2018年10月14日更新

【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち#22『恐怖の足跡』【日曜更新】

「主人公が実は死んでいた」という映画、いくつかご存知ですね。ではそんな映画の元祖的存在であり、後の作品に多くの影響を与えたホラー映画『恐怖の足跡』はご存知でしょうか?かつてカルト的な人気を博し、今や古典的名作と評されているこの作品を紹介します。

「カルトを産む映画たち」とは?

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは、有名ではないかもしれないけれど、一部の人には熱烈に愛される映画を紹介していく連載です(毎週日曜更新)。

『シックス・センス』の元ネタ!?と騒がれた映画

【ネタバレ注意】ここから『シックス・センス』の内容に触れて記されています。ご了承ください。

M・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(1999年)が公開された際、映画冒頭に「この映画にはある秘密があります。まだ映画を見ていない人には、決して話さないで下さい」というメッセージが流れ、話題となりました。今なら話しても大丈夫だと思いますが……「主人公が実は死んでいた」という設定が大きな話題となりました。

当時も熱心な映画ファンなら、同様の設定で作られた映画のタイトルをいくつか挙げることが出来ました。M・ナイト・シャマランも熱心な映画ファン、当然影響を受けたはず……しかし彼は頑なに本作のアイデアは自分のオリジナルと主張、その態度は当時ファンや評論家から呆れられてしまいました。権利関係でモメる事を嫌ったが故の態度であったかもしれません。

さて、この時『シックス・センス』の元ネタの一つではないか、と話題になった作品の一つに、『恐怖の足跡』(1962年)がありました。この作品はカルト映画として、当時世界のホラー映画ファンの間で広く知れ渡っていた映画だったのです。

ホラー映画ファンの支持を集めた『恐怖の足跡』は、どんな話?

【ネタバレ注意】「この映画にも、ある秘密があります。まだ映画を見ていない人には、決して話さないで下さい……」

それではストーリーの紹介を。映画の冒頭で、主人公の女性メリー(キャンディス・ヒリゴス)と友人たちを乗せた自動車が川に転落。警察の捜索にも関わらず車も友人たちも発見されない中、メリーだけが自力で生還する事ができました。やがて回復した彼女は悲惨な事故の記憶から逃れるため、新たな町に移り住む事を決意します。

ただ1人車に乗って新居に向かう途中、メリーは荒れ果てた遊園地の前を通り過ぎますが、そこで怪しい男の姿を目撃します。生気の無い白い顔をした不気味な男が、うつろな表情で黙って彼女を見つめている姿を。 メリーは移り住んだ町でオルガン奏者の職を得て、新たな生活をスタートさせました。しかし彼女の周囲にあの時目撃した不気味な男の姿が付きまとう様になり、彼女の日常は徐々に脅かされていくのです。 やがて彼女の周囲に現れる不気味な人物は数を増してゆき、追い詰められたメリーはあの廃墟の遊園地に足を踏み入れます。そこは無数の不気味な人物=亡霊が踊り舞う、「Carnival of Souls(『恐怖の足跡』の原題)」の場だったのです。彼女は無数の亡霊に追われ湖のほとりで捕らわれ消え去りました。そこに無数の足跡と、彼女の手形だけを残して。

ラストで映画は冒頭の事故の現場に戻ります。ようやく発見された車が引き上げられますが、その中には友人たちと共に亡くなっていたメリーの姿がありました。全ては自分の死に気付かなかった彼女が、亡霊に捕えられ死者の世界に迎え入れられるまでの彷徨であったのか、それとも全てが彼女が死の直前に見た、走馬燈の様な光景であったのでしょうか……。

ハーク・ハーヴェイ唯一の劇映画監督作品『恐怖の足跡』

本作で製作・監督し、そして不気味な男として出演したのがハーク・ハーヴェイ。彼はカンザスの映画製作会社に勤め、そこで400以上の教育・産業用・ドキュメンタリー映画を監督している人物です。ある日ハーヴェイは車を運転していて廃墟となった遊園地の前を通り過ぎた際、このホラー映画のアイデアを思いついたのです。

こうして製作が始まった『恐怖の足跡』は、ハーヴェイの同僚である少数のスタッフと共に、製作費3万ドル、撮影期間は3週間という環境で作りあげられました。多くのシーンはゲリラ撮影で撮られ、特殊効果も使用していませんが、経験豊富なスタッフの創意工夫、たとえば男の顔が車の窓に現れるシーンは、斜めにした鏡を使用して撮影されました……によって映画は完成したのです。 お金の話を続けると冒頭橋から車が転落するシーンの製作費は17ドル、橋の使用料は請求されず壊れた手すりの修理代として38ドルを支払ったとの話があります。出演者も限られた結果、ハーク・ハーヴェイ自らが印象的な亡霊の役を演じる事になったのです。

ハーク・ハーヴェイに見いだされ本作の全編に渡り登場し、川の中に沈められるなどの苦労を強いられた主演のキャンディス・ヒリゴスの出演料は2000ドル。映画への出演はごく僅かな彼女ですが、本作に出演した事で、スクリーム・クイーンの1人としてホラー映画史に残る女優となりました。

ホラー映画は雰囲気です!というこだわりの映像で描かれた作品

『恐怖の足跡』は低予算・短期間の製作環境の作品であり、監督が劇映画の演出に慣れていない影響もあったのか、リズムも決して良いものではありません。特に死者であったメリーがどこまで生者と関わっていたのか今一つ判別し難く、その部分をこだわって描いた映画『シックス・センス』は、やはりM・ナイト・シャマランを代表する優れた映画である、と評すべき作品なのでしょう。 しかし『恐怖の足跡』はストーリーだけで無く、映画の持つ雰囲気も高く評価されています。廃墟の遊園地といった選び抜かれたロケーション、少ないセリフに対し音楽でムードを演出、特殊効果に頼らない亡霊の描写…… 不気味なメイクと数で主人公に迫る姿は、ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)の、ゾンビの描写に大きな影響を与えたと言われています。

ハーク・ハーヴェイが本作の手本としたのはおそらくサイレント時代の映画。エイゼンシュテインの映画やドイツ表現主義の映画の様に、パイプオルガンや建物を幾何学的に切り取って画面に映し、主人公に迫る恐怖も古典的モンタージュ手法で表現。セリフの少ないモノクロの画面で、音楽や音響で彼女の心象を表現した演出も、映画の雰囲気を高めるのに役立っているのです。

ホラー映画ファンの注目を集め、カルト映画化

こうして完成した『恐怖の足跡』は1962年に米で劇場公開されます。しかし当時はユニバーサル、ハマープロの怪奇映画の低迷期でもあり、興行的な成功を収める事は出来ませんでした。またドライブイン・シアターを中心に上映されましたが、その際勝手にカットされ上映時間が短くなる始末……ハーク・ハーヴェイがその後劇映画を手掛ける事はありませんでした。

しかしホラー映画ファンの間で、この作品は評価を高めてゆきます。特に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』以降新たなホラー映画のブームが起きると、その時期に登場した作品や監督に影響を与えた作品として、また古典的怪奇映画とモダンホラーの過渡期を代表する映画として広く認知されていくのです。

日本では、カルト映画の先駆けとして広まった『恐怖の足跡』

『恐怖の足跡』は日本では劇場公開されず、長らくソフト化される事もありませんでした。しかし家庭にビデオデッキが普及し、様々な映画がビデオで鑑賞出来る時代が到来すると、この作品は注目を集める事になります。 ビデオバブルと共に80年代に日本に訪れたホラー映画ブームの中、海外からビデオを取り寄せ鑑賞する熱心なファンの間で『恐怖の足跡』は伝説的存在となってゆきます。例えばホラー小説家の菊地秀行は、早い時期から本作を熱意を持って紹介しています。こうして『恐怖の足跡』は日本のファンの間で、「少し手を伸ばせば見る事ができるカルト映画」の代表的存在となったのです。

現在では日本でもDVDソフト化されており、様々な形で見る事が可能になった『恐怖の足跡』。あの当時のホラー映画ファンが、手に入れ鑑賞するために捧げた様々な熱意と努力を知る者には、少々寂しく感じられるのは感傷に過ぎないのでしょうか。

現在のホラー映画にも影響を与え続けている『恐怖の足跡』

2012年映画芸術科学アカデミー・フィルム・アーカイブが、『恐怖の足跡』を後世に残すべき映画と決定し、修復・保存される事になりました。今や本作はホラー映画の歴史的名作としての地位を確立しているのです。 『ソウ』(2004年)シリーズで一躍有名になったジェームズ・ワンの『インシディアス』(2011年)は、多くの面で『恐怖の足跡』の影響を受けた作品です。オマージュ的に再現されたシーンが多数ある事が指摘されていますが、何よりも『恐怖の足跡』同様に流血や特殊効果に頼らない恐怖表現を試み興行的にも成功、『死霊館』(2013年)シリーズの先駆けとなった事は言うまでもありません。

『恐怖の足跡』が後世に与えた一番大きな影響は、低予算でもユニークな設定と雰囲気があれば、評価されるホラー映画が作れる事実を世に示した事かもしれません。『インシディアス』に製作で参加しているオーレン・ペリを一躍有名にした、低予算で製作され世界的ヒットを遂げた『パラノーマル・アクティビティ』(2010年)も、その意味では『恐怖の足跡』の流れをくむ作品と言えるのです。

現在CGやドローン、スマートフォンといった新たな手法や機材の使用で手軽に製作され、様々な形で世界に向けて発信する事も可能となっている映画。優れたアイデアと創意工夫で大きく評価されている作品も続々誕生しています。そういった映画の原点の一つでもある『恐怖の足跡』、そんな視点で改めてご覧になってはいかがでしょうか。