2018年7月9日更新

「島耕作」は佳き人生をおくるためのバイブル?【思い出したらまた読みたくなる名作研究所】

ビジネス漫画の金字塔、というよりも恋愛や仕事、家族とのあり方に至るまで、さまざまなカタチの人生のあり方を教えてくれるのが、『課長 島耕作』シリーズ。ふとした時にまた読みたくなる、カリスマ漫画の魅力に迫ります。

色と運と無欲で人生を切り開いた日本一有名なサラリーマンの生き様

1983年、講談社「モーニング」誌上で、『課長 島耕作』の連載がスタートしました。もともとオフィスラブをテーマに描かれた読みきり作品からのスタート。モデルとなったのは、原作者 弘兼憲史のわずか3年というサラリーマン経験でした。 以来、島耕作は30年以上に渡って、日本中のサラリーマンに崇拝されるヒーローであり続けています。もっとも、支持された理由は、なんといっても華麗なる女性関係への憧れが一番。なにしろ勝ちパターンは「仕事で訪れた街で美女と懇ろになり、危機一髪になったところを彼女の人脈が救う」なのですから。 島耕作自身、作中で「俺はどうも最近、他人のフンドシで相撲ととっている……そしてそれがことごとく勝ち星に通じる」とつぶやいています。学生時代には、自分に取り柄がないことにコンプレックスすら抱いていました。そんな普通に俗っぽい男が、紆余曲折を乗り越えて自分の道を切り開いていく姿こそが、いろいろ鬱屈が溜まりがちな働く男たちの共感を読んだのかもしれません。 それはまさに究極のファンタジー。思い出したらまた読みたくなる「島耕作」の魅力を、改めてご紹介しましょう。

島耕作の青春時代から読むのがオススメ。時系列でシリーズを再考

作品がリリースされた順としては「課長」からスタート。順調に出世していく中、「部長」時代には駆け出しの頃のエピソードを綴った『ヤング島耕作』が並行して始まりました。その後「係長」に続いて「学生」が登場。サラリーマンとしてではない島耕作の青春時代が描かれています。 時系列的に並べると、以下のとおり。 ●『学生島耕作』(2014年〜) ●『ヤング島耕作』(2001〜2010年) ●『係長 島耕作』(2010〜2013年) ●『課長 島耕作』(1983〜1992年) ●『部長 島耕作』(1992〜2002年) ●『取締役 島耕作』(2002〜2005年) ●『常務 島耕作』(2005〜2006年) ●『専務 島耕作』(2006〜2008年) ●『社長 島耕作』(2008〜2013年) ●『会長 島耕作』(2013年〜) 肩書きによって描かれ方には違いがありますが、基本的にはシリーズを通して、権力にこだわりなく自由人でありたいと願い、仕事よりも女性が好きな青年が人と運命に助けられながらビジネスの世界で活躍する物語、と言っていいでしょう。そこでは時に、家族のありようなどより身近な題材がもとになるエピソードもあります。

主要キャラクター研究① 島耕作と永遠のマドンナ

なぜか出会う女性という女性すべてにモテまくる、スーパーフェロモンの持ち主。サラリーマンという肩書きを外せば島耕作とは、そんな人物です。結婚生活は課長時代に崩壊。社内恋愛はもちろん水商売の女性や取引先の関係者に至るまで、次々に身体の関係を持ちます。 時には左遷の憂き目を見ながらも、もっぱら出世街道まっしぐら。曰く「トラブルをさけて水が流れるようにやってきただけなのに」、最終的には結果が常に彼に味方します。運命の女神もまた、彼のフェロモンに当てられたしまった、と思わずるを得ない「強運」と「悪運」を兼ね備えています。 そんな華麗な女性遍歴を誇る島に、「こんな女と結婚したかった」と言わしめたのが、当時20歳も年下の直属の部下だった大町久美子です。美人でありながら男っぽい気っ風の良さを持ち、甘え上手である一方でちょっと病的な性癖を持つ彼女は、付かず離れず島の人生に関わってきます。 「結婚を前提としない真面目なおつきあい」のふたりは、20数年の交流を経てついに入籍。本当の意味で「永遠の恋人」となるのでした。

主要キャラクター研究② 島耕作の人生に関わった美女?たち

島耕作は生涯、20数人の女性と肉体関係を持ってきたそう。中でも濃厚に彼の人生を左右していたのが、馬島典子でしょう。銀座のホステスで当時の島の上司、大泉祐介の愛人でした。自由奔放ぶりが実に魅力的。島の窮地を幾度も救っています。 課長時代、赴任先のニューヨークで知り合ったアイリーン・モーリィも後々まで深い関わりを持つ女性です。不倫関係でしたが、彼女のパートナーも含めて男ふたり、女ひとりの不思議な絆が生まれました。もっとも十数年後、アイリーンと島の間に生まれた子供ナンシーが、悲劇に見舞われてしまう不幸も共有することになります。 島がその存在を知らなかったニャッコことナンシーは、わずか20歳の若さで不遇の死を遂げました。一方、離婚した妻との間に設けた娘、島奈美は、子供時代からOLになるまで常に島に寄り添い続けます。のちにアメリカ人と結婚、島の初孫を出産しました。 実は決して美女ではありませんが、島耕作が学生時代に付き合っていた最上陶子も非常に魅力的な女性のひとり。のちに整形して見違えるような美女に変身しますが、島はその前から彼女の人柄に惚れ込んでいたようです。

主要キャラクター③ 島耕作の人生に関わった上司・同僚たち

島耕作のサラリーマン人生において、女性の数以上にさまざまなタイプの上司、同僚、部下が関わってきました。そんな中で、島に「社内政治」の重要さを教えたのが大泉祐介でしょう。馬島典子を愛人とするなど豪快な生き様が印象的で、のちに社長を経て会長の座に上り詰めていきます。 大泉以上に島の人生に大きな影響を与えたのが、中沢喜一でした。島が課長だった頃の部長であり、派閥の論理に左右されない人間味あふれる行動に、島は深い感銘を受けて後々まで尊敬し続けました。初芝電器産業の第5代社長に就任、7年間務めたのちに相談役に退いています。彼の後任社長となった万亀健太郎もまた、島にとっては重要な人物でした。 将来の社長を嘱望されながら悲惨な事件に巻き込まれて死亡した同期の樫村健三や、部下でありながら常に反目し続け、のちに和解した今野輝常など、個性的なサラリーマン像もまた、「島耕作」シリーズの大きな魅力なのです。

島耕作を演じた3人の男たち①:劇場版『課長 島耕作』=田原俊彦

漫画としてはご長寿なシリーズにあって、映像化されたものはそれほど多くはありません。そのひとつが、1992年に劇場用映画として公開された『課長 島耕作』。主演の島耕作は、当時30過ぎだった田原俊彦が演じています。 共演陣も実に豪華。気になるヒロインは、麻生祐未が馬島典子を、森口瑶子が愛人関係にあった部下、鳥海 赫子をそれぞれ演じています。肉体関係なしで部下役として渡辺満里奈が登場。さらに初芝電器産業の創始者であるカリスマ会長、吉原初太郎が、三木のり平!というあたりにも、時代を感じます。 監督は『探偵物語』(1983年)などで知られる根岸吉太郎、脚本を野沢尚が担当するなど制作体制も非常に充実していましたが、作品としての評価は微妙だったようです。ちなみにキャッチコピーは「ダンディーに、ワル」。

島耕作を演じた3人の男たち②:ドラマ『課長 島耕作』=宅麻伸、高橋克典

1993年、フジテレビ系列でドラマ化された島耕作の役は、宅麻伸でした。番組解説によれば「正義感は強いが、女性にはからっきし弱い課長」。物語は派閥争いに巻き込まれる課長着任当時のエピソードが原作となっています。馬島典子役は斉藤慶子ですが、猛烈にアタックしてくるのは清水美沙が演じる大町久美子。娘の奈美役で安達祐実が登場しています。 1998年にかけて4本製作され、それぞれに秋吉久美子や藤谷美和子、戸田菜穂といった華のある美女たちが出演しています。ドラマではありませんが番組がNTTドコモとタイアップして、「課長 島耕作 ドコモ360に電話する。」と題したテレビCMも製作。この時、部下のOLとして一瞬だけ登場する篠原涼子がキュートなのでビックリしました。 もうひとつ、2008年には日本テレビ系列で『課長 島耕作』がドラマ化されています。物語は京都から戻ってきた直後のエピソード。主演は高橋克典、大町久美子を松下奈緒が演じています。番宣用ポスターのキャッチ「サラリーマン役でヒット連発の高橋克典が昇進!」はともかく、フジテレビ系で島役だった宅麻伸が中沢喜一役で「部長に昇進」しているのが笑えます。

島耕作が謎を解く本格推理から久美子のセーラー服まで多彩にスピンオフ

学生から会長まで、普通のサラリーマン人生としては十分お腹いっぱいな物語が紡がれてきたハズですが、ファンはやっぱり欲張りです。ひと味違った島耕作の世界観が読みたい!といったところでしょうか。2017年8月からモーニングでは『島耕作の事件簿』と題したミステリアスなスピンオフ作品が連載されています。 なにかと島を助けてくれる私立探偵、木暮久作と殺人犯の嫌疑を晴らすべく奔走する姿を、本格的な推理物として描きました。 そしてもう一編。単発作品ながらアッと驚く変化球な企画と言えるのが『JK 大町久美子』でしょう。女子高生ながらすでにそうとう豊富な「経験」者だった彼女の知られざる時代を描いていますが、本編ともしっかり連動したストーリーにまとめられているようです。

なお、ドラマではりょうを主演に迎えたスピンオフ『部長風花凜子の恋』が放送されるなど、漫画以外でも多様な展開を見せています(ドラマは『部長風花凜子の恋』は読売テレビ・日本テレビ系で2018年7月5日に前編が放送され、7月12日に放送されます)。

あの島耕作が!?プラトニックを決意したフィリピン美女

ほぼ女性側からのお誘いとは言いながらも基本的には来るものは拒まないハズの島耕作が、プラトニックな関係を強く決意した貴重な美女。それが、フィリピンに赴任していた頃の秘書、ローラ・フェリシアーノです。 島の前任者のイメージから、日本人管理職に不信感を抱いていた彼女でしたが、次第に心を開き、有能ぶりを発揮して島を巧みにサポートします。互いに「好き」だと口にしながらも男女の関係にならない不思議な距離感のまま、島は突然、日本に帰国することになってしまいます。 別れを告げた後のエレベーターの中で、島は彼女のことを思い出しながら、心の中でつぶやきます。 「僕はこの時……完璧なプラトニック・ラブを全うしようと思った」 恋愛には発展しなかったふたりですが、30年後のインドネシアで偶然の再会を果たします。その時、ローラはやはり島の窮地を助けてくれるのでした。

原作者 弘兼憲史が「島耕作で書けなかった」取材ネタ

『課長 島耕作』でのニューヨーク編のほか、北米ならロサンゼルス、アジア・ASEAN圏ならフィリピンやインドネシア、中国など、島耕作は文字どおり世界を飛び回って活躍します。作品中、現地の生活や名所、グルメといった詳細な情報がリアルに描かれているところも「島耕作」シリーズの面白さなのです。 こうした緻密なディテールはすべて、弘兼憲史が自ら足を運んで見聞した取材をもとに念入りに描きこまれていきます。そうした取材では時に、普通の人では入れないような場所を訪れることもあるのだとか。 たとえばロサンゼルスの「エバーグリーン墓地」では、アメリカの葬儀を取材。「加工場」と呼ばれる遺体の保存などについても取材しています。さすがに島耕作ではこのソースは生かされず、やはり弘兼憲史の代表作である『ハロー張りネズミ』に活用したのだそうです。

「小学生時代に出会った」壇蜜が、35歳で島耕作の妻に

2013年から2014年にかけて、NHK BS1で4期・全26回のアニメ・ドキュメンタリー『島耕作のアジア立志伝』が制作されました。インタビューなどの映像とアニメによる物語形式での解説をミックスして、アジアで活躍するカリスマ経営者たちを紹介する番組です。島耕作の声は、第1期を唐沢寿明が演じました。 そのスピンオフ作品として2016年元日に放送された『島耕作のアジア新世紀伝』では、アニメパートに島の妻となった大場久美子が登場。壇蜜がアフレコを担当しました。 完成試写会の席上、インタビューに答えた壇蜜は、小学2年生の頃の衝撃的な「島耕作」との出会いを告白。たまたま中を見てその刺激の強さに驚いた、と語っています。今度はぜひドラマ版で、大町久美子を演じて欲しいものです。

大町久美子との別れ。その時、島耕作はカッコよかった。

島耕作と大町久美子の出会いは、彼女が短大を卒業したばかりのまだ20歳の頃でした。島とは20歳差。当時は交際している男性が同じ部署にいましたが、ふたりは結局、愛し合ってしまいます。その関係は決して一瞬の過ちではなく、惹かれるままにズルズルと深まっていくのでした。 それでも別れを決意した島と久美子は、最後に一夜をともに過ごすことに。情熱的に愛し合った翌朝、島が心の中でつぶやいた言葉には「不倫」という事実にそぐわないピュアで優しく切ない想いが伝わってきます。 「朝日のごとくさわやかに 大町久美子は僕の視界から遠ざかった」

会長の次は「自動運転車開発」に人生を賭ける?

物語の中で初芝電器産業は、現実の世界経済の動向に連動して経営危機や経営統合といったさまざまな荒波を経験していきます。そんな中、経験を深めていった島耕作は、初芝と五洋電機の経営統合で生まれた「初芝・五洋ホールディングス」の初代社長に就任しました。 2008年にはリアルで一般公募した「TECOT(テコット)」に社名を変更、2013年に会長職に退いています。やがて、前にご紹介したスピンオフ『島耕作のアジア新世紀』の漫画版で、自動運転車開発を目指すためにベンチャー子会社「T.A.I.」を設立し、会長職を辞してその陣頭指揮を執ることになります。 本作はあくまで番外編で、本編の『会長 島耕作』は不定期連載ながらも継続中です。それでも「失われた20年を繰り返したくない」と語る島耕作の熱意には、「島耕作」という物語世界そのものを牽引していく力があるハズ。 「現場」に戻った島耕作がどんな活躍を見せてくれるのでしょうか。現実世界でも「生涯現役」が囁かれる時代に向かって、「島耕作」シリーズはやっぱり男たちにとって、理想の人生を目指すためのバイブル的作品であり続けるのかもしれません。