2018年6月22日更新

チェコが生んだシュルレアリスト、ヤン・シュヴァンクマイエルとは?【ハマる人はハマる!】

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ヤン・シュヴァンクマイエル

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ダークでグロテスクなシュヴァンクマイエルの世界へようこそ

チェコが生んだ映像作家、ヤン・シュヴァンクマイエルを知っていますか?シュルレアリストとしてアニメーションの手法を多用しながら、ダークでグロテスクな雰囲気あふれる独特な作品を発表していることで知られています。 そんなハマる人はハマってしまう、ヤン・シュヴァンクマイエルの世界についてまとめました。

ヤン・シュヴァンクマイエルのプロフィール

ヤン・シュヴァンクマイエルは1934年にチェコはプラハで生まれました。8歳の時に父からもらった人形セットが、その後の彼の世界観に大きく影響を与えます。 16歳でプラハの工芸高校に入学し、この時シュルレアリスムに触れて興味を深めます。卒業後はチェコ国立芸術アカデミー演劇学部に進学。人形劇科で舞台芸術を学びました。卒業後の1958年から1960年は兵役につき、兵役終了とともに同じくシュルレアリストであるエヴァと結婚します。 それからは仮面劇や人形劇に携わりつつオブジェの制作などを始め、1964年に初の短編作品『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を発表します。以降、数々の短編作品を発表しつつ、2018年6月現在までに7つの長編を制作・公開し、いずれも高い評価を得ています。

作品の特徴とチェコという国が与えた影響

シュヴァンクマイエルの作品にはよく“ものを食べる”という行為が登場します。しかし、決して美味しそうな食事を描くのではなく、不快感を誘うような描写が多いのが特徴です。 例えば食事を事務的な作業のように描いていたり、靴や洋服、はたまた人間の体などを食べる様子が描かれていたりします。また、物を食べる口を画面いっぱいにクローズアップしたカットを挿入することが非常に多いのも大きな特徴です。 これには“幼少期からあまり食べることが好きでなかった”というシュヴァンクマイエル独自の感性が反映されています。 シュヴァンクマイエルは第二次世界大戦を経て、社会主義政策を取ったチェコで暮らしています。共産党政権下で彼の自由な作風は“反体制的”とみなされ、一時期映画制作を禁じられたこともありました。 そんな政治的に不安定な状況に屈せず作品作りを続けてきた彼は、自身を“戦闘的シュルレアリスト”と称し、社会主義などの体制に抵抗するメッセージを持った作品を多く生み出しています。

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シュヴァンクマイエルの怪作の数々をご紹介

シュヴァンクマイエルが発表した作品の中から、長編作品を抜粋してご紹介します。

『アリス』

かの有名なルイス・キャロルによる『不思議の国のアリス』に基づいた作品。しかし、原作のファンシーな雰囲気は一切なく、シュヴァンクマイエル独特のダークな世界観で表現されています。 クリスティーナ・コホウトヴァー演じるアリスは、人形でアリスごっこを始めます。すると剥製だったはずの白うさぎが動き出し、それを追ってアリスも不思議の世界にたどり着きます。 アリス以外は全て人形を使ったアニメーションで表現されており、生身の人間との対比が幻想的かつ不気味な雰囲気を助長しています。

『ファウスト』

シュヴァンクマイエル2作目の長編は、ゲーテの『ファウスト』とマーロウの『フォースタス博士』という二つの戯曲を基にしています。 戯曲に登場するファウスト博士は、悪魔と契約し、魂と引き換えに世界の全てを経験させてくれと願った人物。シュヴァンクマイエル版は、ある男がなんとなく訪れた古い劇場で『ファウスト』の原稿を手にするところから始まります。 男が原稿を朗読し始めると、突然出番を知らせる合図があり、彼は舞台上に引っ張り出されてしまいます。人形のように操られる男は恐怖を感じ、急いで劇場を後にするのですが…… 普通に生きてきた男が偶然はまっていく悪魔の世界を、実写とアニメーションの組み合わせでグロテスクに描きます。

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『悦楽共犯者』

長編3作目は、原作がない初のオリジナル作品です。 本作で描かれるのは、自慰機械の制作に没頭する6人の男女。手製の人形を痛めつける人、鯉に指を吸わせる人、みんなそれぞれの快楽を実現するための機械制作に没頭します。 きわどい内容ではありますが、直接的なセックス描写が一切なく、台詞も発せられないという非常に異色な仕上がり。元々は70年代に短編用に企画された作品ですが、当時のチェコの検閲により発表できなかったという本作。約25年間も温め続けた企画だけあって、彼の世界観がとことん表現された怪作です。

『オテサーネク 妄想の子』

食人木を意味する『オテサーネク』というチェコ民話に基づいた作品です。 ホラーク夫妻は不妊に悩んでおり、妻のボジェナはノイローゼ気味。そんな妻を慰めようと、夫のカレルは赤ん坊のような形をした切り株をプレゼントします。 切り株を自分の息子だと思い込んでしまったボジェナは、あたかも自分が妊娠したように振る舞い、出産したふりをします。するとオティークと名付けられた切り株は自らの意思で動き出し、恐ろしい食欲でなんでも食べてしまうようになるのです。 ついには人を食べるようになり、夫妻までも食べてしまったオティーク。夫妻が住んでいたアパートの管理人は鍬を持って化け物退治に乗り出しますが……

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『ルナシー』

エドガー・アラン・ポーの小説や、マルキ・ド・サドの世界観をモチーフに作られた作品です。 主人公のジャン・ベルロは母の葬儀の帰りに宿泊した宿で、変わった公爵と出会います。ジャンは公爵の館で行われる儀式やセラピーに参加させられ、その夜拘束衣を着せられる夢を見ます。そんなジャンに、公爵は精神病院での治療を勧めるのです。 精神病院を訪れるジャンは、そこの様子が少しおかしいことに気づきます。そして、次第に彼の中で現実と狂気の境が曖昧になって行き、どっちがおかしいのか分からなくなってしまうのです。 精神病院のシーンで登場するエキストラは、なんと本物の精神疾患者だというなんとも狂気に満ちた作品です。

『サヴァイヴィング・ライフ ‐夢は第二の人生-』

日本でも2011年に全国劇場公開された、シュヴァンクマイエルのヒット作。第67回ヴェネチア国際映画祭にも出品されました。 エフジェンは中年のサラリーマン。仕事から帰れば妻の愚痴を聞かされ、唯一の楽しみは寝ることだけでした。そんな彼は、ある日夢の中でエフジェニエという女性と出会います。彼女と抱き合っていると、彼女の息子ペトルに見つかり気まずい思いをするエフジェン。 エフジェニエ、そしてペトルが忘れられないエフジェンは、オカルト系書籍を買いあさり、夢の世界に入る方法を見つけます。そして毎日会社に行くふりをしては古いスタジオを訪れ、眠って夢の中に出かけて行くのでした……

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『Hmyz(蟲)』

2018年1月、ロッテルダム国際映画祭でプレミア上映されたシュヴァンクマイエルの最新作です。チェコの劇作家チャペック兄弟による戯曲『虫の生活から』と、フランツ・カフカの小説『変身』をモチーフにしています。 ストーリーは、『虫の生活から』のリハーサルに集まった6人のアマチュア役者が役と一体化し、虫への変身を体験するというもの。映画撮影の様子は撮影され、ドキュメンテーション的なフッテージとして本編にも取り入れられています。 本作は最後の長編だとシュヴァンクマイエル自身も語っており、シュルレアリストとして完成形はもろんのこと、創造するプロセスにも重きを置いた作品となっています。 『Hmyz(蟲)』の日本公開日はまだ発表されていません。前作は日本でも全国公開され、ファンも多いシュヴァンクマイエル。本作の公開情報に関しても続報を期待しましょう。

見れる?見れない?あなたはどっち!

非常に独特なヤン・シュヴァンクマイエルの世界。彼の生み出した作品は、好みが分かれるものばかりです。 ちょっとでも興味をそそられたというあなたは素質があるのかもしれません。ですが、観るときはくれぐれも自己責任でお願します……