映画『グラン・トリノ』のあらすじネタバレ解説!人種を超えた感動ストーリー
映画『グラン・トリノ』はイーストウッドの隠れた名作!
クリント・イーストウッドが監督・主演を務めた映画『グラン・トリノ』。アカデミー賞にて作品賞や監督賞、主演女優賞、助演男優賞にまで輝いた『ミリオンダラーベイビー』(2004)より4年の時を経て製作されました。 イーストウッド作品の人気を確固たるものとしたのは、1992年に公開された映画『許されざる者』。第65回アカデミー賞にて9部門にもノミネートし、作品賞をはじめ監督賞や助演男優賞、編集賞の計4部門を受賞しています。 2006年に公開された『硫黄島からの手紙』では音響編集賞に輝くなど、まさにアカデミー賞の常連とも言えるイーストウッド作品。そんな中『グラン・トリノ』は、それまでの作品よりも地味で賞レースには不向きでした。しかし、隠れた一級品として多くの人気を集めています。
映画『グラン・トリノ』結末までのあらすじ【ネタバレ注意】
アメリカのデトロイトで愛犬と暮らすウォルト・コワルスキー。非常に偏屈な彼は、妻の葬儀でも周りを罵り、毒づき、彼の態度に家族も嫌気がさしています。 そんなウォルトの暮らす地域にはアジア系移民たちの波が押し寄せており、ウォルトの家の隣にもモン族の一家がやってきました。しかし、偏屈で差別主義なウォルトにとっては不快でしかありません。 隣に住むモン族の少年・タオは学校に通うこともなく無気力。そんな彼にギャンググループの従兄弟が目を付け、“隣の家からグラン・トリノを盗んでこい”と命令されてしまいます。 グラン・トリノは、ウォルトの大切な愛車。タオがガレージに入り込むものの、ウォルトは彼に銃口を向けます。逃げ出すタオを従兄弟たちが捕まえるも、ウォルトがタオを助けたのでした。 その日から、ウォルトとタオの家族たちとの交流が始まります。偏屈だった彼は、戸惑いながらも彼らと一緒にいることを心地よく感じていました。 しかしその頃、ウォルトは肺がんでもう先が短いことを知ります。また、タオたちとの充実した日々も長くは続きませんでした。
再びギャンググループたちがタオのもとへと近づいていることを知ったウォルト。タオたちを救うために、彼を地下室に閉じ込め1人で方を付けに行きます。 ギャンググループたちのもとへ1人で向かうウォルト。多勢に無勢、彼は降り注ぐ銃弾の雨に命を落としてしまいました。 しかし、もう自分の命が長くないことを知っていたウォルトは、遺言状を残していたのです。その遺言状には、生前にもっとも大切にしていた愛車、グラン・トリノをタオに譲ると書かれていたのでした。
戦争と移民……『グラン・トリノ』の時代背景をおさらいしよう
主人公のウォルトは、ポーランド系アメリカ人。ポーランド系が増えたのは20世紀に入ってからのことで、イギリスやオランダ、ドイツなどに比べると後発組であることから、長く不当な扱いを受けながらもたくましく生き抜いてきた人々として知られています。 ちなみに、ポーランド系アメリカ人は保守派に傾倒することが多いと言われているようです。アメリカ入植後発組という事実が影響しているのかもしれません。 一方タオたちモン族は、ラオスやタイ、中国に居住していた山間民族であったものの、ベトナム戦争ではアメリカに味方し、共産主義勢力による報復を恐れアメリカへと逃げてきました。 その結果アメリカでは差別を受けてしまっているという状況は、モン族が戦争や歴史の被害者であることを表しているでしょう。
ウォルトの性格から見えてくる典型的な保守系アメリカ人のイメージ
朝鮮戦争の従軍経験を持ち、フォード社製ヴィンテージ・カーを何よりも大切に思っているウォルト。彼は家族から“いまだに50年代を生きている”と言われてしまうような、典型的な保守系アメリカ人です。 フォード社のグラン・トリノは、アメリカ自動車産業を象徴するとも言える名車。フォード社に50年も勤め、愛車もグラン・トリノであるというキャラクター設定は、まるで絵に描いたような古き良きアメリカ人と言えるでしょう。 しかし時代の流れにそぐわない彼の偏屈な思想の数々は、家族や周囲の人々を疲弊させていたのです。そんな彼を変えることができたのが、タオたち一家でした。
ラストシーンには本作一番の名言が!ウォルトが選んだ「つぐない」
再び迫り寄るギャングたちに対し、一緒に殺しに行こうとウォルトにけしかけるタオ。しかしウォルトは彼に、“人を殺したらどう感じるか知りたいか?この世で最悪の気分だ”と言い放ちます。 朝鮮戦争で従軍経験を持つウォルトは、人を殺したことへの罪を背負って生きてきました。そんな過去の経験から、若きタオたちの未来を殺人の罪で潰したくないという思いがあるのです。 その結果ウォルトが下した決断は、ギャングたちに自分を撃たせて刑務所に送るというものでした。彼は自己犠牲的な方法で「つぐない」を果たしたのです。
タイトルに込められた意味とは……?ウォルトからタオへ継承されたもの
本作のタイトル『グラン・トリノ』は、言うまでもなくウォルトが生前大切にしていた愛車の名です。 グラン・トリノは、アメリカ自動車産業のシンボルとも言えるフォード社の人気車。フォード社で50年にもわたって働いてきたウォルトにとって、この車は誇りであり自分自身を投影してきた存在でもありました。 保守的で古い価値観に囚われていた彼が、大切な愛車をモン族の少年タオに受け継ぐ……。そこには単なる「遺産」以上の意味を感じ取ることができますね。
イーストウッド作品の中では異色?俳優としての集大成が本作に
イーストウッドは、『グラン・トリノ』が公開されるまでは“不死身の肉体を持つ”とまで言われていました。 それもそのはず、『奴らを高く吊るせ!』(1968)や『ペイルライダー』(1985)などの過去作品では、首を吊るされようが銃弾を浴びようが生き残ってきたのがイーストウッドだったのです。 “どれだけ悲惨な目に遭おうとクリント・イーストウッドが演じる役は死なないだろう”とさえ思っているファンもいる中、『グラン・トリノ』で演じたウォルトは、なんと銃弾に倒れます。この点は、本作がイーストウッド作品の中でも異色であると言われる所以でしょう。 これまでは殺める側に徹していた不死身の男イーストウッドが、初めて殺められる側に……。その姿はまるで、これまで作品内で犯してきた罪の「つぐない」のようにも見えます。そして同時に、彼の俳優人生における1つの集大成とも言えるのです。
タオ役ビー・バンはオーディションで選ばれた一般人!
タオ役を務めたビー・バンは作中でモン族の青年を演じていますが、彼自身もモン族。“モン族の真の姿をスクリーンを通して伝えたい”と考えていたイーストウッドは、モン族の俳優をキャスティングすると決めていたそうです。 しかしモン族出身の俳優がほとんどいなかったため、タオ役を選出するためのオーディションを開催。そこで勝ち上がったのがビー・バンでした。それまでは演技経験が一切ない一般人であったにも関わらず、『グラン・トリノ』では見事タオ役を演じきりました。
映画『グラン・トリノ』は何度でも観たいイーストウッドの傑作
クリント・イーストウッド作品の中でも異彩を放つ映画『グラン・トリノ』。決して派手な演出や豪華なキャスティングなどがあるわけではありません。 しかし、偏屈であるが故に孤独な隠居生活を過ごしていた男が、ひょんなことから風変わりな友情を築いていく様子には、じわりと染みるあたたかさを感じてしまうはずです。 クリント・イーストウッドがアメリカという国に抱く思いや夢も垣間見えるような映画、それが『グラン・トリノ』ではないでしょうか。