2020年2月21日更新

【ネタバレ】映画『Red』解説 原作より多く濡れ場が削られた理由とは

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映画『Red』徹底解説 夏帆が妻夫木聡に翻弄される

直木賞作家・島本理生の同名官能小説を、演技派女優・夏帆を主演に迎えた映画『Red』が、2020年2月21日に公開されました。 その他のキャストには、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗らが集結!夏帆演じる主人公は3人の男たちに翻ろうされ、女として美しく開花していきます。禁断の恋を描いた問題作のメガホンを取ったのは、『幼な子われらに生まれ』などで知られる三島有紀子です。 小説と映画では、異なったストーリーとラストとなっています。そこでこの記事では、小説と映画それぞれのあらすじを解説し、映画の設定やキャストを紹介しました。 ※本記事には原作と映画のネタバレを含みますので、ご注意ください!

あらすじ【愛することが、生きることだった。】

『Red』の主人公・村主塔子は妻であり、母でもある普通の女性。 しかし、心のどこかでは家庭内での自身のあり方、社会に出たいという思い、そしてそれを理解してくれない夫という鎖の中で生きていたのです。そんな時、かつての思い人・鞍田秋彦と再会。そこから塔子は鞍田と社会的には許されない関係に陥り、次第に自由に美しくなっていきます。 しかし鞍田にはある秘密があり、彼女らの関係は想像もできない結末へと向かってゆくのでした。

原作は何故賛否両論なのか?

【ネタバレあり】まずは原作のあらすじを紹介

主人公の村主塔子は、仕事熱心で周囲が羨む夫・真と気さくな義両親、何より可愛い娘・翠がいる、一見、ごく平凡な専業主婦です。 その一方で、真と義母は女性のあり方に対し強い固定概念を持っており、塔子に悪意のないプレッシャーを強いていました。そしてある日、塔子は友人の結婚式に出席し、学生時代に愛人関係にあった元カレ・鞍田と再会。彼のレイプ紛いの強引な行為に、妻や母親ではなく一人の女性として求められている悦びを覚え、禁断の恋に堕ちていくことに……。 塔子は鞍田の誘いで彼の会社に再就職しますが、キャバクラ狂いの軽薄な同僚・小鷹にも心惹かれ、自分の価値や幸せを自問自答します。

そんな中、鞍田が癌に侵されていたことが発覚し、真との価値観のズレも決定的なものになってしまいました。 そこで塔子は翠を連れて家を出ていき、一度は鞍田に寄り添うことを選びかけます。しかし、鞍田はそれを拒み、塔子は夫の手紙を読んで彼の本心を知りました。 最後は“翠の母親”としての生き方を選び、十数年後、成長した娘と鎌倉を訪れます。幼い頃から家庭環境の異質さに気付き、自殺を考えるほど思い詰められていた翠。彼女は鎌倉で一人の男性に会った記憶があると言い、塔子は鞍田の願いで翠と引き合わせた日に思いを馳せました。 かつてその場所で、塔子は翠が無意識に鞍田を拒絶、本当の父親を求める姿を見て自分が母親であることを思い出し、涙を流したのでした。

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【考察】賛否両論の理由

『Red』は刊行当初、生々しい描写と衝撃的な内容に賛否両論が巻き起こりました。官能描写は同じく島本原作の『ナラタージュ』より少し過激という程度で、登場人物に感情移入できるか、という点が賛否を生んでいると言えるでしょう。 塔子は外の世界を望む一方、妻として、母親としての枠に押し込められる“現代女性への呪い”の体現であり、島本の繊細な描写が見事でした。 許されないと知りつつも、幸せを求める塔子の気持ちもわかる。との声がある一方で、罪悪感を抱きながら鞍田を拒否しないし、言動が理解できないとの批判も。塔子を含め登場人物それぞれに事情があるのですが、それをどう受け止めるのかは読み手側の価値観、未婚・既婚、子どもの有無などによって大きく変わると思います。 また一部では、「結末の後味が悪い」という意見があるようです。それは罪のない娘が苦しんだ上、最後の塔子の選択が“子供が枷になった”とも解釈できてしまうからかもしれません。

映画『Red』で 原作から脚色されたポイントを解説!濡れ場はかなり削られていた? 【ネタバレ注意】

ここからは映画『Red』をネタバレありで解説していきます。まだ観賞していない方はご注意ください。 原作にはセックスの描写が多くありますが、映画では2度と描写はやや少なめです。これは監督の三島の、「セックスは始まりにすぎない」、セックスのその先にある「人生の選択」を描きたいという意向から。確かに数は減っていますが、反対にその2回の濡れ場が丁寧に描かれています。 また原作ではITコンサルタントだった鞍田ですが、映画では建築家に。塔子は大学時代に彼が社長をしていた設計事務所でアルバイトをしており、その時に男女の関係となっていました。しかしその時に鞍田は結婚しており、2人の関係が進展することはありませんでした。 とあるパーティで再会した2人はすぐに唇を重ね、鞍田は見透かしたように「君は、変わってないな」と笑うのでした。原作では出会ってすぐに鞍田は塔子を犯しますが、セックスの描写が減っているという言及の通り、映画ではカットされています。 その後、塔子の元に鞍田の勤める建築会社のパンフレットが届き、働くことを決めた塔子。最初は反対する真でしたが、気落ちする塔子を見兼ねて、しぶしぶ許可します。 働き始めた塔子は、新潟で鞍田が手掛ける酒造のリノベーションの助手を務めることに。鞍田の車で会社を出た2人は車内で激しくキスをします。「あなたがひどい人だってこと、忘れそうになる」と言う塔子。 2人は鞍田の家へと向かい、離れ離れになっていた互いを求め合うかのように身体を重ねます。そこで鞍田から以前に悪性リンパ腫、つまり血液のガンにかかっていたことを聞かされますが、彼はもう大丈夫と笑いました。 塔子が朝早く会社に向かうと、何やら作業をしている鞍田の姿が。仕事かと尋ねる彼女の問いに、仕事ではなく、自分の趣味だと答えました。自分の作りたい家を見失わないためだと言う彼の言葉を受けて、塔子も理想の家の模型作りを手伝います。 そうして出来上がった家を見て、塔子はもっと大きな窓にしようと提案。塔子の思う理想の家とは、窓が大きく、水平線を見渡せるような家のことでした。 仕事が順調に進む塔子でしたが、真や翠、家族との関係は悪化していきました。原作で一度塔子は翠を連れて家を出ますが、映画では異なった選択を取ります。 体裁のために嘘をつく姿に、自分の母親からは「嘘をついて幸せなの?人間さ、どれだけ惚れて、死んでいけるかじゃないの?」と確信を突かれた塔子。そして鞍田との間にも不和が生じ、彼との関係を解消するのでした。

体調を崩したという鞍田に代わり、新潟での仕事を主導することになる塔子。無事にリノベーションを済ませるも、大雪によって新幹線が止まってしまいます。 交通手段を絶たれた塔子は、家に帰れないと真へ電話を掛けますが、彼は翠のために仕事を抜けることはできないから今すぐに帰れと繰り返すのみ。「塔子の一番大切な仕事って母親だろう?」という彼の言葉に反発することをやめ、大雪の中歩き出す塔子。彼女の目線の先には、いるはずのない鞍田の姿がありました。 彼の車で雪道を走る2人。道中、真へと電話を掛けた塔子は、「真君にとって、結婚って何?」と問います。「生涯でただ一人、好きになった女性と一緒になったこと」という彼の答えを聞き、塔子は電話を切り指輪を外すのでした。 車中で鞍田は、10年前に塔子が最初に書いてみせたデザインについて語り出しました。見たこともないくらい下手くそな線で、どうやって立ってるんだと思うくらいに大きな窓でと、病状が悪化した鞍田は苦しそうに、しかしどこか嬉しそうに話します。 鞍田と一緒に生きていきたいと言う塔子に、彼は最後に抱いて欲しいと望みます。2人は彼の家で、その存在を確かめるように、再び愛し合うのでした。 亡くなった鞍田の火葬場で、母親を求めて泣き出す翠の姿が。一緒に帰ろうと言う娘に首を振り、塔子は1人歩き出します。翠の母親として生きると決めた原作とは違い、映画では家族を捨て、鞍田が亡くなってもなお、愛した彼と生きる道を選んだのです。 塔子と鞍田が車の窓から最後に見た景色は、水平線に浮かぶ、“赤く”燃えるような朝日でした。 パンフレットで三島は、タイトルの「Red」は様々な意味を孕んでおり、赤のイメージから何を感じ取るのかは観客に任せるとしています。すべては約束の風景に繋がっているとも述べており、自分がどう生きていたいのかは、何を見て生きていきたいかでもあると感じていると。 劇中ではいくつかの“赤”が登場していますが、映画を観終わった後に目に焼き付いていたのは、約束の風景の朝日の“赤”でした。それを見て生きたいと望んでいたのは、鞍田と塔子自身。 後の窓の大きな家との対比になるように、塔子は窓の少ない閉ざされた家で、自分自身すらも抑えつけて家族と暮らしていました。 そんな彼女が見たいと望んでいた風景の“赤”、つまり「Red」は、愛した彼のために生きると決めた、彼女自身なのではないでしょうか。

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鞍田の車、ハレルヤ、愛読書に込められた意味とは?映画『Red』の設定やトリビアを紹介

劇中には印象的なアイテムがいくつか登場します。まず、鞍田の愛車である、ボルボ。現行の新型ではなく80年代の車種なのは、鞍田の建築家としてのこだわりを表しており、また2人にとっての仮の家とも呼べる存在です。 監督の三島は、「約束の風景を見られる瞬間まで、ふたりを守ってくれる頑丈だけど危うい家、というイメージ」を持っていたと、公式パンフレットにて語っています。 そしてその車中で流れているのが、ジェフ・バックリィの「ハレルヤ」です。歌詞に「愛は脆いもので、だからこそ神に祈るしかない」といった部分があり、それが鞍田と塔子に当てはまると考えられて、使用されたと言います。 もう1つ象徴的なアイテムが鞍田の愛読書、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』。長らく電気のない生活を送ってきた日本人は、陰翳に美を見出したとつづられている随筆です。実際の建築家も必ずこの1冊を通過するらしく、鞍田が建築家を志した時からずっと持っているという設定に。 鞍田がデザインした酒造も陰翳を活かしたものとなっています。実は酒造は木造の操舵室にたとえられており、その先に見据える風景をイメージできるデザインです。その風景こそ鞍田の見たかったものであり、映画のラストへとも繋がっています。 闇があるからこそ、その中の微かな光が際立つもの。三島によると、陰翳礼讃は、鞍田とこの映画を象徴した言葉と言えます。

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キャスト一覧【夏帆と彼女をとりまく三人のキャストたち】

夏帆/村主塔子(むらぬし とうこ)

家庭を持ちながらも、鞍田と不倫関係に陥ってしまう主人公・村主塔子を演じるのは、夏帆。2007年の主演映画『天然コケッコー』にて数々の新人賞を受賞して以来、『砂時計』(2008年)や『海街diary』(2015年)などの作品に出演しています。 清純なイメージのある夏帆ですが、ここまで濃密な恋愛映画に出演するのは初めてとのこと。監督である三島有紀子から、キャスティングを受けた際には「監督の覚悟を感じた」と同時に、役柄の塔子について「彼女の生き方は賛否があると思うが、鞍田との恋愛を楽しんでほしい」と公式にコメントしています。

妻夫木聡/鞍田秋彦(くらた あきひこ)

塔子を新たな世界に引きずり込む男性・鞍田秋彦を妻夫木聡が演じます。妻夫木は、映画『ウォーターボイーイズ』(2001年)、『悪人』(2010年)、『怒り』(2016)年など話題になった出演作を挙げればキリがないほどの国民的俳優。そんな妻夫木が40歳手前にして挑戦したかった作品が「大人の恋愛」だったそう。 そのため、三島から話を受けた際には「この巡り合わせが嬉しかった」と公式にコメント。危ない色気をまといながら、塔子の気持ちを代弁するかのように近づいていく鞍田を演じました。

柄本佑/小鷹淳(こだか じゅん)

塔子が入社することとなる会社の同僚で、彼女に恋心を抱く小鷹淳役には、柄本佑がキャスティングされました。柄本はその高い演技力が評価され、2018年には映画『きみの鳥はうたえる』にて第92回キネマ旬報ベスト・テン及び第73回毎日映画コンクールにて主演男優賞を獲得。2019年8月23日には主演映画『火口のふたり』が公開され、注目を集めました。 そんな柄本は本作について、「なぜこういう映画が生まれるか。どこかでみんなちょっとだけ憧れてしまうところがあるのか。だけど、それを現実ではやってはいけない。そんな映画を2時間、疑似体験して、その恋愛を楽しんで頂きたいなと。映画っていうのはそういう夢のあるものなんだなと思います。」と公式にコメントしています。 三島が「観察眼がある目をしているのに、緊張を解くのが上手く、色気があり、人間の複雑さと深みを表現してくれる人を探していた」際に、当てはまったのが柄本だったそう。妻夫木とはまた違った魅力を見せています。

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間宮祥太朗/村主真(むらぬし しん)

塔子の夫で、古い常識に捉われがちな男性・村主真役は間宮祥太朗が演じます。2018年には『半分、青い。』で朝ドラに出演し、老若男女問わず知名度がアップ。デビュー10周年という節目を迎えた2019年には主演ドラマ『べしゃり暮らし』や映画『飛んで埼玉』、『ホットギミック ガールミーツボーイ』などの話題作に出演しています。 そんな間宮は、本作への出演を通して「自分はまだ結婚したことも、子供も持ったこともないが、いつか来るその時のために、この事を覚えておかなければいけないと痛感した」と公式コメントで語っています。 三島いわく「イマジネーションに溢れ、周りを愛することと周りに愛されることを心から素直にできる稀有な存在」である間宮。彼が演じることで、真はただのモラハラ夫ではない、繊細な人物となりました。

片岡礼子/ふみよ

ふみよ役を演じるのは、『鬼火』(1997)や『楽園』(2019)などで知られる片岡礼子です。1993年に映画『二十才の微熱』でスクリーンデビューを果たし、それ以来映画やドラマを中心に数々の作品に出演。2001年の映画『ハッシュ!』で、キネマ旬報賞と第45回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞した演技派女優です。

酒向芳(さこう よし)/睦夫

睦夫役を演じるのは、近年独特な雰囲気で注目を集めている個性派俳優の酒向芳。特に2018年の映画『検察側の罪人』の容疑者役で見せた怪演によって一躍有名になり、2019年にはテレビドラマ7本、映画3本に出演しました。2020年には、映画『燃えよ剣』で幕末の会津藩士・外島機兵衛を演じます。

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山本郁子/村主麻子

塔子の義理の母・麻子役を演じるのは、文学座所属の女優・山本郁子です。主に劇団公演の舞台で活動するほか、『義母と娘のブルース』(2018)や『ビブリア古書堂の事件手帖』(2018)などテレビドラマや映画にも出演。『もののけ姫』や『崖の上のポニョ』などのジブリアニメや、海外ドラマの吹き替え声優・ナレーターとしても活躍しています。

浅野和之/村主宏

塔子の義理の父・宏役を演じるのは、舞台・映画・テレビドラマと幅広く活躍する浅野和之。舞台『十二人の優しい日本人』や『ベッジ・パードン』、映画『ステキな金縛り』や『清須会議』など、三谷幸喜作品には欠かせない俳優です。テレビドラマでは局をまたぎ多くの作品に出演し、2014年からは「スーパー歌舞伎Ⅱ」シリーズに5年連続で出演しています。

余貴美子/緒方陽子

塔子の母・緒方陽子役を演じるのは、映画やテレビドラマに多数出演するベテラン女優の余貴美子です。オンシアター自由劇場所属の舞台女優として活躍後、1985年からはテレビドラマや映画にも進出。日本アカデミー賞では『おくりびと』(2008)、『ディア・ドクター』(2009)、『あなたへ』(2012)と3度の最優秀助演女優賞を受賞している常連です。

『幼な子われらに生まれ』の三島有紀子が監督

三島有紀子監督
©︎ciatr

本作の監督を務めるのは、2017年に『幼な子われらに生まれ』で国内外の映画賞を受賞した三島有紀子。元NHKドキュメンタリー部門の監督で、2009年に『刺青 匂月のごとく』で映画監督デビューを飾っています。 それ以降『ぶどうのなみだ』(2014)や『繕い裁つ人』(2015)など国際的な評価を得る作品を次々と監督。2018年には映画『ビブリア古書堂の事件手帖』で監督を務めました。 脚本は『東南角部屋二階の女』で知られる映画監督の池田千尋が務めます。撮影を担当するのは、『冷たい熱帯魚』(2011)や『黄金を抱いて翔べ』(2012)などで知られる木村信也。音楽は『幼な子われらに生まれ』でも音楽を担当した田中拓人です。

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映画『Red』であなたは何を思うのか

『Red』
©2020『Red』製作委員会

刺激的なテーマと豪華俳優陣が集結した映画『Red』。おそらく私たちの境遇や感性によって、感想はバラバラでしょう。妻夫木が語った様に“人間の本能的な部分に語りかけてくる”作品である本作に、あなたは何を思いますか?