【レビュー】クズどもの青春『ギャングスタ』がとらえたヨーロッパの若者の現状
ある意味実話に基づく!?ベルギー映画『ギャングスタ』はどんな作品?
ワールド・エクストリーム・シネマ2018で上映されるベルギーのクライム・アクション映画『ギャングスタ』。 ヨーロッパの若者たちが置かれた危険な現状をド派手なアクションで描いた本作は、オランダなどでスマッシュヒットを記録しました。 4人のチンピラが裏社会の大物を巻き込んだ麻薬戦争に身を投じていく、本作のレビューをお届けします。
チンピラ4人の野望を描く!『ギャングスタ』のあらすじ
ベルギー、アントワープ郊外の団地で育ったアダモとヴォルト、ジュネス、バディアの幼なじみ4人は、ギャングになることを夢見ながら怠惰な毎日を送っていました。 そんなある日、アダモはアムステルダムの裏社会の大物、マリーの“ブツ”がある場所の情報を得ます。それを盗んで横流しし、彼らは大儲けすることに成功。 しかしそのことでヨーロッパの麻薬市場の均衡が崩れ、事態はコロンビアの麻薬カルテルまで巻き込んだ大規模な麻薬戦争へと発展しーー。
米バラエティ誌「観るべき10人の監督たち」に選ばれた注目の新鋭監督コンビ!
『ギャングスタ』の監督を務めたアディル・エル・アルビとビラル・ファラーのコンビは、米バラエティ誌の「2018年に観るべき10人の監督たち」に選ばれました。 2011年に短編映画『Broeders (原題)』でデビューしたときからコンビを組んでいる彼らは、本作がヒットしたことでハリウッド大作でもメガホンを取ることに。 次回作はなんとウィル・スミスの出世作「バッド・ボーイズ」シリーズの第3作目。 また、80年代から90年代に大人気を誇ったエディ・マーフィ主演の「ビバリーヒルズ・コップ」のシリーズ4作目への起用も発表され、今後大注目のコンビとなっています。
『トレインスポッティング』を彷彿とさせるクズどもの青春
軽快なストーリーを主人公アダモのモノローグで進めていく本作は、同様の手法でやはり“クズども”の青春を描いた傑作『トレインスポッティング』(1996)を彷彿とさせます。 それぞれに強い個性を持つ4人。『トレインスポッティング』と違うのは、彼らが「四銃士」を自称するほど固い絆で結ばれていることです。 また、ユーロ・ヒップホップのサウンドに乗せて展開されるド派手なガンアクションは、そのバイオレンス描写の強烈さや臨場感のあるカメラワークなどが相まって、観客を釘付けにする迫力の映像に。クライム・アクションの楽しみが存分に堪能できるシーンです。
どぎついネオンカラーに彩られた「7つの大罪ゲーム」
イタリア人の母を持ち、幼いころは教会に通っていたアダモは、ことの顛末を「7つの大罪」になぞらえて語ります。それらはテレビゲームのようにひとつひとつレベルが上がっていき、その度に事態はさらに厄介な方向へ。 それぞれの罪や彼らの思考がネオンサインのように浮かび上がる遊び心のある演出は、彼らがまるでゲームを攻略するように、ステージが進むごとに難易度が上がっていくように、この危険な事態を捉えていることの表れではないでしょうか。 そしてこのネオンサインは、事態が悪化するにつれて現れる頻度が少なくなっていきます。 彼らが身を置いている状況は、もはやゲームではありません。
彼らはなぜギャングになりたがるのか?
ここでひとつ考えてみたいことがあります。アダモたちは、なぜギャングになりたがるのでしょうか? そこには、ヨーロッパの若者たちが置かれている厳しい現状があります。 アダモたちのグループは、全員モロッコ系です。彼らは日常的に人種差別を受け、真面目に働いても昇進は難しく、普通の仕事ではいい暮らしはできません。 さらに彼らにとっては就職も厳しいものです。人種差別に加えて、経験を重視するヨーロッパではそもそも若者は就職に不利。アダモたちのように学校を中退し、ただブラブラと過ごしている場合はなおさらです。 ギャングの大物になることは、カネと地位を手にする、まさに人生一発逆転の手段なのです。
『ギャングスタ』はワールド・エクストリーム・シネマ2018で上映!
麻薬戦争に巻き込まれていくチンピラたちの青春を描いたクライム・アクション映画『ギャングスタ』。 本作の冒頭には「ある意味実話に基づく」とクレジットされ、4人の“クズども”はヨーロッパの若者たちが置かれた現状を体現しています。 固い絆で結ばれた4人の幼なじみが挑む、無謀な一発逆転計画はどのような結末を迎えるのでしょうか。
『ギャングスタ』はWEC2018にて、東京ではヒューマントラストシネマ渋谷で10月20日(土)からの1週間、大阪ではシネリーブル梅田で11月18日(日)から、『ジェノサイド・ホテル』(2017)と交互に3日の上映となります。 この作品が気になった方は、ぜひ劇場に足を運んでみてください!