グルメ漫画の先駆け『美味しんぼ』とは
『美味しんぼ』とは原作・雁屋哲、作画・花咲アキラの料理を題材とした漫画です。主人公は東西新聞で働く山岡士郎と栗田ゆう子の2人で、料理対決や究極のメニュー探しなど食に関する出来事を題材とした物語となっています。 世界観は現実に近く料理の描写なども非常にリアルです。料理を題材としつつも、物語は人の心情や関わりを綴ったドラマ仕立てで、料理の世界を取り巻く人々の姿を描いた作品という色が強いです。また、実際に役立ちそうな知識も豊富なことから、料理の世界を学べる漫画としても知られています。 人間関係の面では山岡と海原雄山の因縁の対決や山岡とヒロイン栗田の恋の模様などキャラクターたちの関わり合いなども面白く、連載が始まった1983年以来長年愛され続けている作品です。
【ネタバレ注意】『美味しんぼ』の物語の流れ
東西新聞文化部の記者であった山岡士郎と栗田ゆう子は秀でた味覚の持ち主。物語はこの2人が同社創立100周年記念事業として行った「究極のメニュー」作りに取り組むところから始まります。普段はグータラの名を欲しいままにしていた山岡でしたが、料理のことになるとまるで別人のよう。その豊富な知識と鋭い味覚で活躍し、周囲からの信頼を得るようになります。 そんな山岡には海原雄山という因縁の相手がいました。彼は実は山岡の父親。美食倶楽部を主宰する有名な美食家なのですが、山岡の母の死を巡って親子は絶縁状態となっていました。こうして2人の確執はやがて、山岡が担当する「究極のメニュー」対、海原が担当する「至高のメニュー」への対決へと発展。 山岡と栗田は文化部の仕事を共にする内に徐々に惹かれ合うようになっていきます。母の死のトラウマがありなかなか結婚に踏み出せない山岡でしたが、山岡と栗田の双方に求婚者が現れたことで互いの気持ちを改めて認め合い、結婚することに。 後に山岡と海原は和解し、山岡は3人の子供を持つ父となっています。
登場するキャラクターたち
永遠のライバル?山岡士郎と海原雄山
主人公の山岡士郎と海原雄山は長い間因縁の関係にありました。しかし、やはり親子。味覚の鋭さや芸術に対する造詣の深さなど、感覚的なものは親譲りな様です。また、作中で唐山陶人が山岡に対して「あの海原雄山という男どうしようもないわからず屋で、強情っぱりで、根性まがりで、うぬぼれが強くて、おまえにそっくりじゃな!!」と言っていることもあり、性格もそっくりな様です。 しかし、海原雄山が自らの芸術のために母を死に追いやったのだと思っている山岡は、どうしても海原雄山という男を認めることができません。母の一件は本当は誤解だったのですが、海原雄山もまた強情っぱりな性格。2人は互いの性格が邪魔して和解出来ずにいたようです
山岡を支える東西新聞社のメンバー
山岡が所属する東西新聞文化部には、ヒロインの栗田ほか、山岡の良き理解者である谷村、文化部のムードメーカー的存在の富井など、彼を支える人物が数多く登場します。 まずヒロインの栗田ゆう子。とてもしっかりした女性で最初は山岡の自由奔放さに振り回されっぱなしでしたが、彼の料理への情熱や芸術への造詣の深さに惹かれるようになります。しっかり者と自由奔放なキャラというのはいいコンビですね。 山岡を支え続けたのは大らかな谷村。その大らかさ故に栗田同様山岡に振り回されることもありましたが、山岡の実力を認め頼りにしていました。そして、東西新聞のムードメーカー富井。禿げた頭に眼鏡に出っ歯と見た目は非常にユニークで、ドジばかり踏むのですが非常に明るく、どこか憎めない名物キャラクターです。 『美味しんぼ』はメインキャラクターの役割がしっかりしており、キャラ同士のユニークな絡みがあるのもまた魅力の1つです。
海原雄山を取り巻く人たち
美食倶楽部を主宰する海原雄山にも山岡同様、彼を支える人物がいます。まず、その1人、中川得夫。海原雄山の付き人でもあり、美食倶楽部の調理場主任を任されている料理人としても活躍しています。優しい性格ゆえ、海原と山岡の親子喧嘩に巻き込まれておたついていることもしばし。 もう1人、料理人の岡星良三。彼は料理人としての腕は高いのですが、未熟さ故に海原雄山の怒りを買うこともありました。時には山岡に助けられることもあるなど、山岡とも親しい人物。至高のメニューを振舞う際に重要な役割を担うことが多いです。 そして、料理人ではありませんが、もう1人ご紹介したいのが中川チヨ。彼女は料理人中川の妻で山岡にとって育ての母のような存在。美食倶楽部の筆頭格の仲居ですが、山岡と非常に親しく、物語の中の良きお母さんといった人物です。
メディア作品について
テレビアニメ(1988年~1992年)
アニメでは全136話が放送されました。登場人物の台詞が一部ややマイルドな表現に修正されるなどはありましたが、ほぼ原作に沿った内容で、レギュラー放送後には2時間スペシャルで放映もされました。1989年には第27回ギャラクシー賞・テレビ部門・選奨を受賞するなど、当時人気を博した本作品。 2016年にデジタルリマスター版がリリースされたことを受け、動画配信サイトでノーカット配信されたこともあり、近年になってから再び見始めたファンも多い様です。
1度目は唐沢寿明、2度目は松岡昌宏が主演したドラマ化作品
ドラマ化は2回行われており、1度目は唐沢寿明が、2度目はTOKIOの松岡昌宏が主演を務めました。 キャスティングは山岡が唐沢寿明、栗田が石田ゆり子、海原雄山がパート1では原田芳雄、パート2から5までは江守徹が担当しました。このキャスティング、唐沢と江守の海原雄山の再現ぶりが凄く、そのリアルさはまるで漫画の中から登場した様でした。 松岡主演の際には山岡の男前度が上がっている、という声が多かったようです。松岡は彼自身も非常に料理が得意ですから、料理への造詣なども含め、自分なりの山岡を演じていたのかもしれませんね。
リアル親子共演が実現した映画
映画作品は1996年に佐藤浩市主演で公開されました。映画は基本設定以外は非常にオリジナル要素が強く、リアリティを追求した作品となっています。 映画では海原雄山を三國連太郎が演じ、三國連太郎と佐藤浩市による親子共演が実現しているのですが、実は佐藤浩市を指名したのは父親の三國。当時の2人は互いに確執があり、互いに「佐藤くん」「三國さん」と呼び合っていました。撮影時や会見でもその緊迫感は漂ったままで、まるで原作の山岡と海原のような状態だったのだそうです。
『美味しんぼ』の衝撃シーン、名シーン、トリビア
ファン衝撃の「トマトサラダ」
『美味しんぼ』には数々の驚きの料理が登場しますが、トマトサラダもその1つです。究極のメニュー対至高のメニュー対決の際に海原が出したものなのですが、海原が出したトマトサラダはなんと、トマトが実った状態の鉢植え丸ごと。 確かに一番新鮮ですしインパクトは絶大ですね。アイデアを通り越した度肝を抜く演出と、トマトの味に虜になった審査員によって勝負は引き分けとなりました。 因みに、トマトに関しては過酷な環境で育てた方が甘くて美味しいという知識も披露されています。きっと海原が出したトマトも過酷な環境で育ったことでしょう。
中松警部によるもみ消しが凄い
こちらは中松という警部のネタです。 中松によって揉み消された事件がいくつかあり、1つは無許可で蕎麦屋をしていた男がいたのですが、蕎麦好きの中松の力で揉み消されています。また、うなぎ職人の男が調理法に激怒し、酔っぱらってショーウィンドウを破壊、刃物をさらしで巻いただけの状態で手にする、という危険な行動もウナギ好きの中松によって揉み消されているという事実があるのです。 実は彼には山岡もお世話になりました。とあるパーティーで牡蠣を用意することにした山岡ですが、鮮度が落ちてしまう、とバイク乗りに頼んで時速200キロで走行。パーティーには間に合いましたが200キロは危険運転です。しかし、この事実も中松が揉み消しているのです。 実は『美味しんぼ』を陰で支えていたのは彼だったのでしょうか。
原作者雁屋による『美味しんぼ』の新しい楽しみ方
原作者の雁屋哲がブログを書いているのはご存じでしょうか。主には社会問題や時事ネタ、サッカーも好きなようで、スポーツのネタなどを書いてます。 月に1本から数本のペースで気になった話などを書く雁屋ですが、その中に「美味しんぼの新しい楽しみ方」というものがあります。漫画には大きく話が変わる「幕」と、話は大きく変わらず、その設定の中で話を進めるの「場」というのがあるのですが、その幕と場に栗田の衣装が関わっているというのです。 良く見ていると「幕」が変わる度に栗田の衣装が変わっているのだそう。これは「場」が変わる時には見られないとのことで、雁屋は改めて作画を担当する花咲アキラの凄さを感心したと言います。作者ならではの注目ポイントですが、非常に興味深いですね。
「命にかかわらない真剣勝負はない」
海原雄山が料理に対して並々ならぬ熱意を見せる一言です。 この台詞が登場するのは第76巻。この台詞が登場する回は、美食倶楽部がアジア各国の首脳陣を招いて海原自らが料理を振舞うという物語です。しかし、美食倶楽部によるもてなしが行われようとした矢先、海原が事故に遭い、意識不明の重態に。 その後意識を取り戻した海原ですが、すぐにでも会場に向かおうとするので周囲が止めようとします。そこで海原は「客の社会的地位など関係ない。美食倶楽部で客をもてなすのは、その客が誰であろうと私にとって真剣勝負なのだ」と告げるのです。 偏屈な印象の強い海原の、料理への熱い一言に思わずグっとくる名シーンです。
『美味しんぼ』という作品
漫画から始まり、アニメ、ドラマ、映画まで多くのファンから愛される作品『美味しんぼ』。食を扱った漫画ですが、主人公が料理人ではなくて取材する側というのがユニークです。しっかりとしたストーリー、ユニークなアイデアの料理、時に人生を考えさせられるような台詞の数々、など、予想以上に奥深い作品です。 それでいて物語が堅くなり過ぎないのも非常に魅力的で、これについてはキャラクターの行動や発言が、物語を楽しませてくれているからだと考えられます。2014年の休載以来、再開されていないのが残念ですが、Amazon primeやHuluなどではアニメ配信などもやっておりますので、機会がありましたら触れてみてはいかがでしょう。