆうきまさみ(原案・キャラクター設定)を中心に、イラストレーターの出渕裕(メカニック設定)と高田明美(キャラクター設定)、脚本家の伊藤和典が中心となって始まったプロジェクトが、このシリーズ。原作者ユニット「ヘッドギア」というグループを立ち上げ、後に押井守が合流しています。 「第1作」のOVAが制作されたのは、1988年のこと。監督は、全7話中最終話を除く6話を押井守が務めました。制作は、スタジオディーン。押井らしいキャラクターたちのダイナミックな動きを、斬新な映像に仕上げています。 物語は泉がルーキーとして第2小隊に配属されるところからスタート、第二話からはテロや怪獣、幽霊などさまざまなトラブルに対処していきます。前後編で構成された「二課の一番長い日」では後藤の「カミソリ」らしい片鱗が垣間見えるなど、ユルさとリアルの絶妙なバランスが楽しめる「入門編」です。

テレビシリーズ全47話で濃密に描かれる、特車二課の日常と非日常

制作順としては、劇場版第1作が先ですが、世界観としては全47話のテレビシリーズから入ったほうが、よりわかりやすいかもしれません。1989年10月から1990 年9月まで、ほぼ1年間にわたって全47話が放送されました。制作は新たに、サンライズが担当しています。 監督は、『うる星やつら』などを手がけた吉永尚之が担当。脚本は伊藤和典を中心に押井守、横手美智子ら複数が担当しています。「アーリーデイズ」との時間的つながりはなく、パラレルワールドな別の物語として位置付けられているようです。 全47話を通じて柱となっているのが、「ファントム」に始まり「グリフォン」へとつながる、一連の「シャフト企画7課」の暗躍にまつわる事件でしょう。泉以下第2小隊との因縁めいた対決はテレビシリーズでは決着がつかず、NEW OVAへと持ち越されます。 もっとも「七課」絡み以外では、比較的ほのぼのとした事件を巡る、第2小隊の日常がユル〜くコミカルに描かれているような気が。たとえば第29話の「特車二課壊滅す!」は、その衝撃的なタイトルと裏腹な自虐ネタに驚愕させられます。脚本は押井守。なるほど納得!の怪作です。

NEW OVA全16話ではついにグリフォンと決着が!

1990年から1992年にかけて、全16巻(16話)がリリースされた通称「NEW OVA」は、吉永尚之が監督を務めるテレビシリーズの続編的位置付けです。一貫してキャラクターデザインは高田明美が担当。メカニックデザインも、出渕裕が継続的に務めています。 前半5話までは、リベンジに燃えるグリフォン&バドとの激闘が描かれますが、以降は再びまったりのんびり苦笑が漏れそうなくらいに平和な、特車二課の毎日がエピソード化されています。 ここでも押井の「遊び心」はとどまるところを知らず、脚本を担当した4エピソードのうち3つは、「黒い三連星」「火の七日間」「その名はアムネジア」といった、アニメとかファンタジー好きならどこかで聞いたことのあるタイトルがつけられています。これ、中身はまったく関係ありまんのでご注意を。 ちなみに第13話は「ダンジョン再び」。テレビ版の第38話「地下迷宮物件」の後日談ですが、この迷宮は後に実写版『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』の短編エピソード9「クロコダイル・ダンジョン」に、文字どおり世代を超えて受け継がれていきます。

押井ワールドが全開になった劇場版三作は、ハリウッド監督も驚いた

「パトレイバー」の評価をさらに高めたのは、3本の劇場版でした。監督は二作目まで押井守が担当。自らが描きたかった作品作りに挑戦しています。とくに第二作は、ジェームズ・キャメロンやギレルモ・デル・トロなど世界の巨匠が、作品作りの参考にしたことでも有名です。

1989年の『機動警察パトレイバー the Movie』ではレイバー用OSに仕込まれたウイルスによる暴走事件を、1993年の『機動警察パトレイバー2 the Movie』では東京を舞台に巡航ミサイルによるテロの恐怖を、それぞれミステリー仕立てで描いています。作画の黄瀬和哉が描く写実的なキャラクターも含めて、よりリアルで硬派な物語が展開されています。

2002年に公開された『WXⅢ 機動警察パトレイバー』では、押井に変わって高山文彦が監督(総監督)を務め、漫画版でも非常に人気のあるエピソード『廃棄物13号』をハードボイルドな大人のミステリとしてまとめ上げました。 脚本はなんと、漫画家のとり・みき。高山監督とともに九州出身ということで、押井が描くものとはまた違った東京の姿が描かれている、と後に語っています。そのあたりを見比べてみるのも、おもしろそうです。

ふたりの美女の「レポート」が語る、特車二課の実態とは

泉らが所属する特車二課、とくに第二小隊に対しては、警察内部でも社会的にも評価はあまり高くありません。というより、出動のたびに社会インフラを中心に莫大な被害を与えるということで、どちらかと言えばお荷物扱いされている節もあります。 基本ゲストキャラでありながら、テレビ版を中心にたびたび登場する突撃レポーター、桜山桃子(CV:林原めぐみ)には「正義の破壊集団」扱いされる始末。「これまでいくつもの難事件、怪事件を力任せに解決し、羨望と賞賛と罵声を浴び続けてきた現代のウォーリアーズ」って、どんな集団? そんな中、特車二課の実態をもっとも的確についているのが、第23話の「香貫花レポート」でしょう。報告書を書きながら激昂していく香貫花のセリフが、どんどんエスカレートしていきます。第二小隊を評して溢れ出す怨念の四文字熟語全文は……。 独断専行 傍若無人 勧善懲悪 大胆不敵 直情径行 猪突猛進 戦々恐々 自暴自棄 抱腹絶倒 荒唐無稽 本末転倒 空前絶後 近所迷惑 厳重注意 支離滅裂。 それでも最後に書き記す「彼らを支える言葉」が、「知恵と勇気」。香貫花のチームに対する思いを物語る名言、でしょう

もしかすると理想の上司? 昼行灯兼カミソリな後藤隊長の名言VS迷言

ボーっとしているようで実はデキる人、後藤隊長は部下の使い方と人心掌握が実に巧み。とくに漫画版では、人使いが荒いようでいて実はしっかり気配りも忘れていない、ある意味理想の上司像とも言われています。 とくにテレビシリーズではチャランポランなところがクローズアップされがちですが、「部下にしてみりゃ上司なんてさぁ、こんな時以外利用価値ないよ」とか「若者の心はむき出しの肌のように敏感なんですよ」など、部下をいたわる名言をポツリとつぶやいていました。 「迷言」のほうで出色は、「アーリーデイズ」第4話のこちら。少々長めですが。 「公務員だぞ、地方公務員。お前たちが乗車しているのはグレートマジンガーか?ダンガイオーか?自閉症児や不良少年が主人公のロボットアニメじゃないんだよ」 そうとう「ギリギリな感じ」がするのは、私だけでしょうか。

南雲第一小隊隊長以下、意外な人の意外な迷言にも注目!

沈着冷静なようでいて、自覚症状のない隠れ酒乱だったり心霊現象系にはまったく免疫がなかったりするところが、とってもキュートな熊耳の迷言。「強いて言えば、最後にモノをいうのは体力だってことよ。運動不足のまんが家には特車2課はつとまらない」は、どことなくゆうきまさみの愚痴に聞こえます。 後藤と微妙な距離感にある南雲は、基本的には真っ直ぐな警察官らしい警察官。「あら、わたしは…後藤さんの数々の仕打ちを根にもったりしてないわよ」といった塩対応が基本です。 彼女の本音が気持ちよく全開されるのが、「アーリーデイズ」第6話で警察庁幹部たちの軟弱ぶりに嫌気がさしたシーン。「この亡者どもが……。南雲はこれから独自の判断で行動します」と啖呵を切った直後の脅し文句。 「私の行動を妨げるつもりなら、今の会話のすべてを公表しますから、そのおつもりで」。 上司を上司と思わない押しの強さは、もしかして後藤の悪影響かも?

「踊る」監督、本広克行は押井イズムの熱狂的信奉者だった?

そんな「パトレイバー」ですが、『踊る大捜査線』にどんな影響を与えていたのでしょうか。 監督の本広克行は、自らが「パトレイバー」シリーズの大ファンであることを公言しています。しかも、彼が関わった映像作品の多くには、押井作品が持つ魅力のエッセンスが、濃厚に散りばめられていることまで明らかにしました。 共通するのは、独特のゆるい緊張感が漂う閉塞した雰囲気やシリアスとコミカルの絶妙な間合いなど。「湾岸署」という舞台設定には、特車二課のイメージが強く反映されています。 「THE NEXT GENERATION」の企画が立ち上がった時には、監督候補のひとりに選ばれていたという本広。平成ガメラシリーズの特技を担当した樋口真嗣らと組んで、パイロットフィルムまで作っていたそうです。「本広節」の実写版パトレイバー……ちょっと観てみたい気がしませんか?

新プロジェクト衝撃発表からはや1年。「30年後の物語」が見えた?

その衝撃的なニュースが流れたのは、2017年6月のこと。フランスのアヌシーで開催されていた国際アニメーション映画祭で、『PATLABOR EZY』と題した新プロジェクトが公表されました。手がけるのは『この世界の片隅に』で大ヒットを記録したプロデュース会社ジェンコです。 それからはや1年、着々と企画は進行している様子です。脚本の伊藤和典はトークイベントで「パトレイバー」の新作を手がけていることを明かし、それが「30年後の話」であることまで語りました。ジェンコ社長でプロデューサーの真木太郎も、東京オリンピックが開催される2020年までに公開したいと明言しています。 長くてもあと2年の我慢。「30年後」の後藤や泉、篠原との再会も楽しみです。