映画『メアリーの総て』鑑賞後レビュー、悲劇に彩られた稀代の怪物とは【ネタバレあり】
わずか18歳の天才作家、メアリー・シェリー
英文学の伝説として世界中で愛される名作『フランケンシュタイン』。これまでに数えきれないほど多くの映画や文学、アニメーションなどのさまざまな作品の基となり、芸術家たちを長きに渡って魅了し続けてきた彼の生みの親であるメアリー・シェリーの人生を描いた映画『メアリーの総て』の公開が、ついに決定しました。 弱冠18歳で稀代の怪物を生み出し、世紀を越えて語り継がれる『フランケンシュタイン』を書き上げた天才作家のメアリー・シェリーを追った本作。 作中ではメアリーが『フランケンシュタイン』を生み出す以前に、後の夫となるパーシー・シェリーとの自由恋愛で味わった苦悩や我が子の死という哀しみに満ちた運命が、若手実力派女優のエル・ファニング、とサウジアラビア初の女性監督ハイファ・アル=マンスールの強力タッグにより描かれています。 本記事では鑑賞後のレビューを交えながら、名作の裏にあるメアリーの運命や彼女の生き様について考察していきます。
男性社会を生き抜く強さ
本作の舞台となるのは、1800年代初頭のイギリス。フランス革命の影響が色濃く残り、不安定な政情を抱えていた当時のイギリスは、同時に産業革命にも差し掛かっており、物言えぬ緊張感と切迫感に包まれていました。そんな封建的で男性の権力が絶対の強さを誇っていた当時の社会で、メアリーが作家として名を残すことは困難極まりないことでした。 事実、彼女が最初に著書を出版したときに出版社から提示された条件は、メアリーが著者だということを明かさずに匿名で出版することでした。そのため、発売当初は彼女の存在が世間に知れ渡ることはなかったものの、その後ベストセラーとして人気を博し重版となり、メアリーが著者であることが記されていきました。 また、作中のメアリーの女性としての強さは、本作の監督でサウジアラビア初の女性映画監督でもあるハイファ・アル=マンスールとも重なります。 欧米諸国のような男女同権が認められておらず、未だ色濃い女性の立場の弱さと、そこから派生する問題を抱えるサウジアラビアから、表現者として世界に飛び出したハイファ・アル=マンスール監督。新時代の女性の在り方を象徴する人物として、ヴァラエティ誌の「最も注目すべき監督10人」に選出されるなど、映画を通して平等と自由のすばらしさを世界中に発信し続けています。 メアリー・シェリーの人生を描いた本作において、監督自身が歩んできた女性特有の経験から培った感覚が反映されることにより、伝記映画という枠組みの中で文学性とドラマ性、リアリティを兼ね備えた一作として完成しています。
怪物の背景にあるメアリーの生涯
死者の身体パーツを繋ぎ合わせた肉体が電気を通すことで世にも恐ろしい怪物として蘇る。不朽の名作『フランケンシュタイン』は、そんな衝撃的で不気味な設定で物語が始まっていきますが、物語の背景にはメアリー自身の体験や人生の出来事が強く映し出されていると感じられます。 まず死体が主人公という点から物語の裏には確固たる死が流れていることがわかり、死体に手を加えて生き返らせるという点からは、生と死が常に両立した状態であることを示唆しています。メアリーは自分の誕生をきっかけに母親が死亡し、また病死や死産、流産などを含めて、計4人の我が子を失っています。 メアリーの人生は大切な人の死とともに始まりました。そして、愛する人の死を幾度となく味わってきた彼女には、死への恐怖心と再生への渇望が強く存在していたと考えられます。死者が電気実験によって生き返るという衝撃的で新鮮味を与えるものとされていたこのアイディアは、メアリーの生涯と心情そのものを表現したものだったのです。 また、メアリーは妻子を持つ詩人のパーシーとの恋愛に溺れていきますが、自由恋愛を掲げるからこそ生まれる嫉妬や欲望、罪悪感や良心の呵責に苦悩し続け、精神的に追い詰められていきます。しかしその苦悩は書くことで作品として昇華され、その結果苦しみが深くなればなるほど彼女の描く物語の世界はますます円熟味を増していったのです。
悲劇的で美しき愛と人生
苦しみ葛藤しながらも愛を貫き、幾度となく迫る悲しき運命の中を生き抜き、わずか18歳で不朽の名作を生み出したメアリー・シェリー。彼女の人生を注目のキャストとスタッフ、荘厳ながらもファッショナブルに再現された19世紀のヨーロッパならではの衣装美術を伴って描いた本作は、2018年12月についに日本公開となります。 熱狂的な人気を集め語り継がれる怪物の背景にある、著者メアリー・シェリーが信じ選んだ愛と運命の正体は、いかに。