2021年1月14日更新

映画『透明人間』の黒幕は誰なのか考察!過去作との違いに見えるテーマとは?

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透明人間
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本当に狂っていたのは誰なのか?隠されたテーマについても解説!

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2020年2月にアメリカで公開された映画『透明人間』(日本公開は2020年7月)は、1897年に発表されたH・G・ウェルズの小説『透明人間』を原作とし、1933年公開の映画『透明人間』を現代風にリブートした、サイコサスペンス・ホラーです。 『ゲット・アウト』(2017年)や『アス』(2019年)を世に送り出した「ブラムハウス・プロダクション」と、「ソウ」シリーズの脚本家として知られるリー・ワネル監督がタッグを組んだことで、公開前から大きな話題に。 アメリカ公開後すぐにコロナパニックが発生し、劇場公開期間が限られてしまったにもかかわらず、高い収益を上げて大ヒットを記録しました。 この記事では、映画『透明人間』の黒幕は誰なのかを解説。また、本作に込められた隠されたテーマについて、過去作と比較して考察していきます。ネタバレを含みますので注意してください!

『透明人間』のあらすじ

強迫観念に囚われた恋人のエイドリアンに束縛されているセシリア。ある日、彼女は彼の豪邸から計画的に逃走を図り、妹のエミリーの協力の元なんとか逃げ切る事に成功します。 ほどなくして、悲しみに暮れたエイドリアンが手首を切って自殺し、500万ドルの遺産をセシリアに残したという一報が。一時は安堵するも、セシリアの周辺で偶然とは思えない怪奇現象が頻発し、彼女の命を脅かし始めます。 やがて「彼ほどの優秀な科学者なら自殺も偽造できるはず。彼は今も私を見張っているのではないか」という疑念に取り憑かれ始めるセシリア。 そしてその考えはいつしか「エイドリアンは透明人間になって私を襲っている」という確信へと変わります。 どうにか証明しようとするも、周囲からは彼女が正気を失っているようにしか見えず……。

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サイコパスは誰だ!『透明人間』の登場人物たちについて解説!

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いわゆる「ジャンプスケア(大きな音と急激な映像の変化で驚かせるテクニック)」をほとんど使わず、じわじわと続く“緊張感”と、誰かに見られているような気持ちにさせられる不気味さが特徴の、映画『透明人間』。 ストーリーの結末や考察を紹介する前に、話の流れが掴みやすいように主要な登場人物とそのキャストを紹介します。

セシリア/エリザベス・モス

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恋人の束縛に苦しめられ、精神安定剤「ジアゼパム」を服用している主人公。支配欲の強いエイドリアンに食べるものから着るものや言動まで全て決められ、自由はありませんでした。 エイドリアンが子供を欲しがっている事を知り、子供ができるともう逃げられないと悟って密かに避妊薬を飲むものの、長くは隠し通せないと考え逃走を実行します。 セシリアを演じたのは、女優のエリザベス・モス。テレビドラマ『ザ・ホワイトハウス』の大統領令嬢ゾーイ役や『マッドメン』のペギー役などで知られる、エミー賞の常連の演技派女優。 映画『アス』(2019年)や『ハースメル』(2020年)にも出演。リー・ワネル監督は彼女を「メリル・ストリープ並みの才能」と称えています。

エイドリアン/オリヴァー・ジャクソン=コーエン

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セシリアの恋人であるエイドリアンは、光学分野で著名な天才的科学者です。 ハンサムで知的な魅力を持つ上に莫大な資産を持つ富豪。しかしその一方でセシリアを精神的&肉体的に束縛しようとするDV男としての一面も持っていました。 セキュリティを張り巡らせた豪邸にセシリアを閉じ込めたり、相手の弱みに付け込んで操ることが得意な性格はまさに狂人。 エイドリアンを演じたのは、イギリス出身の俳優オリヴァー・ジャクソン=コーエンでした。主な出演作に映画『遠距離恋愛 彼女の決断』(2010年)や『推理作家ポー 最期の5日間』(2012年)などがあります。 Netflixの人気シリーズ「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」の続編「ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー」にはメインキャストで出演しています。

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トム/マイケル・ドーマン

透明人間 マイケル・ドーマン
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エイドリアンの兄で弁護士のトムは、エイドリアンの死後にセシリアに連絡をとり、彼の遺書と遺産相続の話をするポジション。怪奇現象が相次ぎ、セシリアはトムに「エイドリアンが生きている」と主張しますが、彼は聞き入れません。 そんなトムを演じたのは、ニュージーランド出身の俳優マイケル・ドーマン。映画『デイブレイカー』(2010年)や『トライアングル』(2011年)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(2017年)などに出演しました。 Apple TV+のローンチタイトルとして2019年から配信されているドラマ『フォー・オール・マンカインド』ではヨエル・キナマン、サラ・ジョーンズらとメインキャストを務めています。

ジェームズ/オルディス・ホッジ

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セシリアの妹・エミリーの恋人であるジェームズは、警察官。シドニーという名前の1人娘がいます。 エイドリアンの家から逃亡してきたセシリアを家に匿うなど、親切にサポートをしてくれます。しかし、正気を失い始めるセシリアの言動を信じることができず、次第に彼女に対する不信感を膨らませていくことに……。 ジェームズを演じたのは、子役時代から芸能界で活躍してきた俳優のオルディス・ホッジ。映画『ダイ・ハード3』(1995年)や『ドリーム』(2017年)などの出演で知られています。 オルディス・ホッジはテレビドラマシリーズ『レバレッジ 〜詐欺師たちの流儀』では2009年のサターン助演男優賞にノミネートされ、映画『クレメンシー』(2019年アメリカ公開)ではシアトル国際映画祭主演男優賞している実力者。

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エミリー/ハリエット・ダイヤ―

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セシリアの妹エミリーは、セシリアの逃亡時に手を貸して以降も恋人のジェームズを紹介したり、心配して励ましたりと、セシリアを全面的にサポートする愛すべき妹です。 そんなエミリーを演じたのは、オーストラリア出身の女優、ハリエット・ダイアー。本作がメジャースタジオの映画初出演となりました。 オーストラリアの舞台や映画の賞を受賞・ノミネートの実績があり、オーストラリアのホラー映画『キリング・グラウンド』(2017年アメリカ公開)や、短編映画、テレビドラマなどに出演。 2019年にはNBCのテレビドラマ『The InBetween』で主演を務め、シーズン1で打ち切りとなったものの、彼女の演技は高評価を得ています。

「透明人間」は3人登場した?衝撃のラストシーンとは!?【ネタバレあり】

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ジェームズの家に逃げ込んだセシリアは一度は安堵しますが、それもつかの間。エミリーの家でも様々な怪奇現象が起き、セシリアは家を追い出されてしまいました。 エイドリアンの家に戻ると、彼女はエイドリアンの家で謎の黒いスーツを見つけます。 セシリアはこのことをエミリーに話そうと彼女を呼び出すことに。 エミリーがセシリアの話に耳を傾けようとすると、テーブルに置いてあったナイフが突然宙に浮いてエミリーの喉元を切り裂いたのです。セシリアは、エイドリアンのせいだと訴えますが、精神病の殺人犯扱いをされて精神病院に入れられることに。

エミリーの命を奪い、続いてシドニーの命を狙ってジェームズの家に忍び込んだ透明人間は、居合わせたジェームズを、激しく暴行します。 そこへかけつけたセシリアが消火器を噴射。白い粉を浴びて透明人間のシルエットが現れ、セシリアは持っていた銃を打ちます。動かなくなった黒いスーツをはぎ取ると、そこには絶命したトムの顔がありました。 エイドリアンの家を捜索した警察は、地下室で両手両足を縛られたエイドリアンを発見。ジェームズは、警察は全て弟のトムが仕組んだことだと判断したとセシリアに伝えます。 しかしセシリアは、エイドリアンが弟を操ったのだと反論。彼女は、エイドリアンが生きている限り自分は安全ではないと考えていました。 その夜、セシリアはエイドリアンに連絡をとり、彼の家へ向かいます。ご馳走を用意してセシリアを歓迎するエイドリアン。彼は「全てトムのせいだ」と言い張り、2人は言い合いになります。 化粧を直すと言ってバスルームへ向かうセシリア。すると、テーブルに座っているエイドリアンの右手が、ステーキ用のナイフで自らの喉を掻き切ります。 戻ってきたセシリアが叫びながらエイドリアンの元へ駆け寄り、警察に通報。室内の監視カメラは、確かに自ら命を絶つ彼の姿を録画していました。駆け付けたジェームズは、セシリアの持つバックから黒いスーツが覗いていることに気づくものの、「自殺のようだ」と言うのでした。

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結局黒幕は誰だったのか?劇中のヒントから考察!

透明人間
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結局黒幕が誰だったのか、劇中ではっきりとは描かれていませんでした。スーツを来ていたのがトムだと判明し、エイドリアンは縛られていたことから、表面的に見ると黒幕はトムだということになり、セシリアは正気を失って見当違いな復讐を遂げてしまったと見ることもできます。 しかし、透明人間になれる黒いスーツは、エイドリアンが作ったもの。そしてキーワードは、劇中に透明人間が何度か使っていた言葉、「サプライズ」です。 最後にエイドリアンが絶命する時、セシリアは防犯カメラの死角からエイドリアンに「サプライズ」と言っています。セシリアは「サプライズ」がエイドリアンの言葉であり、透明人間はエイドリアンだということを確信していたからこそ、復讐を果たしたタイミングで言い放ったのでしょう。 劇中では描かれていない2人の時間で、エイドリアンが使っていた言葉だったのかもしれません。つまり、黒幕はエイドリアンだったのではないでしょうか。

『透明人間』は現代のジェンダー問題に疑問を投げかけている?

透明人間
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映画『透明人間』は、クラシックなホラーキャラクターである「透明人間」を実在のDV男にした点が非常に斬新でした。そしてこの設定は、女性に向けられるハラスメントや“女性の権利”に関する現代社会の問題を汲んだものとなっています。 セシリアが恋人から逃げてもなお“見えないもの”に追いつめられていく姿や、そんな彼女を周囲に信じてもらえず精神病院に入れられる展開。 これらは女性が体験する理不尽な出来事がまさに“見えないもの”かのように扱われている社会、「女性の妄想だ」などと決めつける現代社会そのものを表しているかのようです。 映画『透明人間』は、男性による支配や理不尽なレッテル貼りをホラーに落とし込むことで、新たな手法で現代社会のジェンダー問題に斬り込んでいるのでしょう。

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本作と過去の『透明人間』映画とではここが違う!

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新しい設定や一風変わった視点から描き出すサイコパススリラー!

過去作である『透明人間』(1933)や『インビジブル』(2000)など、透明人間を扱う映画は既に数多く存在しています。 しかし、過去作の多くは加害者の視点がメインであり、透明人間の能力を得た人物の行動や心理などをテーマにしたものが多いのに対して、本作は被害者の視点で描かれています。 また、過去作では薬等によって透明化することが多いですが、本作では光学スーツというよりテクノロジカルな設定。 この点に関しては、リー・ワネル監督がインタビューで「今の時代、何かの薬を飲んで透明になるというのは、説得力がないと思うんだよね。だが、テクノロジーならば共感できる。僕らは毎日テクノロジーを使っているし、将来、人を透明にするテクノロジーが出てきてもおかしくはないと、人は感じるのではないか」と語っています。

過去作よりもっともっと身近に潜んでいる恐怖を表現

さらに、過去作では透明人間といえば「マッドサイエンティスト」を象徴するものが多く、科学の発展と精神の崩壊がテーマにされるものがほとんどですが、本作はDVや理不尽な社会といったより一般的で身近な社会問題をテーマにしている点も大きな違いと言えるでしょう。 エイドリアン役のオリバー・ジャクソン=コーエンは、インタビューの中で「ワネル監督は、透明人間という設定を、信じられないほどリアルな物語のなかで描くことを選んだ。(中略)だから、リジー(エリザベス・モス)や僕にとって大事なのは、家庭内暴力の問題に取り組むことだった。過去の作品を参考にするのではなく、この関係を可能な限り正直に描くことに力を入れたんだ。」と語っています。

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新しい「透明人間」の恐怖をもう一度体験しよう!

「透明人間になりたい」と、一度は思ったことのある人も多いのではないでしょうか?科学が発展している今、実現する日は意外と近いのかもしれません。 映画『透明人間』は、古くからファンタジーとして親しまれてきたクラシックなキャラクターを、社会問題も散りばめつつ現代的でリアルなものにアップデートした作品。 さらに、ジャンプスケアや暗闇に潜むなどの古典的な手法は利用していないという新しさや、映像のスタイリッシュさも魅力です。だからこそ、現代の人々の心にリアルで新鮮な恐怖を届けたのではないでしょうか? 狂気に満ちたキャスト陣の演技、特に「何もない空間」を怖く見せる主演・エリザベス・モスの演技は圧巻です。まだ本編を見ていないという方は、ぜひ視聴してみてくださいね。