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『ペンギン・ハイウェイ』をアニメ化した若手・石田祐康って何者?【監督インタビュー】

2018年8月25日更新

『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』などで知られる森見登美彦の小説『ペンギン・ハイウェイ』を、アニメーションスタジオ「スタジオコロリド」が映画化。今回初の長編アニメ映画を作った石田祐康監督に作品の魅力について聞いてみました。8月17日より全国の映画館で公開中です。

森見登美彦作品をアニメ化した若手監督の石田祐康ってどんな人?

森見登美彦といえば、『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』など、多くのベストセラー小説を生み出している作家ですが、その森見登美彦作品の中でも少し毛色が違う異色作『ペンギン・ハイウェイ』。 そんな本作が、『陽なたのアオシグレ』で劇場アニメデビューを果たしたスタジオコロリドの石田祐康監督により映画化され、8月17日(金)から全国で上映されています。石田にとって初の長編監督作品となります。 今回、そんな新進気鋭の石田祐康の作家性について、監督本人にインタビューを行いながら解き明かしていきます。

映画『ペンギン・ハイウェイ』についてもっと詳しく

「魔法」では無く、「科学」をベースにアニメを作りたかった。

ペンギン・ハイウェイ 石田祐康
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今回インタビューを敢行した石田祐康は、今まで『フミコの告白』や『rain town』『陽なたのアオシグレ』といったオリジナルの短編を中心にアニメを作ってきた若干30歳の若手監督です。 長編アニメ映画で、しかも原作がある作品は今回が初とのこと。まずは今まで制作してきた作品と本作との違いや、苦労した点について聞いてみました。

今回、原作があるものを初めてやってみてどうでしたか。

石田) 今までやっていた原作のないオリジナル作品は、なんというか「課題のない自由研究」をやっているようなもので、何をすればいいのか迷ってしまう瞬間もあったんですよね。プロットがある程度決まれば、そこからはドンドン進めていけるのですが、それが決まるまでにだいぶ悩んでいたんです。 それが、原作ありになったら、それはつまり自由研究の課題があらかじめ出されているのと同じ状態なので、そこはとても楽になりました。 少し話が変わりますが、そもそも「こんな映画を作ってほしい」とオファーを出した側の意思を読み取って応えるのは、自分としては嫌いではなく、むしろ好きなほうかもしれないと感じました。。 なぜならオファーする人を「最初の観客」だと思えばいいわけです。最初の観客をどう喜ばせればいいのか、それはこれから映画を観る人に喜んでもらいたい、ということとほとんど一緒なので、その行為自体が好きであれば、やって意味のあることだなと。 原作があるということも、その作者、ファンの方にも喜んでもらいたい、ということと同じなので、自分は基本的にそれに課題を持って楽しんでやれるなと思ったのです。 もちろん、原作があることが性に合う人と性に合わない人がいると思うのですが、僕は今回初めて原作のある作品をやってみて、気持ちが入りさえすればオリジナルと同じようにできると思いました。 原作に忠実な部分を7~8割で達成して、その分残りの2~3割は、“アニメ屋”としてアイデアを盛り込んで挑戦してみる。そのバランスがいいように思いました。

ペンギン・ハイウェイ
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

世の中にはいろいろな小説がありますが、その中から森見登美彦さんの『ペンギン・ハイウェイ』を原作でやろうと思ったのはなぜですか。

石田) 確かにいろいろな原作を読んだんですけど、『ペンギン・ハイウェイ』には僕がやりたい要素がだいたい揃っていたんですよね。少年であったり、ジュブナイルであったり、未知の世界への憧れであったり……。 そのやりたい要素があったことと、僕は「魔法」と「科学」で言えば、どちらかと言えば「科学」に興味をもつ人間なので、そういう点でも、この作品は科学寄りでありながら同時に魔法めいたかわいい要素もあるという、バランスのよいところに惹かれたんです。 たとえば魔法だと、「なぜそんなことができるのか」という理屈がすっ飛ばされて、夢見心地で語られることがしばしばあるんですけど、科学の場合はそうはいかない。 この作品で、若干魔法じみているところがあるはあるんですけど、でもそれは他の森見さんの作品とは違って、根底に科学的根拠があるというか、そういう世界観があるんだという下地が暗に提示されていると思うんです。 つまり、「何故できるのか」というメカニズムは具体的に説明できなくても、「自分たちの目には見えない未知の原理が働いていて、それがそういう現象を起こしているんだな」って言う、根拠が見えるんですよね。 ちょうど実際の宇宙論にある「暗黒エネルギー」のような、観測はできないけど存在の想定だけはできる、というのに近いですね。 それが魔法というよりは科学的に捉えられている感じがするのも、この作品を好きになった一因です。

ペンギン・ハイウェイ
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

今回、初の長編映画でしたが、今まで作った作品と比べて作り方は違いましたか。

石田) 全然違いましたね、やっぱり。尺の長さに比例して、それに関わる人が多くなることにも驚いています。 そういう意味でも、経験が圧倒的に不足している自分にとっては、原作ものをやるのは当初から必要だと思っていました。そこが弱いっていうのは想像に難くなかったというか。 だから、その土台があった上で、芯の部分を信じながら、こちらはそれを2時間ちゃんと観れる映画をにしようと思ったんです。 絵作りにおいても、今まで短編で培ってきたものを、短距離走ではなくて、どれだけ長距離走のようにひとつひとつ積み上げていって確実に作っていけるか、というところが、僕にとっては目下の課題でした。 そういう意味では、長編は短編に比べると地道な作業の積み重ねでしたね。

大学時代の世界観に立ち戻りたい。

ペンギン・ハイウェイ 石田祐康
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石田監督の短編『フミコの告白』や『陽なたのアオシグレ』は、疾走感の溢れるシーンが見どころでした。この表現について、監督はどう思っているのでしょうか。

今までの石田監督の作品は、疾走感が大きなテーマになっているのかなと思っています。『ペンギン・ハイウェイ』にも、ペンギンと街中を移動するところで疾走感溢れるシーンがありましたね。

石田) 実を言うと、当初はあまり意識していなかったんですよ。原作を読んで、すぐにイメージボードに書き起こしたんですけど、そのときには疾走感のあるシーンはなかったんですよね。 でも、そのあと「このままでいいのかな」って思ったんです。それはさっき言った、「7割は原作に忠実で、残りの3割で自分に何ができるか」ということを考えたときに、その中にこの表現は含まれるだろうなあと。 そこで、原作では歩いて行進するようなシーンを、ペンギンたちに思い切り走ってもらって疾走感のあるシーンに作り変えました。

「疾走感」は監督の作品のアイデンティティみたいなものだと思ったのですが。

石田) 過去の作品、『フミコの告白』や『陽なたのアオシグレ』をやったときに比べると、その欲求は弱まっているんですよね。そうは思いつつも同時に求められることはわかっていたので、今回はあえて入れたところがあります。 確かに「疾走感」という表現は嫌いではないんですけど、今回はそれ以上に好きな部分もいくつかあって。たとえば、年上のお姉さんのことだったり、ペンギンパレード(ペンギンが隊列を組んで走るところ)の後に現れる世界の描写とか、そういうところですね。 自分が京都精華大学の卒業制作として作った『rain town』という作品があって、ああいった静かな世界観が好きで、それがこの作品にも通じるところがありました。

石田) 僕が大学に入ったとき、実は『フミコの告白』のような疾走感というよりも、こういった『rain town』のような風景の作品がもともとは作りたかったんですよね。すべての時間をそちらに費やそうとさえ思っていました。 でも、その前に友人に一緒にやろうと誘われて作ったのが『フミコの告白』で。あれはせっかく一緒にやるなら動いて走るものにしようと、それに応えて作っただけなんです。でもそれが評価されてしまった。 ただ、そのさらに前に作った最初のアニメーション作品は、やはり『rain town』寄りの世界観と風景重視の作品だったので、元々はそういう思考が強いんだと思います。ハッキリとは覚えていませんが、子供のころに感じた何かしらの感覚がそうさせているかもしれません。 今回『ペンギン・ハイウェイ』をやろうと思ったのも、この『rain town』の感覚が描けるかもしれないと、そんな予感があったからなんですね。 だから、ペンギンパレードの直後のあの静かなシーンは、そういう気持ちで描いています。「こんな場所に行ってボーっと佇んでみたいな」という漠然とした思いからです。

子ども向けには作っていない。理解するより感じて欲しい。

ペンギン・ハイウェイ 石田祐康
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今回の『ペンギン・ハイウェイ』は、小学4年生が主人公ですが、石田監督曰く、子ども向けには作っていないとのこと。

この作品はどの年齢層に観て欲しいですか?

石田) 今回、作品を作っている最中は、とにかくこの作品のためになること、自分が良いなと思ったものを信じて作ったところがあるので、あまり誰それに向けてとか、どこのターゲット層をメインに、とかはなかったんですよね。 強いて言えば、作っているときは「これは子どもにはわからないだろうな」と思いながらも、でも大人には響くだろうと思った部分もあり……。僕と同世代かそれ以上、たとえば幼い子どもを持つお父さん世代には、クスッとくるような、遠回しな表現だったり言い回し、あるいは少年時代を思い出せるような感覚がある作品なので、そういうところでこの年代の方には届くんじゃないかなあと思うのです。 それは結局、自分も大人だから、自動的に大人目線で作っちゃっているというところもあるんでしょうけど。 その分「子どもにはパッと見てわからないだろうな」と思う部分は出てくると思うんですよ。でもそういうのもひっくるめて、わからなくても観れる映画、観てほしい映画になっている気がします。 僕も子どものときは、それほど頭の良い子どもではなかったので(笑)、テレビアニメを見ててもわからないことがたくさんありましたが、アニメの面白さは体感できたんですよね。むしろわからないことのほうが、印象に残っていることもあると思うのです。 自分は、小学生のときがいちばん楽しかったんです。主人公のアオヤマ君のように頭は良くなかったけど、全力で町中を駆け回っていましたね。僕の田舎は山や川、田んぼに海まであるような田舎町だったから。

ペンギン・ハイウェイ 石田祐康
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ジュブナイルな作品を作りたいと思っているのは、その思い出があるから?

石田) 確実にそうだと思います。小学生であれば、実感をもって描けるだろうし。 もちろん周りのオーダーにも答えなくちゃいけないので、周りの人がどう思うかによるとは思うんですが、でもまた求められたらジュブナイルな作品を作りたいですね。

大人も子ども楽しめる、謎解き要素もある映画

ペンギン・ハイウェイ
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

『ペンギン・ハイウェイ』は、途中までペンギンが出現した理由がわからないという、謎解き要素もある変わった作品です。しかも監督の言葉通り、単にファンタジーなだけでなく、科学的に納得感のあるシナリオなのも見逃せないポイント。大人が見ても充分楽しめる内容です。 映画『ペンギン・ハイウェイ』は、2018年8月17日(土)より全国公開中です。