2021年1月30日更新

【連載】今、観たい!カルトを産む映画たち#16『ファントム・オブ・パラダイス』カルト映画の定番ロックミュージカル【毎日20時更新】

『ファントム・オブ・パラダイス』
©Twentieth Century-Fox Film Corporation/Photofest/zetaimage

名作映画だけでは物足りない!そんなあなたへ送る、ニッチだけれど骨太な隠れたカルト映画をご紹介する連載。第16回目の今回は、ヘンテコでありながらも、ロックミュージカルの傑作として知られる『ファントム・オブ・パラダイス』の魅力をお伝えします。

目次

連載第16回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

『愛と憎しみの伝説』
©Paramount Pictures/Photofest/zetaimage

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第15回の『愛と憎しみの伝説』(1981年製作)に続き、第16回は『ファントム・オブ・パラダイス』(1975年)を紹介します!

カルト映画の定番?ロックミュージカル『ファントム・オブ・パラダイス』

『ファントム・オブ・パラダイス』
©Twentieth Century-Fox Film Corporation/Photofest/zetaimage

カルト映画といえども、そのジャンルのなかでは知名度が高く、多くの支持を得ている作品もあります。『ファントム・オブ・パラダイス』も、まさにそんな作品。 鬼才ブライアン・デ・パルマの作品として、彼の熱狂的なファンに支持されるとともに、ロックミュージカルの傑作として、多くのミュージシャンに影響を与えたとも言われています。 ヘンテコながらも胸を痛めずにはいられない悲劇、古典文学からの引用、鮮烈な映像美と哀しくも美しい楽曲の数々。その魅力をあげればキリがありません。 カルト映画としては定番とも言える『ファントム・オブ・パラダイス』をご紹介します。

『ファントム・オブ・パラダイス』ってどんな話?

『ファントム・オブ・パラダイス』
©Twentieth Century-Fox Film Corporation/Photofest/zetaimage

ロック界で大成功を収めているデス・レコードの社長スワンは、新たにロックの殿堂となる劇場「パラダイス」の建設を計画。そこで、こけら落とし公演で歌うシンガーを探していました。 天才的なセンスを持っていながら気弱な無名のミュージシャン、ウィンスロー・リーチは、そのオーディションで駆け出しの女性シンガー・フェニックスと出会います。彼女の才能を見出し、2人で明るい未来を築いていくことを夢見ながら、結果発表を待つウィンスロー。 しかしスワンはウィンスローの楽曲を盗作し、フェニックスと契約。怒ったウィンスローが抗議にやってくると、彼を無実の罪で投獄させました。

『ファントム・オブ・パラダイス』
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(左:ウィンスロー役ウィリアム・フィンレイ、右:スワン役ポール・ウィリアムズ)

獄中で、スワンが自分の曲にひどいアレンジを加え、大々的に売り出そうとしていることを知ったウィンスローは激怒して脱獄します。デス・レコードに忍び込み、レコードの原盤を破壊しようとしますが、プレス機に頭を挟まれ顔と声を潰されてしまいました。 ウィンスローは醜い顔を仮面で隠し、復讐に燃える「怪人(ファントム)」として動き始めまます。

『ファントム・オブ・パラダイス』のキャスト

ウィンスロー・リーチ/演:ウィリアム・フィンレイ

ニューヨーク市出身のウィリアム・フィンレイは、高校卒業後コロンビア大学に進学し、そこで本作の監督ブライアン・デ・パルマと出会います。 卒業後は舞台俳優としてキャリアをスタートさせ、1968年にデ・パルマ監督の『Murder à la Mod(原題)』で映画デビュー。以降、デ・パルマ作品の常連俳優となり、本作で注目されるようになりました。 そのほかの出演作には、『悪魔の沼』(1976年)や『フューリー』(1978年)、『殺しのドレス』(1981年)、『ブラック・ダリア』(2006年)などがあります。 フィンレイは2012年、マンハッタンにある自宅にて71歳で死去しました。

スワン/演:ポール・ウィリアムズ

悪役スワンを演じたポール・ウィリアムズは、アメリカを代表するシンガーソングライターです。本作では全ての楽曲を手がけています。 ウィリアムズは、特にカーペンターズやスリー・ドッグ・ナイトへの楽曲提供で知られており、映画音楽では『スター誕生』(1977年)の主題歌「スター誕生の愛のテーマ」で、アカデミー歌曲賞とグラミー賞最優秀楽曲賞を受賞しました。 また、映画『マペットの夢みるハリウッド』(日本劇場未公開)の挿入歌「レインボー・コネクション」は、日本ではカーペンターズによるカバー版がテレビドラマの主題歌として使われ、世界中で愛される楽曲となっています。

フェニックス/演:ジェシカ・ハーパー

『ファントム・オブ・パラダイス』
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ヒロイン・フェニックスを演じたジェシカ・ハーパーは、シカゴ出身の女優です。母は作家、父は画家、兄弟は作曲家や脚本家という、芸術一家に生まれました。 本作が本格的な映画デビューとなったハーパーは大きな注目を集め、それをきっかけに、ダリオ・アルジェント監督のホラー映画『サスペリア』(1977年)の主演に抜擢されました。

監督ブライアン・デ・パルマの作風や特徴は?

ブライアン・デ・パルマ
©︎Nicolas Khayat/ABACAUSA.COM/Newscom/Zeta Image

本作の監督ブライアン・デ・パルマは、スティーヴン・キング原作のホラー映画『キャリー』(1977年)や、『スカーフェイス』(1984年)、『アンタッチャブル』(1987年)、そして人気シリーズの第1作目となった『ミッション:インポッシブル』(1996年)などの作品で知られています。 デ・パルマは、アルフレッド・ヒッチコックに強い影響を受けています。そのため画面分割や長回し、スローモーション、目線アングルなどを使用した凝った画面作りを行い、「デ・パルマ・カット」という独特な映像が注目されました。 熱狂的なファンが多くいますが、作品の出来・不出来が激しいとも言われています。 1969年には『ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATTAN Ⅱ・黄昏のニューヨーク』で、第19回ベルリン映画祭にて銀熊賞を受賞。2007年の『リダクテッド 真実の価値』で、第64回ヴェネツィア映画祭の銀獅子賞を受賞しました。一方で、ゴールデンラスベリー賞にも5回ノミネートしています。

映像・美術で表現されるキャラクターたちの特性

『ファントム・オブ・パラダイス』ウィリアム・フィンレイ
© BBC/zetaimage

先ほど紹介したとおり、ブライアン・デ・パルマ監督は凝った画面作りやカメラワークに定評があり、その特徴は本作でも遺憾無く発揮されました。 劇場「パラダイス」のきらびやかな内装や、ステージに立つシンガーたちの70年代ならではのカラフルな服装が目を引きます。 一方で、ファントムの暮らす屋根裏の地味な内装、全身真っ黒の服に銀の仮面という彼の服装は、表舞台とのコントラストを強調するのです。ウィンスローのもともと気弱な性格や、胸に秘める復讐心、彼が閉じこもっている世界の味気なさがそこに表現されているのではないでしょうか。 それでいて、その狭い部屋に置かれている巨大なシンセサイザー。彼の世界には音楽しかないことを象徴しているのでしょう。

哀しくも美しい楽曲の数々に魅了される

『ファントム・オブ・パラダイス』
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スワン役のポール・ウィリアムズが手がけた楽曲、特にウィンスローが歌うものは、どこかカーペンターズを思わせる、美しくも悲しげな雰囲気を漂わせています。 その一方で、ウィンスローの楽曲にスワンが手を加えたとされるものは、激しいロック調になっており、ほかの楽曲とはかなり毛色が違いました。これは、シンガーの変更と合わせてウィンスローを激怒させることになるのですが、客観的に聴くと、これはこれでアリな曲だと感じる人も多いでしょう。 売れっ子シンガーソングライターであるウィリアムズが手がけている本作のサウンドトラックは、捨て曲なしの名盤となっています。

『ファントム・オブ・パラダイス』の元ネタをご紹介

『オペラ座の怪人』(ガストン・ルルー著/1909年)

20世紀初頭にガストン・ルルーが発表した怪奇小説『オペラ座の怪人(英語タイトル:Phantom of the Opera)』は、ミュージカルの演目としても有名な作品です。 タイトルからもわかるとおり、『ファントム・オブ・パラダイス』のストーリーラインは、本作とほぼ同じです。

『ファウスト』(ゲーテ著/1808年)

ゲーテによる2部構成の長編戯曲『ファウスト』は、黒魔術師のファウスト博士が、悪魔メフィストとの契約によって堕落していく物語です。 『ファントム・オブ・パラダイス』では、特に第1部を引用しており、ウィンスローとスワンの契約をこの戯曲になぞらえています。

『ノートルダム・ド・パリ』(ヴィクトル・ユゴー著/1831)

ノートルダムの鐘
©T.C.D / VISUAL Press Agency

『レ・ミゼラブル』(1862年刊行)などで知られる、ヴィクトル・ユゴー(ユーゴーとも)のもうひとつの代表作『ノートルダム・ド・パリ』。ディズニー映画『ノートルダムの鐘』(1996年)の原作にもなった有名な古典文学です。 醜い容姿の主人公カジモドと育ての親であるフロロ助祭長は、同じ女性・ジプシーの踊り子エスメラルダに恋をしました。フロロは汚い手を使って彼女を手に入れようとし……。 この物語は、ウィンスローとスワンがシンガーのフェニックスを巡って、恋の鞘当てを繰り広げる様子の下敷きとなっています。

『ファントム・オブ・パラダイス』から影響を受けた!?映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978年)

人気アニメ『ルパン三世』初の劇場版として公開された『ルパン三世 ルバンVS複製人間』の悪役・マモーは、本作のスワンをもとにしています。 ストーリー自体は特に関連はなく、ルパン作品としては珍しいSF風です。

『ロッキー・ホラー・ショー』とはライバル関係!?

『ロッキー・ホラー・ショー』アイキャッチ画像
© 20th Century Fox - All Rights Reserved

『ファントム・オブ・パラダイス』とともに、カルト・ロックミュージカル映画として並び称されるのが『ロッキー・ホラー・ショー』(1976年)です。 「ファントム」の翌年に公開された本作は、日本では長い間レイトショーで2本立て上映されることが多くありました。 両作はどちらも見る人を選ぶ作品ですが、「ファントム」は古典文学を多く引用した悲劇で、少しインテリっぽい印象があります。ポール・ウィリアムズによる楽曲も、誰もが歌えるものとは言えません。

ティム・カリー、リチャード・オブライエン、パトリシア・クイン『ロッキー・ホラー・ショー』
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一方で「ロッキー・ホラー」は、どちらかといえば騒がしい作品。舞台作品の映画化である本作は、楽曲も単純で、観客がその場で一緒に歌って(場合によっては踊って)楽しめるものが中心です。 「ファントム」ファンから見れば「ロッキー・ホラー」は派手な演出が目立ち、いっしょにされたくない。「ロッキー・ホラー」のファンは、「ファントム」はお高くとまっていて好きではないという人もいるのも事実。 もちろん、どちらも大好きだという人もいます。

『ファントム・オブ・パラダイス』はロックファン必見!

『ファントム・オブ・パラダイス』は、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社(元・20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント)からDVDとBlu-rayが販売されています。2021年1月現在、 価格に幅はありますが、通常版であれば1,000円程度で入手することも可能。 動画配信サービス(VOD)では、ビデオマーケットの見放題作品、およびdTVの個別課金によるレンタル配信作品にラインナップされています。お好きな方法で視聴してくださいね! カルト映画であり、ロックミュージカルの傑作でもある本作は、ロックファン、特にオールディーズロック好きならば必見の1作。1度は観てみて損はないと断言しましょう。 日本でも、本作の登場人物やバンド名を拝借したミュージシャンがいたことも忘れてはいけません。

次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

『シリアル・ママ』
©Savoy Pictures/Photofest/zetaimage

連載第16回は、古典文学になぞらえた悲劇を、鮮烈な映像美とどこか哀しい名曲が彩る映画『ファントム・オブ・パラダイス』を紹介しました。 『ロッキー・ホラー・ショー』や、ミュージカル映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2002年)が好きな人ならば、必ず楽しめる作品だと思います。鑑賞済みのカルトファンの皆さんも、改めて見返すと新しい発見があるかもしれません! 次回の連載で取り上げるのは、あまりにクレイジーすぎて、“死ぬまでに1度は観るべき”と言われる映画『シリアル・ママ』(1995年)。こちらもチェックしてくださいね。