2019年2月8日更新

映画『ファースト・マン』がネクストレベルの映像作品に到達できた理由を完全解説!

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ファーストマン
©Universal Pictures

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『ファースト・マン』の何が一体優れている?

『セッション』や『ラ・ラ・ランド』と、アカデミー賞作品の監督として知られるデイミアン・チャゼルの新作『ファースト・マン』が2月8日より公開。前作に続いき主演にライアン・ゴズリングを迎え、まさに鉄板タッグで送る本作は実在する宇宙飛行士ルイ・アームストロングの伝記的映画となっています。 史実との違いも多い本作ですが、2019年に1月に発表された第24回放送映画批評家協会賞では作品賞、監督賞などにノミネートされ、編集賞と作曲賞を受賞。アカデミーノミネート作品としても注目されています。 シーン毎に考え抜かれたカメラの使い分けや、撮影技法によって、映画『ファースト・マン』はネクストレベルに到達。そんな本作が究極の映像エンターテインメント作品になり得た理由を徹底解説していきます。

デイミアン・チャゼルが本作に託した想い

デイミアン・チャゼル
©JIM RUYMEN/UPI/Newscom/Zeta Image

ジェームズ・R・ハンセンによるニール・アームストロングの伝記『ファーストマン: ニール・アームストロングの人生』を原作として、本作を映画化したデイミアン・チャゼル。批評サイト「ロッテントマト」では88%と批評家からの支持率も高いです。 圧巻の映像スケールで描かれる本作は、まずその映像美への高評価が見られます。ですが、ヴェネチア国際映画祭のプレミア上映された当初、とあるシーンが描かれていない事で物議を醸し出したのも事実。そのシーンとは、「アームストロングが月面着陸時に、月面にアメリカ国旗をさす」という、あの有名な映像。 これについて、デイミアン・チャゼルは米紙ロサンゼルス・タイムズで以下のように語っています。

ファーストマン
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「ストーリーの性質上、細かいエピソードをすべて盛り込むことはできなかった。星条旗を立てるシーンはとても有名ですし、ニール以外の宇宙飛行士もしています。探索機のはしごを下って、文字通り最初の人類として月面を踏みしめる場面は劇中にもでてきます。それは、彼だけがしたことだからです」 なぜ月に星条旗が立てられるシーンは描かれなかったのか。それはチャゼル監督はそもそも本作を、アメリカに限定したものでなく人類の偉業として、そしてニール・アームストロングという人物の半生にフォーカスを置いて描こうとしていたからだったのです。

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アポロ計画とニール・アームストロングについて

『ファースト・マン』前のアーム・ストロング

ファーストマン
©Universal Pictures

そもそも、本作の主人公であるニール・アームストロングとは誰か、アポロ計画とは何なのか説明したいと思います。 アームストロングは1930年に、オハイオ州で生まれました。彼には弟と妹がおり、父の仕事の関係で転勤を15回、20の街に住むという幼少期を過ごしていました。彼が宇宙を意識しはじめたのは1947年、パデュー大学で航空工学を学び始めた頃。彼は在学中に、1949年に海軍に入隊します。 そこで海軍飛行士として認定されたあとは、朝鮮戦争などの実戦を経て飛行の経験を積みました。海軍除隊後は再びパデュー大学に復学し、学士号をとって卒業。その後、1955年から新型機の試験飛行を行うテスト・パイロットになります。映画では、主にそれから数年後の1961年から1969年のことが描かれているのです。 ちなみに、この在学中に本作にも登場する、妻ジャネット・エリザベス・シュアロンと出会っています。その後、3人の子供授かった彼らでしたが、第二子のカレンに悪性腫瘍があることがわかり、彼女はのちに肺炎で亡くなってしまいます。

アポロ計画とは

ファーストマン
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アポロ計画は本作以外でも、近年では『ドリーム』、『ムーン・ウォーカーズ』、そして名作として知られる『アポロ13』など、これまで数多くの映画作品で多角的に描かれる題材です。これはアメリカのNASAが人類で初めて、人を月に送り出すという有人宇宙飛行計画です。 1961年〜1972年頃に実施された本計画の背景には、米ソの冷戦がありました。「宇宙開発競争」と呼ばれるこれは、噛み砕くとソビエトとロシアのどちらが先に〇〇するか競うもの。もともと公式で行われていたものではなく、時代背景的になんとなく、お互いがどちらかより優れていることを誇示するための指標のひとつでした。 特に『ファースト・マン』で描かれるアポロ計画の前には、ソビエトが宇宙に動物(ライカという犬)と人間(ガガーリン)を送ることに成功していました。アメリカもこの時、同じような有人宇宙飛行計画マーキュリーを実践しようとしていますが、先を起こされて焦ります。そして、次にジェミニ計画、そして人類初の月面着陸を目標においたアポロ計画を公表したのです。 アームストロングはこのジェミニ計画の船長に任命され、宇宙に初めて飛び立ちますが途中で事故が起こり帰還。その後、アポロ計画で再び宇宙に挑むのです。この様子は『ファースト・マン』でも描かれており、史実に近い部分が多いです。

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感情を殺した表情で物語るーー、ライアン・ゴズリングの演技について

ファーストマン
©Universal Pictures

本作で見事に実在した伝説的宇宙飛行士、ニール・アームストロングを演じたライアン・ゴズリング。キャリアの初期は『君に読む物語』でブレイクし、一躍“ラブストーリー顔”として広く認知されました。 それから心に闇を抱える先生を『ハーフネルソン』で、ラブドールに恋するシャイな男を『ラースと、その彼女』で、恋の達人を『ラブ・アゲイン』で。幅広い役どころを、これまで演じて来たゴズリング。しかし、史実の人物を演じるのはこれが初めての試みだったのです。 彼は『ドライヴ』から近年にかけて、表情や感情などのトーンを抑制しつつも、エモーショナルな演技をすることが増えてきました。『ファースト・マン』でもこのような演技をしていますが、これは実のニール・アームストロングを見事に再現しているのです。というのも、彼は他のパイロットと違って、口数も少なく自ら名声を求めにいくタイプではない、おとなしい性格だったからです。 自らの得意な演技方法と、実在の人物の所作や言動を見事に織り交ぜられた点が本作のゴズリングの良さに繋がっていると考えられます。

驚愕の撮影技法、何故この手法でなければならなかったのか

ファーストマン
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さて、本作の一番の見所である映像技術について触れたいと思います。本作は宇宙シーンではIMAX65mmカメラ、人間ドラマは35mmと16mmカメラと使い分けて撮影されています。IMAX65は、通常のものに比べ縦が約26%増されており、月面着陸の瞬間から一連の宇宙でのシークエンスを捉えたそれに、思わず自分も月の上についたかのような錯覚が。そのため、本作はIMAXで観ることを強くおすすめします! さて、本作は様々なカメラを場面ごとに使い分けています。本作のVFXスーパーバイザーを担当するのは、過去に『ブレードランナー2049』の視覚効果を担当し、オスカーを受賞した実力を持つ、ポール・ランバート。彼は、この撮映法についてIndieWireにて以下のように説明しています。 「スペシャルエフェクトや、保管されている実際のフッテージ、スケールモデルなど多種のヴィジュアルエフェクトを混ぜ合わせて、1960年代のドキュメンタリー映画感を出したいというのがチャゼルのヴィジョンでした」 60年代の映像に見せることにこだわった、本作。16mmでは閉塞感を出すことができ、よりドキュメンタリー感を出す効果があったのです。

ファーストマン
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そして、X-15やジェミニ8号、アポロ11号のシーンは、『ダンケルク』『インターステラー』のプロダクションデザイナーであるネイサン・クロウリーが担当。俳優たちを直径60フィート、高さ35フィートのLEDスクリーンの前に立たせ、それぞれにジンバルという回転台付きグリップをつけて撮影したとのこと。 ちなみに、もともとチャゼルは『ファースト・マン』の撮映について、クリストファー・ノーラン監督作『インセプション』がインスピレーション源になったと公表しています。 このように、それぞれのシーン毎に考え抜かれたカメラの使い分け、そしてそれを実行した名だたるスタッフによって本作の驚異の映像は生み出されていたのです。

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どこまで史実に忠実なのか?【ネタバレ注意】

ファーストマン
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そして、チャゼル監督の本作における並々ならぬこだわりは、史実の実現性にもありました。というのも、本作で描かれているほとんどのことが史実通りだからです。例えば、アームストロングが妻と音楽にのって踊るシーンがあります。その時流れていた「Lunar Rapsody」は実際に夫婦が聞いていた曲でした。 さらに、映画の最初の方でアームストロングが実験中に事故に遭うシークエンスがありますが(上の画像参照)これは実際に起きたことであり、本当に彼は死にかけたそうです。ただ、一点史実と違うのが映画ではこの際、顔に怪我を負っていますが実際は怪我はしてなかったとのこと。 もちろん、いくつか微妙に異なるものはありますが、史実に全くないオリジナルの演出だったのは、クライマックスの月面着陸シーンの時、アームストロングが亡き娘カレンのブレスレットを置いていったものです。映画の中でカレンの死について取り上げられていますが、それは史実通り。しかし、アームストロングが彼女のブレスレットを宇宙に持っていた記録は一切なく、映画のオリジナルストーリーです。

『ファースト・マン』一人の男の半生と月面を、IMAXで体感してみて。

ファーストマン
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これまで述べてきたように、本作ヒューマンドラマの側面が強い一方で、素晴らしい映像技術で宇宙を描いたエンターテイメント作品。2019年度アカデミー賞では、「視覚効果賞」「録音賞」「美術賞」「音響編集賞」にノミネートされています。 『ゼロ・グラヴィティ』や『インターステラー』など、大画面と大迫力の音響で見る方が圧倒的に感動を感じるはず。『ファースト・マン』は2019年2月8日公開。上で述べたように、IMAX用に撮影されているため絶対IMAXで観るべし!