2021年2月5日更新

【連載最終回#22】今、観たい!カルトを産む映画たち『恐怖の足跡』ネタバレ注意!ホラーファン必見の1作

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『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

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連載第22回「今、観たい!カルトを産む映画たち」【最終回】

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
©PARAMOUNT/zetaimage

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第21回の『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1972年)に続き、最終回の今回は『恐怖の足跡』(日本劇場未公開)を紹介します! ※本記事では映画の展開について、ネタバレありで触れています。まっさらな状態で映画を楽しみたい人は、視聴後に記事を読むことをおすすめします。

『シックス・センス』の元ネタ!?と騒がれた映画【ネタバレ注意】

【ネタバレ注意】ここから『シックス・センス』の内容に触れています。注意してください

M・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(1999年)が公開された際、映画冒頭に「この映画にはある秘密があります。まだ映画を見ていない人には、決して話さないで下さい」というメッセージが流れ、各劇場が騒然となりました。

シックス・センス
©Buena Vista/Photofest

この映画は“主人公が実は死んでいた”という設定が大きな話題となりました。 当時としても珍しい設定ではなく、熱心な映画ファンならば同様の設定で作られた映画タイトルをいくつか挙げることが出来たでしょう。そして、M・ナイト・シャマラン自身も熱心な映画ファン、当然影響を受けたはず……。 しかし彼は、頑なに本作のアイデアは自分のオリジナルと主張し、その態度は当時ファンや評論家から呆れられてしまいました。権利関係でモメることを嫌ったが故の態度だったのかもしれません。

『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

さて、この時『シックス・センス』の元ネタはないか、と話題になった作品のひとつに今回紹介する『恐怖の足跡』がありました。この作品はカルト映画として、1999年当時に世界のホラー映画ファンの間で広く知れ渡っていた映画だったのです。

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ホラー映画ファンの支持を集めた『恐怖の足跡』はどんな話?

【ネタバレ注意】「この映画にも、ある秘密があります。まだ映画を見ていない人には、決して話さないで下さい……」

『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

それでは、『恐怖の足跡』のストーリー紹介を。映画の冒頭で、主人公の女性メリー(キャンディス・ヒリゴス)と友人たちを乗せた自動車が川に転落。警察の懸命な捜索でも車も友人たちも発見されないなかで、メリーだけが自力で生還することができました。 やがて回復した彼女は、悲惨な事故の記憶から逃れるため、新たな町に移り住むことを決意します。 ただ1人車に乗って新居に向かう途中、メリーは荒れ果てた遊園地の前を通り過ぎますが、そこで怪しい男の姿を目撃しました。生気の無い白い顔をした不気味な男が、うつろな表情で黙って彼女を見つめている姿を……。 メリーは移り住んだ町でオルガン奏者の職を得て、新たな生活をスタートさせます。しかし、彼女の周囲にあの不気味な男の姿が付きまとう様になり、日常が徐々に脅かされていくのでした。

『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

やがて彼女の周囲に現れる不気味な人物は数を増していき、追い詰められたメリーはあの廃墟となった遊園地に足を踏み入れます。そこは無数の不気味な人物(=亡霊)が踊り舞う、「Carnival of Souls(『恐怖の足跡』の原題)」の場だったのです。 彼女は無数の亡霊に追われ、湖のほとりで捕らわれた後に消え去りました。そこに無数の足跡と、彼女の手形だけを残して。 ラストで映画は冒頭の事故の現場に戻ります。ようやく発見された車が引き上げられますが、その中には友人たちと共に亡くなっていたメリーの姿がありました。 全ては自分の死に気付かなかった彼女が、亡霊に捕えられ死者の世界に迎え入れられるまでの彷徨だったのでしょうか?あるいは、メリーが死の直前に見た、走馬燈のような光景であったのでしょうか。

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ハーク・ハーヴェイ唯一の劇映画監督作品『恐怖の足跡』

本作を製作・監督し、そして不気味な男として出演したのがハーク・ハーヴェイ。彼はカンザスの映画製作会社に勤め、そこで400以上の教育・産業用・ドキュメンタリー映画を監督した人物です。とある日、ハーヴェイは車を運転していて廃墟となった遊園地の前を通り過ぎた際、このホラー映画のアイデアを思いついたのだとか。 こうして製作が始まった『恐怖の足跡』は、ハーヴェイの同僚である少数のスタッフと共に、製作費3万ドル、撮影期間は3週間という環境で作りあげられました。 多くのシーンはゲリラ撮影で撮られ、特殊効果も使用していませんが、経験豊富なスタッフの創意工夫によって映画は完成したのです。たとえば男の顔が車の窓に現れるシーンは、斜めにした鏡を使用して撮影されました。 お金の話を続けると、冒頭で橋から車が転落するシーンの製作費は17ドル。橋の使用料は請求されず、壊れた手すりの修理代として38ドルを支払ったとの噂があります。出演者も限られた結果、監督自らが印象的な亡霊の役を演じることになりました。

『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

主演のキャンディス・ヒリゴスはハーク・ハーヴェイに見出され、本作の全編に渡り登場。川の中に沈められるなどの苦労を強いられましたが、彼女の出演料は2,000ドルでした。 映画への出演はごく僅かなヒリゴスですが、本作に出演したことで、スクリーム・クイーンの1人としてホラー映画史に残る女優となりました。

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ホラー映画は雰囲気です!というこだわりの映像で描かれた作品

『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

『恐怖の足跡』は低予算・短期間の製作環境、そして監督が長編映画の演出に慣れていない影響もあったのか、リズムも決して良いものではありません。 特に死者であったメリーが、どこまで生者と関わっていたのか今一つ判別できないのです。その部分をこだわって描いた映画『シックス・センス』は、やはりM・ナイト・シャマランを代表する優れた映画である、と評すべき作品なのでしょう。 しかし、本作はストーリーだけでなく、映画の持つ雰囲気も高く評価されました。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』
©Continental Distributing Inc./Photofest/zetaimage

廃墟の遊園地といった選び抜かれたロケーション、少ないセリフに対し音楽でムードを演出、さらに特殊効果に頼らない亡霊の描写。不気味なメイクと数で主人公に迫る姿は、ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の、ゾンビの描写に大きな影響を与えたと言われています。 ハーク・ハーヴェイが本作の手本としたのは、おそらくサイレント時代の映画でしょう。 セルゲイ・エイゼンシュテインの映画やドイツ表現主義の映画のように、パイプオルガンや建物を幾何学的に切り取って画面に映し、主人公に迫る恐怖も古典的モンタージュ手法で表現。セリフの少ないモノクロの画面で、音楽や音響で彼女の心象を表現した演出も、映画の雰囲気を高めるのに役立っているのです。

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ホラー映画ファンの注目を集めてカルト映画化

こうして完成した『恐怖の足跡』は、1962年に米で劇場公開されます。しかし当時はユニバーサル、ハマー・フィルム・プロダクションの怪奇映画の低迷期でもあり、興行的な成功を収めることは出来ませんでした。 またドライブイン・シアターを中心に上映されましたが、その際には勝手にカットされ、上映時間が短くなる始末。ハーク・ハーヴェイは1996年に71歳で死去しますが、本作以降は長編映画を手掛けることはなく、最初で最後の長編作品となりました。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』
©Image Ten/Photofest/zetaimage

しかしホラー映画ファンの間で、この『恐怖の足跡』は評価を高めていきます。 特に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』以降、新たなホラー映画のブームが起きると、その時期に登場した作品や監督に影響を与えた作品として注目されました。また、古典的怪奇映画とモダンホラーの過渡期を代表する映画としても、広く認知されていったのです。

日本ではカルト映画の先駆けとして広まった『恐怖の足跡』

『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

『恐怖の足跡』は日本では劇場公開されず、長らくソフト化もされませんでした。しかし家庭にビデオデッキが普及し、様々な映画がビデオで鑑賞できる時代が到来すると、この作品は注目を集めることになります。 ビデオバブルと共に80年代に日本に訪れたホラー映画ブームの中、海外からビデオを取り寄せ鑑賞する熱心なファンの間で、『恐怖の足跡』は伝説的な存在となりました。 たとえば、ホラー小説家の菊地秀行は、早い時期から本作を熱意を持って紹介しています。こうして、『恐怖の足跡』は日本のファンの間で、“少し手を伸ばせば見ることができるカルト映画”の代表格となったのでした。 2021年現在、本作と『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の2作品を収録したDVDが、Amazonにて約2,000円で販売されています。見放題配信しているVODサービスはありませんが、music.jp、GYAO!にてレンタル配信中です。 日本でもDVDソフト化され、様々な形で見ることが可能になった『恐怖の足跡』。あの当時のホラー映画ファンがなんとか手に入れ、鑑賞するために捧げた様々な熱意と努力を知る者には、少々寂しく感じられるのは感傷に過ぎないのでしょうか。

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現在のホラー映画にも影響を与え続けている『恐怖の足跡』

『インシディアス』
©FilmDistrict/Photofest/zetaimage

2012年に映画芸術科学アカデミー・フィルム・アーカイブが、『恐怖の足跡』を後世に残すべき映画と決定し、修復・保存されることになりました。今や本作は、ホラー映画の歴史的名作としての地位を確立しているのです。 「ソウ」シリーズで一躍有名になった、ジェームズ・ワンの『インシディアス』(2011年)は、多くの面で『恐怖の足跡』の影響を受けた作品です。オマージュ的に再現されたシーンが多数あることを指摘されています。 何よりも、『恐怖の足跡』同様に流血や特殊効果に頼らない恐怖表現を試み、興行的にも成功。後の「死霊館」シリーズの先駆けとなったことは、言うまでもありません。

『パラノーマル・アクティビティ』
©Photofest/Paramount Pictures/Zeta Image

『恐怖の足跡』が後世に与えた1番大きな影響は、低予算でもユニークな設定と雰囲気があれば、評価されるホラー映画が作れる事実を世に示したことかもしれません。 例を挙げると、『インシディアス』に製作で参加しているオーレン・ペリを一躍有名にした、低予算で製作され世界的ヒットを遂げた『パラノーマル・アクティビティ』(2010年)。こちらもその意味では、『恐怖の足跡』の流れをくむ作品と言えるのです。 CGやドローン、スマートフォンといった新たな手法や機材の使用で手軽に製作され、様々な形で世界に向けて発信することも可能となった映画。 優れたアイデアと創意工夫で、大きく評価されている作品も続々と誕生しています。そういった映画の原点のひとつでもある『恐怖の足跡』、そんな視点で改めて観てみてはいかがでしょうか。

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連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」ついに完結!

第22回まで続いた連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」も、今回をもって終了となります。 第1回目の『Mr.タスク』から『恐怖の足跡』まで、22本のカルト映画を紹介しました。気になった作品はありましたか?カルト映画と一口に言っても、過激な描写の作品ばかりではなく、ゆる~い雰囲気のものや恋愛ものも存在します。 カルト映画は怖い、グロいというイメージを持つ人が多いかもしれませんが、『ひなぎく』や「ハロルドとモード」などは初心者にもおすすめ!おうち時間がある今だからこそ、新しい世界に飛び込んでみてください。 今後もciatrでは様々な映画の魅力をお届けしますので、ぜひ遊びに来てくださいね。