2018年8月19日更新

【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち#16『ファントム・オブ・パラダイス』

ブライアン・デ・パルマ監督の『ファントム・オブ・パラダイス』は、カルト映画としてたびたび名前があがる作品。ヘンテコでありながらも、ロックミュージカルの傑作としても知られる本作をご紹介します。

「カルトを産む映画たち」とは?

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは、有名ではないかもしれないけれど、一部の人には熱烈に愛される映画を紹介していく連載です(毎週日曜更新)。

カルト映画の定番?ロックミュージカル『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)

カルト映画といえども、そのジャンルのなかでは知名度が高く、多くの支持を得ている作品もあります。 『ファントム・オブ・パラダイス』も、まさにそんな作品。 鬼才ブライアン・デ・パルマの作品として、彼の熱狂的なファンに支持されるとともに、ロックミュージカルの傑作として、多くのミュージシャンに影響を与えたとも言われています。 ヘンテコながらも胸を痛めずにはいられない悲劇、古典文学からの引用、鮮烈な映像美と哀しくも美しい楽曲の数々。その魅力をあげればきりがありません。 カルト映画としては定番とも言える『ファントム・オブ・パラダイス』をご紹介します。

『ファントム・オブ・パラダイス』ってどんな話?

ロック界で大成功を収めているデス・レコードの社長スワンは、新たにロックの殿堂となる劇場「パラダイス」を建設を計画。そこで、こけら落とし公演で歌うシンガーを探していました。 天才的なセンスを持っていながら気弱な無名のミュージシャン、ウィンスロー・リーチは、そのオーディションで駆け出しの女性シンガー・フェニックスと出会います。彼女の才能を見出し、2人で明るい未来を築いていくことを夢見ながら、結果発表を待つウィンスロー。 しかしスワンはウィンスローの楽曲を盗作し、フェニックスと契約。怒ったウィンスローが抗議にやってくると、彼を無実の罪で投獄させました。

(左:スワン役ポール・ウィリアムズ、右:ウィンスロー役ウィリアム・フィンレイ)

獄中で、スワンが自分の曲にひどいアレンジを加え、大々的に売り出そうとしていることを知ったウィンスローは激怒して脱獄します。デス・レコードに忍び込み、レコードの原盤を破壊しようとしますが、プレス機に頭を挟まれ顔と声を潰されてしまいました。 ウィンスローは醜い顔を仮面で隠し、復讐に燃える「怪人(ファントム)」として動き始めまます。

『ファントム・オブ・パラダイス』のキャスト

ウィリアム・フィンレイ(ウィンスロー・リーチ役)

ニューヨーク市出身のウィリアム・フィンレイは、高校卒業後コロンビア大学に進学し、そこで本作の監督ブライアン・デ・パルマと出会います。 卒業後は舞台俳優としてキャリアをスタートさせ、1968年にデ・パルマ監督の『Murder à la Mod(原題)』で、映画デビュー。以降、デ・パルマ作品の常連俳優となり、本作で注目されるようになりました。 そのほかの出演作には、『悪魔の沼』(1977)や『フューリー』(1978)、『殺しのドレス』(1980)、『ブラック・ダリア』(2006)などがあります。

ポール・ウィリアムズ(スワン役)

悪役スワンを演じたポール・ウィリアムズは、アメリカを代表するシンガーソングライターです。本作では全ての楽曲を手がけています。 ウィリアムズは、特にカーペンターズやスリー・ドッグ・ナイトへの楽曲提供で知られており、映画音楽では『スター誕生』(1976)の主題歌でアカデミー歌曲賞とグラミー賞最優秀楽曲賞を受賞しました。 また、映画『マペットの夢みるハリウッド』(1979)の挿入歌「レインボー・コネクション」は、日本では、カーペンターズによるカバー版がテレビドラマの主題歌として使われ、世界中で愛される楽曲となっています。

ジェシカ・ハーパー(フェニックス役)

ヒロイン・フェニックスを演じたジェシカ・ハーパーは、シカゴ出身の女優です。母は作家、父は画家、兄弟は作曲家や脚本家という、芸術一家に生まれました。 本作が本格的な映画デビューとなったハーパーは大きな注目を集め、それをきっかけに、ダリオ・アルジェント監督のホラー映画『サスペリア』(1977)の主演に抜擢されました。

監督ブライアン・デ・パルマの作風や特徴は?

ブライアン・デ・パルマ
©︎Nicolas Khayat/ABACAUSA.COM/Newscom/Zeta Image

本作の監督ブライアン・デ・パルマは、スティーヴン・キング原作のホラー映画『キャリー』(1976)や、『スカーフェイス』(1983)、『アンタッチャブル』(1987)、そして人気シリーズの第1作目となった『ミッション:インポッシブル』(1996)などの作品で知られています。 デ・パルマは、アルフレッド・ヒッチコックに強い影響を受けています。そのため画面分割や長回し、スローモーション、目線アングルなどを使用した凝った画面作りを行い、 デ・パルマ・カットという独特な映像が注目されました。 熱狂的なファンが多くいますが、作品の出来・不出来が激しいとも言われています。 1969年には『 ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATTAN Ⅱ・黄昏のニューヨーク』で第19回ベルリン映画祭で銀熊賞。2007年の『リダクテッド 真実の価値』で第64回ヴェネツィア映画祭で銀獅子賞を受賞しました。一方で、ゴールデンラスベリー賞にも5回ノミネートしています。

映像・美術で表現されるキャラクターたちの特性

先ほどご紹介したとおり、ブライアン・デ・パルマ監督は、凝った画面作りやカメラワークに定評があり、その特徴は本作でも遺憾無く発揮されています。 劇場「パラダイス」のきらびやかな内装や、ステージに立つシンガーたちの70年代ならではのカラフルな服装が目を引きます。 一方で、ファントムの暮らす屋根裏の地味な内装、全身真っ黒の服に銀の仮面という彼の服装は、表舞台とのコントラストを強調します。ウィンスローのもともと気弱な性格や、胸に秘める復讐心、彼が閉じこもっている世界の味気なさがそこに表現されているのではないでしょうか。 それでいて、その狭い部屋に置かれている巨大なシンセサイザー。彼の世界には音楽しかないことを象徴しているのでしょう。

哀しくも美しい楽曲の数々に魅了される

スワン役のポール・ウィリアムズが手がけた楽曲、特にウィンスローが歌うものは、どこかカーペンターズを思わせる、美しくも悲しげな雰囲気を漂わせています。 一方で、ウィンスローの楽曲にスワンが手を加えたとされるものは、激しいロック調になっており、ほかの楽曲とはかなり毛色が違います。これは、シンガーの変更と合わせて、ウィンスローを激怒させることになるのですが、客観的に聞くと、これはこれでアリな曲だと感じる人も多いでしょう。 売れっ子シンガーソングライターであるウィリアムズが手がけている本作のサウンドトラックは、捨て曲なしの名盤となっています。

『ファントム・オブ・パラダイス』の元ネタをご紹介

『オペラ座の怪人』(ガストン・ルルー著/1909)

20世紀初頭にガストン・ルルーが発表した怪奇小説『オペラ座の怪人(英語タイトル:Phantom of the Opera)』は、現在はミュージカルの演目としても有名な作品です。 タイトルからもわかるとおり、『ファントム・オブ・パラダイス』のストーリーラインは、本作とほぼ同じです。

『ファウスト』(ゲーテ著/1808)

ゲーテによる2部構成の長編戯曲『ファウスト』は、黒魔術師のファウスト博士が、悪魔メフィストとの契約によって堕落していく物語です。 『ファントム・オブ・パラダイス』では、特に第1部を引用しており、ウィンスローとスワンの契約をこの戯曲になぞらえています。

『ノートルダム・ド・パリ』(ヴィクトル・ユゴー著/1831)

『レ・ミゼラブル』(1862年刊行)などで知られるヴィクトル・ユゴーのもうひとつの代表作『ノートルダム・ド・パリ』は、ディズニー映画『ノートルダムの鐘』(1996)の原作にもなった有名な古典文学です。 醜い容姿の主人公カジモドと育ての親であるフロロ助祭長は、同じ女性・ジプシーの踊り子エスメラルダに恋をしました。フロロは汚い手を使って彼女を手に入れようとし、思い通りにならずに彼女を殺害。そんなフロロをカジモドが殺す、という物語です。 この物語は、ウィンスローとスワンがシンガーのフェニックスを巡って、恋の鞘当てを繰り広げる様子の下敷きとなっています。

『ファントム・オブ・パラダイス』から影響を受けた!?映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)

人気アニメ『ルパン三世』初の劇場版として公開された『ルパン三世 ルバンVS複製人間』の悪役・マモーは、本作のスワンをもとにしています。 ストーリー自体は特に関連はなく、ルパン作品としては珍しいSF風です。

『ロッキー・ホラー・ショー』とはライバル関係!?

『ファントム・オブ・パラダイス』とともに、カルト・ロックミュージカル映画として並び称されるのが『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)です。 「ファントム」の翌年に公開された本作は、日本では長い間レイトショーで2本立て上映されることが多くありました。 両作はどちらも見る人を選ぶ作品ですが、「ファントム」は古典文学を多く引用した悲劇で、少しインテリっぽい印象があります。ポール・ウィリアムズによる楽曲も、誰もが歌えるものとは言えません。

ティム・カリー、リチャード・オブライエン、パトリシア・クイン『ロッキー・ホラー・ショー』
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一方で「ロッキー・ホラー」は、どちらかといえばおバカ映画。舞台作品の映画化である本作は、楽曲も単純で、観客がその場で一緒に歌って(場合によっては踊って)楽しめるものが中心です。 「ファントム」ファンから見れば「ロッキー・ホラー」はただのバカ映画で、いっしょにされたくない。「ロッキー・ホラー」のファンは、「ファントム」はお高くとまっていて好きではないという人もいるのも事実。 もちろん、どちらも大好きだという人もいます。

『ファントム・オブ・パラダイス』はロックファン必見!

『ファントム・オブ・パラダイス』は、現在20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメントからDVDとBlu-rayが販売されており、どちらも1,000円程度で入手することができます。 カルト映画であり、ロックミュージカルの傑作でもある本作は、ロックファン、特にオールディーズロック好きならば必見の1作。1度は見てみて損はないと断言しましょう。 日本でも、本作の登場人物やバンド名を拝借したミュージシャンがいたことも忘れてはいけません。 『ロッキー・ホラー・ショー』や『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001)が好きな人ならば、必ず楽しめると思います。

次回の「カルトを産む映画たち」は?

次回は8月26日に更新です!お楽しみに!