この街には何かが潜む。新感覚の都市伝説映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』をレビュー
『イット・フォローズ』監督最新作のネオノワール・サスペンスムービー『アンダー・ザ・シルバーレイク』
想定外のストーリー展開と気鋭の演出で、前代未聞のホラー映画として世界中で人気を博した『イット・フォローズ』で注目を集め、次世代の映画監督としても名高いデヴィッド・ロバート・ミッチェルが仕掛けるネオノワール・サスペンス映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』。 主演を「アメイジング・スパイダーマン」シリーズのアンドリュー・ガーフィールドが務め、第71回カンヌ国際映画祭正式出品作に選出されるなど、話題を呼んでいる本作。今記事ではあらすじやキャスト紹介。一足早く作品を鑑賞した後に感じた見どころなどをご紹介していきます。
美女の失踪、著名人の謎の死、連続犬殺し……華やかなこの街には闇がある
主人公サムは夢と理想を胸にLAの街シルバーレイクに住むものの、職を失い家賃を滞納した挙句、近日中の退去を迫られるという窮地に陥っていた。そんな折にブロンドヘア―が特徴的な美女サラが隣の家に越してくる。久方ぶりのときめきに心を躍らせていたサムだったが、ほどなくしてサラの家はもぬけの殻となり、謎の失踪を遂げてしまった。 その頃街では、犯人不明の飼い犬殺しや大物プロデューサーや大富豪の死亡事件が相次いでおり、サラの失踪はこの事件と何らかの関連があるとサムは推測する。そして街でささやかれる都市伝説や至るところに隠された暗号、サブリミナルメッセージなどを解明し、サラの居場所を突き止めるべく奔走するが、シルバーレイクには予想だにしない闇が存在しており……。
注目のキャストの共演
「アメイジング・スパイダーマン」シリーズでお馴染みのアンドリュー・ガーフィールド
本作で主人公の青年サムを演じたのは、大人気シリーズ『アメイジング・スパイダーマン』の主演としても有名な俳優アンドリュー・ガーフィールド。 1983年にアメリカのロサンゼルスで生まれ、2007年に映画デビュー。同年公開の映画『BOY A』で英国アカデミー賞BAFTAテレビ部門で主演男優賞を獲得し、その後も『ソーシャル・ネットワーク』や『沈黙-サイレンス-』、『ブレス しあわせの呼吸』などの話題作に出演しています。 本作では、シルバーレイクに渦巻く闇の真相を追いかけるうちのその深みに嵌まっていくサムの狂気を見事に表現しました。
エルビス・プレスリーの孫で女優のライリー・キーオ
サムの片思いの相手で謎の美女のサラを演じたのは、エルビス・プレスリーを祖父に持つ女優のライリー・キーオ。1989年にアメリカのロサンゼルスに生まれ、10代の頃よりモデルとして活躍。2010年に『ランナウェイ』で女優デビューし、『グッド・ドクター 禁断のカルテ』や大ヒット作『マッドマックス 怒りのデスロード』などの話題作に続々出演。 本作では魅惑的で妖艶な雰囲気漂う謎の美女サラ役を熱演し、印象的な美貌と存在感を発揮しました。各映画賞へのノミネートも経験する、今注目の女優のひとりです。
監督は『イット・フォローズ』で知られるデヴィッド・ロバート・ミッチェル
本作の監督および脚本を務めたのは、アメリカのミシガン州出身の映画監督デヴィッド・ロバート・ミッチェル。長きに渡るハリウッドでの下積み時代を経て、2010年に映画『アメリカン・スリープオーバー』で監督デビューを果たし、同作がカンヌ国際映画祭国際批評家週間で世界プレミア上映されるなど、各方面で高い評価を獲得。 その後2014年に長編2作品目にあたるホラー映画『イット・フォローズ』が世界中で人気を呼び、大手映画批評サイトRottenTomatoesでは96パーセントという驚くべき好評を博し、その話題性を受けて全米では拡大公開が実施され、大ヒットを記録しました。 本作では前作にも匹敵するホラー感を踏襲しつつも、都市伝説をベースとしたサスペンス・ミステリー映画に仕上げました。
数々の作品のオマージュとカルチャーの融合
本作の大きな見どころとして挙げられるのは、作品に込められた巨匠たちへの数々のオマージュ。本作の撮影監督のマイケル・ジオラスは、映画界の巨匠へのオマージュをふんだんに盛り込んだ、悪夢のような映像だと完成後のプロダクションノーツ上でコメントしており、ユニークさと謎を秘めたロサンゼルスを表現したとのこと。 加えて『タクシードライバー』『第三の男』などの往年の名作およびヒッチコックやキューカーなどの巨匠へのオマージュが本作にはちりばめられているとも語っており、また映画・音楽ジャーナリストの宇野維正は本作を「エンターテインメントの世界に隣り合う狂気を告発する作品」と称しています。 以上のような様々な人々の意見から、ハリウッド映画への憧憬と嫉妬、愛情と憎悪といったあらゆる感情の集大成となっていることがわかります。さらには物語のキーパーソン的役割りとして、スーパーマリオブラザーズやニンテンドーパワーマガジンが登場するなど、日本発のポップカルチャーも随所に含まれているおり、観客の心を絶妙にくすぐります。
様々な方法で隠された暗号とメッセージ
作中でサムは音楽や映画、広告に隠された暗号の解読と真のメッセージの究明に身を費やしていきますが、これはポップカルチャー愛好家の間で発生している実在の現象であり、長きに渡って多くの人々が執着心を抱いてきた対象とも言えるでしょう。 日々何気なく目にしている広告に潜むサブリミナルメッセージや、曲を逆再生したときに聞こえてくる特定の暗号などの、不確かながら確かめずにはいられない特殊な引力を孕んだ事象がこの世には多くあり、今もその情報は愛好家たちの中で更新され続けているのです。
謎深き登場人物たち
本作の謎めいた雰囲気をさらに深めているのは、真相不明の登場人物たちの存在。突如失踪を遂げた謎の美女・サラをはじめ、主人公のサムでさえも明確な人物像や生い立ちなどの詳細なプロフィールは明かされぬまま物語は進行していきます。 それに合わせるかのように、サム役のアンドリュー・ガーフィールドは、我を失って現実と幻想の世界を行き来するサムの狂気を帯びたまなざしを見事に演じ切り、サラ役のライリー・キーオは人間味を抑えた佇まいとある種の不自然さも感じさせる眩しい笑顔で、圧倒的な印象を残しました。 また、作中に登場する同人誌を販売する本屋の店主や不気味な作曲家など、本作のミステリアスさを加速させるキャラクターが続々と現れ、鑑賞者を独特の世界観に導きます。多くは語らずともその背景の濃さを受け手に想像させることで、不可思議な現象の渦に巻き込まれていくサムと同じ目線を体現することができたのです。
一線を博したクレイジーさを放つ色彩
本作の特徴のひとつといっても過言ではないほど存在感を放っているのが、狂気を帯びた美術と装飾。たとえばサラを探して駆け込んだ女子トイレで出会う女性たちは、華美で個性的な髪形と服装をしており、本作の怪しげな雰囲気を拡張する存在となっています。 また突如始まる都市伝説の回想シーンではアニメーション表現を取り入れるなど、異色の演出が施されており、本作の多彩さとある種の混沌とした空気感を示しています。
2018年10月13日、ついに日本上陸!
多ジャンルの音楽や映画へのオマージュを盛り込み、人々の間でまことしやかに囁かれる都市伝説や暗号解読を軸に展開されるネオノワール・サスペンス映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』。その異色なストーリー設定と大胆不敵な演出、日本人にもなじみの深いポップカルチャーが登場することなどから、日本国内でも公開前から徐々に話題を広げています。 この秋の映画鑑賞のひとつに、ぜひ本作をご覧になってみてはいかがでしょうか。