2018年8月31日更新

リマスター版が公開!SFホラーの傑作『遊星からの物体X』の魅力とは?

© 1982 Universal City Studios Inc. All Rights Reserved.

SFホラーの金字塔として、ファンからの支持も高い傑作『遊星からの物体X』が、デジタル化されて映画館で公開されます。この映画はどのような点で評価されているのか、その魅力を探ってみました。是非大スクリーンで鑑賞しましょう。

SFホラー・ファンから絶賛される隠れた名作

スピルバーグの『E.T.』が大当たりした1982年に公開されたSFホラー作品『遊星からの物体X』。 その評価は、この手のジャンルの映画ファンから非常に高いことで知られています。まず、クリーチャー表現が当時としては比類ないものであること、カート・ラッセルはじめ俳優陣の素晴らしさ、モリコーネの音楽などが賞讃ポイント。 南極の観測基地という閉じた空間で展開される、「だれが人間に同化したクリーチャーか?」というサスペンスも、観客を惹きつける要素です。今回は、この隠れた名作についてまとめてみました。

『遊星からの物体X』のあらすじ

遊星からの物体X
© 1982 Universal City Studios Inc. All Rights Reserved.

ファーストシーンで、円盤のような飛行物体が地球に墜落する場面がちらりと映し出されます。舞台は1982年の南極。ヘリが1頭のハスキー犬を追って、アメリカ観測隊基地に着陸。 ヘリはノルウェー観測隊のもので、銃器を使って必死に犬を殺そうとして、アメリカ人隊員に怪我を負わせてしまいます。やむを得ず隊長のギャリー(ドナルド・モファット)が、ノルウェー隊員を射殺。 何の変哲もない犬をなぜ必死に殺そうとしていたのか不思議に思いながら、アメリカ人は犬を収容します。その夜、その犬はグロテスクな生物に変形。周りの犬を同化し始めます。 その怪物は、マクレディ(カート・ラッセル)らによって、火炎放射器で撃退されますが、その後も隊員たちは、謎の異星生物に一人一人同化されていき……?

原作は短篇小説『影が行く』

原作はアメリカのSF小説家、ジョン・W・キャンベルが、1938年に発表した短編小説、『影が行く』です。 あらすじは本作とほぼ同じですが、南極で氷漬けになっていた異星生物を発見するのがアメリカ観測隊となっているところが、映画版とは異なっています。また、結末も映画のように意味深なものではありません。 キャンベルは、作家としての活動と同時に、優秀な編集者としても活躍し、アシモフやハインラインなど著名なSF作家を見出しました。また、キャンベルの作風は、科学的知識に裏打ちされつつも、ラブクラフト的なホラー要素が散りばめられているものなのです。

監督ジョン・カーペンター

ジョン・カーペンター
© Retna/Photoshot

監督は1948年生まれの映画監督、脚本家、音楽家であるジョン・カーペンターです。 4歳の時に本作のオリジナル版である『遊星よりの物体X』(1951)を観て、強烈な影響を受けます。そして、『エイリアン』(1979)などの脚本家、ダン・オバノンと共同制作した、SF映画『ダーク・スター』で1974年に長編映画デビュー。 その後も、『ハロウィン』(1978)、『ザ・フォッグ』(1980)などのホラー映画や『ニューヨーク1997』(1981)、『スターマン/愛・宇宙はるかに』(1984)などのSF映画を得意分野とします。 また、音楽家としても知られており、監督作品『ゴースト・ハンターズ』(1986)では、バンドを結成して自らボーカルをとった曲をサウンドトラックにしているほどです。

マクレディ / カート・ラッセル

カート・ラッセル
©Media/Newscom/Zeta Image

マクレディ役は、1951年生まれの俳優、カート・ラッセルです。カート・ラッセルは『ニューヨーク1997』(1981)、『ゴースト・ハンターズ』(1986)、『エスケープ・フロム・LA.』(1996)などカーペンター作品の主演も多数あります。 なかでも、『ニューヨーク1997』およびその続編『エスケープ・フロム・LA.』で演じた、ならず者スネーク・プリスキンは、はまり役でカルト的人気を博してさえいるのです。 また、『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007)や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)などに、重要な役で出演しています。

チャイルズ / キース・デイヴィッド

マクレディとともに、異星生物に果敢に立ち向かうチャイルズを演じるのは、1956年生まれの俳優、キース・デイヴィッドです。 本作で俳優デビューし、カーペンター作品では『ゼイリブ』(1988)に重要な役で出演。その後も、『ピッチブラック』(2000)、『クラウド・アトラス』(2012)、『ナイスガイズ!』(2016)などに登場します。 舞台やテレビでも活躍しており、テレビアニメ『ガーゴイルズ』では主人公ゴライアスの声を担当し、エミー賞にノミネートされました。また、トニー賞にノミネートされたこともあります。

人間や犬に同化する異星生物をSFXで見事に表現

遊星からの物体X
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特殊メイク、SFXはロブ・ボッティン、スタン・ウィンストンらが担当。当時弱冠22歳のロブ・ボッティンは、カーペンターの『ザ・フォッグ』(1980)でも特殊メイクの仕事をしており、本作のクリーチャー造型で業界では一躍有名になりました。 冒頭、スタン・ウィンストンが担当した犬の変身シーン。犬の顔がパックリ割れて、間から訳の分からないものがニョキニョキ生えてきて、周囲の犬を同化していく場面は、決して近年のCGIに引けを取りません。 また、ボッティンが作った、心臓麻痺を起こした隊員の腹がパックリ割れて、そこからもう一つの頭部が生えてきたり、火炎放射器で焼かれながら、頭部だけ強大な蜘蛛に擬態して逃げようとするシュールな場面は圧巻。 なお、採用されなかったシーンもBDやDVDに収録されています。

音楽は巨匠、エンニオ・モリコーネ

エンニオ・モリコーネ
© Everett/Photoshot

音楽は、1928年生まれのイタリアの作曲家、巨匠エンニオ・モリコーネの手になるものです。モリコーネは『荒野の用心棒』(1964)、『夕陽のガンマン』(1965)などのマカロニ・ウェスタンのテーマ曲で有名になりました。 以降、数え切れないほどの映画音楽を手がけていて、アカデミー賞にノミネートされること7回。2016年にようやくタランティーノの『ヘイトフル・エイト』で、アカデミー作曲賞を受賞しました。 本作の音楽は、シンセサイザーを基調とした環境音楽風の楽曲で、エンニオ・モリコーネの音楽性の奥深さを実感できます。

最初の映画化『遊星よりの物体X』

1951年当時、SF映画のメッカであったRKOからリリースされ、製作ハワード・ホークス、監督クリスティアン・ナイビイとクレジットされた本作ですが、演出のほとんどをホークスが行ったというのが定説になっているようです。 原作とは大幅に改変され、舞台が南極ではなくアラスカであること、したがって、宇宙から来たクリーチャーと対峙するのが南極観測隊ではなくアメリカ軍であることなどが、主な相違点でしょう。 カーペンターはじめ、本作のファンを公言する映画監督は多く、スピルバーグも『未知との遭遇』(1977)のタイトルを本作の最後の台詞にちなんで『Watch The Sky』にしようとしていたほどです。

前日譚『遊星からの物体X ファーストコンタクト』

『遊星からの物体X』の前日譚であり、ノルウェー観測隊がハスキー犬を追うことになるまでを、整合性をもって描いています。 監督はマティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニア、主演は『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010)などのメアリー・エリザベス・ウィンステッドです。 怪物を表現するのに、アニマトロニクスや着ぐるみをなるべく使用し、CGIは補完する形でのみ利用しています。 本作の製作は紆余曲折し、一時期はギレルモ・デル・トロがラブクラフトの『狂気の山脈にて』を映画化しようと方針転換したほどなのです。

デジタル・リマスター版が公開!

遊星からの物体X
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いかがでしたか? 本作の魅力がお分かりいただけたでしょうか。 1951年のオリジナル版『遊星よりの物体X』には、社会主義者に同化されて増殖する冷戦的な恐怖があったようです。それでは本作は? 人間に襲いかかって同化してしまう怪物という存在は、ゾンビさえをも思わせます。ゾンビと化した人間は一目瞭然ですが、異星生物に同化された人間は見分けが付かないところが巧妙ですね。 この傑作がデジタル化されて、大スクリーンで観ることができます。『遊星からの物体X』デジタル・リマスター版は、2018年10月19日に公開です。