2018年9月21日更新

4回泣ける映画『コーヒーが冷めないうちに』の評価は?ネタバレありで徹底レビュー!

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コーヒーが冷めないうちに
©2018「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会

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ベストセラー小説『コーヒーが冷めないうちに』が映画化!

「4回泣ける!」と話題の本屋大賞にノミネートされた川口俊和のベストセラー小説『コーヒーが冷めないうちに』がついに映画化されました。実は原作者の川口は、劇団音速かたつむりの演出家でもあります。本作も元々は舞台の評判が口コミで拡がり、書籍化されたという背景があります。 満を持しての映画化となった本作は、ドラマ『重版出来!』『アンナチュラル』などの演出を担当し、本作が映画監督デビューとなる塚原あゆ子が手掛けます。脚本は映画『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』で知られる脚本家・奥寺佐渡子です。 主演は2017年の映画『ナラタージュ』で一皮むけた大人の演技を披露し、作品ごとに確実にステップアップしている女優の有村架純が務めます。 オムニバス形式の映画は上手く構成しないと感動が途切れてしまうなど、難しいジャンルではあります。しかし今回の映画『コーヒーが冷めないうちに』に関しては、その心配は無用!盤石過ぎる布陣が観客を大いに感涙させてくれる仕上がりでした。

映画『コーヒーが冷めないうちに』のあらすじ【ネタバレなし】

時田数(有村架純)が働くアンティークな喫茶店「フニクリフニクラ」。そこには「過去に戻れる」という都市伝説が巷でウワサになっており、今日も後悔を抱えた客が来店します。 渡米した幼馴染とケンカ別れしてしまったキャリアウーマン、複雑な現状を抱える熟年夫婦、両親や妹と仲違いしてしまった常連客。数に惹かれていく大学生(伊藤健太郎)と、過去に戻れる【ある席】に座り続ける謎の女性(石田ゆり子)……。 過去に戻っても現実は変えられないと分かりながらも、会いたかった人との再会を望み、タイムトラベルをした彼らを待っていたものとは?そして、タイムトラベルができるコーヒーを淹れられる唯一の主人公・時田数に秘められた過去とは? 本作は「1杯のコーヒーが冷めきるまで」というほんの短い時間の中で、彼らが見つけた愛と再生の物語です。

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複雑すぎて敬遠されてる?タイムトラベルのルール

「フニクリフニクラ」のタイムトラベルには複雑なルールが5つもあるので、タイムトラベルを希望し来店する客のほとんどは諦めてしまい、実際に過去へ行く客はごく稀です。理論上は未来に行くことも可能ですが、行く日時を明確化しないといけないので、行く意味がなく、希望する客もいません。 このルールの複雑さは「映画は観たいけど複雑なルールを5つも覚えられない。」という方を生む可能性もありますが、主人公の数がちゃんと説明してくれることで、その点は解消されていましたね。 「カップの中のコーヒーが冷めきる前に飲み切って現実に戻ってくればOK。」というルールさえ押さえておけば、問題なく物語を楽しめる構成になっています。

ある幼馴染カップルの場合

【以下、すべてネタバレあり!】

コーヒーが冷めないうちに
©2018「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会

映画と原作との違いは後ほどじっくり見ていくとして、まずは映画版の物語をおさらいしていきましょう。 ある穏やかな日に騒々しく「ここに来れば過去に戻れるって本当ですか!?」と「フニクリフニクラ」に来店してきた三十路手前のキャリアウーマン・清川二美子(波瑠)。 聞けば、一週間前に「フニクリフニクラ」で想い人である幼馴染の加賀多五郎(林遣都)とケンカ別れしてしまった挙句、五郎はそのままアメリカに旅立ってしまったそう。 「過去に戻って言いたいことを全部言って過去を変える!」と息巻く二美子でしたが、数がタイムトラベルのルールを説明すると拍子抜け。それでも「折角来たからには!」と一週間前に戻った二美子。 しかし、そこでも五郎に素直な想いを伝えることはできず、五郎は旅立ってしまいます。過去から戻った二美子は後悔で打ちのめされていると思いきや、タイムトラベルのおかげで自分の行動次第で未来は変えられることに気付きます。 二美子は五郎を追ってアメリカへ旅立つことを決め、晴れやかな顔で「フニクリフニクラ」を後にしたのでした。

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ある熟年夫婦の場合

コーヒーが冷めないうちに
©2018「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会

毎日「フニクリフニクラ」に訪れる高竹佳代(薬師丸ひろ子)と彼女を迎えにくる房木康徳(松重豊)。苗字が違い、他人行儀に振る舞う二人は実は夫婦で、佳代は若年性アルツハイマー病に侵されていました。 房木は佳代を動揺させないために、佳代の病気の進行に合わせて他人のように振る舞い支えていたのです。ある日、佳代の病状が進行し、数のことも忘れてしまったことをきっかけに、佳代が房木に渡すつもりだった手紙があることを知った房木。 彼はその手紙を受け取るために、佳代のまだ病気が悪化しておらず、記憶がしっかりしていた過去へ戻ることに。常連客の佳代は、夫が未来から来たことをすぐに悟ります。 「もう(自分は)すべてを忘れてしまったの?」と問う佳代に、房木は涙ながらに「そんなことない。大丈夫だから。」と繰り返し、手紙を受け取って現在へ戻っていきます。 房木が受け取った手紙には「あなたは看護師だから(私の)介護はできるだろうけど、私は看護師と患者ではなく、あなたとは夫婦でいたい。」という内容が書かれていました。 これまで妻に対し、患者に接するようにしていた房木は、夫婦としてまだできることを共にしていこうと決め、晴れやかな心で「これからは二人とも“房木”と呼んでください。」と数に告げるのでした。

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あるワケあり姉妹の場合

コーヒーが冷めないうちに
©2018「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会

「フニクリフニクラ」の常連客でスナックを経営する平井八絵子(吉田羊)。八絵子は老舗旅館の長女でしたが両親と上手くいっておらず、可愛がっていた妹の久美(松本若菜)に旅館経営を丸投げした過去がありました。 その罪悪感から、久美に恨まれていると思っており、度々上京し、八絵子の説得にあたろうとする久美からは逃げ回っています。しかし、八絵子を説得するために上京する途中で久美は事故に遭い、死亡。 八絵子は久美に辛くあたってきたことが頭から離れず、もう一度、久美に会うために過去へと戻ります。過去で久美と再会した八絵子は、久美が自分を恨んでなどおらず、長年、八絵子と二人で旅館をやるのを夢見ていたことを知ります。 八絵子が最後に悲しい思いをさせないために、「旅館を継ぐ」と伝えると泣きながら喜ぶ久美。そんな久美を見てやりきれない思いに駆られた八絵子は思わず、彼女が死んでしまう時と場所を知らせてしまいますが、冗談だと思われ取り合ってもらえません。 そうこうしているうちにタイムリミットが迫ってきてしまいますが、八絵子は二度と会えない妹を前にコーヒーを飲み干すことができません。数の必死の説得で現在へ戻った八絵子は、久美との約束を果たすため、スナックを畳み、旅館の女将として歩み出すのでした。

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時田数と謎の女性の場合

コーヒーが冷めないうちに
©2018「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会

過去に戻れるという席にいつも座っている謎の女性(石田ゆり子)。実は彼女は数の母親で、数曰く、幼い頃に亡くなった数の父親に会いに行ったが、時間を忘れて戻れなくなり、それ以来、幽霊として、指定席に座っているのだといいます。 数に想いを寄せる美大生の新谷亮介(伊藤健太郎)は、数と親しくなり恋仲になる過程で、数が自分の淹れたコーヒーのせいで母親を幽霊にしてしまったことに負い目を感じ、自分の人生を歩めずにいることを知ります。そして、数自身も過去に戻り、母親に聞きたいことがあることも。 しかし、タイムトラベルができるコーヒーを淹れられるのは代々、時田家の女性。今は数一人しかおらず、過去に数は自分で淹れたコーヒーでタイムトラベルを試みるも失敗に終わっていました。

主人公・時田数が辿り着いた真実とは?【結末ネタバレ】

数の妊娠が発覚!

そんな折、数が新谷との子どもを妊娠していることが発覚。自らも母となることがわかり、ますます母への想いを募らせていく数。 新谷は必死に考える中で、「自分と数の子どもか、数のいとこの流(深水元基)の子どもが女の子であれば、数を母親に会わせることができる。」ことをひらめきます。 翌日、新谷から開店前の「フニクリフニクラ」に呼び出された数は、新谷と流の強い決意により、未来から過去にタイムトラベルしてきた未来の数の娘・未来(以下、ミキ)と出会います。 ミキは数に母親がタイムトラベルをした日ではなく、その4か月後のクリスマスに戻るように伝え、コーヒーを淹れます。なぜ、ミキがクリスマスを指定したのかわからないまま過去に戻る数。 しかし、過去で父親に会いに行ったはずの母が実は余命わずかで、自分が亡くなった後の数の事が心配で、自分が亡くなっているはずのクリスマスにタイムトラベルしていたことが発覚します。 そして、いなくなったはずの母がクリスマスに現れ、幼い数が現代に戻るのを泣いて引き留め、母が戻ってこられなくなってしまったという真実も……。

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母の想いを知った数は……。

その場に居合わせた数は必死で母にコーヒーを飲ませますが、時すでに遅し。タイムリミットが迫る中、泣きじゃくり「一緒に戻ろう。」と言う数に対し、「いつもあなたを見守っているからね。」と優しく微笑む母。 泣きながらもコーヒーを飲み干し、現実に戻った数は幽霊の母に向かって「ずっと見守っていてくれていたんだね。」と微笑み返すのでした。その数か月後、数と亮介の間には可愛い女の子の赤ちゃんが生まれ、二人は「未来(ミキ)」と名付け、新しい一歩を踏み出し始めました。 そして長年、数を傍で見守り続け、現在の数が幸せであると知った母はやっと成仏することができたのです。

映画と原作の違い

『コーヒーが冷めないうちに』
Ⓒ2018 映画「コーヒーが冷めないうちに」製作委員会

このようにして、度重なる「泣ける」展開が流れていく映画『コーヒーが冷めないうちに』。 本作は幼馴染カップルの設定変更や熟年夫婦の男女を原作と逆に描いていたりと、細かな変更点が幾つかあります。しかし、原作との一番大きな違いは「フニクリフニクラ」で働き、原作でのラストエピソードを担う時田流の妻・計がいないことでしょう。 原作ではあくまで、数は過去への案内人として控えめでミステリアスな存在ですが、本作で数を主人公にするにあたり、計のエピソードを数にシフト。 さらに、続編小説『この嘘がばれないうちに』でほのめかされている数の恋人との関係を具体的に掘り下げることで、時田数というキャラクターをより立体的に描くことに成功しています。 数と謎の女性との関係性も『この嘘がばれないうちに』で明かされていますが、数がタイムトラベルをして母親に会いに行くというエピソードは映画オリジナルのものです。 しかし、原作ファンとしてもパズルのピースがカチリとハマったような衝撃と納得感があり、原作を見事に再構築した制作陣の手腕に唸らせられる作品となっています。

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続編の映画化はありそう?

本作の原作「コーヒーが冷めないうちに」シリーズは、『コーヒーが冷めないうちに』『この嘘がばれないうちに』『思い出が消えないうちに』の3巻まで既刊されています。 ですので、まだ本作で描かれていない感涙エピソードがたくさんあり、本作がヒットし成功すれば、続編の話も自然と出てくるのではないでしょうか? 本作は女性視点からのエピソードが多かったので、原作続編にあるような男性視点のエピソードも映画で観てみたいですね。

映画『コーヒーが冷めないうちに』の評価は?

そんな映画『コーヒーが冷めないうちに』の客層は、原作ファンなのか、20代から年配層の男女までと幅広く、劇場では物語中盤からすすり泣く声があちこちで挙がっていました。 観客である私たちも誰かしらに共感でき、特に熟年夫婦のエピソードに溢れる涙が抑えられないという方が多かったようです。かなりオリジナリティを含み構成し直している作品でもあるので、原作の方が感動するという意見もあります。 しかしながら映画『コーヒーが冷めないうちに』はよくある過去を変えるためのタイムトラベルではなく、「フニクリフニクラ」を訪れた客たちが自らの後悔に向き合い、前に進むためのタイムトラベルという新しい発想の温かな物語になっています。 そして、誰もが経験のある「あの時、こうしていれば……。」という後悔を乗り越える術を提示してくれる救いの物語でもあります。 原作『コーヒーが冷めないうちに』だけでなく、続編の『この嘘がばれないうちに』の要素も取り入れられているので、気になる方はぜひ、映画と併せて読んでみると良いでしょう。 より一層、作品の感動が染み渡るはずです。