2018年8月4日更新

『12モンキーズ』の無限に広がるラストの解釈!ウイルスを撒いた犯人は誰だった?【ネタバレ】

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『12モンキーズ』ブルース・ウィルス
© Universal Pictures/zetaimage

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時間軸が難解!SF映画『12モンキーズ』をネタバレありで徹底解説!

『12モンキーズ』は、テリー・ギリアム監督による時間旅行を主テーマとしたSF映画。『ブレードランナー』の脚本を改稿して名を挙げたデヴィッド・ピープルズが脚本を手がけています。 主演はブルース・ウィリスで主人公のジェームズ・コールを、マデリーン・ストウがジェームズを助ける精神科医キャサリン・ライリーを演じました。ブラッド・ピットが物語のキーマンとなるジェフリー・ゴインズを演じ、強烈な印象を残しています。 20年の時を経て、2015年にはテレビドラマ化もされた本作。ここでも映画で回収されなかった伏線の謎が解けるのかが大きな関心事でした。この記事では可能な限り解釈の幅を広げ、徹底的に考察していきたいと思います。

ジェームズに語りかける謎の声の正体は?なぜ「ボブ」と呼ぶ?

謎の声の正体については本作を観た誰もが様々な解釈をしていると思います。しかしジェームズが初めて謎の声を聞いた時、「たぶん」と前置きしてはいますが、その声は3つの可能性を伝えています。 1つ目は隣の房のボランティア、2つ目は科学者に雇われたスパイ、そして3つ目はジェームズの想像の産物。「ボランティア」とは科学者から任務を命じられた者のことです。謎の声は劇中4回ジェームズに呼びかけています。 最初は実際隣の房のボランティアだったのかもしれません。2回目のフィラデルフィアの路上者はジェームズに「監視されている」ことと「歯に追尾装置が埋め込まれている」ことを教えます。後に再びキャサリンがこの路上者に出会いますが態度がおかしく、もしかしたらスパイだったのかも?とも思えます。 そして3・4回目の声は、実はジェームズの心の声だったのかもしれません。ジェームズ自身が「今しゃべってる男は想像の産物」と考えていました。いずれにしても謎の声は「ボランティア」たちの声で、様々な時代に送られたタイムトラベラーたちの「暗号通信」なのではないでしょうか。 謎の声が暗号通信だったと考えると、なぜ「ボブ」と呼びかけるのかの手がかりができます。暗号を送信するために使う慣用的な人名が「アリスとボブ」。ボランティアAがボランティアBにメッセージを送ったから、Bであるジェームズは「ボブ」と呼ばれたのでは?

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張り巡らされた伏線をキーワードから徹底回収!

12という数字

タイトルの『12モンキーズ』にある12という数字は、タイムトラベルをテーマとする本作の象徴「時計」を意味しているのかもしれません。12モンキーズの絵は円形になっています。 また、主人公ジェームズ(James)の名はキリスト教の十二使徒の一人「ヤコブ」の英語読み。キャサリンの講義では新約聖書「ヨハネ黙示録」からの引用もあり、キリスト教との関係性は濃厚です。

クリスマスと「WE DID IT」

ジェームズが最初のボランティア調査で地上に出た時に見つけた「WE DID IT(やったのは我々だ)」という文字と、12モンキーズの絵。これは終盤に再び登場します。 キャサリンとジェームズが変装するためデパートで服やかつらを買いますが、そこは冒頭にジェームズが例の文字と絵を見つけた場所だったのです。ウイルスが撒かれ始めたのはクリスマス後の12月27日、二人はそこのクリスマスセールでアロハシャツを買い、キー・ウエストへ行くため空港へ向かいます。

壁の予言と留守電の伝言

フィラデルフィアにある動物解放協会の事務所が12モンキーズの秘密本部ですが、その建物の壁に「ここからウイルスが?50億人が死ぬ?」と書いてあるのを2035年に戻ったジェームズが写真で見ています。 実はこれを書いたのはキャサリンで、未来の科学者たちに秘密本部の件を留守電で伝言に残したのも彼女。キャサリンの伝言はちゃんと未来に届いていたのです。

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フランス戦線とホセ

ジェームズの時間旅行2回目の出現場所は第1次世界大戦のフランス戦線で、なぜかそこにはジェームズの囚人仲間のホセもいました。撃たれたホセが写真に撮られ、ジェームズも写り込んでいます。 キャサリンがジェームズの言葉を信じるきっかけとなったのが、この時ジェームズの受けた銃弾が1920年以前のものであるという事実と、ホセと写っていた写真です。 なぜホセはいつもジェームズの近くにいたのか?という謎は、最後の空港のシーンで解けます。突然ホセが空港に現れジェームズに銃を渡し「命令だ」と脅します。そう、ホセはジェームズの監視役だったのです。

カサンドラ異常心理とヨハネ黙示録

キャサリンがボルティモア大学で講義したのは「災害のはびこる時には予言が氾濫する」という内容。この中で「カサンドラ異常心理」と「ヨハネ黙示録」が引用されます。 カサンドラ異常心理とは、ギリシャ神話に登場する悲劇の予言者カサンドラの名から取られた心理学用語。神に予言の能力を与えられながらも、神の怒りに触れたため誰にもその言葉を信じてもらえない境遇に陥ったという逸話です。これは、まるでジェームズの境遇のよう! ヨハネ黙示録からの引用は「4頭の獣の1頭は神の怒りに満ちた金の鉢を7人の天使に渡した」というもの。ヨハネ黙示録は世界の終末を予言した予言書として有名です。上記の引用はフィラデルフィアの路上で予言を語る男も口走っており、ジェームズに「仲間か?」と声をかけています。 『12モンキーズ』では「予言」というキーワードが重要で、様々な時代に送られたボランティアたちがまるで予言者のように扱われています。ただしカサンドラと同じく誰にも信じてもらえない境遇です。

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ジェームズの空港の記憶とキャサリンの微笑み

冒頭からジェームズは何回も「空港の記憶」を思い出しますが、これはキャサリンとジェームズがキー・ウエストへ向かう空港の記憶でした。この日、空港には子ども時代のジェームズも訪れていたのです。 つまり、未来から来た大人のジェームズと過去の子どもだったジェームズが同時に同じ場所に存在したことになります。 この空港でウイルスを撒く真犯人を見つけ、ホセに渡された銃で撃とうとしたジェームズは警察に撃たれてしまいます。その場面を強烈な思い出として子どものジェームズが記憶していたのです。 キャサリンは死にゆくジェームズを抱きながら辺りを見回し、微笑みます。これもなぜ笑ったのか?という疑問もありましたが、子どものジェームズを見つけ、まだジェームズの命は繋がっていると安堵したからなのでしょうか。

【ネタバレ】ウイルスを撒き散らした「犯人」は?隠れテーマを考察!

ジェフリーは結局真犯人ではなく、動物解放協会「12モンキーズ」によるテロは動物園から動物を街へ解放し、父親をゴリラの檻に閉じ込めるといったアイロニカルなものでした。 ジェフリーは精神病院にいる時から動物実験と消費至上主義への批判を主張しており、よくよく聞けば実はかなりまともな話をしています。「生産は今やすべて自動化。我々は消費者」とジェームズに話し、「物を買わないとどうなる?ビョーキだと診断される」とも言っています。 テレビで動物実験を見て「拷問、実験、我々は実験用の猿だ」と言ったジェフリーに、ジェームズがふと「絶滅するのも当然だ」と未来の話をします。この言葉に「絶滅?名案だ!」と返しており、後に細菌テロを思いつくきっかけとなりますが、実行はしなかったということ。 真犯人は、キャサリンの講義後のサイン会に現れ、予言者の未来への警告を軽視していると批判した男。ゴインズ父にキャサリンを「破滅主義者」だと伝え、環境汚染による地球滅亡を警告していたゴインズの細菌研究所のピーターズ研究員です。 ピーターズはキャサリンに「人類は警告を真剣に受け止めようとせず、目先の暮らしに浮かれている」と語り、ジェフリーの消費至上主義批判とも合致します。

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ラストの解釈は無限に広がっている?

「I’m an insurance.」の意味

ラストシーンの飛行機の中で、ピーターズの隣に座っているのが、2035年の女性科学者ジョーンズ。彼女はピーターズに「I’m an insurance.」と自己紹介します。字幕には「救済保険業」とあり、「私は(ジェームズが失敗した時の)保険である」という意味があると思われます。 つまり、ジョーンズが無事ウイルス現株を入手して2035年に持ち帰り、人類滅亡を防ぐことができたと予想できるラストになっています。

謎のファイナルカット

しかし映画はジョーンズのシーンの後、空港から去る子どものジェームズの顔をアップにして終わります。このファイナルカットは、「もしかしたらこれまでの話はすべてジェームズの想像あるいは妄想だったのでは?」とも思わせます。

この素晴らしき世界

エンドロールで流れるのは、劇中にも流れてジェームズが好きだと言ったルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界」。消費至上主義や動物虐待、環境汚染などの問題を抱えた世界を見せつけて、なおかつこの曲を流すとはなんという皮肉!これこそ未来への警告なのかもしれませんね。