2021年2月4日更新

【連載#21】今、観たい!カルトを産む映画たち「ハロルドとモード」狂言自殺が趣味の少年と79歳お婆さんの恋愛!?【毎日20時更新】

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連載第21回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

『ダーク・スター』
©Bryanston Distributing Company/P/zetaimage

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。 ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか? 第20回の『ダーク・スター』(1981年)に続き、第21回は『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1972年)を紹介します!

アメリカでカルト的人気を博す『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』【ネタバレ注意】

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
©PARAMOUNT/zetaimage

1971年、アメリカで公開された本作。監督はハル・アシュビー、脚本はコリン・ヒギンズが務め、 音楽は当時絶大な人気を博していたキャット・スティーヴンスです。 日本では翌年の1972年に公開されたものの、長年DVD化されず、なかなか観ることが叶いませんでした。映画ファンの間でも、名前は知ってるけど見たことない!ずっと観たいと思っていたけど観る方法がない!と言われていました。 公開から40年の時を経て、日本では2012年にようやく円盤化。これにより、日本での人気にさらに拍車がかかったのです。今回はそんな本作の魅力をまとめてみました。 ※本記事では映画の展開について、ネタバレありで触れています。まっさらな状態で映画を楽しみたい人は、視聴後に記事を読むことをおすすめします。

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まずは『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』のあらすじ

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
©PARAMOUNT/zetaimage

ハロルドは19歳の男の子。大金持ちの家の息子で、彼の趣味は“自殺ごっこ”です。首を吊ってみたり、プールで水死体のふりをしたりと、毎日狂言自殺を繰り返します。そんな彼にはもうひとつの趣味がありました。 それは、赤の他人の葬儀に足を運ぶこと。ある日、いつも通り他人の葬儀に参列していると、墓場でいやにくつろいでいるお婆さんを見つけます。彼女の名はモード。モードもまた、赤の他人の葬儀に参列するのが趣味でした。 彼女は「私たち、良い友達になれそうね。」と言い、2人の奇妙な友人関係が始まります。 古い列車を改造した家で、拾ってきたガラクタと自身が作った彫刻や絵画に囲まれ、自由な生活を送るモード。彼女は物への執着を否定し、毎日何か新しいことをします。音楽を愛し、オーガニックを愛し、自然を愛し、命を愛していました。 そんなモードと過ごしているうちに、ハロルドの心にも変化が生まれます。友人関係から、恋人関係へと変化していく2人。しかし、モードの80歳の誕生日に起きたある出来事をきっかけに、彼らの関係は終わりを迎えました。 モードと過ごした日々のなかで、ハロルドが見つけたものとは………。

監督ハル・アシュビーは激動の時代を生きたヒッピー

2018年9月に、監督ハル・アシュビーのドキュメンタリーがアメリカで公開されました。彼にゆかりのある俳優や作り手たちがインタビューに応え、当時のことを話しています。 ハル・アシュビーはユタ州オグデン出身、1929年9月2日生まれ。大人になるとハリウッドに渡り、映画の世界に身を置きます。1971年に初監督作品『真夜中の青春』を発表し、その後、ジャック・ニコルソン主演の『さらば冬のカモメ』(1976年)や『シャンプー』(1975年)、『チャンス』(1981年)で有名になりました。 彼はいつもボサボサの長い髪、そして長い髭を蓄え、菜食主義で熱心なヒッピーでした。大量にマリファナを吸い、酒に溺れる毎日。既存社会に反抗する、当時のヒッピーたちの生き方そのものです。 70年代は立て続けに傑作と呼ばれる作品を発表するものの、80年代に入ると勢いは失速。作品の評価も落ちてしまい失業状態に。そして1988年、59歳という若さでガンのため亡くなりました。 そういった意味でも、70年代のアメリカの空気を全身にまとい、最後までその時代の“生き方”を突き通した監督と言えます。

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キャット・スティーヴンスの音楽

本作の音楽を担当したキャット・スティーヴンスは、イギリス出身のミュージシャン。人気の絶頂の頃、イスラム教へ改宗したことで大きな話題になりました。一時はそれが原因でテロリスト扱いされ、アメリカに入国できなかったことも。 2017年公開の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』にて、彼の代表作である「Father and Son」が使われたことでも話題になりました。 本作の劇中で流れる、キャット・スティーヴンスの音楽の数々。モードがピアノを弾きながら下手くそな調子で歌う、「If You Want To Sing Out,Sing Out」。まるでモードの生き方を、そのまま歌詞にしたように聴こえるでしょう。 そして衝撃的なラストシーンでもこの曲が流れ、映画にとって重要な意味を添えてくれます。作品を語る上で、キャット・スティーヴンスの音楽は欠かせないものなのです。

思わず笑ってしまう、ハロルドの過激な“自殺ごっこ”一覧

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
©PARAMOUNT/zetaimage

ハロルドが劇中で何度も繰り返す狂言自殺。ブラックユーモア溢れる自殺ごっこは、次はどんな方法かな?と、思わず楽しみにしてしまうほどです。そんな彼の“自殺ごっこ”一覧がこちら。 ■映画開始3分で首吊り自殺! ■バスタブが血みどろ。大胆リストカット! ■プールに浮く水死体! ■銃で額をバーン! ■自宅の庭で焼身自殺! ■腕を斧でスパっ! ■「ハラキリ」こと切腹! 一見グロテスクなシーンを想像しまいますが、そんなことはありません。むしろシニカルなコメディとして、とてもいい味を出しています。彼の狂言自殺を目撃した人々の反応も愉快!

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ハロルドとモードの死生観

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
©PARAMOUNT/zetaimage

ハロルドとモードの共通の趣味は、他人の葬儀に足を運ぶこと。しかし、2人の死生観には大きな違いがあります。 ハロルドは何かが失われたり、終わったり、消えていくことに興味や魅力を感じる少年でした。彼は“生きている時より、死んでいる時の方が楽しい”と思っています。 一方、モードが葬儀に足を運ぶ理由は、“すべてが変化し、巡りめぐる1つの命が生命の環で繋がっている”ということを感じられ、それが面白いと思っているから。いつか枯れてしまっても、また他のものに生まれ変わる。そんな命そのものを、モードは深く愛しているのです。 モードの命に対する深い愛は、どこから生まれたのでしょう?それは次のトピックでお話しします。

モードの腕に刻まれる数字の刻印。浮かび上がる残酷な歴史的背景

「ハロルドとモード」の劇中、ハロルドはモードの腕に数字のようなものが刻まれていることに気がつきます。 このシーンではちらりとタトゥーが映るだけで、何の説明もありませんが、モードはナチスのユダヤ人収容所、ホロコースト(大虐殺)の生き残りだったと考えられます。あまりにも残忍で耐え難い、命の終わりと背中合わせの日々。そんな中から逃げ切り、アメリカへと渡ったのでしょう。 この歴史的背景を暗示することにより、モードがハロルドに語りかける全ての言葉がより一層、深く心に響いてきます。

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19歳と79歳の恋愛!?そして情事

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
©PARAMOUNT/zetaimage

本作では、19歳の少年ハロルドと79歳のお婆さん、モードの恋愛関係が描かれます。年の差は60歳で、そんなバカな………と一瞬思ってしまいますが、映画を見ていると2人が恋に落ちるのは自然なことのように思えます。 それは監督ハル・アシュビーが、モードというキャラクターをこれでもかというくらい魅力的に作り上げているのと、それをモード役のルース・ゴードンが、とてもチャーミングに演じきっているからです。ハロルド役のバッド・コートの演技も素晴らしく、モードを愛おしそうに見つめる彼の眼差しは、彼らの恋愛に説得力を持たせます。 やがて恋人関係になった2人。ハロルドはモードに童貞を捧げました。一見驚きなこのシーンも、軽やかに、そして可愛らしく描かれるため、普遍的な幸せが溢れるシーンになっています。

観終わった後はモードの生き方に感化される!

70年代アメリカの空気感とモードから感じられるヒッピー精神、残酷な歴史的背景、そして60歳差の恋愛。様々な側面を持ち合わせた映画だからこそ、熱烈なファンが多い『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』。 先述のとおり、長年幻の映画とされていた本作ですが、2021年現在はDVDとBlu-rayも発売されており、1,000円程度(Amazon参考)で購入できます。VODサービスで観る場合、Amazonプライムビデオ、TSUTAYA TVなどでレンタル配信中です。 今回の連載を呼んで興味が湧いた人はぜひ観てみてくださいね!

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次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

『恐怖の足跡』
©Herts-Lion Intl / Photofest/zetaimage

連載第21回は、ハル・アシュビー監督が遺した異色の恋愛映画『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』を紹介しました。カルト映画として有名な作品ではありますが、観終わった後はなんとも言えない爽やかさを感じられます。ラストシーンは得に必見! いよいよ最終回となる次回は、名作ミステリー『シックス・センス』の元ネタ!?と騒がれた『恐怖の足跡』(日本劇場未公開)を紹介します。ぜひ最後までお付き合いください。