2018年10月7日更新

【連載】カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち#21『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』【日曜更新】

19歳の狂言自殺が趣味の少年と79歳のヒッピーお婆さんの恋愛!?70年代のアメリカ文化を色濃く反映した『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』。ブラックユーモアもあり、恋愛映画でもあり、人間の死生観を突き詰めた映画でもある。そんな本作の魅力を掘り下げていきたいと思います!

「カルトを産む映画たち」とは?

「カルト(少数の熱烈な信奉)を産む映画たち」とは、有名ではないかもしれないけれど、一部の人には熱烈に愛される映画を紹介していく連載です(毎週日曜更新)。

日本では40年の時を経てディスク化!アメリカでカルト的人気を博す『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1971年)

1971年、アメリカで公開された本作。監督はハル・アシュビー。脚本はコリン・ヒギンズ。 音楽は当時絶大な人気を博していたキャット・スティーヴンス。 日本では翌年の1972年に公開されるものの、長年DVD化されず、中々見ることが出来なかった本作。 映画ファンの間でも、名前は知ってるけど見たことない!ずっと見たいと思っていたけど見る方法がない!と言われていました。公開から40年の時を経て日本では2012年にようやく円盤化。円盤化されたことで、更に日本での人気に拍車がかかりました。 今回はそんな本作の魅力をまとめてみました。

まずはあらすじ。

ハロルドは19歳の男の子。大金持ちの家の息子で、彼の趣味は”自殺ごっこ”。首を吊ってみたり、プールで水死体のふりをしたりと、毎日狂言自殺を繰り返します。そんな彼にはもうひとつの趣味があります。 それは赤の他人の葬儀に足を運ぶこと。ある日、いつも通り他人の葬儀に参列していると、墓場でいやに寛いでいるお婆さんを見つけます。彼女の名はモード。彼女もまた、赤の他人の葬儀に参列するのが趣味でした。「私たち、良い友達になれそうね。」と言うモード。ハロルドとモードの奇妙な友人関係が始まります。 古い列車を改造した家で、拾ってきたガラクタと自身が作った彫刻や絵画に囲まれ自由な生活を送るモード。物への執着を否定し、毎日何か新しいことをする。音楽を愛し、オーガニックを愛し、自然を愛し、命を愛す。 そんなモードと過ごしているうちに、ハロルドの心にも変化が生まれます。友人関係から、恋人関係へと変化していく二人。しかし、モードの80歳の誕生日に起きたある出来事をきっかけに二人の関係は終わりを迎えます。 ハロルドがモードと過ごし見つけたものとは………。

監督ハル・アシュビーは激動の時代を生きたヒッピー

2018年9月に、監督ハル・アシュビーのドキュメンタリーがアメリカで公開されました。日本ではまだ見ることが出来ませんが、彼にゆかりのある俳優や作り手たちがインタビューで当時のことを話しています。 ハル・アシュビーは1929年、ユタ州オグデン生まれ。大人になるとハリウッドに渡り、映画の世界に身を置きます。1971年に初監督作品『真夜中の青春』を発表し、その後、ジャック・ニコルソン主演『さらば冬のカモメ(1973)』や『シャンプー(1975)』、『チャンス(1979)』で有名になりました。 彼はいつもボサボサの長い髪、そして長い髭を蓄え、菜食主義で熱心なヒッピーでした。大量にマリファナを吸い、酒に溺れる毎日。当時のヒッピーたちの生き方そのものです。70年代は立て続けに傑作と呼ばれる作品を発表するものの、80年代に入ると勢いは失速し、作品の評価も落ちてしまい失業状態に。 そして1988年、59歳という若さでガンのため亡くなってしまいます。そういった意味でも、70年代のアメリカの空気を全身にまとい、最後までその時代の”生き方”を突き通した監督と言えます。

キャット・スティーヴンスの音楽

キャット・スティーヴンスはイギリス出身のミュージシャン。人気の絶頂の頃、イスラム教へ改宗したことで大きな話題になりました。一時はそれが原因でテロリスト扱いされ、アメリカに入国できなかったことも。 最近では、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』で彼の代表作である「Father and Son」が使われたことでも話題になりました。 本作で流れる、キャット・スティーヴンスの音楽の数々。モードがピアノを弾きながら下手くそな調子で歌う、「If You Want To Sing Out,Sing Out」。まるでモードの生き方をそのまま歌詞にしたように聴こえます。 そして衝撃的なラストシーンでもこの曲が流れ、映画にとって重要な意味を添えてくれます。本作を語る上で、キャット・スティーヴンスの音楽は欠かせないものとなっています。

思わず笑ってしまう、ハロルドの過激な"自殺ごっこ"一覧

ハロルドが劇中何度も繰り返す狂言自殺。ブラックユーモア溢れるハロルドの自殺ごっこは、次はどんな方法かな?と楽しみにしてしまうほど。そんな彼の”自殺ごっこ”一覧がこちら。 ・映画開始3分で首吊り自殺! ・バスタブが血みどろ。大胆リストカット! ・プールに浮く水死体! ・銃で額をバーン! ・自宅の庭で焼身自殺! ・腕を斧でスパっ! ・ハラキリこと切腹! 一見グロテスクなシーンを想像しまいますが、そんな事はありません。むしろシニカルなコメディとして、とてもいい味を出しています。彼の狂言自殺を目撃した人々の反応も愉快!

ハロルドとモードの死生観

ハロルドとモードの共通の趣味、「他人の葬儀に足を運ぶこと」。しかし二人の死生観には大きな違いがあります。 ハロルドは、何かが失われたり、終わったり、消えていくことに興味や魅力を感じる少年でした。「生きている時より、死んでいる時の方が楽しい。」と思っています。 一方モードが葬儀に足を運ぶ理由は、「すべてが変化し、巡りめぐる1つの命が生命の環で繋がっている」ということを感じられ、それが面白いと思っているから。いつか枯れてしまっても、また他のものに生まれ変わる。そんな命そのものを、モードは深く愛しています。 モードの命に対する深い愛はどこから生まれたのでしょう?それは次のトピックでお話しします。

モードの腕に刻まれる数字の刻印。浮かび上がる残酷な歴史的背景。

劇中、ハロルドはモードの腕に数字のようなものが刻まれていることに気がつきます。 このシーンではちらりとタトゥーが映るだけで、何の説明もありませんが、モードはナチスのユダヤ人収容所、ホロコースト (大虐殺)の生き残りだったと考えられます。あまりにも残忍で耐え難い、命の終わりと背中合わせの日々。そんな中から、逃げ切りアメリカに渡ったモード。 この歴史的背景を暗示することにより、モードがハロルドに語りかける全ての言葉がより一層、深く心に響いてきます。

19歳と79歳の恋愛!?そして情事。

本作では、19歳の少年ハロルドと79歳のお婆さんモードの恋愛関係が描かれます。そんなバカな………と思ってしまう年の差60歳の二人ですが、映画を見ていると二人が恋に落ちるのは自然なことのように思われます。 それは監督ハル・アシュビーが、モードというキャラクターをこれでもかというくらい魅力的に作り上げているのと、それをモード役のルース・ゴードンが、とてもチャーミングに演じきっているからだと考えられます。ハロルド役のバッド・コードの演技も素晴らしく、モードを愛おしそうに見つめる彼の眼差しは、二人の関係に説得力を持たせます。 恋人関係になった二人。ハロルドはモードに童貞を捧げます。一見驚きなこのシーンも、軽やかに、そして可愛らしく描かれる為、とても普遍的な幸せが溢れるシーンになっています。

見終わった後はモードの生き方に感化される!

いかがだったでしょうか?70年代アメリカの空気感、モードから感じられるヒッピー精神、残酷な歴史的背景、そして60歳差の恋愛。さまざまな側面を持ち合わせている映画だからこそ、熱烈なファンが多いのではないでしょうか。 カルト映画として有名な作品ではありますが、見終わった後はなんとも言えない爽やかさを感じられます。ラストシーンは得に必見。 長年、幻の映画とされていた本作ですが今ではDVDを始め、Amazon Prime Videoでも見ることが出来ます。今回の記事を見て興味が湧いた方はぜひ見てみて下さいね!

次回の「カルトを産む映画たち」は?

次回は10月14日に更新予定です!お楽しみに!