2018年10月23日更新

少年は、旅に出る。映画『ライ麦畑で出会ったら』【鑑賞後レビュー】

(C)2015 COMING THROUGH THE RYE, LLC ALL RIGHTS RESERVED

不朽の名作小説『ライ麦畑でつかまえて』を巡る青春逃避行を、温かくセンセーショナルに描いた映画『ライ麦畑で出会ったら』。世界中から注目を集める本作の日本公開に先立って、今回は作品の概要とともに鑑賞後のレビューをネタバレ込みで綴っていきます。

全世界で絶賛!珠玉の青春映画『ライ麦畑で出会ったら』

世界中の映画祭での受賞を記録し、多くの人々から絶賛の声が相次ぐ青春映画『ライ麦畑で出会ったら』が、ついに2018年10月27日より日本公開が決定しました。若き日のしがらみや憂鬱、喜びや疾走を監督自身の体験談に基づいて描いた本作。 2018年は映画『レディ・バード』が日本国内でもヒットを記録するなど、青春時代の心情や風景が数多くの映画ファンの心を掴み続けており、本作も待望の一作として熱視線を集めています。 そこで本記事では、公開に先立ってあらすじやキャスト情報などの紹介とともに、鑑賞後のレビューを綴っていきます。物語のネタバレも含みますので、ご注意ください。

孤独で憂鬱な日々を変えるため、少年は旅に出る【あらすじ紹介】

ライ麦畑で出会ったら
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舞台は1969年のアメリカ・ペンシルベニア州。学校の人間関係に絶望し、鬱屈とした寂しい日常を過ごす主人公のジェイミーは、『ライ麦畑でつかまえて』に魅了されたことをきっかけに、本作の演劇化を試みることに。しかし、脚色には原作者であるサリンジャーの許可が必要だと知り、接触を図るものの、世間から隠れてひっそりと暮らすサリンジャーの居場所をつかむことはできません。 そんな折に、学校である事件が起き、寮を飛び出す決心をするジェイミー。演劇サークルを通じて知り合った少女ディーディーと共にサリンジャーを探す旅を開始しますが、その道中にはあらゆる人生のヒントが隠されていて……。

青春風景を象るキャスト陣

主人公ジェイミー役、アレックス・ウルフ

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本作で日常からの脱却と人生の羽ばたきを求め、青春逃避行を決行する主人公のジェイミーを演じたのは、アメリカ合衆国出身の俳優のアレックス・ウルフ。1997年にニューヨークにて誕生し、脚本家で女優の母とジャズピアニストの父という、芸術センスあふれる家庭環境で育ち、自身も幼い頃より子役として活動してきました。 順調にキャリアを重ねたのち、2013年には映画『ブレンダン・フレイザーのエリートをぶっとばせ!』でブルックリン国際映画祭で男優賞を獲得し、その後2016年には「パトリオット・デイ」、2017年には大人気作の続編『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』へ出演。 また現在制作中の映画『The Cat and the Moon』では主演および監督デビューを果たすなど、新たな才能を発揮し続ける、注目の若手俳優です。

ジェイミーと旅する演劇少女役にステファニア・オーウェン

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主人公のジェイミーとともにサリンジャーを探す旅に出る少女ディーディー役を演じたのは、フロリダ生まれの若手女優ステファニア・オーウェン。日本でもヒットを記録した2009年の話題作『ラブリーボーン』や、フォックスの人気テレビシリーズ『Running Wilde』へ出演するなど、幼少期より役者として活躍。 また、主人公を演じたアレックス・ウルフの監督デビュー作への出演も決定しており、新鋭俳優ふたりの再タッグに期待が集まります。

エミー賞ノミネートのジェームズ・サドウィズ監督

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脚本と監督、製作を務めたのは、主にテレビシリーズの監督として活躍しているジェームズ・サドウィズ。エミー賞に2度ノミネートされた経験があり、過去に関わった作品が何度も各賞にノミネートされるなど、業界での知名度とキャリアを誇ってきました。 今回で長編映画監督デビューを飾り、また本作の大部分は自身の少年時代の体験談を基に作られていると発言していることもあり、本作への計り知れない熱量が感じられます。

喪失と向き合うこと、未来を見つめること【以下、ネタバレ注意】

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本編半ばで、ジェイミーの兄が戦死していたことと、その事をジェイミーが受け入れられずにいることが発覚します。ジェイミーは悲しみから目をそらし、同時に心に蓋をしていたのです。 生と死が切り離せないものであることは普遍的な事実ではありますが、死という実体のない現象と対峙することを、私たちの多くは強く恐れています。また、大切な人を失ったとき、まるで自分にも死が訪れたかのようなとてつもない痛みに襲われ、そこから逃げ出してしまうこともあります。

ライ麦畑で出会ったら
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ジェイミーは兄の死からの逃避を図り続けることで、世界を遮断し自分だけの世界に浸ることに成功していました。しかしサリンジャーを探す旅をきっかけにディーディーと出会ったことで、過去を見つめ直し未来を拓いていきます。 ある喪失がもたらす耐え難い悲しみと向き合うこと、そのときに発生する感情の機微や心情の変化が、本作では丁寧に描かれており、少年が大人へ成長していく過程の繊細で複雑な、いとおしい空気感に満ち溢れています。

思春期の苦悩と、旅の中で見つけた救い【上と同じく、ネタバレ注意】

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主人公のジェイミーは旅の最中に、かつては学校にも親友がいたこと、そして親友が不良グループとの仲を深めていき関係が疎遠になってしまったことを、そっとディーディーに打ち明けます。それを聞いたディーディーは、ジェイミーの中に芽生えていた同性の親友への愛に気づき、その尊さについて説くことで、ジェイミーの閉ざされていた心をほぐしていくのです。 多感な少年たちが集団で生活する空間において、「普通」が絶対的な権威であり、そこからはみ出した者は容赦のない批難と軽蔑、嫌がらせを受ける事態がしばしば起きてしまいます。ジェイミーも同じく、大きな正義感と大切な人への思いの強さから周囲からのけ者にされ、挙句の果てには部屋を荒らされるまでに至ってしまいます。

ライ麦畑で出会ったら
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思春期の感情のもつれや、集団的圧力から生まれるしがらみは、精神的自由をしばしば奪い、自己否定を誘います。ジェイミーもその被害者であり、彼の高校生活は苦悩と孤独に満ちていました。 そんな彼の前に現れた他校生のディーディーは、ジェイミーの過去とその中で生まれていたあらゆる感情を優しく受け止め、温かい愛情で彼を包み込んでいきました。男子校で苦痛を味わいながら日々を過ごしていたジェイミーにとって、ディーディーは希望の光であり人生を解き明かすヒントとなる存在であったと考えられます。 ジェイミーはこの旅の中で、過去と自分自身を受け止める勇気、未来を照らす鮮やかな道しるべを得たのです。

2018年10月27日よりついに日本公開!

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本国で大きな支持を獲得し、青春映画の新たな金字塔として期待と注目を集める映画『ライ麦畑で出会ったら』。忘れらないあの日の風景を、温かくも時には鋭く、豊かな感情描写を伴って映像化しました。そんな本作がついに2018年10月27日より日本公開が開始。 あの頃の感情を静かに呼び覚まし心の旋律に触れる、新時代の名作が誕生しました。