2020年3月8日更新

【ネタバレ】『ミッドサマー』解説“映え”な風景のなかで起こる惨劇を考察

『ミッドサマー』
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2018年『へレディタリー/継承』で衝撃のデビューを飾ったアリ・アスター監督。彼の監督第2作目『ミッドサマー』はホラーの固定概念を覆す作品として話題を集めています。本作の謎めいた描写や結末について、ネタバレありで解説します!

目次

映画『ミッドサマー』は最凶の“映え”映画?美しい映像につられて観ると大変危険です!

2018年、長編デビュー作『へレディタリー/継承』で世界中の観客を恐怖に陥れたアリ・アスター監督。そんな彼の監督第2作目『ミッドサマー』が、再び絶賛の嵐を巻き起こしています。 ホラー映画の“惨劇は暗闇で起きる”という固定概念を覆す、衝撃の衝撃のフェスティバル・スリラーと言われている『ミッドサマー』ですが、その“映え”なビジュアルから、ホラーは好きではないけど気になっている、という人も多いのではないでしょうか。 この記事では、『ミッドサマー』のあらすじやキャスト、その世界観から謎めいた描写や衝撃のラストを解説していきましょう。 ※この記事には『ミッドサマー』のネタバレが含まれます。本編を未鑑賞の方はご注意ください!

『ミッドサマー』のあらすじをネタバレなしで紹介

破局寸前のダニーとクリスチャンのカップル。しかし、ダニーが不慮の事故で家族を失ったことにより、ふたりの関係は改善します。 そんななか、クリスチャンが友人のジョッシュ、マークと一緒に、スウェーデンからの留学生ペレの故郷に旅行に行くと聞かされたダニー。そこでは“90年に1度の祝祭(夏至祭)が行われる”と聞いた彼女は、彼らについて行くことにしました。 そしてたどり着いたペレの故郷・ホルガは、花々が咲き乱れ、優しい住人たちが陽気に歌い踊る楽園のように思えました。しかし、不気味な出来事が立て続けに起き、ダニーの心はかき乱されていきます……。

『ミッドサマー』の特筆すべき魅力とは?

ホラーの固定概念を覆す白昼の恐怖

これまでのホラー映画では、惨劇は暗闇で起こるものであり、明るい場所は“安全地帯”として描かれてきました。 しかし本作の舞台は、太陽が沈まない夏の北欧。白夜によって夜中まで明るいこの土地で、アメリカからやって来た4人の学生は、不思議な感覚に陥っていきます。太陽のもとで惨劇が起こり、「安全な場所はない」という恐怖が、登場人物たちと観客を凍りつかせること間違いなしです。

“映え”な映像美

明るい太陽のもと、色とりどりの花冠をかぶった白い民族衣装の女性たちが楽しげに踊る姿や、大勢で大きな食卓を囲む様子は、まさに“映え”。本作はファンタジーのような映像美にあふれています。 ダニーたちが宿泊することになる若者用の小屋にびっしりと施された壁画や、村のフェンスやタペストリーなどに描かれた絵は、現代絵画とは違う魅力でわたしたちを惹きつけます。 思わずグッズが欲しくなってしまうような、かわいいヴィジュアルも見どころのひとつでしょう。

計算し尽くされた描写や世界観

前作『へレディタリー/継承』(2018年)と同様に、本作も画面に映るもの全てが伏線といっても過言ではありません。 さきほど紹介した壁画は、とても民族的で“映え”ではありますが、そこに描かれたものをよく見てみると、映画の中の出来事と関連しています。本当に一瞬背景に映るだけのものや、さり気なく発せられるセリフが、結末を知ってから思い返してみると「そういう意味だったのか!」という衝撃をもたらしてくれます。

史上最凶の“映え”映画『ミッドサマー』を解説【ネタバレ注意】

“夏至祭(ミッドサマー)”とは?スウェーデンの歴史的背景

スウェーデン夏至祭(ミッドサマー)

本作の舞台はスウェーデンのホルガという小さな村ですが、現在でも“夏至祭”は北欧諸国で重要なお祭りのひとつです。映画にも登場したように、メイポール(五月柱)の周りを手をつないで踊り、歌い、大勢で食事をするという行事も行われています。 スウェーデンはキリスト教が普及する12世紀ごろまで、映画に登場したホルガの村のように、荒くれ者のバイキングの土着信仰が根強く残っていたようです。

クリスチャンが発見したサイモンの遺体は、不気味な形で吊るされていました。これは、「ブラッド・イーグル(血まみれの鷹)」と呼ばれるバイキングの拷問です。受刑者を生かしたまま背中を切り開き、肋骨を背中側に折って翼を広げた鷹のようにするという非常に残酷なものです。 ホルガの村でたダニーたちが最初に衝撃を受けた「アッテステュバン(民族の崖)」と呼ばれる姥捨崖(うばすてがけ)や、好きな男の食べ物に陰毛を入れるおまじないも北欧に土着のものだそうです。 本作では、部外者である若者たちは、そうした民俗の土着信仰を都会の価値観で“野蛮なもの”と決めつけていました。そして、村のしきたりを守らなかった罰として殺されていったのです。

“9”が意味するものとは

『ミッドサマー』には、“9”という数字が頻出しています。「90年に一度」「9日間の祝祭」石碑に刻まれた「9つのルーン文字」そして「9人」の……。この数字は、いったいなにを意味しているのでしょうか。 実は北欧神話の重要なポジションに、「9つの世界」というものがあります。それら世界は「ユグドラシル」という木が根を張ることによって支えているとされています。 神話のなかでも9が登場する有名な一節が、「オーディンがルーン文字の秘密を得るため、ユグドラシルの木で首を吊り、グングニル(オーディンの槍)に突き刺されたまま9日9夜、自分を最高神オーディン(=自分自身)に捧げた」というものです。

グングニルは♢に✕をつけたようなルーン文字で表されます。そして、この文字は映画終盤に生贄たちが集められたテントのなかに描かれていました。つまり、彼らは最高神オーディンに捧げることを示しているのです。 “9”という数字は、本作が“犠牲”や“生贄”の物語であることを暗示していました。

白夜の明るさが不安感をあおる

これまでホラーやスリラーでは、暗闇で陰惨な出来事がおき、明るい場所は“安全地帯”として機能してきました。 しかし、本作の舞台である夏のスウェーデンでは、夜になっても日が沈まない白夜が訪れます。アメリカからやって来たダニーたちは、その明るさに不安感を募らせていきました。 さんさんと降り注ぐ太陽の光のもと、ホルガで行われる数々の儀式は、部外者である彼女たちにとって不気味なものでしたが、村の人々にとっては普通のことであり、暗闇に隠れて行われるべきものではありませんでした。 隠れることができる暗闇のないなかで、ダニーはこれまで目を背けていた事実と向き合わなければならなくなります。

ラストのダニーの決意の意味とは?

家族を失ったダニーにとって、恋人のクリスチャンは唯一頼ることができる人物でした。しかし彼は以前から彼女と別れることを望んでおり、その後も一応はそばに留まったものの、ふたりの間にできた溝は埋められないほどに深まってしまっていたのです。

クリスチャンはホルガで村の若い娘に見初められ、彼女と儀式のような性交をすることになります。大勢の裸の女性たちに見守られながら行為に及んでいる姿を見たダニーは、ようやく自分が抱えていた不安を直視し、傷つきながらもそれを乗り越える決意をするのです。 メイポールの周りで踊る競争に勝った彼女は、“メイクイーン”として村人たちから讃えられます。そして、最後の生贄としてクリスチャンを選び、彼女は自分がしがみついていた人生と決別しました。 実は、ダニーがホルガの村に受け入れられるという結末は、彼女がそこを訪れる前から示唆されていました。部屋に飾られたクマと少女が描かれた絵画や観葉植物。そしてホルガで幻覚作用のあるキノコを摂取したときに彼女が見たのは、芝生の上についた手の甲から芝生が生えている様子や、植物が意思を持って動いているような光景。 血のつながった家族を失ったダニーは、ホルガの風習のなかで認められ、力を与えられ、生まれ変わりました。そして彼女が仕方なく受け入れていたものを手放し、ホルガに迎え入れられます。

『ミッドサマー』は結局なに映画なのか考察してみた【ネタバレ注意】

『へレディタリー 継承』が、今世紀最恐のホラー映画と絶賛され、注目を浴びたアリ・アスター監督。『ミッドサマー』にも、前作同様に身も凍るような恐怖を期待した人も多かったのではないでしょうか。しかし本作は、「へレディタリー」のようなわかりやすいゴア描写や、いかにも“怖いもの“はあまり登場していないように思います。 監督自身、本作のジャンル分けにはあまり頓着していないと語っています。実際に、ひとつのジャンルにすっぽりとおさまる作品ではないので、3つの側面から本作を読み解いていきましょう。

① 監督自身の経験から生まれた失恋映画?

アリ・アスター監督は、本作は自分のひどい失恋から着想を得て製作したと語っています。『ミッドサマー』は、共依存の関係と、それを抜け出した後に訪れる別の共依存を描いているといっていいでしょう。 手痛い失恋と、それを癒やすために大きな犠牲を払うこと。そして新たな依存先を見つけること。すでに多くの人が言っていることですが、本作は絶対に恋人と観に行ってはいけない作品です。

② 紀行映画?泣けない「ウルルン滞在記」

言うまでもなく、本作では「旅」が重要な要素となっています。ダニーたち4人の大学生は、留学生に連れられて彼の故郷の村を訪れますが、そこは彼らの常識の範疇には収まらない場所でした。

民俗学を専攻しているジョシュやクリスチャンは、自分たちの文化と比較しながらホルガの村を観察しますが、好奇心が先立ってしまいます。マークはただのバカなので、自分の“常識“に収まらないものを受け入れようとはしません。3人の男子大学生は、そうして敬意を欠いた行動をとり、結果的に生贄にされてしまいました。 一方のダニーは、当初は村の慣習にショックを受け戸惑いつつも少しずつ受け入れていきます。そして彼女は最終的に村に受け入れられるのです。彼女にとってはホルガへの訪問は、自分が成長するための精神の旅でもありました。

③ 女性のエンパワメント映画? “共鳴”が与えてくれるもの

本作冒頭、家族を失ったダニーがクリスチャンの膝に頭を預けて泣くシーンがあります。画面が暗く、ふたりの様子がよくわからないなか、轟音ともいえるようなダニーの強烈な泣き声が響き渡り、クリスチャンはなすすべもなく彼女に膝を貸しています。

その後ホルガの村で、ダニーはクリスチャンが他の女性と交わっているところを目撃し、もう彼に寄りかかることはできないと悟りました。このときもダニーは崩れ落ち悲痛な泣き声を上げるのですが、冒頭のシーンとは大きく違うところがあります。それは、ホルガの女性たちが彼女と一緒に声を上げ、文字通り“共鳴“していること。そしてダニーは次第に落ち着きを取り戻していくのです。 この“共鳴“は、ダニーに力を与え、彼女がこれまでの自分を捨て立ち直るきっかけとなりました。ラストシーンでの彼女の清々しい表情が、なによりもそれを物語っています。 その他の場面でも、死期を迎えた老人たちが崖から飛び降りようとするとき、クリスチャンが村の娘マジャと交わっているとき、ホルガの人々はたびたび“共鳴“しています。村全体がひとつの“家族“であると考える彼らは、一緒に声を上げることで一体感を得ているのでしょう。

監督が本作を女性に観てほしいと思ったのなら、そのかわいらしいビジュアルは、前作「へレディタリー」を観ていない、おしゃれな映画が好きな観客層を取り込むための罠だったようにも思えます。

カルトの恐ろしさを描く?世界でいちばん小さなカルト集団とは

ホルガの村をカルト集団と捉える人も多いでしょう。大学生の主人公たちが遭遇したのがカルトであるなら、彼らはそのしきたりを受け入れられなくても当然です。 しかしホルガの人々は、ひとつの家族として支え合って暮らしていました。“家族”というのは、世界で最小単位のカルト集団なのかもしれません。 それぞれ独自の文化や習慣、ルールがあり、それぞれのメンバーが役割を持っています。程度の差はありますが、ある意味で一般的な社会とは違う集団といえるでしょう。

血の繋がった家族を失い、いちばん家族に近い存在であったはずのクリスチャンともうまくいかなくなったダニーは、最終的にホルガの村という“家族”に迎え入れられます。 人はひとりでは生きていけません。どこかの集団に属さなければいけないのであれば、自分を温かく受け入れてくれる集団を選ぶでしょう。ホルガの村が、ダニーの新しい“家族”になったのです。

爽快感とモヤモヤが残るラストはアリ・アスターの真骨頂

『ミッドサマー』を「紀行映画」「失恋映画」「女性のエンパワメント映画」という3つの側面から考察してみました。もちろん本作は「ホラー」でもあり「スリラー」でもあります。しかしやはりジャンルは特定不可能な複雑な作品です。 複雑といえば、本作の後味も一筋縄ではいきません。ラストのダニーの笑顔に観客は爽快感を覚えると同時に、説明しづらいモヤモヤしたものを感じるのではないでしょうか。

最初は仕方なくクリスチャンとの関係にしがみついていた彼女は、ホルガの村に迎えられ自信を得ます。しかし、それは新たに村にしがみつくことを選んだだけではないのか。彼女の心の問題は、なにも解決していないのではないか……。 あなたはどのように感じましたか?

キャスト/キャラクターを紹介 映画『ブラック・ウィドウ』出演のフローレンス・ピューが主人公ダニーを演じる

フローレンス・ピュー/ダニー

フローレンス・ピュー
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主人公のダニーは、繊細で情緒不安定な人物です。さらに家族を失ったことでパニック障害のような症状が出るようになってしまいました。彼女はなんとか精神を立て直そうと、自然豊かなホルガの村に行くことにします。 ダニーを演じるのはイギリス出身の女優フローレンス・ピュー。彼女は、2014年の映画『Lady Macbeth(原題)』での演技が絶賛され、一躍注目を集めるようになりました。2020年に公開されるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)作品『ブラック・ウィドウ』にも出演が決定しています。

ジャック・レイナー/クリスチャン

ジャック・レイナー
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ダニーの恋人クリスチャンは、当初彼女と別れようとしていました。しかし、悲劇に見舞われた彼女を見て、思い留まります。そして、友人たちの反対を押し切ってダニーを旅行に誘います。 クリスチャンを演じるのは、『トランスフォーマー/ラストエイジ』(2014年)や『シング・ストリート 未来へのうた』(2016年)などへの出演で知られるジャック・レイナーです。

ウィル・ポールター/マーク

ウィル・ポールター
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男だけで、旅行中に羽目を外すつもりでいたクリスチャンの友人マークは、ダニーが来るのを嫌がります。 マークを演じるウィル・ポールターは2007年に『リトル・ランボーズ』で子役としてデビュー。その後『レヴェナント:蘇りし者』(2015年)や「メイズ・ランナー」シリーズに出演し、知名度を上げました。

ウィリアム・ジャクソン・ハーパー/ジョシュ

ウィリアム・ジャクソン・ハーパー
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クリスチャンの友人で文化人類学博士課程のジョシュは、ホルガの村で行われる90年に1度の“夏至祭(ミッドサマー)”を論文の題材にするため、取材として旅行に参加します。 ジョシュを演じるのは、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー。テレビシリーズ『グッド・プレイス』(2016年〜)や映画『パターソン』(2016年)などへの出演で知られています。

ヴィルヘルム・ブロングレン/ペレ

ヴィルヘルム・ブロングレン
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スウェーデンからの交換留学生ペレは、故郷で行われる“90年に1度の夏至祭”に、ダニーたちを招きます。 ペレを演じるのはスウェーデン出身のヴィルヘルム・ブロングレン。2003年から舞台を中心に活動している彼は、HBOノルディックのテレビシリーズ『Gösta(原題)』などへの出演で知られています。

アリ・アスター監督の一貫したテーマ

アリ・アスター
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アリ・アスター監督の長編デビュー作となった『へレディタリー/継承』は、事故で妹を死なせてしまった長男と、娘の死から精神を病んでいく母、そして祖母の秘密から家族が崩壊していく物語でした。しかし、アスターはこれ以前の短編映画でも、家族をモチーフにした作品を多く発表しています。 アスターが注目されるきっかけになった短編映画『ジョンソン家についての奇妙な事』(2011年)は、父と息子の奇妙な関係を描いています。また、巣立つ息子を手放したくない母親の凶行を描いた『ミュンヒハウゼン』(2013年)も同じく家族を題材としています。 『ミッドサマー』では、主人公ダニーが映画冒頭で家族を失ってしまいました。一方で、ホルガの村の人々は、ひとつの大きな家族として生活しています。「家族」はアスターにとって、常に描きつづけていかなければならないテーマなのかもしれません。 「へレディタリー」も『ミッドサマー』も、自分自身の家族や恋愛関係をもとに、自分を癒すために作ったと語るアリ・アスターは語っています。

映画『ミッドサマー』の公開日は? 2020年2月21日祝祭がはじまる

『ミッドサマー』
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衝撃のデビューを果たした新鋭監督の第2作目として、そして恐怖の歴史を覆す作品として注目を集める『ミッドサマー』は、その映像美や綿密に計算された展開が、あなたの度肝を抜くこと間違いなし。 『ミッドサマー』は、2020年2月21日から日本公開中です!