2018年7月30日更新

ネタバレ!『ウインド・リバー』が叩きつけたアメリカの闇とは?

©2016 WIND RIVER PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

アメリカの闇を描いてきた脚本家テイラー・シェリダンが、自らメガホンを取った『ウインド・リバー』。上質なミステリー、クライムサスペンスでもある本作で、彼が訴えたかったこととはなんだったのでしょうか。

【ネタバレ注意!】クライム・サスペンス『ウインド・リバー』の解説・考察

メキシコ国境地帯でのアメリカ麻薬戦争の知られざる実態を描いた『ボーダーライン』(2015)。銀行強盗を繰り返す兄弟と彼らを追うテキサスレンジャーを通して、アメリカンドリームの衰退をあぶりだした『最後の追跡』(2016)。 ストーリーも、監督、キャストも全く違う両作には、実は同じ脚本家による奥深いテーマが隠されていました。 その脚本家とは、テイラー・シェリダン。この2作でアメリカの「忘れられた人々」と「隠された闇」を描いてきた彼が、“フロンティア3部作”の最終章として自らメガホンを取ったのが、本作『ウインド・リバー』です。 広大な自然に圧倒され、緊迫のアクションが展開される本作で、シェリダンが本当に訴えたかったこととはなんなのでしょうか。 ストーリーや結末に関するネタバレがありますので、鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。

アメリカの闇を暴くクライムサスペンス『ウインド・リバー』のあらすじ

『ウィンド・リバー』
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アメリカ中西部、ワイオミング州にあるネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。その雪に閉ざされた山岳地帯で、血を吐いて凍りついた少女の遺体が発見されます。 第一発見者となった野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は部族警察長のベンとともにFBIの到着を待つことに。しかし、猛吹雪によって大幅に遅れてやってきたのは新人捜査官のジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)だけでした。 遺体発見現場のあまりにも不可解な状態に驚くジェーン。検死の結果、遺体にレイプされた痕跡はあるものの、直接の死因は極寒の中を走ったことによる肺出血であり、他殺とは認定されません。 殺人事件として応援を呼ぶことができなくなったジェーンは、保留地の地形や事情に詳しいコリーに捜査の協力を求めます。

主人公コリーを見事に演じたジェレミー・レナー

『ウインド・リバー』 ジェレミー・レナー
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心に傷をかかえたハンター・コリーのキャラクターは、悲劇から完全に立ち直れないながらも、前に進もうとする絶妙なバランスのうえに成り立っています。 監督のテイラー・シェリダンはコリー役の俳優をキャスティングするにあたって、力強さと傷つきやすさ、激しい怒りと繊細さをあわせ持った俳優が必要だったと語っています。『ハート・ロッカー』(2010)などでその演技力を発揮したジェレミー・レナーは、コリーの個性を見事に表現しました。 地に足のついた人物であるコリーを演じるにあたって、レナーは同じ父親として共感できる部分が多くあったと語っています。

『ウインド・リバー』の評価は?カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門監督賞受賞!

全米でわずか4館での限定公開だった『ウインド・リバー』は、そのクォリティの高さがSNSや口コミで広まり、公開4週目には上映館は2,095館に拡大。その後、興収チャートは3位にまで上昇し、6週連続トップテン入りのロングランヒットになりました。 アメリカの大手映画レビューサイトRotten Tomatoesでは、87%フレッシュ(2018年7月時点)と高い評価を得ています。 また、第70回カンヌ国際映画祭では、「ある視点」部門で監督賞を受賞。 監督のテイラー・シェリダンが脚本を手がけた『ボーダーライン』『最後の追跡』につづき、アメリカの現代社会から“忘れ去られた人々”に光を当てた本作は、緊迫感のあるアクションとともに、その深いテーマが注目を集めました。

“アメリカ最大の失敗”ネイティブアメリカン保留地をめぐる問題

ネイティブアメリカン保留地とは?

『ウィンド・リバー』
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ネイティブアメリカン保留地は、アメリカ合衆国からネイティブアメリカン各部族の居住のために委託された土地です。 当初、西部では入植民との衝突を避けるため条約で部族の占有地が決められていましたが、それを無視して土地の剥奪が進みました。 その結果、先住民は保留地に閉じ込められてしまいます。現在、ネイティブアメリカンの約8割は保留地外に住んでいますが、祖先とのつながりを感じられる保留地は、彼らのこころの拠りどころにもなっているようです。

部族自治権と法の支配

『ウインド・リバー』
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ネイティブアメリカンの保留地では部族自治権が認められているため、一部を除いて州の権限が及びません。そのため、部族警察とよばれる独自の警察組織があります。 しかし、本作の舞台となっているウインド・リバー保留地は鹿児島県ほどの広さがあるにも関わらず、警察官の数はたったの6人と信じられない少なさでした。 警察の目の行き届かない保留地は無法地帯となり、多くの犯罪が見過ごされています。 保留地内の犯罪には市警や州警察が介入することはできません。唯一FBIだけが捜査に関わることができますが、それぞれの管轄の隙間になり、誰も捜査することのできない領域も存在します。

天然資源があるのに利益は得られない?

『ウインド・リバー』
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広大な面積をもつネイティブアメリカン保留地では、石油や天然ガスを採掘することができます。 しかし、これらの権利は天然資源が出た土地の所有者ではなく、採掘をした人に認められるため、いくら保留地から石油や天然ガスが出ても、経済的な利益にはなりません。 また、それらの天然資源を求めて保留地にやってくる白人なども多く、彼らとの衝突もたびたび起こっています。

女性に対する圧力や暴力

無法地帯となっている保留地では、特に女性に対する圧力や暴力が横行しており、本作の主眼もこの問題に置かれています。 これは、長年にわたるネイティブアメリカンの伝統文化の否定や、人種差別・性差別など多くの要因が絡んでいます。 ネイティブアメリカンの女性がレイプに合う確率は全米平均の約2.5倍以上といわれており、保留地の治安の悪さがその一因と考えられます。

【ネタバレ注意!】情状酌量の余地のない犯人

『ウインド・リバー』
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先述した保留地の問題から考えると、本作のように少女の遺体が発見されること自体が奇跡と言えるでしょう。 彼女の死因は他殺ではないものの、レイブ犯から逃げてきたために死亡してしまったことは明白。法的な罪状は強姦ですが、彼女を死に至らしめたのは犯人のそうした行動です。 犯人は、雪に閉ざされた保留地での生活に鬱憤をためていたのでしょう。しかし、彼はここに強制的に住まわされた人間ではありません。自ら利益を求めて保留地に入り、そこに住む人々の生活を荒らし、あまつさえ少女の命まで奪ったのです。 彼の行動は愚行としか言いようがなく、情状酌量の余地は全くありません。コリーの最後の復讐も、当然の報いと受け止める観客が多いのではないでしょうか。

【解説】“フロンティア3部作”最終章『ウインド・リバー』の狙いとは

『ウインド・リバー』についてシェリダンは「この作品は、成功しようが失敗しようが、作らなければならない映画だった」と語っています。 これまで、ネイティブアメリカン保留地の問題は一般的にあまり知られていませんでした。しかし2012年に、ウインド・リバー保留地での女性のレイブ被害や行方不明が異常に多いというルポルタージュ記事が発表されました。 シェリダンは、この記事に触発され本作のためのリサーチを始めました。そして、アメリカ特有の問題でありながら、あまりにも知られていないネイティブアメリカン保留地について、本作を作ろうと決意したそうです。 また、本作はシェリダンが脚本を担当した『ボーダーライン』、『最後の追跡』につづく“フロンティア3部作”の最終章に位置付けられ、これまでの2作のカタルシスとなっています。

【ネタバレ注意!】『ウインド・リバー』考察

『ウインド・リバー』
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シェリダンの“フロンティア3部作”では、アメリカの隠された闇にスポットを当ててきました。そしてその最終章となる本作『ウインド・リバー』は、アメリカ特有の問題であるネイティブアメリカンの保留地を舞台としています。 『ボーダーライン』、『最後の追跡』は、ともに「現代の西部劇」といわれ高い評価を得ました。本作も前2作と同じく西部劇として見ることができます。 近代国家が成立する前の西部開拓時代、公権力が存在しないころ、人々は銃で自分の身を守るしかありませんでした。『ウインド・リバー』は警察の目が行き届かないうえに、猛獣の出没する土地を舞台としており、ここでもやはり身を守るための銃は手放せないのです。

また、西部劇との類似点をはっきりと見ることもできます。天然資源の採掘に来た白人たちの存在は、かつて先住民の土地を奪っていたカウボーイと重なります。 部族警察とFBIの管轄とその狭間、これがあることによって治安の改善や犯罪の解決が難しくなっている側面は否定できません。しかし本作においては、それこそがカタルシスを生み出す巧みなギミックとなっています。