映画『クワイエット・プレイス』結末までのネタバレあらすじ感想解説!“音をたてたら即死”の恐怖に耐えられるか?
エンドロールに流れるキャストは、たったの6人。舞台はほとんどアメリカの片田舎にある農場の周辺のみです。CGが使われているのはごくごく一部で、ほぼ全編が役者の演技。しかもセリフは、「パパー!」まで合わせてほぼ15個という異色の作品が本作です。 『クワイエット・プレイス』はこのように、はっきりと低予算感が漂う作品です。なのに、気がつけば息を潜めて観入っている始末。その理由はまさしく「音をたてたら即死」しそうだったから、でしょう。 ささいな音を感知して襲いかかり、有無を言わせず切り刻んで殺す「何か」。生きるために強いられる静寂の世界は、さまざまな自由を奪われた「無音の牢獄」と言えるでしょう。観客までそこに幽閉されてしまったような錯覚すら覚えるほど、臨場感溢れる物語が展開されます。 ポップコーンを食べるのもはばかられる緊迫の1時間33分。その恐怖の源がどのあたりにあるのか、ネタバレありでご紹介しましょう。 ※この記事には『クワイエット・プレイス』結末までのネタバレがあります。本編を未鑑賞のかたはご注意ください!
映画『クワイエット・プレイス』あらすじ
ここから始まるのは、「4人家族」の物語。父親のリー・アボット、妻エヴリンと長女のリーガン、長男マーカスが、文字どおりひっそりと息をひそめながら、肩を寄せあうように生きる日々が描かれていきます。 リーガンは聴覚障害を持っています。補聴器をつけ、言葉を発することがまったくできません。そして自分の行いが招いた悲劇に、心を痛め続けています。マーカスも呼吸器系の慢性疾患を抱えています。 けれど家族にとって最大の問題はおそらく、少なくとも生活圏内では彼らだけが生き残っている、という極限的事実。 新聞の見出しで、世界各地で「何か」が人を襲い始め、ほどなく人類の文明が崩壊してしまったらしいということなどが観客に伝わってきます。リーはモールス信号でSOSを呼びかけていますが、反応はありません。それでも父と母は、子供たちの未来を守るために、生き延びる道を模索し続けることに。 彼らは、誰も助けてくれない「クワイエット・プレイス」で、たった4人だけで生きる先が見えない日々を過ごします。そこには果たして「希望」が生まれる余地があるのでしょうか。
映画『クワイエット・プレイス』結末までのネタバレあらすじ
あらすじ①静寂の物語の幕開け
『クワイエット・プレイス』の恐怖の源のひとつが、家族。冒頭、夫と妻、長女と長男、そしてまだ幼い次男の5人が、荒れ果てたスーパーマーケットを訪れるシーンから、物語は始まります。 家族との買い物は本来、幸せに満ちたものであるはず。ですが、両親の表情から緊張感が消えることはありません。時に浮かべる笑顔も、どこか強張ったもの。極端に物音に怯えながら、周囲を警戒している様子が伺えます。 観客に伝わってくる事実は、ごくごく限られています。世界で何かが起きているということ、家族が手話で語り合っていること。そして末っ子が手にしたスペースシャトルのオモチャが「ヤバそう」なことでしょう。 やがて嫌な予感は的中します。長女のささかな思いやりが悲劇的な事件につながり、家族とともにいる幸せが、家族がいることの恐怖へと変わってしまうことに。物語は早くも、逃れようがない緊迫感で観客を静寂の世界へと取り込んでいきます。
あらすじ②声を上げて泣くことも許されない!
盲目であるものの聴覚が異常に発達した怪物たちのいる世界なので、声をあげて泣くことであろうと何であろうと許されません。この物語に登場するアボット家は、聴覚障害を持った長女・リーガンがいることによって、手話を用いて会話できることが唯一の救いでした。 末っ子のビュー(通称ボー)も手話でコミュニケーションを取っていたものの、スペースシャトルのおもちゃを気に入ってしまったことが運の尽き。長女・リーガンが音を立てられぬよう電池を抜いていたにも関わらず、ビュー自身で乾電池を入れ電子音を響かせてしまいます。 その時列になって歩いていたアボット一家ですが、音を立ててしまったビューのいる最後尾へと父・リーが駆けつけるものの、それよりも早く怪物がビューをさらっていきます。その後、ビューにおもちゃを与えてしまったリーガンは、彼の死から1年以上経っても自分を責め続けていました。
あらすじ③新たな生命は「爆弾」?増えるのは家族か恐怖か
普通だったら何よりも素晴らしいことが、『クワイエット・プレイス』の場合は潜在的な恐怖へと変わってしまいます。それは、エブリンの妊娠。427日目を過ぎ、すでに臨月を迎えています。 新しい生命は、紛れもなく幸せと未来の象徴であるべき。けれど音をたててはいけない世界で新生児が生き延びることなどできるハズもありません。なにしろ赤ちゃんは、大きな声で泣くのが「お仕事」なんですから。 産声を挙げた瞬間、待っているのは即、死。エヴリンの膨らんだお腹は、それ自体が悲劇へとつながる爆弾なのです。絶望へのカウントダウンは、物語序盤からすでに始まっていました。 リーが、お腹が膨らんだエヴリンを愛おしげに抱きしめながら、嬉しいのに悲しいような「ギリギリ」の表情を浮かべるシーンがあります。父親としての複雑な心境を見事に表現した、素晴らしい演技でした。
あらすじ④「幸せ」と「恐怖」の間で揺れる家族の葛藤
追い詰められていくアボット家の人々。リーガンの葛藤が深まるにつれて、家族の絆に少しずつほころびが入り始めます。いつも一緒にいたハズなのに、気がつけばエヴリンだけが家に残されてしまうことに。危機は、そんな時にこそ訪れるものです。 実際に夫婦であるジョン・クラシンスキーとエミリー・ブラントはもちろんですが、日本ではほぼ無名に近いミリセント・シモンズとノア・ジュブも含めて「家族」の演技がとても自然でリアル。それは愛し合っているシーンよりも、思いの丈をぶつけ合う時にこそ、強く感じられるかもしれません。 だからこそ、物語が進むに連れて、彼らの無事を祈りたくなるのです。やがて、彼らにこれ以上はないと思える過酷な運命が訪れることが、わかっていても。
あらすじ⑤襲いくる謎の敵を迎え撃つ!衝撃の結末
エヴリンの出産がいよいよピークに。よりによってその時、クリーチャーたちが傍若無人にも土足(?)でアボット家に侵入してきます。揃って粘着気質でちょっとやそっとでは探索をあきらめません。パキパキと細い木の枝を折っているようなノイズを発しながら、獲物の姿を探し続けます。 家族の運命ももはや風前の灯か、と思われたそのとき、リーガンの補聴器から出た高音のノイズがクリーチャーの弱点であることが発覚。聴覚が非常に発達した彼らには、その音がとても不快なものだったのでしょう。人類は初めて、クリーチャーを撃退する方法を手に入れたのです。 ラストシーン、クリーチャーは家の地下にまで侵入し、エヴリンと子供たちは絶体絶命のピンチに陥ります。子供たちを守るため銃を構えるエヴリン。そのときリーガンがクリーチャーの弱点に気づきました。 彼女が父リーが作った補聴器をマイクに近づけてノイズを大音量で流し、クリーチャーを弱らせます。エヴリンは、弱ったクリーチャーに発砲し倒すことに成功。 その後、銃声に気づいた残りのクリーチャーたちが、家に向かってくる姿がモニターに映し出されます。それを見たエヴリンとリーガンは見つめ合い、それぞれの武器を手にして微笑むのでした。
恐怖の怪物の正体を根拠から考察
不気味な姿をしたクリーチャーの正体とは、いったいなんだったのでしょうか。 リーがクリーチャーの研究をしていた地下室には、大量の新聞記事がスクラップされていました。ここの記事から、観客もどのように世界が恐怖に支配されていったのか知ることができます。 これらの新聞記事の中に、「メキシコに隕石」という見出しのものがあります。ここから、彼らを襲っているクリーチャーは、どうやら宇宙から来たもののようだと予想することができますね。劇中では、アボット家の近くに3体いるといわれていますが、トータルで何体いるかは不明です。 また、映画を観ていると、彼らは鋭い聴覚を持ちながらも盲目で、音さえ立てなければすぐそばにいても逃げ切れることがわかります。しかし、彼らの鋭い聴覚は弱点にもなりえました。リーガンの補聴器が発する高音のノイズを彼らは嫌がったのです。 クリーチャーは昆虫のような硬い外骨格を持っていますが、開いた口などの柔らかい部分を狙って銃などで攻撃すれば、倒せることもわかりました。
張り詰めた恐怖!映画の世界観を解説
『クワイエット・プレイス』が描くのは、荒廃しきった言わばポスト・アポカリプスの世界。冒頭で映し出されるのは、荒廃した街に転がる風化した信号機です。 このワンシーンだけで、ここにはかつて人々の生活があったことがうかがい知れるでしょう。また、作中に登場する新聞記事からも、世界が徐々に崩壊していく様子が見て取れます。 つまり、かつて世界中にあった普通の暮らしが、怪物たちの登場によっていとも簡単に壊されていってしまったということ。文明も何もかもを失い、残されたのは静寂だけといった終末を迎えた世界が描かれているのです。
ひっそり、でもたくましく生きるための工夫
①手話での意思疎通
アボット家が生き延びた理由のひとつは、手話での意思疎通です。もともと長女のリーガンに聴覚障害があったため、彼らはこのような世界になる前から手話を使っていたのでしょう。 極限状態で家族で力をあわせて生き残るには、意思の疎通は不可欠。それを音を立てずに行うことができたアボット家は、非常に有利だったといえます。 手話以外にも、リーガンの聴覚障害は彼ら家族が生き残るための鍵になっていました。
②砂をまいた道を裸足で歩く
彼らは、家の周りや普段の行動範囲の道に砂を敷き詰め、そのうえを裸足で歩くことで足音を消していました。こうすることで、必要以上に神経質になることなく移動ができたのです。 どんな小さな物音も聞き逃さない「奴ら」から身を守りながら、普通の生活を送ることを可能にしました。
③極力音を立てないための工夫
アボット宅の子供部屋の壁は、古新聞で覆われています。これは防音の役割を果たしているのです。 さらに彼らは、主に生活をしていた地下室のドアとして木などの普通の素材ではなく、マットレスを代用していました。これも防音のために役に立っています。 他にも日々の生活で音を立てない工夫がありました。洗濯機や乾燥機など、大きな音が出る家電は使わず、物干しロープ(欧米では物干し竿でなく、ロープを使うのが一般的)を使って洗濯物を乾かすという工夫も。 また、一家の大黒柱であるリーは音を立てずに火をおこすことができるようです。彼は毎晩火をおこしていますが、普通、その際にはパチパチという火がはぜる音がするはず。しかし、彼は落ち葉よりも柔らかいものを燃やすことでその音を抑えていたと思われます。
映画『クワイエット・プレイス』のトリビアまとめ
主人公たちの名字がわかるのは2回だけ
1つの家族を中心に描いた本作では、当然ですが、登場人物同士がお互いの名字を呼ぶことはありません。観客が彼らの名字を知ることができるのは、映画全体を通して2回だけです。 もし、彼らの家の郵便受けに書かれた名字を見逃したなら、次の機会はエンドロールまで待たなければいけなくなってしまいます!
本物の家族写真が使われている
本作が非常にリアリティのある作品になっている理由のひとつは、アボット夫妻を演じるエミリー・ブラントとジョン・クラシンスキーが実際に夫婦であるということではないでしょうか。 じつは、劇中のアボット宅には彼らの本物の家族写真が飾られています。よく観ると、ブラントとクラシンスキー、そして彼らの子供たちが映った写真を見つけることができるでしょう。
映画 『クワイエット・プレイス』のキャスト一覧・登場人物解説
エヴリン・アボット/エミリー・ブラント
本作の主人公で、アボット家の母エヴリンを演じているエミリー・ブラント。 彼女が俳優を目指すきっかけになったのは、12歳の時の学校の先生の一言だったそうです。もともと吃音症を患っていたブラントでしたが、違う声で役を演じたところ、なんと吃音が治ったのだとか。 その後、順調にキャリアを積んだエミリー・ブラントは、『プラダを着た悪魔』(2003年)や『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014年)などへの出演で知られ、今やハリウッドでとても高く評価されている女優の1人。2018年には、主演を務めたディズニー映画『メリー・ポピンズ リターンズ』が公開されました。
リー・アボット/ジョン・クラシンスキー
エヴリンの夫であり、一家の長であるリーを演じるのは、ジョン・クラシンスキー。本作では、監督と出演を兼任しています。 妻エヴリンを演じるブラントと実生活でも結婚しているクラシンスキーは、以前から妻を自身の映画に起用したいと熱望していたそう。自身のインスタにも、誰と共演したいと願っていたのかと問いかけつつ、ニュース記事の写真を投稿したりと可愛らしい一面も!夫婦の仲の良さがうかがえますね。
リーガン・アボット/ミリセント・シモンズ
アボット家の長女リーガンを演じたのは、2003年生まれ、ユタ州出身のミリセント・シモンズ。彼女自身もリーガンと同様に聴覚障害を持っています。 ろう学校のドラマクラブに所属し、2015年頃から短編映画やテレビシリーズに出演しはじめたシモンズは、2017年の『ワンダーストラック』で長編映画デビュー。やはり聴覚障害のあるローズ役を演じ、高い評価を受けました。
映画『クワイエット・プレイス』結末までのネタバレあらすじをおさらい
独特の世界観とディテールの作り込みで、観客を静寂の恐怖へと引き込んだ『クワイエット・プレイス』。日本でも大ヒットを記録した本作は、ホラー映画としてだけでなく、非常事態でともに生きようとする家族の絆も見どころです。 そんな本作の続編『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』が2021年9月に公開されています。続編ではアボット一家以外にも生き残った人々が登場。 もう一度1作目を振り返ってみるのもいいかもしれませんね。