2023年3月1日更新

【ネタバレ】『エスター』徹底解説 少女の正体、その悲しき境遇とは

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『エスター』
©DARK CASTLE ENTERTAINMENT/zetaimage

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映画『エスター』で描かれた少女の正体を解説・考察【ネタバレ注意】

2009年に公開し、世間を恐怖のどん底に落とした異色のサイコホラー映画『エスター』。2022年8月19日には、全米で続編が公開されます(日本公開日未定)。この記事では、エスターの凶暴性や動機について、考察しながら解説していきます。 また、気になる「別エンディング」の存在や、現実に起こった『エスター』のような事件についても紹介しましょう。 ※この記事には、映画『エスター』のネタバレが含まれています。未観賞の方はご注意下さい。

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『エスター』のあらすじ

3人目の子供を流産し、その心の傷が癒えないケイト・コールマン(ヴェラ・ファーミガ)と、その夫ジョン(ピーター・サースガード)。夫婦はその苦しみから抜け出そうと、9歳の少女エスター(イザベル・ファーマン)を養女として貰うことにします。 エスターは少々変わり者でしたが、健気で真面目な性格をしていて、夫婦は幸せな家庭を予感しました。しかしエスターは次第に奇妙な行動を見せるようになり、彼女の恐ろしい本性が明らかになります。

【ネタバレ注意】養子に迎えた少女の正体とは……?

本作の魅力は、エスターという「少女の姿をした怪物」にあります。彼女は普段、お姫様のような服に身を包み、愛らしく振る舞っています。しかし裏では親の目を盗みながら、目的のために殺しもいとわない凶暴な本性が隠れているのです。劇中でエスターが描いている絵のなかに、隠された“もう一つの絵”があることが、彼女の二面性を象徴しています。 エスターは9歳の見た目ながら、実年齢は33歳であるという「発育不全」を患っていて、彼女の境遇は悲しいものです。大人の心を持ちながら子供の見た目を持つという境遇にこそ、二面性を持つ狂気に満ちた行動の原因があります。 そんな悲しい境遇のキャラクターであることを踏まえ、本作を考察していきましょう。

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コールマン家の養女

『エスター』
©DARK CASTLE ENTERTAINMENT/zetaimage

コールマン夫妻は流産の苦しみから解放されるため、その行き場を失った愛を注ごうと養女をもらうことを決意します。孤児院にきた彼らは、一人の風変りな少女エスターと出会いました。彼らは、はしゃぐ女の子たちから離れて、ひとり絵を描くエスターに惹かれます。 夫婦は彼女の話す”母ライオンが子ライオンと出会う話”に自分の境遇を重ね、彼女との間に絆を感じたことから引き取ることにしました。 しかし、ここで既にエスターの計略は始まっていたのです。エスターは孤児を貰いに来る人達にとって都合のいい子供像を作り上げます。礼儀が正しく、わんぱく過ぎずに社交性もある。絵を描く趣味があり、芸術的才能もある。 そしてエスターの語る“母ライオンと子ライオン”の話は、コールマン夫妻のような心の弱った夫妻が運命論と結びつけやすい物語であり、特に絆を感じさせるのに有効なものです。このように夫妻の心理を読み取り、理想の子供演じることで、彼女は夫婦に取り入りました。 家族に引き取られた後も兄弟たちと良好な関係を築き、ピアノに興味を示したりと夫婦にとっての“理想の子供”を演じ、家族の一員になっていきます。

エスターの凶暴性と悪意

彼女は夫妻の前で理想の子供を演じているのに対して、学校で自分を笑った女の子を殺そうとする「抑えられない凶暴性」というもう1つの面を隠し持っていました。彼女は、自分の正体を探ろうとするシスターを、容赦なく殺すことさえしています。   エイターはケイトに正体を疑われ始めたことを機に、彼女にだけ攻撃的な姿勢をとっていきます。エスターは巧みに「無害な子供」を演じて、家族やカウンセラーを騙し、夫婦の仲を裂こうとしました。 彼女が利用したのは、夫婦の間にあった「疑心暗鬼」です。ケイトは元アルコール依存症で、そのせいで娘のマックスを失いそうになった過去があります。その件が未だに夫ジョンの頭にあるため、彼女のエスターへの非難に懐疑的で、妻に問題があると考えるように。 それに対して、ジョンは10年前に浮気をしていた過去があます。序盤にケイトは「流産した自分を笑って見ているジョン」の夢を見ており、彼に不信感を抱いていました。その事実を彼女の日記から知ったエスターは、そこに火をつけるように、ケイトの責任能力を疑わせるような問題を引き起こしていきます。

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エスターの目的は?

『エスター』
©DARK CASTLE ENTERTAINMENT/zetaimage

クライマックス、遂にエスターの目的がジョンとの性行為であることが明らかになります。 彼女はこれまでの子供らしい服から大人っぽいドレスに着替え、メイクをしてジョンに言い寄りました。エスターが執着していたのは「男性との肉体関係」で、ジョンという一人の男性に限ったことではなかったのです。聖書に挟まれた男性の写真の数々と、部屋の壁に描かれていた性行為の絵が彼女の欲望を物語っています。 何故ここまで固執していたのでしょうか。それは子供の体ゆえに、年相応の肉体関係を築くことが出来ないからです。大人の女性として健全な性的欲求を満たせない状況が、エスターの行動の原因あり、観客に恐ろしさと同時に悲しさを印象づけます。

子供を守ろうとするケイトとの格闘!そして……

結局、ジョンに拒絶されたエスターは家族を皆殺しにしようとします。シスターとの会話からエスターを引き取った家族が不幸な目に遭っていることが示唆されているように、これまでにも同じようなことが起こってきたのでしょう。 ジョンが無残に殺され、次は娘のマックスに手が。そこに全ての真相を知ったケイトが現れ、決死の覚悟でマックスを救い出します。彼女は森に逃げ込みますが、それを追ってきたエスターと凍った池の上で死闘を繰り広げることに。 最終的にケイトは、足にまとわりつくエスターに「あなたは私の子じゃない」と言い放ち、池の底へ蹴り落としました。エスターは凍てつく池へと消えていき、物語は幕を閉じたのです。

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【考察】ラストが意味するケイトの結末

『エスター』
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本作はエスターという厄介事を抱えてしまった家族の話というだけではありません。事の原因にあるのは「親のエゴ」なのです。   「ジェシカへの愛を誰かに分けられれば……」と語るケイトですが、それは流産したジェシカの代わりを探していたに過ぎず、夫妻は罪滅ぼしのためにエスターを引き取リました。しかし、失ってしまった子供を他の子供で代用することはできません。例えそれがエスターのような凶暴な存在であれ、その孤児のためにも引き取るべきではないのです。 本作のラストはそんな「間違った喪失との向き合い方」が招いた結果でもあり、ケイトが本当の子供のために、蹴りを付けたのがこの映画のラストなのです。

別エンディングではなにが起こった?

『エスター』のDVDには、特典映像としてもう1つのエンディングが収録されています。 ケイトとマックスに逃げられたエスターは、追いかけるのを止めて自室に戻ります。ひび割れた鏡に映るエスターの顔はガラスの破片でズタボロ。しかし、そのことは一切気に留めず、彼女は子供の服に着替え、子供の化粧をします。そして、家に踏み込んできた警官たちに軽くお辞儀をして出頭するのです。 逃げたケイトとマックスを追いかけず、自首するというラスト。ケイトとマックスを殺そうとしていた殺意が急に引いてしまい、物語的にちぐはぐなラストではありますが、ズタズタな顔で笑う様はエスターの狂気をより一層深めるという点では、本エンディングよりも優れているかもしれません。 またケイトにとってのエスターは、間違った喪失との向き合い方のメタファーであるため、こちらのエンディングではケイトは喪失感から“逃げる”ことになり、よりバッドエンドに近いといえるのではないでしょうか。

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映画にそっくりな事件が発生!?

『エスター』
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エスターが患っていたのは、ホルモン異常による下垂体機能不全という病気です。これは現実にある病気であり、見た目と実年齢が一致しない人々は実在しています。そして実際に、エスターのように年齢を詐称して家庭に潜り込んだ事件があリました。 その事件は通称「ナタリア事件」と呼ばれています。

ナタリア事件の概要

2010年アメリカ・インディアナ州である夫婦が8歳の女の子を養子として迎えました。 見た目はまさに幼気な少女の姿で、この夫婦も一切疑ってはいませんでした。しかし彼女の医学的な年齢測定年齢は、22歳であるという驚愕の事実が明らかになります。 ナタリアには精神に異常が見られ、コーヒーに漂白剤を混ぜて養父母の毒殺を図るなど、まるでエスターのように家族を傷つけようとする傾向がありました。そして2014年、彼らは実子の教育のため、ナタリアをアメリカに残しカナダに移住します。 夫婦はカナダに移り住んでもナタリアを大学に行かせようとしたり、物資援助をしたりしていましたが、2019年に彼女から育児放棄で訴えられ、逮捕されてしまいました。一方のナタリアは、別の夫婦のもとで「子供」として生活しているそうです。 まさに『エスター』で描かれているようなこの事件。現実は小説よりも奇なり、とはこのことですね。

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エスターを演じた子役イザベル・ファーマンの現在

本作の1つの魅力にエスターの鬼気迫る迫真の演技があります。2009年に本作でエスターを演じたイザベル・ファーマンは、当時は12歳でした。 2022年現在25歳になりましたが、エスターを演じていたころの面影は未だ残っています。 『エスター』以降には、2012年公開の『ハンガーゲーム』のクローヴ役や、2018年公開の『ダーク・スクール』のイジー役などで活躍。 持ち前の演技力を活かした今後の活躍にも期待したいですね。

まさかの続編!?エスターの前日譚を描く

2020年2月、まさかの『エスター』の続編の製作が発表されました。監督は『ザ・ボーイ~人形少年の館~』などを手掛けたウィリアム・ブレント・ベル監督。エスターの過去を描く物語となるそうです。 続編のタイトルは『エスター ファースト・キル』。 しかしやはり1番に気になるのは、エスターを誰が演じるのかでしょう。実は25歳のイザベルが、強制遠近法やメイクを使い、幼きエスターを演じています。 続編ではエスターの最初の殺人が描かれます。未だ謎の部分の多いエスターの過去ついて明らかになるのでしょう。あの子供として円滑に物事を進める上で、邪魔でしかないフリフリな衣装に何故こだわるのかもわかるかもしれませんね!

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最凶のサイコホラー『エスター』は観れば観るほど面白い!

『エスター』は、狂気の少女が幸せな一家を襲うサイコホラーとしての面白さが魅力。しかしそれだけではなく、彼女の境遇やコールマン夫婦の間違った行動から起こった事件であることを踏まえると、さらに面白くなる作品です。 続編の公開前に、ぜひこの点を踏まえてもう一度観るのもいいかもしれませんね。