難解『マルホランド・ドライブ』を読み解くヒントを解説!【ネタバレ】
アメリカの現代映画のルネッサンスを起こした男とも言われるデビッド・リンチの代表作『マルホランド・ドライブ』。今回は難解と言われる、ちょっと不思議で不気味な雰囲気のミステリーの真相に迫っていきたいと思います。 『マルホランド・ドライブ』の多すぎるとも言える伏線も紹介します!
『マルホランド・ドライブ』のあらすじ
『マルホランド・ドライブ』は、大きく前半と後半に分けることができます。主人公ベティの輝かしく、不自然とも呼べる成功を描いた前半、そして主人公ダイアンの苦悩に溢れる生活を描いた後半です。しかし、今作の前半に登場するベティやリタのストーリーは、女優としてうまくいかないダイアンの苦悩が生み出した夢の世界での出来事でした。 ダイアンは恋人であったカミーラに裏切られ、女優の夢もうまく行かず、カミーラの殺害を殺し屋に依頼してしまったのです。そして、愛するカミーラを殺害してしまったと悩んだダイアンは精神を病まれて、最後には自殺してしまいます。
数々の矛盾が示す夢の伏線
『マルホランド・ドライブ』のダイアンの夢の部分である前半での多くの矛盾に気付いたでしょうか?。前半の家主、ココが後半の監督アダムの母親と同じ容姿であったりと、ベティとリタ以外にも前半と後半で別の人として登場する役が数多くいました。断片的にやダイアンの現実がコピーされた形で夢が作られているのが分かります。 さらに、夢らしく、多くのカットで小物の配置が不連続なことにも気付いたでしょうか?ウィンキーズでダンと殺し屋が話している時、一瞬にしてベーコンエッグが消えていたりと、カットシーンが上手く繋がっていないことが、前半が夢であることを示しています。
『マルホランド・ドライブ』に登場する不思議で怖い登場人物
『マルホランド・ドライブ』には、何人かの人間とは思えない人物が登場します。彼らが今作で示すものが何であるのかを見ていきたいと思います!
老夫婦
この老夫婦は、ハリウッドとは全く関係のない人物であることから、一般的な人々を表しているとも言えます。ベティに頑張ってといいながらも、車の中では異様なまでに高笑いをする2人は、ダイアンの世間への考えを反映しているようです。 ラストシーンでは、2人がベティに攻めかかります。これらは、ダイアンの感じている世間からの批判と、同じくハリウッドの外にいる両親への申し訳無さが姿を変えて自分自身を襲っていると言えます。
カウボーイ
突然現れては消えてしまう、明らかに現実に存在しないカウボーイの登場は、死を表しています。よって、カウボーイは、「目覚めよ」という台詞でダイアンを夢から連れ戻します。そして、死への世界へとダイアンを導く役割を持っていました。
放浪者
ウィンキーズの外に現れ、ダイアンにも近づいた放浪者は、ダイアンが恐れているもの、不安の現れでした。ダイアンは、ダンという人物を夢の中で作り出し、彼に自分の気持ちを語らせています。そして、夢の中の放浪者は、ダイアンが夢から覚めて現実を思い出すことの恐怖を示しているのです
夢のなかのリタとの関係
夢の中ではダイアンの夢であった女優としての成功だけでなく、恋人であったカミーラもリタとして登場します。監督アダムと婚約し、女優として成功するカミーラを羨んだダイアンは、アダムのマフィアとの問題や、カミーラに愛されるという願望を夢で実現しようとしました。 殺人を犯した罪悪感から、ベティは記憶をなくしたリタにいつも親切に接します。さらに、ベティの服の選択は青色やピンクからリタらしい黒や赤に変わり、リタは金髪のウィッグを付けるなど前半のラストシーンでは二人は同一人物のように似てきます。これは、女優として成功したカミーラに対して、カミーラのようになりたいと願うダイアンの願望が反映されているのです。
ハリウッドの闇
監督、アダムが陥るマフィアとの問題や、殺人、妬みなど、『マルホランド・ドライブ』が表しているのテーマは、ハリウッドの闇です。ダイアンは、自分の理想の夢で自分自身をベティと呼びました。このベティという名前は、ダイアンがウィンキーズで見かけたウェイトレスの名前です。 ハリウッドでは、夢を追いかけてやってきた多くの女性が、ウェイトレスなどの仕事をしながら生活しています。ウェイトレスのベティは、おそらく、女優としての夢を見たダイアンのような女性なのではないでしょうか? そして夢の前半で、ベティが出会うウェイトレスの名前は「ダイアン」とあります。ダイアンとベティの存在は、ハリウッドで夢を追いかけながらも苦悩する多くの女性の存在を示しているのです。
ブルーボックスとクラブ・シレンシオ
殺し屋がカミーラの殺害成功を知らせる為のアイテムである青い鍵について、何が開けられるのかダイアンは聞きます。殺し屋が軽く笑ったことから、この鍵はただの合図であり、実際には何も開くことができない事が分かります。 前半のラストでベティとリタが訪れる「クラブ・シレンシオ」は、「これはすべてまやかしです」という言葉の通りに、ベティとリタの世界が全て夢であることを伝えています。そして、クラブ・シレンシオが終わった時に、夢の終わりを告げるブルーボックスが見つかるのです。 このブルーボックスが開く時、夢は終わります。そして、カミーラが死んだという事を示す青い鍵を見つけた時、ダイアンがカミーラ殺害の現実に向き合わなければなりませんでした。そして、ダイアンは自殺を決意するのです。