2019年3月8日更新

【ネタバレ】『カメラを止めるな!』感動の伏線回収の過程を解説 ポンッ!!?

カメラを止めるな 秋山ゆずき
© ENBU ゼミナール

2018年最も話題をさらった邦画『カメラを止めるな!』。低予算で作られ、2つの映画館のみでしか上映されなかった本作が口コミによって上映館数拡大、異例の大ヒットを遂げました。なぜ、この「カメ止め」は社会現象になったのでしょうか。

『カメラを止めるな!』を徹底解説 【ネタバレ注意】

2018年、日本映画業界の話題を持ち去った大ヒット作品『カメラを止めるな』。もはや今「ポンッ!」だけでも「ああ、“カメ止め”ね」と通じるほど、国民的な映画となった。公開後、口コミが重なりに重なってロングランヒットになったわけとは。『カメラを止めるな』が社会現象を巻き起こしたわけとは。

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この記事には、『カメラを止めるな!』に関するネタバレ情報が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。

低予算映画でありながらも、記録的大ヒットに!

カメラを止めるな  キャスト
© ENBU ゼミナール

本作は2018年6月23日に東京の新宿のK's cinemaと、池袋のシネマ・ロサという2館で上映がスタートされました。当時、シネア・ロサでは公開直後、そこまで座席が埋まらなかったそう。しかし、翌週になると毎度満席状態、週末には立ち見が出るまで人が集まりはじめたのです。 そして、公開4週目に7館の拡大上映が決定。最終的には18週となる10月21日まで公開され、現在(2019年2月末時点)でも渋谷の映画館UPLINKなどで上映されているのです。 そもそも、上田慎一郎監督がENBUゼミナールという演劇学校にプロットを持ち込み、12人の無名役者を揃え、当て書きを書いてクランクインしたという低予算ぶり。しかしながら、拡大上映が決定した8月初頭にはすでに興収が1億7000万円を突破するなどの快挙を遂げ、11月半ばにはこれが30億円突破というのだから、近年稀に見る凄まじいヒット作品です。

監督、上田慎一郎もほぼ無名だった

カメラを止めるな!

本作は役者が無名などころか、監督さえも無名!手がけた上田慎一郎は、高校生の頃から演劇などに興味を持ち、映像を撮っていました。そして、一度はハリウッドを目指して英語の専門学校にも通っていたそうです。馴染むことができずに退学したあとからが、波乱万丈。 20歳の時は映画から少し離れヒッチハイクなどをして上京しますが詐欺に遭い、SF小説を自費出版したことで借金まみれになったのだそう。一時期はホームレス生活を経験したとのことです。 しかし、25歳の頃に再び映画監督を志し、映画製作団体「PANPOKOPINA」を結成。その後、短編映画を中心に監督活動を続け、2011年に『お米とおっぱい』で長編作品デビューを果たしました。その後、2015年にオムニバス映画の中の1エピソードで商業作品デビュー。 その後も短編映画の製作を経て、2017年ENBUゼミナールのシネマプロジェクトで『カメラを止めるな!』を制作したわけなのです。

どこで見つけた?キャストのハマりっぷりがスゴイ

カメラを止めるな 秋山ゆずき
© ENBU ゼミナール

さらに、キャストも無名とはいえど「どこで見つけたんだ!」と思うぐらい、それぞれ個性があって魅力的なのも、本作がヒットした要因ではないでしょうか。彼らはENBUゼミナールのシネマプロジェクトという企画の第7弾オーディションに参加し、監督に抜擢されたのです。 しかし、本作のヒロイン役の秋山ゆずきはもともと女優・グラビアとして活動しており、ゼミナール組ではありません。もともと上田監督の過去作品に出演していたため、監督自身が推薦して本作に出演したのです。

カメラを止めるな  しゅはまはるみ
© ENBU ゼミナール

尚、作品の中でもとりわけ存在感が高いのは「ポンッ!」の人、しゅまはるみ。彼女もまた、オーディション参加者ではあるものの以前から『世にも奇妙な物語』や『SCANDAL』、『ゆとりですがなにか』などのテレビドラマ、また「痛快TV スカッとジャパン」の再現VTRなどに出演していた経歴の持ち主なのです。 CMや舞台などにも出演していた事から、監督は彼女にかなり信頼度を寄せていたようで「経験の浅いキャストが多い中で安定したお芝居を見せ、物語を本軸に戻す役割をしてくださった」とコメントしています。 しゅまはるみの演じた日暮晴美の夫であり、本作の主人公役を演じた俳優・濱津隆之。彼はもともと、短編映画や学生映画などに数本出演していたものの、それこそ本作が本格的なデビュー作となりました。そして、事務所無所属でありながらも第42回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞したのです。

あの著名人も高評価!べた褒めな感想ばかり!?

カメラを止めるな 細井学
© ENBU ゼミナール

本作は一般客の心を鷲掴みにしただけでなく、業界人・著名人からも絶大な支持を得ていることでも有名。むしろ、彼らによる口コミがさらなる人気を呼んだといっても過言ではありません。 著名人の中でも最初から本作に目をつけていたのは、フジテレビアナウンサーの笠井信輔。映画好きとして知られており、これまでにも数々の作品にコメントを残している彼ですが、『カメラを止めるな!』は初日舞台挨拶に普通に見に行ったのだそう。そこを本作の宣伝担当者が声をかけて、飛び入りで司会をしました。 その後、数々の著名人から本作を絶賛する声が次々とあがってきます。国民的人気俳優の木村拓哉も、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」で本作に対して「僕らの普段やっている現場について、皆さんに「こんな情熱があって、こんな嫌なことがあって」という恥ずかしい部分も割と全部伝えてくれている、すごくありがたい作品だったな」とコメントしています。 さらに、映画雑誌『映画秘宝』に連載を持ち、俳優としてだけでなく監督としても活動する斎藤工は、5月31日に更新した公式ブログ「斉藤工務店」にて以下のようにコメントしています。 「ちょっと待ってくれ。面白過ぎる。やい 映画関係者達よ。邦画の現状・実状をやいのやいのと嘆く前にこの映画を観るべし。『カメラを止めるな!』の"角度"はそれら全ての答え(打開策)では無いだろうか」 映画人が本作に日本映画業界の未来をみた、という絶賛コメントですよね。

前半37分ワンカットシーンの凄さ

カメラを止めるな   しゅはまはるみ
© ENBU ゼミナール

本作は「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる」というキャッチコピーが全て。前半の37分にもわたるワンカットシーンは、学生映画のようなチープで低クオリティホラーを見せられているかのような印象を与え、思わず席を立った人もいたのではないでしょうか。しかし、この前半からすでに本作の凄さは始まっているのです。 例えば、前半のそれはB級ゾンビホラー映画の“おきまりの約束”を踏襲しています。しかし、その中にも“間”の使い方であったり、演出に違和感を覚える部分が多々ありました。しかしその違和感の正体が、意図的に仕組まれたものなので凄いのです。 そして、そもそも37分もワンカット(長回し)でシーンを撮る事自体が凄いのです。アカデミー賞作品賞を受賞した「バートマン」も長回し映画として話題になりました。しかし、本作は全編をワンカットで撮影したと“思わせた”ものであり、実際はそうではないのです。 俳優がセリフや立ち回りを全て覚えることは勿論、それをミスしないで撮影を進めるということが難しいことから、ワンカットという撮影技法はそもそも難しいものです。その点だけでも、すでに前半シーンは地味にすごかったりするのです。

後半の伏線回収。快感から感動へ【ネタバレありで解説】

無茶な企画を振られた、再現VTR監督

カメラを止めるな
© ENBU ゼミナール

そんな前半の違和感という名の伏線を全て回収してくれるのが、後半パート。実は、前半の37分は映画の中の映画だったのです!後半で描かれるのは、その映画が製作されることになった背景や過程。前半に一切感情移入できなかったキャラクターの本来の人間性を知ることができるのです。 前半、気が狂った映画監督だった日暮隆之は、もともと再現VTRの監督をしていた男。そんな彼の元に、30分の生中継でワンカットで撮るゾンビものの企画が舞い込みます。無茶すぎる企画に対し、元女優である日暮隆之の妻は「あなたに挑戦する度胸がない」と言い、娘は父親のVTRをバカにする始末。 しかし、娘がはまっている若手イケメン俳優が、その企画に出演することが決まっていたため、日暮隆之は父親として娘に良い顔をしようと、自分の監督としてのプライドを取り戻そうとして、この仕事を受けることにするのです。

妻と娘に対して感じる負い目

カメラを止めるな!

当日まで、赤ん坊連れのキャストのせいで台本読みが難航したり、アイドルの役者が駄々をこねたり、様々な障害がありました。中にはアル中の役者もいましたが、彼は日暮隆之に禁酒を約束。実は酒に溺れたせいで娘から絶縁されたという過去を明かしました。その夜、日暮隆之も家に帰るともうすぐ一人暮らしを始める娘のことを思って、子供の頃自分が肩車をしてあげている写真を見ながら晩酌して泣きます。 様々な困難を乗り越えて、ついに生中継当日。しかし、なんと不倫関係にあった監督役の役者と、メイク役の役者が追突事故に遭い、撮影に来れないという事態が発生。踏んだり蹴ったりだった日暮隆之は、セリフや動線を覚えて年齢設定も同じということから自分が監督役を演じることにします。また、同じく台本を呼んでセリフを暗記していた彼の妻がメイク役を演じることになりました。

撮影当日

カメラを止めるな 秋山ゆずき
© ENBU ゼミナール

ついに始まる生中継。その中でもハプニングは次々起き、それが前半の“違和感”の原因であることがわかります。日暮隆之は、自分の監督の意地を貫くことができ、現場に遊びにきていた娘の機転によって、撮影はなんとか無事終了。 娘が、日暮隆之が撮影中に落とした写真を拾うと、それは父が幼い自分を肩車しているものでした。それを日暮隆之が受け取ると、親子二人はハイタッチをして映画が終わる。 この物語は、クリエイターが無茶な企画の中でも自分のクリエイティブの意地を貫き通したもの。それと同時に、妻と娘に認められようと奮闘する父親の物語であり、そのラストに感動してしまうのです。

「カメ止め」が影響を受けたであろう映画

また、本作はどこか三谷幸喜作品のような雰囲気をもっています。特に1997年の 『ラヂオの時間』が似ていると言われていますが、その所以は同じようなワンカット撮影にあります。 『ラヂオの時間』は、ラジオ局で繰り広げられるラジオドラマの一部始終を描いた物語。初めて脚本が採用された主婦や、わがままな主演女優、都合の良いプロデューサー、敏腕ディレクターと様々なキャラクターが織りなすドタバタ劇が笑いを誘います。 実は、上田監督本人が『カメラを止めるな!』が『ラヂオの時間』に影響を受けていることを認めており、「『ショウ・マスト・ゴー・オン』とか『ラヂオの時間』とかをタランティーノが作ったらどうなるかな?ということがやりたかったんですよね」と語っています。

『カメラを止めるな』のような作品は今後現れるのだろうか

カメラを止めるな!

近年稀に見る邦画ヒット作。現在、原作ありきの作品が多く、オリジナルの脚本の作品よりヒットしやすい傾向の中、『カメラを止めるな!』はまさに画期的な映画でした。斎藤工のコメントも、そういった文脈で今後の映画業界に一石を投じる作品だと思ったのではないでしょうか。 上田監督の次回作も楽しみですが、このような作品がまた登場することに期待したいと思います。