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【レビュー】長寿と繁栄を!『500ページの夢の束』航海日誌

2018年9月13日更新

元天才子役ダコタ・ファニングが、大人の女優として新境地を見せる『500ページの夢の束』。「スター・トレック」と人生への愛に満ちた本作のレビューをご紹介します。

“そのまま待機”しない『500ページの夢の束』レビュー

『I am Sam アイ・アム・サム』(2001)や『宇宙戦争』(2005)などでその才能を見せつけ、一躍天才子役として知られるようになったダコタ・ファニング。そんな彼女が、大人の女優としてセカンドステージに選んだのが本作、『500ページの夢の束』です。 本作で、ファニングは自閉症の女性を演じています。障害のあるキャラクターを演じるのは、非常に難しいもの。彼らのもつ「障害」をリアルに見せるだけではなく、人間としての奥行きを感じさせることが必要になるからです。 「スター・トレック」の脚本コンテストのために、ひとりでハリウッドを目指す自閉症の女性。 そんな難役に挑んだファニングの挑戦は成功だったと言えるでしょう。

「スター・トレック」への愛を感じる

500ページの夢の束
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本作の原題は『Please Stand By』。これは“そのまま待機”という意味で、「スター・トレック」シリーズのなかで、現状を把握するまでの間の指示としてよく出てくるセリフです。 このセリフはウェンディにとって重要な意味を持つのですが、“そのまま待機”していた彼女は、やがて現状を把握し、動き出します。 それ以外にも、ウェンディの書いた脚本に関するセリフや、細かな部分に「スター・トレック」の小ネタが隠されていますので、シリーズのファンには、それを探すのもひとつの楽しみ方でしょう。 もちろん、トニ・コレット演じるソーシャルワーカーの「スコッティ」という名前も例外ではありません。

登場人物それぞれの葛藤

500ページの夢の束
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ファニング演じるウェンディは、唯一の肉親である姉オードリーと離れ、自立支援ホームで暮らしています。ホームでの生活は規則正しく、予定の変更や予期せぬ出来事はあまりないため、彼女は毎日をほぼ安定した状態ですごすことができます。 しかし、普通の家庭で生活するとなると話は別です。オードリーは結婚し、子供を産んだばかり。赤ん坊がいれば、障害のない人でも戸惑うような予定外のことが頻繁に起きるでしょう。 オードリーも、決してウェンディを邪魔者扱いしているわけではないのですが、お互いのために、一緒に暮らしたくても暮らせない事情があります。しかし、ウェンディにはそれがなかなか理解できないようです。 また、ホームに勤めるスコッティは優秀なソーシャルワーカーである一方で、息子との関係がうまくいっていませんでした。ウェンディを探す旅を通して、この親子の関係もまた変わっていきます。

ウェンディとスポック

500ページの夢の束
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ウェンディの大好きな「スター・トレック」。このシリーズで最も有名なキャラクターは、エンタープライズ号の副長スポックでしょう。 論理性を重んじるバルカン星人と地球人の間に生まれたスポックは、ほとんどが地球人であるエンタープライズ号の他のクルー達と、自分が違っていることを理解しています。また、バルカン人的な論理性と人間的な感情とのバランスや、その扱いに苦悩する様子が、シリーズを通して度々描かれてきました。 自分は他の人と違うと感じ、感情を表現することが苦手なウェンディは、スポックに自分を重ね合わせているのです。そんな彼女が脚本コンテストのために執筆した作品は、スポックとその上官で親友でもあるカーク船長の物語。 ウェンディにはこの脚本を通して、彼女にとってのカーク船長に伝えたい想いがありました。

あきらめないウェンディの姿に胸を打たれる

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自閉症の症状のひとつに、物事の決まったやり方を好み、急な予定変更に対応するのが苦手というものが知られています。ところがウェンディのはじめてのひとり旅は、予定変更どころか様々な困難の連続でした。 どんな困難にぶつかっても、ウェンディは脚本を届けることをあきらめません。もしかすると、これも「予定変更が苦手」という症状のひとつの現れ方かもしれません。生活を困難にする症状が、新たなチャレンジでは有利な特性として発揮されるのは、おもしろいことです。 しかし、挫折してしまいそうなトラブルに見舞われながらも、ウェンディは強い意志で普段ならできないことも乗り越えていきます。

誰もが勇気づけられる“私たち”の物語

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ダコタ・ファニングは、ウェンディの役作りのため自閉症について入念にリサーチを行いました。それと同時に、日常生活で、自分自身がウェンディのように不安になる部分を引き出して演技をしたとも語っています。 誰にでも、苦手なことや不安になる時はあるでしょう。しかし、ウェンディは強い想いでそれを乗り越えていきます。 彼女は旅のなかで、悪い人にも優しい人にも、わかってくれない人にも、そして同好の士にも出会いました。それは、私たちの人生も同じではないでしょうか。 『500ページの夢の束』は、「奮闘する障害者の物語」ではありません。障害の有無に関係なく、私たち全員に、共感とインスピレーションを与えてくれる作品となっています。 愛とユーモアにあふれるこの作品から、そしてウェンディから、人生のフロンティアへ踏み出す勇気をもらえるはずです。そして、みなさんに長寿と繁栄を!

東京・大阪でセンサリーフレンドリー上映も決定!

500ページの夢の束
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『500ページの夢の束』は、2018年9月22日(土)に大阪、9月24日(月・祝)に東京の2か所で、センサリーフレンドリー上映も決定しています。 センサリーフレンドリー上映とは、音や光に敏感な人、長時間座っているのが苦手な人向けの上映方式です。通常よりも場内の照明は明るく、音響は小さくなっており、上映中の立歩き・出入りも自由なので、どんな人にでも映画を楽しんでいただくことができます。 詳細は、下記のリンク先をご確認ください。